Act.0055:そもそも、こん世界は

「あの土から作られたゴーレムが、【ドラーク・リダラ】システムなのか? 想定外ね」


 練習の時に見ていなかったフォーの質問に、世代セダイが嬉しそうに答える。


「そうそう。竜の爪から生まれる魔生機甲レムロイド型ゴーレムだよ。今は魔生機甲設計書ビルモアにとってかわられた古代魔法だね。デザインは、いちずさんのお父さん。もともと魔生機甲レムロイドとしてデザイン画が途中まであったんだけど、それを無理矢理本体の形ではなく、装備として変更してみたんだ」


「あたしも、最初に見た時は驚いたわ。あんなことできるとは思わなかったもん」


 双葉が腕を組んで、深く何度も頷いた。

 その横で、同じようにミカも頷く。


「まあ、もともと魔生機甲レムロイドはゴーレムの技術から生まれているけど、それを逆に再利用してみたんだ。生みだす土の材質によって硬さが変わるけど、攪乱や、足止め、ちょっとした盾にはなると思う。一度に4体まで作れるけど、コントロールが難しいみたいだし、魔力の問題もあるから同時運用はしばらく無理かな。本当はビットとかファンネルとか作りたかったんだけど……と言ってもわからないか」


「わからないね。ただ、本当にマスターは魔生機甲設計者レムロイドビルダーとしては天才的だとはわかる。想定内ね。……変態だけど」


「まあね!」


 世代セダイに恥じる様子はなかった。

 ロボット好き変態と呼ばれることに対する抵抗感など、大昔になくなっている。


「でも、あのドラークの本当の性能は、あの翼にあるんだよ。実はあの翼はね――」


「――フィン・レーザー、兼ねとるのやろ?」


 唐突に世代セダイの言葉を遮って続けたのは、女性の滑らかな声だった。

 全員がそろってふりむくと、そこには真っ白なフリルのついたワンピース姿の女性が立っていた。

 だいたい、世代セダイたちと同年代だろうか。

 肩口まで伸びた艶やかな黒髪。

 髪型は、おでこの上がおかっぱだった。

 その両サイドを頬にあたるほどまで伸ばし、後ろ髪を長くした、いわゆる姫カット。

 そのカットのせいか、妙に慎ましやかに見える。

 銀色の細い枠のメガネが印象的だった。


「異世界、来てはるんに、あんたさんは変わりまへんなぁ。そやて、会えてうれしーわぁ」


「……誰?」


「ちょいジェネはん。うちを忘れたん?」


「…………」


「…………」


「……誰?」


「ちょい! もー、いけずなーおとこやなぁ。東の王者、プレイヤーネーム【ジェネ】こと【東城世代セダイ】はん。西の王者、覚えておりまへんか?」


「西の王者……えーっと……西宮だっけ?」


西条さいじょう! 【西条 九恵くえ】でっしゃろ!! 東城と西条、こないに覚えやすい組合せの名前、なんで覚えてへんか!?」


「ああ、西条さんね。西条さん……うん。覚えている……うん」


「……それ、嘘でっしゃろ!?」


「……ごめん」


 クエは、両肩を落として大きくため息をつく。

 まるで、「やっぱり」と言わんばかりの顔だ。


「ほんま、相変わらずロボットオンリーのアホやなぁ、ジェネはんは。プレイヤーネーム【クイーン・クエ】という名、覚えておりまへんか?」


「ああ! クイーンか。顔はどうでもいいので覚えていなかったけど、機体は覚えてるよ。万年3位のだよね!」


「最後は2位や!」


「そうだったっけ? で、クイーンも、ここでやっぱり魔生機甲設計者レムロイドビルダーになったの?」


「えっ? ええ。そらまあ……」


「じゃあ、もしかして大会も参加?」


「ええ……」


「おお。それなら因縁の対決だね。まあ、またボクが1位で、クイーンは3位だろうけどね」


「なんでや! そやから、2位……ちゃう! 今度こそ、うちが勝って見せます! そんために大会、来とるんやで!」


「おお。よし、勝負だ!」


「望むトコや!」


「じゃあ、また試合のあとで!」


「ええ!」


 すっと、ワンピースの裾をひるがえしながら、クエは踵を返す。

 そして、数歩踏み出してから、くるっとまた踵を返す。


「ちゃーう! ちゃうやろ! それ!」


 そして地面を踏みしめるように、世代セダイに迫る。


「あんたはん、他にしゃべることがおすでっしゃろ!? うちら、2人きりで、別世界に来とるんよ!」


「え? ああ。まあ、別にいいんじゃない? ロボットがあるし」


「ようあらしまへん! ロボット、ロボット、言うても、そもそも、こん世界は、トラン――」


「――クイーン!」


 今まで適当に話していた世代セダイが、突如豹変したような大声を出した。

 2人の会話を呆然と聞いていた双葉たちも、初めて聞く世代セダイの声色に身をビクッと震わせた。


「か、堪忍しとくれやす。つい……」


「……ううん。こっちこそごめん」


 世代セダイはいつものノホホンとした雰囲気に戻る。

 だが、あたりには緊張感が残ってしまう。


「クイーン・クエ。2人でちょっと話させてもらっていい?」


「も、もちろんですえ……」


 世代セダイが立ち上がると、双葉たちが心配そうに見上げた。

 すると世代セダイにしては珍しく、彼女たちに微笑を見せる。


「ごめん。昔の友達なんだ。ちょっと話してくるから、待っててくれる?」


 不安そうに見送る3人をよそに、世代セダイはクエとともにその場を去って行った。

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