Act.0019:あたしの体、好きにしていいよ!

「すまん、世代セダイ。……どうもしっくりこないのだ」


 降りてきたいちずは、非常に申し訳なさそうに俯いていた。

 彼女が着ているのは、いつものパイロットスーツだ。

 紺地に、魔法動力線と呼ばれる光る青い経路が五体のあちこちに線を描いている。

 そのスーツをまとった両肩は、がっくりと落ちていた。


「しっくりこない?」


「ああ……」


 そう返事をしながら、いちずは首元のチャックをおろした。

 バランスのよいバストの谷間に、汗の滴が見える。

 そこに入った風で人心地ついたのか、深呼吸をしてから世代セダイに説明し始める。


「たとえば、コックピット。あのフローティングゴーグルというのもどうにもあわないし、跨ぐタイプの椅子もしっくりしない。それにコントロール系も、しっくりこない。もっと思念コントロールで十分だ。いや、そんな細かいことは慣れればいいのかもしれないが、このカットゥの戦闘スタイルというか、コンセプトが今ひとつ私に合わない気がするのだ」


「地上戦用高機動型。防御では高機動でも避けにくい、光学兵器、魔法攻撃の耐性有り。一撃離脱の戦闘スタイル。レベルが上がれば、フェードアウト機能で隠密性能アップする計画だけど……だめ?」


「……すまん。私自身も自分の戦闘スタイルをあらためて考えると、よくわからないのだが、どうしても違う感じがしてしまうのだ」


「まあ、ロボット……じゃなく、魔生機甲レムロイドとの相性というのもあるからね。違う出会いを求めるのもいいかもしれないし」


(出会い……)


 その世代セダイの何気ない言葉が、双葉の中の扉を叩く。


「お願いがあるの!」


 双葉は、まるでそのノックを待っていたかのように気持ちを紡ぎ出す。


「私、あの子のことが気になるの。あの子……カットゥに乗らせて! レベルは足りてないけど……お願い!」


 あまりの迫力に、いちずが怯む。


 それは驚くだろうと、双葉自身も思った。

 これほど真剣に、彼女はいちずへお願いごとをしたことはなかった。

 それどころか、あまり「真剣さ」を人前にだしことさえない。

 自分の「真剣さ」を表にだすのは、なんとなく恥ずかしいと思っていたのだ。

 だから、いつもどこかポーズを作っていた双葉だった。

 だが、今はもうそれさえも作る余裕がない。

 彼女の頭の中は、目の前の美しい魔生機甲レムロイドのことでいっぱいだったのだ。


「い、いや、まあ、別に乗るぐらいかまわんぞ」


「ありがとう!」


   ◆


 双葉は、カットゥから降りた時、魔生機甲設計書ビルモアを抱きかかえるようにギュッとしていた。

 まだ、足が地に着かないような気分だった。

 夢のような体験だった。


 コックピットに座った瞬間からだ。

 これは自分のために在るのではないかと感じてしまった。

 動き回るため、跨ぐようにして膝で挟む椅子のサイズはピッタリだった。

 フローティングゴーグルという頭上半分を包むようなモニター画面も、いちずは合わないと言っていたが、双葉には非常に使いやすかった。


 そして、なんと言っても、操作系が双葉にはベストマッチだった。

 基本的な姿勢等の制御は、魔力による思念コントロールで行う。

 しかし、ホバーと呼ばれていた風自動魔法を使う移動のコントロール、武器のコントロールなどは、レバーやスイッチを使ったマニュアルコントロールだったのだ。


 もちろん、最初は慣れずに上手に操作できなかったし、今でもうまくできてるとは言いがたい。

 しかし、マニュアルコントロールは、魔力による思念コントロールと違い、訓練次第で上達するようになるのだ。

 実際、しばらく乗っていた双葉は、レベル15頭打ちと言われていたのにもかかわらず、レベル25のカットゥを普通に操作するぐらいはできるようになっていた。

 すべてを思念コントロールにせず、部分的に切りはなすことでコントロールが安定したのだ。


(これだ……これがあたしが求めていた魔生機甲レムロイド!)


 デザインから機能まで、双葉にはこれしかないと思えた。

 まさに運命の出会いだったのだ。

 もう、ほんの少しでも手放したくない。


「お願い! これ、あたしに売ってちょうだい!」


「……えっ!?」


 双葉が真摯な双眸を向けると、いちずがまた驚いた顔を見せる。


「お、落ちつけ、双葉。お前は、自分の魔生機甲レムロイドを持っているだろう」


「あれは売る! というか、あたしの全財産を売って、これを買う資金にする!」


「……本気か?」


「もち! これが買えるなら、他に何もいらない! いくらなら売ってくれるの!? 絶対にあたし、お金を用意するわ!」


「落ちつけって。……まったく。いつも飄々としているお前が、こんなに熱くなるところは初めて見たぞ」


「だ、だって……あたし、この魔生機甲レムロイドに運命、感じたんだもん」


「運命って……。まあ、お前から利益をもらったりするつもりはないから、魔生機甲設計書ビルモアと素材の代金は、だいたい原価8000万ぐらいか」


「8000万……私の魔生機甲レムロイドを売って、あと大会の賞金とか貯金を叩いて……パパに相談して……」


「いや、まあ原価はそれでいいとしてもだ。これは、世代セダイがデザインした魔生機甲レムロイドだ。そのデザイン代は、世代セダイが受けとるべきだ」


「……え? ボク? いや、値段なんてわからんし、いちずさんが勝手につけてよ」


「無茶を言うな。友人に売るのに私に値段などつけられん。だいたい、競売にだせば、デザイン分だけで下手すれば数億という値段がつくかもしれぬものだぞ」


「……でも、競売みたいな誰が買うのかわからないのには売りたくないな。それなら、安くても気に入った人に買ってもらいたい。まあ、金がないならデザイン代はタダでも……」


「ダメだよ!」


 つい双葉は、拒否してしまう。

 資金がないのだから、ありがたい話なのだが、彼女はどうしても許せなかった。


「ダメ! カットゥはものすごく価値ある物なんだから、それなりの値段があるべきだよ!」


「おっ、おう……」


 双葉の勢いで、世代セダイまでもが怯んだ。

 自分でもどうしてここまでムキになっているのかわからなかったが、双葉はカットゥを手に入れるのに値切るような真似をしたくなかった。

 本当に惚れてしまったのだ。

 この惚れた相手の値打ちを下げるなどとんでもない。


「……とは言え、確かにお金はないのよね。自分の物すべて売っちゃうし、あとはこの身ぐらいだし……」


「この身……。そう言えば、双葉は結婚を申し込まれたりしてるの?」


「ん? ……もちよ。あたしだって、いちずほどじゃないけどモテるんだから」


「へぇ……。じゃあやっぱり、結納に魔生機甲設計書ビルモアとかでてきたりするの?」


「うん。パイロットとか魔生機甲設計者レムロイドビルダーとかだと、けっこうある話だから。あたしも魔生機甲設計書ビルモア4冊結納するからとか言われたことあるよ」


「4冊!」


「――!?」


 世代セダイはニヤリと笑い、いちずはあからさまにショックを受ける。


「4冊……いいね。なら、デザイン代は双葉の体でいいよ」


「――えっ! あ、あたしの体……って……つまり……」


 双葉は、真っ赤になって俯いてしまう。

 その様子に、いちずが怒髪天を見せる。


「おいっ、世代セダイ! いい加減にしないか! 女性を物に換算して見るなど、男として――」


「――わかった!」


 だが、そのいちずの怒声を双葉が遮る。


「あたしの体、カットゥのデザイン代として世代セダイにあげる! あたしの体、好きにしていいよ! それで、デザイン代にしてくれるのね!?」


 いちずは、小脇に魔生機甲設計書ビルモアを抱え、もうひとつの片手で自慢のバストに手を当てて世代セダイにアピールする。


「は、早まるな、双葉! 何を言っているのかわかっているのか!?」


「もち! あたしのことは、嫁にでも、奴隷にでも、おもちゃにでも、世代セダイが好きにしてくれればいい! その代わり、カットゥをあたしにちょうだい!」


「その心意気や良し。商談成立!」


「こ、こら! 成立じゃない! 世代セダイ!! 双葉!!!」


 いちずが怒鳴るが、肝心の双葉が引き下がらなかった。

 けっきょく商談は、そのまま成立してしまったのである。

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