第4話 ちびおばさん(元)はゴネてみた。
帰りたくない……帰りたくないよ~
港町の居酒屋でオレンジジュースにガムシロップを入れた。
初めて任された海外での海賊討伐の重要任務も中途半端だし、第一、ラウティウス班長から離れたくない。
甥っ子からの要約すると
なんで帰らなきゃいけないのさ、
この間、顔合わせしたってガイウス兄様に聞いたんだからね。
ガイウス兄様も
無理だってわかってるけど〜
「即位式になんで私まででなくちゃなのさ〜」
「おい、むせるぞ」
ウルニウスがコップを取り上げた。
ラウティウス班長はいつも通り『飛ぶ羊亭』って言う魚料理店に
どうせ私のことなんてなんとも思ってないんだ〜、でもそばにいたいじゃないのさ。
羊獣人の店主さん可愛かったなぁと思いながら、ふとあたりを見るといないはずの人物が入ってきた。
「ヴィアラティアちゃんがゴネるから私が来る羽目になるのです」
艷やかな黒髪を一つにまとめた落ち着いた雰囲気の琥珀の瞳の女性が目の前にちょこちょこと歩いてきた。
グーレラーシャの外務担当官の証である蘇芳色のマントをつけてるところがすごく場違いだよ。
「ディルフィナちゃんまで呼んだか〜クソ甥っ子〜」
私は思わず叫んで居酒屋の客に見られて口を押さえた。
「ヒフィゼ傭兵ギルト管理官長から依頼されヒフィゼ家ヴィアラティア嬢お迎えにあがりました」
フィナが礼をして花のようなでも油断できない笑みを浮かべた。
わ~ああいうところ黒豹の二つ名持つレオおじさんそっくりだよ。
どうせなら抜けまくりの占い師のおばさんとそっくりならいいのに〜
まあ、おばさんに似てグーレラーシャ人らしからぬ小柄さだけどさ。
「黒リス文官さんだよな」
うわー可愛い〜とウルニウスが顔を赤くした。
残念だったな、フィナにはちっちゃい時から異世界人でかっこいい彼氏君がいるんだよ。
「はじめまして、デアファシル高等弓士、ヒフィゼ高等鎌士はこれから即位式のためにグーレラーシャに帰国いたしますのでカザフ班長に連絡を取ってくださいますか? 」
黒リス文官が目を細めた。
わーんなんか捕食寸前のどんぐりになった気分だよ。
ウルニウスがあわてて通信機を取り出した。
早く〜ででくれーカザフはんちょーとふるえてるのが見える。
フィナちゃんって昔はマジ小動物だったのになんで後ろにマングースとか虎とか見える強い女系になっちゃったんだろう。
ため息をついてオレンジジュースを追加注文した。
「さて、とりあえず交渉は終わりです……この海鮮フライ盛合せセット美味しそうですね」
向かいの席に黒リスがマントを
あーゆーとこはおばちゃんとそっくりだよ。
「このお好み海鮮焼きもいいです」
「頼めばいいじゃん」
どれにしましょうかと黒りすが楽しそうに頬を押さえた。
こういうとこは本当に昔からの可愛いフィナだよね。
「海賊退治……佳境なんだよね」
「カザフ班長さんのバディが復帰すると聞きました」
黒リスがやっぱりカキフライサンドイッチとサーモンサラダにしますとメニューを置いて店員を呼んで注文しだした。
「げ、あの人復帰すんのかよ」
ウルニウスが嫌そうな顔をしながら戻ってきた。
あの人はねぇ〜いい人なんだけどさ。
ちょっと性癖が……
特に、ラウティウス班長に対してさ……あれきついわ〜
「カザフ班長さんはおいでになられますか? 」
フィナが小首をかしげた。
わ~文句なしに可愛いわぁ。
この小動物がまさか大剣を振るうとは誰も信用しないよね。
でも、高等剣士なんだよね。
傭兵学校の校庭で十人抜きとか良くしてたよね、戦闘黒リス?
あんたの可愛さにやられた告白者にあれはないと思うよ。
まあ、フィナいわく
ナルドが怖いので頑張っただけです〜って別にフィナの双子のレオナルド君にアピールされたことないよ?
ナルド君って確か中等斧士でどこか浮世離れしてる、おじさんそっくりの美青年だけどさ。
本業は全然当たらない占い師じゃないさ。
だから稼ぐためによく傭兵業務のアルバイトしてて……綺麗な女子に囲まれてるよね。
あ、なんか、むかっときた。
「あ、ああ、来ますよ……超不機嫌そうでしたが」
「お仕事ですから」
父をはじめグーレラーシャの男は恋愛に生きすぎますとフィナはやってきた店員にタルタルカキフライサンドイッチとサーモンサラダと海老の一本フライロールサンドイッチを注文した。
まあ、父上といい従兄弟たちといい甥っ子たちといいみーんな求愛行動が激しいよね。
愛する女性を抱き上げまくるしさ。
でもフィナの父上ってグーレラーシャ人じゃないよね。
時々、おばさん抱き上げてるけど。
「好きな女を抱き上げるのがグーレラーシャ男の心意気です」
ウルニウスが私を何故かみて拳を突き上げた。
「そんなにヴィアちゃんが好きなのですか? 」
サラッと爆弾落とすのかい〜ってこいつが私を好きって〜??
思わずオレンジジュースを落としそうになってあわててグラスを置いた。
しばらくしてお待たせしましたと注文された料理と二杯目のオレンジジュースが来た。
ここ、料理出て来るの早いんですね〜と涼しい顔をしてエビフライサンドを上品に食べてる爆弾黒リスを尻目に横目でウルニウスをちろっとみた。
あ~なんか固まってる……
私もこんな状況初めてだよ。
私、忘れがちだけどグーレラーシャ傭兵国の高位貴族の御令嬢だからなぁ。
告白されたことないんだよね。
ガムシロップをドボドボ3つ入れて一口飲んだ。
あ、甘過ぎだ。
「えーと、私の事……」
「あ~なんかすまん」
二人でなんか目線が合わせられない。
「なにもぞもぞしてるんですか? 男ならバシッとしたらいかがです? 」
黒リスが牡蠣サンドを捕食しながらあおった。
おお、港町だけあって新鮮ですね〜と黒リスが喜んでる。
「あ~その、なんだ、俺はまあお前が好きでいつもいつも抱き上げたいと思ってる」
あ~もうっとぼやいてウルニウスが髪をかきまぜた。
髪が落ちるからやめてくださいと黒リスが食べ物を避難させながら威嚇してる。
えーと……なにこの公開告白……
周囲をうかがうと何故か近くの席の女子会らしいメンバーや熟年夫婦なんかに見られてる。
「それで、お前は俺の事どう思ってるんだよ」
「……今んとこ仲間かな? それに私、班長の事が……」
って私、なにこたえてるのよ、公開だってやばいでしょう?
なんか困って黒リスを見ると牡蠣サンドを頬張ってて本当にリスみたいだった。
あ、うちのヘタレなナルドも一応、候補にのこしてやってね、頑張れ〜と黒リスが楽しそうに目をきらめかせた。
お•ぼ•え•て•ろ•よ、フィナ〜、彼氏君が異世界からグーレラーシャに遊びに来たらあんたのモテっぷりを暴露してやるんだからね。
なんか、ヴィアちゃん黒い笑い浮かべてますと黒リスがふるえたので少しだけ溜飲を下げた。
「わかってるけどな……でもな、ラウティウス班長は」
ウルニウスがポリポリと頬をかいたところで影かさした。
「俺がどうかしたか? 」
不機嫌そうに茶色の一本三つ編みの筋肉質の長身な男がテーブルの脇にやって来た。
まあ、グーレラーシャの男はみんなどんな職業でもよっぽどのことがない限り一本三つ編みなんだけどね、中に最終の隠し武器が入ってるから、中身は人によって違うけどね。
ラウティウス班長かっこいいなぁ……でも可愛い羊店主さん想ってるんだよね。
「カザフ班長、ヒフィゼ家御令嬢を本国に
「話はそれだけか? 」
ちょー不機嫌そうにカザフ班長が黒リスをにらんだ。
「あと、グーレラーシャからカザフさんの
傭兵ギルドが借りた宿に布団ありますよねと黒リスが小首をかしげたところでカザフ班長が踵を返した。
「ヴィアラティア、いやヒフィゼ嬢、グーレラーシャ傭兵国にいって義務を果たして戻ってこい」
ラウティウス班長が後ろを振り向いた、少し冷たい口調もかっこいいなんて、私、どうかしてる?
「はい、必ず戻ります」
きっとお母様やお父様は特に帰らなくても気にしないと思うけど……兄弟たちとかジーミシア姉様とか従兄弟たちがうるさそうだよね。
俺はちょっと飛ぶもこもこ屋じゃなくて飛ぶ羊亭に行ってくると言い置いてラウティウス班長は店を出ていった。
ばく食黒リスは今度はサーモンサラダを捕食しだした。
「ああ、ヴィアラティアちゃん、明日はドゥラ=キシグ香国の王宮も寄り道するので正装も着てくださいね」
「私も付き合わせる気かい〜」
綺麗どころを連れて行った方が、外交に有利なのですと黒リスが真っ黒い笑みをニヤリと浮かべた。
本当に、本当に、本当にあの可愛い
彼氏君、だまされてますよ〜
そういえば、飛ぶもこもこ屋さんのお布団って気持ちいいのでしょうか? と小首をかしげてる抜けてるところはどこどう見ても昔のフィナだけどさ。
あそこが超穴場で通が通う絶品魚料理の店って聞いたら……目の色変えて行きそうってウルニウス、黒リスに美味しい魚料理屋さんですと情報教えるんじゃない。
なんかキラキラしだしたじゃないのさ。
次の日、朝市ごはーんと騒ぐフィナに連れられて行った市場で、フィナが羊亭の店主さんといた黒髪の背の高い男性をみて、なんで王子が……ってつぶやいてたけど……あれ店主さんの幼馴染だよね?
まあ、良いです〜朝市ごはーんと朝からテンション高めの幼馴染に連れられて魚介料理を出す屋台でご飯を食べてからその後、ドゥラ=キシグ王宮に連れられて行った私には関係ない話だしね。
王様はあの青年に似てたといえば似てたかな? まあ他に王子もいたし……目の色変えて求愛されて引いたよ。
私の理想は筋肉のある素敵な傭兵様なんだからね。
黒リスはひょうひょうと外交してたからこのために連れて来たんだよね、おぼえてろよ。
その後、帰国の途についた。
ともかく速攻で即位式に出て速攻で帰国するんだ。
その前に恋人? にデレデレの
私だって恋に生きるグーレラーシャ傭兵なんだもん、たとえ勝ち目がなくても頑張るよ。
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