ちっぽけでなお私の頭上に燦々と輝く夢

第1話 半年後……少しサイコになっていた


 2016年10月6日。7時10分。日課であるヨムヨムサイトの短編投稿を予約し終えた。そして、いつものようにランキングを確認しながら、朝食を食べながら予約された話に最終チェックを加える。


 あの激闘から半年が経過した。第1回コンテストに本作は落選した。『医魔女』も健闘むなしく敗退。受賞作は悔しいから教えない。仕事も特に何も変わってはいない。いつものように熱い上司の熱血指導、帽子をなぜか断固取らない班長の噂話に絶えない職場だ。

 だが、変化も多少あった。某役員が食堂でなぜか帽子を取らない班長を見て、

「なんであいつは帽子を取らないんだ」

 と激怒した。

 役員はもちろん悪くない。そして、班長も悪くない。不幸な事故だったとしか言いようがないが、班長は震える手で帽子を取った。

「あっ……ス、スタイリッシュでいいじゃないか」

 確かそんな風に役員は言われたと思う。巻き起こる失笑。凍りつく食堂。

 これが、いまなお語り継がれる『帽子』事件だ。


 そしてもう1つ変わったことと言えば、やはりヨムヨムサイトそのものだろう。

 あの戦いの後、運営はアウトロー(複製アカウント)の討伐に乗り出した。そして、2回目のコンテストが開始された。前回より混乱も喧噪も惑いも少なく、滞りなく読者選考が進められた。

 その光景を眺めながら、私だけなのだろうか少しもの悲しさを感じるのは。あの時は良くも悪くも、戦争だった。2回目はまさしく『コンテスト』。

 いや、これでいいのだ。これから始まるのだから。本当の意味での戦争は。


              ・・・


 10日経過時点……圏外


 どーなってんだちくしょう……この時はそう思った。どうやら、複アカなしにつられて、撤退した作者が大量に戻ってきて再起。ひくほど面白い作品が大量に投入され、大量の読者が流入。結果として、私は圏外。

 何たる皮肉。何たる酷い有様。このままだったら前の方が――いやいや、そんなことは無い。これでよかったのだ。そうに決まっている。そうでなければいけない。面白い作品が選ばれるのだ。面白くなければ、駆逐されるだけなのだ。私が面白い作品を書けば、読者はきっとついてきてくれる。評価してくれる。

 書くのだ、書くのだ私。宣伝などにうつつを抜かしていないで、私の渾身の想いをこの白いキャンバスに書き尽くすのだ……あっ、今のフレーズいいな。白いキャンバス……フフフ。


               ・・・


 結局、第2回のコンテストは他の戦士が大賞をかっさらって行った。ハッキリ言って滅茶苦茶面白かった。問答無用の乾杯。ぐうの音も出ない畜生。


 おい、ヨムヨム運営よ。私は書いたよ。確かに書いた。正々堂々と戦える場を作ってくれと。でも、少し頑張りすぎじゃないのか。いや、いいよ。私がそうやってお願いしたんだから。でも、私などはいわゆる『宣伝』の世代。小説は自作の面白さのみならず、自らの宣伝を入れた総合評価だと生きてきた世代だ。次世代の『宣伝不要、我らの小説最強』世代じゃないのだ。そんな24時間小説に命かけて書きまくる若手に勝てるほど面白い小説など持っちゃいないのだ。

 できるなら、もう少し我々の世代を優遇して欲しい。

 ゆとりで育ったのだ。甘やかされて育てられたのだ。だが、そんな風に育てたのは政府であり、あなた方の新設サイトの初期の風潮であろう。

 だから……何が言いたいかと言うと、ほらっ、アレだよアレ。『ひ』と『い』と『き』がつくやつだよ。初期からこのサイトを支えてきた作者たちには優先して宣伝するとか、最初から順位を高く設定するとかそういうやつだ。


 だいたい初期の世代がいなかったらあんたらのサイト終わってたよ? みんなコンテストから撤退して、作品が0だったらどうすんのさ。世の中、年功序列制度で働く毎に給料よくなるってのが日本の風潮なんだからそれぐらいやってくれたっていいじゃん。私たち誰だと思ってんの? このサイトの功労者だよ。あなた方のサイトを根底から支えてきた永年勤続者だよ? 有能な新人が入ってきたら終わりですか? 斬り捨てるんですか? 定年退職者には早期退職させて、早々に若返りですか。いや、そんなことはさせない。『失われた世代』代表として、このアカウントが消されるまで、私は初期ヨムヨムサイト登録者として、訴えを続けるつもりだ。この私の真なる叫び、きけぇええええええ――。


できた……ポチッっとな。この小説のタイトルは『私を誰だと思っている。初期の功労者は私だぞ』だ。







 半年後、私は少しサイコになっていた。


 

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