第2話 編集と会う……はず
今日は、いつもより身だしなみをきっちりしている。仕事? 休みです。ひきこもりの私が外へ出る。毎日韓流ドラマを見て、暇さえあれば『般若が如く』というゲームの実況プレー動画を見ている私が、今日外に出る。えっ、腐女子? ノンノンノン。アメリカではそういう遊びが流行っているらしいですよ。私は最先端の女。ただ、それだけのことだ。
なぜ、外に出るかと言うとヨムヨム運営の方から『会いたい』とメッセージがあったからだ。2つ返事で了承し、急きょ風邪をこじらせることにした。明らかに疑念の声をあげる上司。信用されないとはまっこと哀しいことでござんす。
とうとう、私の功績が認められたのだろうか。まあ、短編もおかげさまで好評を博し、『医魔女』も本作も上位と言えば上位と言えなくもない。そう、彼らの目的は未完の天才というダイヤモンドの原石を探すこと。
います、ここにいますよ。未完のダイヤモンドが。フフフ。
名古屋のとある喫茶店『ニシダ』で待ち合わせ。時間より30分も早く来てしまった。とりあえず、注文するか。
「コーヒーブラック……じゃなくて、ミルクティ下さい」
女がブラックコーヒーは駄目だろう。どんだけカフェイン(刺激)足りてないんだと思われる。
「かしこまりました」
そう言って店員は深々とお辞儀をして、その場を離れる。
やっと一息ついた。柄にも無く緊張しているのか。さっきからソワソワが止まらない。いったいどんな人が来るんだろうか。贅沢は言わないが、イケメンがいい。贅沢は言わないが、江口洋介みたいな編集者来ないかな。贅沢は言わないが。
*
「やっと見つけた」
韓流ドラマだとそんな感じだろうか。あった途端、見つめあう2人。そう、もう彼は私の作品の虜。すでに、それは私の人格にまで及んでいて彼は私を愛してしまっている。でも、私はこれから作品を書きつづけなければいけない。そう、恋なんて2の次、3の次……でも、私の心は彼に惹かれていて私はそれを必死に打ち消す。
「ありがとうございます。私の作品を見つけて頂いてありがとうございます」
そう返答を返す。江口さんには悪いが、私はバリアを張った。ここまでは入ってきてもいい。でも、ここからはプライベートです。進入禁止。その張り紙をバーンと張った。
でも……でも、あなたがその張り紙を突き破ってこちらへ来るなら――
*
「お待たせしました」
その時、隣に突然男が出現した。
「あ、あの編集者さんですか?」
違うといって欲しい。江口洋介じゃない。こんなの江口洋介じゃない。
「はい、初めまして。江口っていいます」
――江口なんかい!
いや、いいんだ。最初からロマンスなど期待していなかった。そう、当初の目的とは違っている。この江口と言うおっさんが江口洋介じゃなかったからと言って何の問題も無いのだ。そう自分に言い聞かせた。
自作で作成した名刺を手渡すと、江口さんも名刺を出してきた。なんか嫌そうだったのは私の気のせいであろう。
「初めまして。で、要件と言うのは?」
当然、今後の作品のオファーだろう。そうに違いない。まあ、契約金とかはあまり気にしない。むしろ100万円ぐらいでもいい。印税は……まあ、7くらい? 一応交渉はしてみるつもりだ。新車を買う時は失敗した。あとで、仕事場に報告したら、値切れなさすぎて怒られた。新車を買ったのは、私なのに怒られた。
編集者の江口さんは、コーヒーを頼んだ。大分イメージと違うかただ。髭面にメガネ掛けてて、40代半ばだろうか。少なくとも、私の恋愛対象にはなりえない。こんな人が私の最初の担当で大丈夫であろうか。
聞くところによると、小説家と担当者は密に連絡を取り合って互いに作品を高めると聞いた。この人は見るからにやる気がない。こんなことで私の作品が売れると言うのだろうか……不安だ……限りなく不安だ。もし、機会があれば江口洋介似の編集者に変えて貰おうかな――
「困るんですよねぇ、あんなの書かれちゃあ!」
予想外の言葉が返ってきた。
「な、何のことですか?」
「何のことですかじゃないんだよ。あんた、アレだけヨムヨムサイトの不満ぶちまけたよね? いや、いいよ。我々だって悪かったんだから。でも、直したじゃん。言うなれば、あんたの提案は通った訳だ。で、なんであんたまだヨムヨム運営の悪口言い続けてんの?」
なんてこったい。このおっさん、江口はただ私に文句を言いに来たのだ。
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