第9話 いいじゃないか、夢なんだから
気がつけば残り2日。短いようで長かった。そして、長いようで短かった。私の戦いは終息を迎えようとしている。時間は有限だ。楽しくても、辛くても、嬉しくても哀しくても、やがて終わりはやってくる。
今だから書くが、私のこの物語に対する入れ込みようは相当なものだった。この物語は絶対に当たる、そう信じて疑わなかった。今では、少し弱気さんが声を掛けているが、基本的には変わらない。
作品の面白さという点では無い。ヨムヨムサイトを少なからず批判した作品がヨムヨム運営によって出版されると言う奇異な事象において、この物語はいけると踏んだ。チャンネラーも、コンテスト下位者、全てを取り込んで高く高く舞い上がってヨムヨム運営が認めざるを得ないような人気を獲得する。
そもそも、他の出版社で応募したところで面白くもなんともない。ヨムヨム運営において取り上げられることのみでこの作品は光る。この時、この時点で瞬く輝きを作者や読者が見逃すだろうか? いや見逃さない。
まあ、予想に反してチャンネラーには「気持ち悪い」とののしられ予想外の精神的なダメージを受けることにはなったが、それでも私の妄想は深く深く募っていくばかりだった。
敵をチャンネラーと見定め、彼らと激闘を広げる物語。この展開は熱い。そう思った。また、その時に私はそれだけ上位と肉薄していた。
だが、上位もすでにチャンネラーの餌食になっている。ならば、彼らは私を選ぶか? いや、彼らはどちらも選ばない。彼らは自分たちの王を祭り上げ、その作品を高く高く飛ばすだろう。コンテスト上位と私と、そのチャンネラーが祭り上げた作品の三つ巴の激闘……私の妄想ではこうなるはずだった。やはり、その王の作品はチャンネラーが選ぶだけあって面白く、自分もそれに負けじと闘志を燃やし全力で書ききる。そんな夢物語を描いていた。
しかし、予想外に黒い炎は沈下し、ホッとしたのか残念だったのかわからない状態がしばらく続く。そして、思う。恐らく、自分の小説には所詮その力は無いという事なんだろう。やはり、奇抜なアイデアだと思っただけで、ここまで書くのにはあまりに筋書きが無さすぎた。題材はよかった。ただ、自分の筆力が及ばなかった。
「だったらお前は後悔してるのか?」
まあ、してる時もあったりしてない時もあったり。でも、どちらにしろこの考えを思い付いた時点で、少なからず後悔することは内定していた。
人は「やる」か「やらない」か、どちらかしか結局選ぶことはできない。「やらない」を選んだところで、きっと後悔していたんだと思う。なら、やった方がいいと言うのは早計だ。世の中、やらないでいいことなんて山ほどある。でも、この物語はやらずにいられなかった。いや、やってよかったと信じたい。
チャレンジャーは嫌いじゃない! そう言ってくれた人がいた。バトロワみたいと更新を楽しみしてくれる人がいた。義兄弟になってくれる人がいた。これは気持ち悪いと批判してくれた人がいた。こんな小説を好きだと言ってくれる人がいた。小説家を目指す私に笑って1位を譲ってくれると言ってくれる人がいた。更新されたら飛んでくると言ってくれた人がいた。意義があると言ってくれる人がいた。最後まで見届けたいと言ってくれる人がいた。リアリティーがあると言ってくれる人がいた。自分の身を削っていると評価してくれる人がいた。同志と呼んでくれる人がいた。感情移入して読んでくれると言ってくれる人がいた。毎日読んでいると言ってくれる人がいた。
こんな自分の作品を……見苦しく必死にそれでも全力で走った自分を信じられなかった私に、ちっぽけな夢を見させてくれたのだから。
すまない……バカだと思われてもいい。狂人だと思われてもいい。今なお、この物語を信じる私に、願わくばもう1度夢を見させてくれ。現実でなくてもいい。この物語の中だけでもいい。この選択を選んだ私にどうか夢を書かせてくれないか。
いいじゃないか、夢なんだから。私の願望の物語だ。現在も過去も書いたんだから、次は私に未来を書かせてくれ。私が作家になった夢を。
三井寿や坂本竜馬、JKローリングになりたいなんて無謀な夢はもう見れない。ただ1人の等身大の作家になった夢を、昔に比べると酷くちっぽけで、でも今なお私の頭上に燦々と輝くその夢を願わくば私に書かせてくれ。
次章、夢の章。
決してあと2万字以上書かないといけないのに、もう何もネタが残っていないわけじゃない。どうか信じてほしい。
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