第2章 攻防
①
目を開ける。光が目を刺激する。眩しい。
――どこだ、ここは?
口の中がざらざらする。体のあちこちが痛む。
「おぉ、起きたか」
呼びかけられる。
あの男がいた。そばの木にもたれかかるようにして座っている。
――外の、人間。
「お前……っ」
とびかかろうとしたが、体が動かない。
手、足、両方ともロープで縛られ、木に結ばれている。
「すまない、悪いが我慢してもらえないか」
あの男とは違う声。彪刃は顔を上げた。
人のよさそうな金髪の男。
――騙されるな。
頭の隅で警報が鳴る。
こいつも外の人間。心を許してはならない。
「お前、現状はわかってるか?」
現状?
その言葉を、口の中でゆっくりとつぶやく。
停止していた思考がやっと動き出す。先ほどの様子が脳裏にくっきりと浮かび上がる。
(そうだ、わたしは――)
『忍びの村へ、案内してもらう。そうすれば、お前を放してやる』
喉元にナイフを当てたまま、男はそう言った。
『簡単だろう?』
動くことができなかった。指先の自由すら利かない。
自分の命か、忍びの皆の命か――。
言外に、そのどちらかを選べと告げているのだ、この男は。
体の中を憤りが走った。頬が熱くなる。
――人間じゃない。
自分の目的のためなら、手段も選ばない。
命が失われることさえ、厭わないというのか。
『……へぇ』
男が、笑った。
『あんたみたいな奴でも、そんな顔するんだ』
『……どういう意味だ』
『そのままさ』
喉元のナイフが、急に離れた。
唐突に、後頭部に衝撃が走る。
目の前が暗くなる。
『……悪いな』
その言葉を最後に、記憶はない。
大きく息を吐く。後ろの木に、もたれかかった。
「……思い出したか?」
「あぁ、大体」
軽く目をつむる。少々疲れていた。
「お前らは忍びの村を探していて、わたしからその情報を聞き出そうとしている。だから、わたしは気絶させられて今この場所に運ばれてきた。そういうことだろう?」
「理解が早くて何よりだ」
男が軽く笑う。
「もう一つ付け足しといてやる。お前がすんなり忍びの居場所まで案内してくれるんなら、お前は無事に解放される」
「素敵な条件だ」
目を開け、二人を一瞥する。
「だが、断る」
「何故?」
間髪をいれず、男が聞く。
彪刃はすっと目をそらす。
「関係ない」
「大有りだ。忍びの村へ行って、使命を果たさないと俺たちは帰れないんだからな。……言ってる意味、わかるか?」
「十分なほどに」
「なら、これも理解できるよな」
不意に、男の手が彪刃のあごをつかんだ。
あごを引こうとするが、できない。あごに指が食い込んでくる。
「俺たちが使命を遂行できるかどうかは、お前にかかってる」
「…それがどうした。はなせ、痛い」
かすれた声が出る。男の目が細くなる。
透き通った紫。きれいな瞳だと思った。
けれど、危険だ。理屈じゃない。本能で感じる。
美しさの中に、とてつもなく大きな、何かが潜んでいる。
――見てはいけない。
見たら、惑わされる。引き返せなくなる。
この瞳に、とらわれてはいけない。
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