第4話 シロガネ

 全身漆黒の黒鋼クロガネと呼ばれる鬼の背中の鎧が開いて、神沢優はその中に吸い込まれるように消えていった。


 背中の鎧が閉じられるのと、エレベーター内の兵隊の機銃掃射は同時だった。


 安堂光雄は黒鋼クロガネの後に護られるような形で弾丸の被害はなかった。


 黒鋼クロガネの周囲には不思議な球形のバリアのようなものがあって、それが彼を守ってくれたようだ。


 次の瞬間、黒鋼クロガネは腰から日本刀のような武器を抜いて、兵隊たちを一刀の下に切り倒していた。


 居合抜きのような素早さで、気づいた時には、刀は腰の鞘に収まっていた。




「出でよ、銀鋼シロガネ! 式鬼召喚しききしょうかん!」


 再び、神沢優の声で呪文の詠唱が聞こえてきた。  

 

 今度は白銀の鬼が安堂光雄のそばに現れた。


「早くそれに乗り込んで! 操作方法はオペレーターから案内があるわ」


 上官の命令に反射的に従うという日頃の訓練の成果か、ためらう暇もなく、安堂光雄は銀鋼シロガネに乗り込んだ。


 いわゆるパワードスーツのようなものなのか、彼の身体の動きに合わせて自在に動いた。


 彼が乗り込むと同時に【モバイルギア】の画面に黒髪のショートカットの少女が現れた。


「はーい、オペレーターの月読真夜つくよみまやです。よろしくです!」

 

 元気のいい、ハイトーンボイスである。


「いや、よろしく」


 あまりにも急な展開で素で答えてしまった。


「えーと、基本的に銀鋼シロガネは安堂さんの身体の動きに合わせてスムーズに動きます。機銃掃射ぐらいなら大丈夫ですが、ロケットランチャーとか、ミサイルの直撃は避けて下さい」


 それは普通、避ける。

 

「あと、武装はサムライブレードしかないので、銃撃をかわして、白兵戦で。神沢さんが先導しますので、上手く脱出して下さい。幸運をお祈りします。」


 祈られたのは民間企業の面接落ちた時以来のような気がする。


「了解。しかし、こいつらは何者なんだ?」


「ああ、残念ながら、時間切れ! ロケットランチャー来ます! 左に大きく飛んで、回避してください!」 


 う、確かに赤い光点が急速にこちらに近づいてくる。


 黒鋼クロガネに抱きかかえられるようにして、銀鋼シロガネも跳躍して、何とか直撃を避けた。 


 が、ロケットランチャーのためにエレベーターは破壊されてしまい、脱出経路のひとつが消滅した。


 【モバイルギア】には新たなルートが現れている。階段を使って地上に出るルートだが、当然、敵も待ち伏せしているだろう。


「私が囮になるから、安堂さんは『転移』して」


 【モバイルギア】に神沢優の顔が浮かんだ。


「はい、『転移』はこちらからリモートコントロールで行います」


 月読真夜が言葉を続けた。


「了解。コントロールはそちらに任せる」


 安堂光雄は素直に従った。


「では、安堂さん、『転移モード』に移行します。ショックに備えて下さい」


 その言葉が終わって間もなく、銀鋼シロガネが淡い光に包まれ、機体が振動と共に鳴動しはじめた。


 次の刹那、蛍のような光の微粒子を残して、銀鋼シロガネの姿は消滅していた。

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