第5話 異世界
「神沢少佐、六本木アンダーヒルズの件がニュースに見当たらないけど、公安の情報操作ですか?」
安藤光雄はモーニングコーヒーを飲んでいる神沢優に視線を向けた。
彼女はコーヒーカップを置きながら紅色のサングラスを外した。
まだ、攻殻機動隊の草薙素子のコスプレをしているが、どうもそれは彼女の制服のようなものらしかった。
部屋の奥にパソコンディスプレイを眺めながら、コーヒーを飲んでいる神沢優がいて、立派なソファにもたれかかっていた。
その他には、安藤光雄ともうひとり分の机が向い合せに置かれていて、それぞれパソコンディスプレイがあったが、部屋はあまり広くはなかった。
そこは公安の新宿支部である。具体的には歌舞伎町の大深度地下にある巨大な地下施設である。
2001年に施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(通称、大深度法)による公共事業の一環であるが、通常は地下鉄などがある領域である。
こういう施設は都内の各所にあり、地下鉄網に併設された秘匿ルートによって移動できるようになっていた。
「情報操作? それは違うわよ。アナザーディメンション、異次元というか、あの戦闘は異世界で行われたのよ」
「異世界?」
「私たちが戦ってる相手はそういう敵なの。それに対抗する手段を私たち『
「了解。昨夜から話を聞いてますが、もう、ちょっとやそっとでは驚かないつもりです」
安堂光雄は溜息まじりに答えた。
公安本部からの辞令で、昨夜から所属は神沢優少佐付けに変更されていた。階級は中尉らしい。
しかも、昨日の出来事自体が適性を見るためのテストであり、それがこの公安の上部組織である『
神沢少佐の話では公安や警察組織のみならず、自衛隊などからもチームメンバーを選抜中であるが、どうもそれに合格したのは僕が初めてだという話だった。
大体、何の説明もなく、実戦に投入されるという無茶な選抜試験に合格する方がおかしいくらいだ。あ、自分で自分を非難してしまった。
「さて、安堂君、貴官は私の初めての部下だが、【サークル7】の今後の捜査方法について何か意見はあるかな?」
神沢優は深く吸い込まれるような黒い瞳を向けてきた。
そんなことより「異世界」についての説明が聞きたかったのだが、まあ、おいおい説明があるだろう。
「そうですね。どうもこちらの動きは、全部、筒抜けのようなので捜査方針を変える必要がありますね」
「それで?」
神沢優は頷きながら先をうながした。
「神沢少佐の潜入捜査自体が私自身にも秘匿されていた訳で、一体、その情報がどこから漏れたかを調査する必要があります」
「どこから漏れたと思うの?」
神沢少佐の視線が鋭くなった。
「インターネットしか考えられませんね。何らかの通信傍受である可能性が高いです。もちろん、私の端末からです」
「まあ、半分は合ってるわ。原因を特定するために、毎回、いろいろと条件も変えてきたけど、目星はもうついてるわ」
「やはり、【クロスロード】ですか?それとも【サークルライト】端末そのものですか?」
「どちらも正解だけど、どちらも不正解とも言えるわ」
神沢少佐の答えは意外なものだった。
「私たちは【クロスロード】にアクセスして、【サークルライト】端末で連絡することで異世界に飛ばされているのよ」
「え! それは一体、どういうことですか?」
神沢優は謎めいた微笑みを浮かべていた。
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