第6話 真相

「私たちは【クロスロード】によって個人情報を取られて、【サークルライト】端末という誘導装置によって、それぞれの適性に応じた異世界に転送されているの」


「ちょっと待って下さい。それが事実だとしても、何のためにそんなことをするんですか?目的がわからない」


 安堂光雄は混乱していた。いつの間にか、額に吹き出ている汗をハンカチでふいた。


「目的……残念ながら、それは分かっていないわ。だけど、日本で年間に10万人の行方不明者がいるけど、未発見者は1700人程度だと言われているわ。ただ、死体で発見される人は4600人いるし、そのうち、3100人は自殺者で不明は1500人になるわ。少なくとも、この未発見と不明を合わせた3200人はどこかに連れ去られたか、途中で殺された可能性があるわね」


「まさか、異世界への連れ去られたと、神沢少佐は言いたいのですか?」


「結論から言えば、そうなるわね。サークルライトという一企業というより、アメリカという国自体が黒幕ともいえるけど、それも本当のところはわからないのよ」


 神沢優はひと息ついて、コーヒーを一口飲んだ。

 

「敵の正体も、目的も見えないというのは厄介ですね」


 安堂光雄もため息まじりにひと息ついた。

 



「神沢少佐、ただいま戻りました!」


 元気のいい少女の声が部屋に響いた。


 年の頃は十三歳ぐらいだろうか?

 黒いショートカットの髪に大きな瞳が印象的な少女だった。 

 黒いジャージに白のスニーカーという軽装で、背中に黒い布カバーつきの刀のようなものを背負っていた。

 

「ああ、カオルちゃん、ご苦労さま。吉備の国はどうだった?」


 神沢優は親しげに話しかけた。


「いや、蛇がでちゃって大変でした。百襲媛さまが来てくれなかったら、温羅だけじゃ危なかったですね。月読真奈つくよみまなちゃんもサポートしてくれて助かりました」


「そう、疲れたでしょう。冷蔵庫にお弁当とお茶があるから、自由に食べてね。あ、フルーツとデザートも買っておいたから」


「はーい、お言葉に甘えて、ごちになります」


 そのカオルと呼ばれた少女は、冷蔵庫から焼き肉弁当を取り出すとレンジで温めて、安堂光雄の前の席で食べ始めた。


「あ、紹介してなかったわね。この子は風守かぜもりカオルちゃんという名前で、天鴉アマガラスの『鏡の民』の部署に所属してるの。私たち『剣の民』とは専門分野が違うけど、色々と協力することもあると思うわ。仲良くしてね。階級は大尉なので、安堂君の先輩、上司に当たるけど、ざっくばらんに接してくれたらいいわ」


 神沢優は手短に紹介した。


「はい、了解です。風守カオル大尉。新人の安堂光雄です。よろしくお願いします」 


 安堂光雄はつい堅苦しい挨拶をしてしまった。


「安堂さん、カオルでいいですよ。カオルちゃんでも。こちらこそよろしくお願いします」


 風守カオルはにっこりと微笑んだ。


 

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