第2話 守護傭兵はお仕事中1

どうしても終わらない……どこの棚にギルド管理官長の隠しお菓子があったんだっけ?


20時近くなっても終わらない事務仕事に私は現実逃避とばかりに壁にいくつもある資料棚に視線をさまよわせた。


あの棚だったっけ? それともあっちの奥だっけ?


そんなことを思いながら大型通信機を入力する夜の残業は虚しい。


バディーのギルド管理官長は今日も王宮で会議三昧だ。


「お仕事お疲れ様」

今日の警備担当者のイスティアさんが顔を出してくれた。

「イスティアさんもお疲れ様です」

私は視線をイスティアさんに合わせた。

あいつが今日も警備担当っていってたのはこのせいかとイスティアはブツブツ言ってるのが聞こえた。


イスティアさんも専業女性傭兵だけど今は子育て中なのであんまり外の仕事には出ない、息子さんたちは幼年学校に行ってるらしい。


「ヒフィゼのボンはまだ帰んないんだね」

「もうすぐメルティウス王太子殿下のご即位ですから……」

その警備計画で最近忙しいんだよね。

そんなことを思いながら書類をはぐった。

「王宮警護官と王都警務官と専業傭兵の連携っていうのもなかなか大変そうだね」

お互いプライドもあるだろうしと言いながらイスティアさんは魔法式の懐中電灯をくるくる回した。


グーレラーシャ傭兵国の国王陛下は跡取りが50歳になると退位して武術修行のたびに出るそして先々代国王陛下が帰ってきて当代国王陛下の武術の師匠となるんだよね。


こんな制度もパーウェーナ世界の人族の寿命がだいたい230歳〜250歳の長寿命の種族だからみたい。

ちなみに外見と中身の年齢は10歳までは一年に一歳位の成長だけどそれ以上は三年で一歳分くらいを50歳くらいまででだいたい昔の明正和次元の人族の20歳くらいで、まあ、成人は30歳でだいたい15歳、16歳くらいに換算されるんだけどね50歳以上は四年で一歳換算らしい。


ただし今回は変則的でメルティウス王太子殿下が愛しい女性を落とすまで時間をくださいと国王陛下に交渉されて平和な時代なので65歳までにといわれてヌーツ帝国の皇太女だったジェーリアーヌ殿下を昨年ついに求婚成功されて抱き上げて即位されるためにメリリノア国王陛下がやっと退位するってことになったらしい。


つまり王太子殿下は65歳ぎりぎりで求婚に成功して準備期間の一年以上を経て67歳の誕生日にご即位の運びとなったわけだ。


グーレラーシャの虎と呼ばれた男性にせまられまくるってたとえ相手が美丈夫でも怖いだろうなぁ……ああいう時ってグーレラーシャの男は狩猟本能のままって感じらしいし……婿入りも辞さない覚悟についに折れたらしいし。


その即位式の後で新国王陛下は長年求愛し続けてきたヌーツ帝国のジェーリアーヌ皇女殿下と晴れて婚姻するから余計に警備計画が大変みたいだ。


「仕方ないですよ」

それにしても腹が減ったとヨダレをさり気なく拭きながら私は笑った。


その時グーレラーシャの国歌が鳴り響いた。

イスティアさんが通信機を確認して口角を上げた。


をお出迎えしてくるよ」

ウキウキとイスティアさんは鞭を構えて出ていった。


し、侵入者……じゃなくてあれは……



グーとなる腹をさすりながら仕方なく書類に戻った。


しばらくすると足音が聞こえて騒がしくなった。

無事にとやらを捕獲したらしい。


「ホントにボンはいつも待たせるよね」

「ボンと言うな」

「じゃ、マミニウスたん」

ボンだのタンだのうるさいやつだなと言いながらギルド管理官長が足早に入ってきた。


「おかえりなさい」

「ただいま、編珠」

ギルド管理官長がそう言いながら紙袋をテーブルにおいた。

チョウチョのスタンプが押されてるところを見ると春風屋のテイクアウトらしい。


ありがたやー私は紙袋を拝んだ。


「編珠ちゃんなんで紙袋拝んでいるのさ」

「え? 貴重な食料様ですよ、ギルド管理官長ありがとうございます」

「喜んでくれてよかった」

ギルド管理官長がマントを脱ぎながら笑った。


今日の会議は王族ご臨席だったらしく鉄色の正装にマントを着ていていつもより凝った刺繍がしてある豪華な衣装だ。


春風屋は王宮近くの食堂でよる営業もしているので残業のテイクアウトにピッタリだったりする。


今日はトマトとひき肉そぼろのピタパンサンドだ。

ハニーミルクプリンもついてる。


「ボンたん、私には差し入れはないの? 」

イスティアさんが両手を腰に当てて首を傾げた。

ギルド管理官長がポケットからハニードロップを出してイスティアさんに放り投げた。


「ボンのケチー」

イスティアさんはハニードロップを見事な反射で受け取って舌を出した。

「仕事に戻れ」

ギルド管理官長が横目で冷たくイスティアさんを見た。


ああ、二人きりになりたいんだねと笑いながらイスティアさんは懐中電灯を振り回しながら出ていった。


編珠ちゃん、ボンにたべられないでねと言い残していったけど食べられるのはピタパン様です。


「別に食べないですよね」

「……ああ」

少し間があったけどギルド管理官長がうなづいた。


私は紙袋を抱え込んでソファーに移動した。


「別に取らないぞ……つまらんビジネスディナーにつきあわされたからな」

給湯室からお茶と砂糖瓶をトレーに入れて2つ持ってきてローテーブルに置いて私の隣に足を組んで座った。


いただきますと手を合わせて美味しそうなピタパンを出してかじりついた。


「王宮でビジネスディナーって豪華そうですね」

ひき肉そぼろ甘辛さとヨーグルトソースの味にうっとりしながら聞いた。

「豪華……か……編珠が正式に私の秘書担当官になってくれれば付いてきてもらえるのにな」

「事務資格二級持ってないから無理です」

それに傭兵業務したいんです。

吹き渡る外気、敵にたいじする緊張感……忘れそうです。


そうか……と寂しそうにギルド管理官長はうなだれた。


本当は実務経験が満たされてるので二級取得試験受けられるんですが……現場大好きなのでそんな顔してもダメです。


少しだけたじろぎながらお茶を飲んだ、今日はちょうどいい甘さでホッとする。

前も話したが私はグーレラーシャ傭兵国人だが日本人でもあるのだ。


守護戦士の父親がパーウェーナ世界のキシギディル大陸のモタマチムイ遺跡国というところの最大の遺跡シレルフィールの城塞都市と言うところに仕事に出ていた時そこで武器の水気をまとった大斧グレードアックスをはこぼれさせてしまったところでグーレラーシャ人研師の母親が行って研ぎ直したらしいのがなれそめらしい。


国際結婚どころか異世界結婚の両親を持ったお陰で苦労するよ。

幼少の時はそれでもグーレラーシャで暮らしてたんです。


でもお父さんの視野が広くなるから学校は明正和学園がいいという主張の元、小学校から向こうでした。


確かに傭兵産業以外も経験した方がいいって名目で明正和学園に行ったけど……あっちで守護戦士目指して、こっちの傭兵学校でも取れるって聞いたから明正和学園高等部武術科から守護戦士准2級の時に傭兵学校に編入して守護戦士2級と高等斧士を持った2つ名守護傭兵っていうよくわかんない状態になったんだよね。


だから傭兵業務の時は守護戦士二級瑠璃色の作務衣守護戦士の制服じゃなくて瑠璃色の防御力に優れた特殊生地で作られたグーレラーシャの伝統衣装戦衣を着てます。


「ハニープリンにさらにハチミツソース」

黄色のプリンに黄金色のハチミツソースをとろりとかけて一口食べた。


甘い……甘み過多だけど美味しい……ハチミツソースがない方が好みかもしれない。


「美味そうだな」

「食べますか? 」

ギルド管理官長が食べたそうにしてたのでスプーンにすくって渡そうとするとそのまま口を近づけられて食べられた。


あ、あーん?


「うまいな」

ギルド管理官長のうっとりした微笑みに顔が熱くなった。

「あ、あの会議はどうになりましたか? 」

「お互いに落としどころがな……あっちをたてればこっちがたたず」

ギルド管理官長がお茶に砂糖を足しながらため息をついた。


王宮警護官とはもともと連携しているんで問題はないんだけど王都警務官が色々言ってくるらしい。


文官も貴族も席次で揉めたりしてるみたいだし……でも即位式にでるマミニウスギルド管理官長きっと典雅で素敵なんだろうなぁ……。


今日の深ーい緑の鉄色の長衣も似合ってるし。

隣には美しい貴族の姫君……あれ少しお腹が痛い。


食べ過ぎてお腹が痛いのかな?


「編珠、牡丹での食事の件だが」

ギルド管理官長が切り出した。

「お忙しければいつでもいいです」

私はごはんも食べたしもう少し仕事しようと立ち上がろうとしてギルド管理官長に肩をおさえられて座ったままになった。


「今度の土曜日の夜でどうだろうか? 」

ギルド管理官長が真剣な眼差しで私を見た。


べ、別におごらなくても事務仕事しますよ。


本当は現場に出たいけど……守護戦士の方がソロで仕事できるから明正和次元でとかちょっと思ったけど傭兵だとマミニウスギルド管理官長の素晴らしい技が見られますからね。


異世界でも1週間は七日で本当は別の曜日名とかあるんだけど明正和次元の簡易的な呼び方が定着して以来そんな呼び方をしてる。


本来は麗しき始まりのなんたらとか言うらしい。


「えーと……大丈夫です」

一応小型通信機の予定表アプリを起動してみてみたけど彼氏のいない私に週末予定なんてものはない。


あるのは事務仕事残業のオンパレードだけだ……思ってて虚しい。

素敵な彼氏……どうしてギルド管理官長が思い浮かぶんだろう……私。


でもきっとギルド管理官長には素敵な彼女様とか婚約者様とかいるんだろうなぁ……


「ではその日に下宿に迎えに行くから待っててくれ」

「はいありがとうございます」

食事会の時だけ幸福を味わあわせ下さい見知らぬギルド管理官長の彼女様と思いながら立ち上がりかけた。

「もう行くのか? 何ならここに」

ギルド管理官長が自分の膝をたたいた。

「嫌だなぁご冗談でしょう? 」

そんな恋人みたいなことしたら恥ずかしくて顔が合わせられなくなっちゃうよ、たぶんいる見たこともない彼女様にわるいしね。


……ではないんだがとか聞こえたけど手を振り払ってゴミを持って机に戻った。


「ギルド管理官長、カザフ班長からの定期連絡です」

ゴミを捨てて大型通信機を立ち上げるとメールが来ていた。


キシギディル大陸のドゥラ=キシグ香国に傭兵業務に行っているカザフ班からの定期連絡のようだ。


「すぐに行く」

ギルド管理官長が素早い動作で立ち上がった。

大型通信機の前に座った私の後ろからのぞきこんで操作するギルド管理官長……近いです。

「海賊らしき野営の痕跡は発見したが海賊自体は未発見か……」

「おば様は即位式までに一時帰国しなくてはいけませんかねぇ」

私は後ろの体温にドキドキしながら聞いた。


ギルド管理官長の超年下のおば様は今年傭兵学校を卒業して専業傭兵なりたての30歳で名門貴族ヒフィゼ家の令嬢なので即位式にでる権利と義務があったはずだ。


「そうだな、まあその時までに帰国していれば大丈夫だ」

「わかりました、ては……秘書担当官に手配してもらえるようにメモ書き残しておきます」

私が手配すると本業の秘書担当官さんの職分まで奪っちゃう所だった。

「編珠が手配してくれた方が安心なのだが」

「本業が手配した方がいいですよ」

耳元でささやくような美声に腰砕けになりそうになりながら仕事に戻ってくださいとうながした。


体温が背中から去って少しさびしいと感じながら……いやいやギルド管理官長は高嶺の花、私は単なるバディーですよと頭を振って大型通信機の操作に戻った。


さすが即位式だ、5月にするハチミツ祭り以上の予算がおりてる。

人員配置は……まだ決まってないか。



機械式の時計の音だけがひびいている。



「なに? まだいたんかい? 」

イスティアさんの声がして顔を上げると十二時近かった。

呆れたようにイスティアさんが懐中電灯を持って片手を腰に当てている。


「もうこんな時間か? 終わりにして編珠送っていこう」

「まだまだ終わりが見えません」

残った書類を見た、かなりの枚数が残っている。

「明日に回せば良い」

「……そうですね、考えてみれば私本業は専業傭兵ですし」

昼間にイルサン秘書官にやってもらえばいいや。


ギルド管理官長が立ち上がって後ろに来た。


私を見捨てる気か……編珠と妙に色っぽい美声で囁かれたけど……見捨てるも何も明日こそお掃除でもなんでもいいから現場に行きます。


その日はギルド管理官長に送ってもらって下宿に帰った。

ギルド管理官長の住んでる王宮のヒフィゼ部屋群からずいぶん遠いからもうしわけなかったけど女性を深夜に一人歩きさせるわけに行かないって……本当にギルド管理官長って紳士だよねー。



今日こそ現場に行くぞーと朝日に誓って調べた依頼からちょうど良いのを見つけた。

早速受付担当官のところに依頼票を持っていった。


傭兵学校の夜勤の門番業務は上級生が遠征訓練に出てたりすると人手不足になるらしくソロでもできる割のいい仕事だけど……やっぱりバディーのギルド管理官長と仕事がしたくてちゅうちょしてたんだよね。


でももう限界です、現場にださせてくださーい。

これ終わったら少しはお手伝いしますから。


「うーん、エラー出てるわ、アミ・ピゼシタ高等斧士コウトウフシは事務仕事を常時最優先依頼済みです? 」

受付のデナエルちゃんが私が出そうとしていた傭兵学校の夜勤門番の求人を打ち込んで大型通信機に出たエラーを見て常時事務仕事が最優先依頼なのねと感心? した。

「私、専業傭兵現場の人なのに〜」

ぎ、ギルド管理官長かな? 失望感が心をおおった。

「忙しいだから外仕事にでちゃだめですよ」

イルサン秘書担当官が足早にやってきた。

「どうしてここに……」

「もちろん外仕事の依頼が出したらエラー及びアラームが出るように設定……」

イルサン秘書担当官が言いかけたところでデナエルちゃんが奥を見た。

ギルド管理官長がおおまたでこちらにかけてくる。

「イルサン秘書担当官! 傭兵業務を制限するなど越権行為だぞ! 」

「制限じゃありません! 常時最優先依頼をかけてるだけです! われわれだけで終わると思ってるのですか? 」

イルサン秘書担当官がギルド管理官長の静止に反論した。

「し、しかし……」

「それに事務仕事が早く終われば傭兵業務に二人で出られる可能性が高くなりますよ」

「だ、だが……」

「傭兵学校の夜勤門番なんていう若い男がたくさんいるところに編珠さん単独で行かせるのですか?」

イルサン秘書担当官の矢継ぎ早の発言にギルド管理官長がしどろもどろになった。


そして若い男のところで考え込んだ。


「編珠は若い男の方が良いのか……」

哀愁ただようギルド管理官長の雰囲気とイルサン秘書担当官のあの人を見捨てるんですかという小声に私は敗北を感じた。


「事務仕事手伝います」

「ヒフィゼギルド管理官長、編珠さん確保したから行きますよ」

僕の求愛行動のため……とイルサン秘書担当官のつぶやきが聞こえた気もしたけどギルド管理官長が少し嬉しそうだからまあいいや。


編珠ちゃん、ほだされてるよとデナエルちゃんが生暖かく笑った。


うん、泣く子と落ち込むギルド管理官長にはかなわないみたいだよ。


でもいつか絶対に現場の人になるぞ〜。

その時はギルド管理官長と一緒に仕事できるといいな。


その前にギルド管理官長のご両親と一緒のお食事会もあるんだよね。

頑張ろうっと。

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