Act.0021:俺はヒーローだからな

「――って、わけで、俺は東城世代セダイ魔生機甲レムロイドを持っている。それが知れ渡れば、面倒なことになることはわかるだろう?」


 リュックに入っていたズボンを穿いて、ようやく少しまともな姿となった和真がいろいろと説明をしてくれた。

 それを壁によりかかりながらも、アラベラはたまに質問を挟みつつ聞いていた。


「先ほど魔生機甲レムロイドを倒した武器……グラトン・アームだったか? それも東城世代セダイから?」


「いや、あれは別のコネだ。……まあ、そのコネを作ったのも東城世代セダイだけどな」


 和真も座って対面の壁によりかかっている。

 先ほどまでは気がつかなかったが、その表情には疲労がうかがえた。

 ここまで走りづめで、さらに到着してからすぐにいくつも戦闘をこなしたのだ。

 そのうえ、魔力を使い切ってしまったのだから、疲弊してもしかたがないだろう。

 本当は今すぐにでも、乙女とガランを助けに行きたい。

 できるなら、和真に頼らず自分で助けに行きたい。

 そう願うアラベラだったが、怪我人の自分ではどうにもならない。

 怪我を治すにも、回復魔術は苦手なうえ、下手に大きな魔術を使うと敵に見つかる可能性がある。

 だからできることは、獅子王こと和真の魔力の回復を待ちながら、自分に少しずつ回復を早める術をかけること。

 それに、和真からできるだけ情報を聴きだすことぐらいだった。


「……何者なんだ、東城世代セダイとは?」


「俺が知りたいぐらいだ。異世界から来た……と言っていたが」


「異世界か。ふふ。異世界人がいる……そんな噂もあったな」


「まことしやかに流れる噂だが胡散臭い……と今までは思っていた。でもな……」


 そう言うと、和真は地面に置いてあるリュック――グラトン・アームを指さした。

 材質はわからないが、つや消しの銀の金属でできている四角い箱。

 下の部分には荷物入れなのか、布地の部分もついているが、目の前で見るとやはりリュックというよりバックパックだ。


「こいつをくれた奴らのことを考えると、異世界は本当にある気がしてきたよ」


「……まあ、確かにな。魔術道具の中でも、恐ろしいほど高度な作りだ。貴殿が、その武器で魔生機甲レムロイドの頭を殴ってよろめかせた時は、本気で驚いた」


「ああ。あれは違う。武器は使っていない。素手だ」


 あっけらかんと言われ、アラベラはすぐに意味がわからなかった。

 しかし、頭に入ってくると、素っ頓狂な声をあげてしまう。


「……はあ~ぁ~? す、素手だとおぉ!? そ……そんなことできるわけ……」


「パイロットは、魔生機甲レムロイドの目と同期しているだろう? 普通は振動とか受ける時には、その同期を意識的に切る。目を瞑れば切れるしな」


 説明を始めた和真に、アラベラは黙ってうなずく。


「しかし、俺はパイロットに意識してもらえるようにするため、魔生機甲レムロイドの頭を蹴ってさらに肩に乗った。あの瞬間、パイロットは『なんだ?』と肩の上の俺に注目しただろう」


「それはそう……あっ! そ、そういうことか……」


「そうだ。その瞬間を狙って、俺は掌底で魔力と気を乗せて振動波を魔生機甲レムロイドの目元に撃ちこんだ。魔生機甲レムロイドの目に振動は届き、視界が激しく揺れる」


「そして視界を同期しているパイロットも、貴殿が手をあてたぐらいでは、目を瞑ったり同期を切ったりしないだろう。いいや、むしろもっとよく見ようと注目さえするかもしれない」


「そう。そのために、パイロットの視界も激しく揺れて眩暈を起こす」


「……とんでもない男だな、貴殿は」


 アラベラは本気で呆れた。

 確かに実際の魔生機甲レムロイド戦でも、視界外からの攻撃を頭部に受けてしまい、パイロットまで眩暈を起こすことは稀にあった。

 しかし、それはあくまで偶然である。

 狙ってパイロットの眩暈を起こさせる、ましてや生身でおこなうなど正気の沙汰ではない。


「敵のコックピット前に貼りついても潰されないようにするには、これしか思いつかなくてね」


「生身で魔生機甲レムロイドを倒す武器として、対魔生機甲レムロイドライフル銃というのがあると聞いたことがあるが、接近戦で倒した人間など貴殿ぐらいであろうな」


「俺だって魔力がもっと残っていたら、魔生機甲レムロイドで戦ったさ。わざわざあんな危険な真似する必要なんてないからな」


「いいや。あれで正解だっただろう」


 少し自虐的になる気持ちを抑えながら、アラベラは言葉を続ける。


「あの場には、少なくとも4機は新型の……たぶん、【新月ニュームーン】のフルムーン新型が存在した」


「ああ。全部で5機だそうだ。【フルムーン・ベータ】という。アルファから、ベースを武者フレームにして量産しやすくしたらしい。あと、旧世代が10機。ベータと、敵のボスのスルトンが持っている魔生機甲レムロイド以外は、まあ雑魚だけどな」


「全部で15機……」


 アラベラは絶望感に苛まされる。

 得ていた嘘の情報では、敵機は5機だった。

 蓋を開けてみれば、10機も増えている。

 しかも、あの長距離射撃ができるベータが5機も配置されているのだ。

 なにをしても勝てるわけがない。


「やはり、貴殿も構築ビルドしなくて正解だったな……」


 暗に「貴様も負けるぞ」という言葉を含める。

 同時に自虐に俯く。

 自分の愚かさを噛みしめる。


 だが、和真はそれを鼻で笑う。


「俺はヒーローだからな。戦ったなら、負けるわけにはいかないさ」


 不遜にも聞こえる台詞。

 アラベラが顔を上げると、目の前にはあの不敵な顔が微笑している。


「東城世代セダイ魔生機甲レムロイド【ヴァルク】は、10機のアルファを相手に圧勝した。なら、俺の魔生機甲レムロイド雷獅子オンウィーア・レウ】が、こんな相手に負けるわけにはいかない」


「…………」


 決してそれは上っ面な言葉ではなかった。

 力強く、真摯な瞳で語る、それは決意。

 東城世代セダイ魔生機甲レムロイドに対する信頼なのだろうか。

 それとも、自分のパイロットとしての技術に対する確信なのだろうか。

 いや。どれも違う気がする。

 彼は、なにかを信じているのだ。

 だが、それがなんであるのか、アラベラにはわからない。


「すごい自信だな……。そこまで自信があるなら、ぜひ山賊どもを殲滅してほしいものだ」


 どうしても皮肉が声に混ざる。

 助けられた相手にとる態度ではないとわかっている。

 しかし、自責の念がひねくれた態度に繋がってしまう。


「貴殿ならできるのであろう。あの憎き山賊どもを葬ることが」


「……俺は、あんたらを助けに来たんだ。あいつらを殺しに来たわけじゃない。それに悪を憎んで戦うのって、かっこう悪いだろう。俺は守るために悪を倒すんだ。そう決めた」


「フンッ! 馬鹿らしい。またかっこうよさか。子供じみた理由だ!」


 恩人だったからという想いよりも、アラベラの中で嫌悪感が強くなる。

 この話題に関してだけは、自制などできない。


「悪を滅ぼす理由に、なにをこだわる!」


 悪には死を与える。

 それはアラベラの中で、決まっていることだ。

 なぜなら、死を望む者が悪をおこなう。

 たとえ死を望まないとしても、そこに情けをかければ悪は増長する。

 悪をおこなって死が訪れないならば、悪をおこなうことに躊躇う必要はないのだ。

 死という罰が来ないなら、生きている限り、悪をおこなえるということ。

 つまり、悪をおこなうことが許されたも同じだ。

 悪を許さぬには、死を与えるしかない。

 そうでなければ、自分のような目に遭う人間が増えるのだ。

 悪という恐怖が棲みつき、それを隠すために憎悪を増長させるしかない人間が。


(それがなぜこの男にはわからないのか!)


 アラベラは言葉にださずに歯噛みする。

 これほどの豪気な人間ならば、些末なことよりも視野を広げることが大切なことであると知っているはずだ。

 彼女は、和真をまるで親のかたきのように睨みつける。

 ある意味で彼女の意志を否定する和真は、親の敵と同じなのかもしれない。


 だが、和真はその視線を寂しい微笑で優しく受け流す。

 そして、穏やかな口調で言葉を紡ぎ始める。


「俺の家に来た時にいた2人を覚えているか?」

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