Act.0002:ごちそうさまあぁぁぁ!!!
「クアッドストライク!」
音声入力と同時に、腕の周りから4本のパイルが顔をだして前方に射出される。
破壊力は一級品だが、ほぼ0距離で使わないと効果が発揮できない、偏向武器。
使い道がないとされていた武器だが、このラスボスの弱点に打ちこみ、一撃で沈めるためだけに、
横目で一瞥して敵の体力メーターが0になることを確認すると、機体を巨体から緊急離脱させる。
目の前で起きる、眩いばかりの大爆発。
「よっしゃー!!!」
たぶん、この超難易度をクリアしたのは全世界で初めてだろうと、
狭いコックピットで響いた声は漏れ、たぶん並んでいる人たちにも聞こえているだろうが心配ない。
ゲームの様子は、外部モニターでも見えているはずだ。
外の人たちも、この偉業に拍手喝さいを贈ってくれるに違いない……彼はそう思っていた。
しかし、外はかなり静かだった。
不思議に思っていると、ゲームクリアの文字が唐突にブラックアウトした。
BGMまで停止し、闇と無音にコックピットが包まれる。
――真の闇。
(おかしい……)
音がまったく聞こえない。
外の音どころか、自分の呼吸も衣擦れの音も耳に届かない。
ふと、
これは本当に視界が見えないだけなのだろうか。
もしかしたら、自分の意識がなくなっているのではないだろうか。
(いったい、なにが起きた?)
(だいたい、ここはどこなんだ?)
(そもそもボクは……誰なんだ?)
「――!?」
過ぎてみれば、それは
突然、すべての光と音が戻り、正面のモニターには前触れもなく別のステージが映しだされていた。
それは、ずっとプレイしている
そこには、やはり見たこともないロボットが2機、コンテナのようなものを運ぶように立っていた。
(ボーナス面? なんかかっこ悪いレムロイドだな……)
そこにいたのは、メカニカルというより鉄の鎧を着たゴーレムかなにかのようだった。
あきらかに、このゲームのレムロイドとはデザインセンスが違う。
(リアル系というより、スーパーロボット系?)
その2機が、コンテナを下に置くとこちらに向かって走ってくる。
彼は「もしかして、クリア後の隠し面か」と考え、手にしていたビームライフルでその2機の足をおもむろに狙ってみた。
だが、予想以上に敵は弱かった。
2機とも、一発で両脚の膝から下が吹っ飛んでしまった。
その衝撃で、2機は轟音と共に転がって横倒れになってしまう。
(チュートリアルにでてくる雑魚敵並みだな……。なんで今さら?)
なんだか意味がわからなかったが、彼はライフルの出力を押さえて両腕も破壊しておく。
こうしておけば、いつもなら胴体部のコックピットハッチが開き、搭乗者が逃げだすはずなのだ。
これはこのゲームの特徴だが、コックピットを破壊せずに戦闘不能にすると、ボーナスポイントがもらえる。
だから、いつも通りコックピットを破壊せずに倒した。
……のだが、どうも様子がおかしい。
唐突に、レムロイドが光の粒子のようになり、胴体部分に向かい収束していったのだ。
光の粒子が消えると、敵レムロイドは完全に消え失せてしまう。
代わりに胴体のあった部分あたりに、本のようなものと搭乗者らしき者だけが浮いていた。
そして、ゆっくりと搭乗者は地面に降り立つと、一緒に降りてきた本を拾って走って逃げて行く。
「……なんなんだ?」
そんなシーンは、今まで見たことがなかった。
しかも、敵の搭乗者の服装も、敵軍の軍服姿ではなかった上に、倒したというのにスコアの加算さえされていない。
あらためて周りを見て、敵レムロイドが運んでいたコンテナがそのまま置いてあることに気がつく。
(ああ。あれが報酬アイテムってことか!)
自分の乗っているレムロイドを近づける。
報酬アイテムなら、それだけで自動的にゲットできるはずだ。
「……あれ?」
だけど、いつも通りに「アイテム・ゲット!」の表示がいつまで経ってもでてこない。
(バグか……)
気が抜けて大きなため息をついた。
クリアしたのは自分だけだから、まだこのバグも知られていないのかもしれない。
でも、クリアの証であるアイテムはなんとしてももらいたい。
そう思って彼は、仕方なくコックピットを開けることにした。
店員さんを呼んで交渉しなくてはならない。
ゲームの終了メニューが表示されないため、緊急開放スイッチを押す。
コントロールパネルが横にずれて、正面の壁がモーター音と共に下に開いていく。
蒸れた空気の代わりに、新鮮な空気が入ってくる。
「……ん?」
だがその空気は、期待していた冷房で冷えた空気ではなかった。
蒸れてはいないが、まちがいなく熱気。
そして、その向こうに広がっているのは、見慣れたアミューズメント施設の風景……ではなかった。
「……はい?」
モニターに映っていたものと、まったく同じ風景が見えている。
切り立った岩山が転々とし、人も建物も見当たらない。
しかもそれは遠くまで広がる、
(……まさか……)
同時にコックピットの席から立ちあがる。
手をかけているコックピットの外装は、自分が決めたカラーの黒地に赤枠が入っている。
指先に伝わるのは、冷たい金属の感触。
乾いた空気の匂いが現実感を伝え、彼の予想を後押しする。
下を見ると、ビルの3階ぐらいから見下ろしたような風景。
「まさか……」
彼は、ゆっくりと背後を見上げた。
目の前には、眩しいほどの金色を返す、角張った巨大な首。
そしてその上には、黒地に金と赤のラインが走ったマスク。
燃えるような赤い瞳。
まちがいなく彼がカスタムしたレムロイドの顔がそこにあった。
それを見た途端、今まで幼い頃から溜めていたリビドーが口から爆発する。
「か……神様、本物……ごちそうさまあぁぁぁぁ!!!!!」
彼はアドレナリンが分泌されすぎて、おかしくなりそうなぐらい興奮していた。
この状況に呆然とするよりも先に、本物となったレムロイドに感動してしまう。
もちろん、しばらくしてさすがの彼も、この異常な状況に呆然となってしまうのであった。
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