第3話守護傭兵は休み中1

 ギルド管理官長のご両親ってゴージャスだなぁ……

私は見事なチョコレート色の髪と目の壮年のグーレラーシャの武人な美丈夫と

その腕にだきあげられた黒髪の熟女なのに可愛らしい女性に目を奪われた。


王都ラーシャの中心から少し離れたところに私の下宿がある。

グーレラーシャらしからぬ三階建てだけど真ん中にはきちんと中庭のあるその建物には専業傭兵の先輩も何人も住んでいて一階はハニータルトの老舗『ティーアスハニー』本店が入っている。


つまりティーアスハニーが経営している下宿で休みの日とかイベントの時人手にかりだされることがあるんだ。


規格外品のハニータルトとか食事にたまについて密かに人気らしい。


ちなみに二階が男性用で三階が女性用になっていて二階にある共同の居間とかで交流したり夏は中庭でバーベキューしたり色々あるけど……基本的に事務仕事残業が忙しくて私は出たことはない。


本日は前からの約束の高級料亭『牡丹』でのお食事です。

だから青紫色のスクエアカットの長衣に水色の膝丈のプリーツスカートに編み上げロングブーツを着てみました。


「休みの日までギルド管理官長と一緒? 」

隣の部屋のアリスディアーナ先輩が顔を出した。

「毎日の残業のお礼です」

「ふーん、食べられないようにね」

持ってたビーフジャーキーをカミカミしながらアリスディアーナ先輩は出ていった。


貴重な恋人すらいない一人モン仲間でだけど……休みの日に朝からビーフジャーキーって……私もハニーゼ栄養ゼリーで十秒チャージとかしますけどね。


もう、自分の机みたいになってるあそこにハニーゼ栄養ゼリー常備……それも寂しくてできないんだよね。


廊下が騒がしくなってきた。

素敵〜と言ってるのはパイナ草原国から来た留学生ファーロさんかな?


扉が力強く叩かれた。

私は返事をしながら扉を開けて思わず固まった。


「準備はできたか? 」

ギルド管理官長が立っていた。

こ、紺色の長衣は准正装なのか足首までおおっていて鍛え上げられた身体をエレガントにおおっている。

「なんでギルド管理官長がいるんですか? 」

「デートなのだから当たり前だろう? 」

ギルド管理官長がふっと笑って首をかしげた。


デート? 私、からかわれてますか?


あーんかっこいい男はみんな彼女持ちなのねーとファーロさんが言ってるのが聞こえた。

他にも同じ階の女性たちがいる気配がした。


「ご冗談はさておき行きましょう」

私はギルド管理官長を押し出してついでにお気に入りの花のポシェットを持って部屋からでた。


冗談……とかなんとかギルド管理官長がブツブツ言ってたけど私は同じ階の女性たちの好奇心旺盛の目が気になってよく聞こえなかった。


寮母さんに生暖かく見送られて外に出るとラーキャの花にツボミがついてるのが見えた。


「行こうか」

ギルド管理官長が手を出した。

えーとつなごうとしてくれてるのかな?


向こうから馬無し乗り合い車バスがきたのがみえた。


グーレラーシャ王都は馬無し乗り合い車バスが隅々まで配備されていてあまり個人で車を運転する人は居ない。


地方の方に行くと成人一人に小型車一台とかないと動けないところもあるみたいだ。


「ギルド管理官長〜あれですよね〜」

「あ、ああ」

私は慌ててバス停に走って手を振った。


なんとかバスに間に合っておりて少し歩いた郊外の一角にがたっていた。


着物姿の明らかにグーレラーシャ人赤い髪の若女将に案内されて枯山水の庭を横目についた座敷は椅子席ですでに先客がいました。


わーん、ギルド管理官長のご両親はやーい。

ゴージャスなチョコレート色の髪と目の一本中年美丈夫と抱き上げられてる黒髪の……あれ? あの人は知ってる?


「……あ……真姫奈マキナ小母さん」

「あ~編珠ちゃーん、イツキさん元気〜」

美丈夫のうでの中にいたのは親戚のおばさんだったって落ちありなんでしょうか?


「元気です、ものすごく」

この間通信機の画面で元気に水属性をおびた斧を片手にもう片手にお母さん抱き上げてたよ。

「マミニウスの執心の姫が真姫奈の親戚とはなぁ」

前ガイウスギルド管理官長が微笑んだ。


はい? 執心の姫とは誰ですか? 

私じゃありませんよね。


「編珠が驚いています」

ギルド管理官長が私の腰……腰を抱いたよ。


サービスしなくてもお手伝いしますよ。

バディですから。


「こちらへどうぞ」

若女将の引いた席にギルド管理官長が座って私を膝に乗せようとするサービスまでしそうになったので慌てて手を振りほどいた。

「嫌だなちゃんと仕事しますよ」

私はなるべく遠い誕生席に腰掛けた。


「……ちゃんと伝えないといつまでもそのままだぞ」

「実感こもっていますね」

父子が目線を合わせてよくわからない会話をした。


「ガイウス、それって私の事? 」

「真姫奈は鈍かった」

前ギルド管理官長が甘く笑って真姫奈おばさんの耳をアマガミした。

「ガイウス、編珠ちゃんが見てる」

「見させとけばいい」

前ギルド管理官長がそのまま首筋に舌をはわせた。

「……父上……これ以上するなら叩き出します」

ギルド管理官長が鋭い眼差しで前ギルド管理官長をみた。

前ギルド管理官長がふっと笑った。

「お前もさっさとつかまえたらどうだ」

「せいては事を仕損じますので」

二人は視線を交わした。


なんでこんなことになってるんですか?


「ガイウス、息子をからかうのやめなよ」

「そうだな……しかし……編珠嬢が親戚とはな」

真姫奈に少し似てるか? と前ギルド管理官長が真姫奈おばさんにささやいた。


「樹さんに似てるから美人さんだよね」

「お父さん……」

やっぱりお父さんと似てるんだ。


思わずため息をついた。

お父さんと似てるということはやっぱりここと違う異世界『塔世界』のアクアウィータの王族の特徴が出てるという事だよね。


別にいいんだけどあのめんどくさい連中が……


「何か悩み事でもあるのか? 」

「あ、すみません」

私は心配そうに見ているギルド管理官長に微笑んだ。


……あれ? いつの間にか隣に来てますよ?



「春の香りの先付けでございます」

綺麗にもられた蕗のとうや魚の焼物や綺麗な卵焼きみたいの等がちょぼちょぼともってある。

「まあ、綺麗」

真姫奈おばさんが手を伸ばすと前ガイウスギルド管理官長が箸を手に持って料理を綺麗な動作でつまんでおばさんにあ~んした。


「甘い……甘すぎる」

「甘いか? 」

ギルド管理官長が卵焼きみたいのを口に放り込んだ。

「春の味覚らしい」

「ほろ苦くて美味しい」

蕗のとうが真姫奈おばさんの口に口移しで入った。


もう食べるしかないよね。

お吸い物はごま豆腐とかクズ切りとかはいった上品なものだった。


あーんとかあーんとかわーんいたたまれないよ。


「それで……どんなご用件で呼ばれたのでしょう? 」

綺麗なお造りに目を奪われながら聞いた。

「マミニウスの愛しい女はうちの当主夫人だから見たいと思ってな」

「うん、でも編珠ちゃんなら合格だよ」

マグロの刺し身を前ガイウス管理官長にあ~んしながら真姫奈おばさんが笑った。


はい? 当主夫人ってなんですか?

私は単なるバディで臨時の事務員ですが?

近くにいるギルド管理官長を見るとなぜか微笑まれた。


「それよりおば上様の帰還を考えないとじゃないですか? 」

「うーんヴィアちゃんは帰りたくないとか言いそうだよね」

真姫奈おばさんが前ガイウスギルド管理官長を見上げた。

「いざとなったらレオのうちのフィナ君に頼むか……」

「フィナちゃんなら説得できるかも、戦闘文官様の再来って言われてるし……」

あんなにか弱そうなのに高等剣士持ってるしね。とおばさんが感心したように行った。


戦闘文官の再来?


「黒りす文官ですよ、あだ名は、確か外務担当官してましたね」

「く、黒りす文官」

黒いりすがメガネをかけて書類片手にチョコチョコ廊下を歩くのを想像して口元が緩んだ。

「フィナちゃんなら情け容赦なくヴィアを引き立ててくれるよね」

「そうだな」

前ギルド管理官長夫妻がなんか黒い微笑みを交わした。


うわ~ヴィアさんー逃げて〜。

私は知り合いの新人傭兵さんの無事を祈った。


黒りすがムチでしばいてる妄想が見えちゃったよ。


「編珠、どうした? 疲れてるなら」

ギルド管理官長が私に腕を広げた。

いえ……膝に乗るつもりはありません。


さり気なく逃げると落胆の表情をされた。


「それで、仕事は進んでいるのか? 」

前ギルド管理官長が焼き物を真姫奈おばさんにあーんしながら聞いた。

「王宮警護官との連携が少し」

「あいつらも縄張り意識が強いからなぁ……カイレウスのやつに任せてみろ」

前ギルド管理官長の言葉にギルド管理官長がハッとした顔をした。


剛力のカイレウスはギルド管理官長の弟でベテラン専業傭兵だ。

ちなみに既婚者でギルド管理官長は弟に先を越されてすごく立場がないっていつか冗談めかして言ってた。


お子様もいるらしい。

確か今は……オスペナ知識国で護衛業務をしているはずだ。


「カイレウスのところのリンさんが王宮警護官でしたね」

「リンちゃんの弟さんも王都警務官だから話が通しやすいと思うわ」

真姫奈おばさんガイウス前ギルド管理官長に焼き物のブリをあ~んしながら笑った。


リンさんって確かカイレウスさんがうかつすぎて可愛い奥さんとのろけてる人だよね。


そうかそんなところに抜け穴が……

ギルド管理官長の考える知的な眼差しにドキドキした。


「編珠、カイレウスと連絡を取れるか? 」

「はい」

すぐに帰って連絡しようとギルド管理官長が何故か私の手を持って立ち上がった。


「おい、今日は……」

「いいじゃない」

ワーカホリックは血筋でしょ? と上目つかいで真姫奈おばさんがガイウス前ギルド管理官長を見た。


ガイウス前ギルド管理官長は甘い低い美声でマキナと呼んで首元にくちづけた。


うわぁ〜甘甘甘甘だよ……

流石、色気のヒフィゼ家……


「編珠? やってやろうか? 」

マミニウスギルド管理官長がどこか危険な薫りをした笑いを浮かべた。

「嫌だなぁ、そんなことしなくても休日出勤くらいしますよ」

わざわざ、部下を色じかけしなくてもいいよ。


どうせ色気たっぷりの婚約者とかきりっとした美女の許婚とかいるんだろうしね。


マミニウスギルド管理官長に引っ張られながらつぶやいた。


「マミニウス、押して押して押しまくれ」

私と同じ愚をおかすなとガイウス前ギルド管理官長が真姫奈おばさんの首元から顔を上げて強い目でギルド管理官長を見た。


「編珠、私は本気で行くぞ」

少し振り返ったマミニウスギルド管理官長の男の壮絶な色気にドキッとした。


ほ、本気ってどういう意味だろう?

お仕事のことだよね。


私は王立傭兵ギルド本部につくまでドキドキしていた。


「編珠、カイレウスの現在位置を割り出せ」

「はい」

私は大型通信機で傭兵管理システムを立ち上げた。


グーレラーシャの傭兵は傭兵業務の時は登録されたタグをつけることを義務づけられている。


ピアスにしたりペンダントにしたり指輪にしたり人それぞれだけど、それを持っているとどこにいるか傭兵管理システムでわかるようになっている。


平和の今でも小競り合いに担ぎ出されるグーレラーシャの傭兵はいつどうなるかわからない

いざという時、家族の元にかえせるように……


「目的地にたどり着き帰還準備をしているようです」

「そうか、早急に帰還しだいギルドに顔を出すようにメールを送っておいてくれ」

私は少し王宮に行ってくる。そう言って

ギルド管理官長は私の頭をなでて足早に出ていった。


ちぇっ結局ただの休日出勤じゃないか〜。


本気って本気って……やっぱり仕事ですよね。


ため息をついてから気を取り直して画面に向き直った。


よーし早く終わらせてギルド管理官長の隠し甘味を食べ尽くして帰るぞ〜。


だって高級料理、ほとんどたべられなかったもん……グスン。

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