英雄とダズ


..1




 異世界転生六日目

 僕は軽く深呼吸をすると、覚悟を決める。

 そして目の前のドアを軽く二回ノックした。

「えっと、ロナさん?」

 僕の声に反応して、中で人の気配。

 室内に居る人物の緩慢な動きを、ドアを隔てながらもなんとなく感じる。

「ルカなの?」

 返事があった。

「はいルカです、おはようございます」

 妙に緊張してしまった僕は、ドア越しだというのに深々とお辞儀をしてしまう。

「……ごめんルカ。私、今日も体調悪くて」

 ダンジョンには潜れない、本当にごめんなさい。

 少女の声は小さく、オーク材のドアを通すのもやっとだ。

 弱っている。

 今、彼女は精神的にとても弱っている。

 二日前にアウトキャストの二人に絡まれてから、彼女はずっとこんな感じだ。

 自室に引き籠り、偶に人目を避けるように外出しては最低限の食料だけを買う。

 僕以外のギルドメンバーとは、会話さえ成立していないらしい。

 ――これが、引き籠りか。

「いえ、ご心配なさらず、お体を大事にしてください」

「ごめんねルカ、ごめん。私……最低だよね」

 うっ。

 そんな事まで。

「そんな事言わないでください、僕はぜんぜん構いませんから」

 彼女からの返事は無い。

 僕は思わず苦虫を噛み潰したように、表情を引きつらせる。

 これは難儀だな……

 もしロナが僕の命の恩人でも、散々お世話になった師匠筋の人でも、その血脈故に過度な期待をされてる不運な女性でもなければ。

 僕は普通に「うわ、めんどくさい人だ」と漏らしていたかもしれない。

 漏らしていた自信がある。

「ルカ……」

「はい、なんですか」

「お願い、私に優しくしないで」

 うっ。

 めんどくさい人だ。

 これ以上話しかけるのは得策じゃないな。

 そんな賢明な判断を下すと、そそくさとドアの前を離れる。

 ――もちろん、僕だってロナの事が心配じゃない訳ではない。

 彼女の精神状態がどうしようも無くて、誰かが助けてあげないと不味い、っていうのも分かってる。

 でも今の僕にはそんな能力も、余裕も、知識も無い。

 僕は結局子供に過ぎなくて、力の無いモブキャラに過ぎないから。

 もっと

 もっと僕に

 力があれば――

 僕に力があれば。

 ブラザーフッドも、彼女も、全部救えるのでは。

 

「今日はソロでダンジョンに潜ろう」

 

 居住区の廊下を小走りで駆け抜けながら、僕はそんな決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――が、しかし。

「やっぱソロは無理だわこれ」

 僕のその決意は、ダンジョンに入って僅か二時間で風前の灯となっていた。

 眼の前には、両腕を切断されたロバークラブが無様にひっくり返り、わしゃわしゃと最期の抵抗を示している。

 この敵は、本日四体目の敵。

 一応レベル0~1の格下ばかり狙ってはみたものの、ソロでのレベル上げは想像以上に難航した。

 まずそもそも敵を見つけ出せない。

 ロナはどうやら探索系のアビリティを持っていたようだ。

 僕一人じゃあ適正レベルの敵(それも群れていなくて、戦いやすい場所に居て、さらに此方に気づいていない)を探し出すのにはびっくりするほど時間がかかった。

 それと「強めの敵の処理」ができないのが辛い。

 例えば今までなら、通りたい通路をちょっと強めのモンスターが塞いでいても、ロナがビッと一瞬で始末してくれたのだが……

「……やっぱり、パーティは必須だな」

 僕はぼやきながらスパタを振りおろし、蟹に止めを刺す。

 と次の瞬間、僕の全身に奇妙な光り輝く紋章が一瞬浮かびあがった。

 橙色の温かみのある閃光、そしてどこかあの「神様」を思い出させる模様、それが一瞬だけ全身を駆け巡る。

 

 【レベルアップ】

 

 そんな表示が視界の隅に映り込んだ。

「お、上がったか」

 久しぶりだな。

 最後に上がったのは……考えないでおこう。

 とりあえず久々に自分のステータスを開いてみる。

 

――――


【名前:ルカ・未入力

 HP:37/82 MP:34/65

 ジョブ:魔剣士

 レベル3

 筋力:4 技量:5 知覚:6 持久:2 敏捷:5 魔力:9 精神:6 運命:2


 武器スキル

 片手剣(3)

 両手剣(8)


 魔法スキル

 破壊(9)

 神聖(4)

 変性(9)


 アビリティ

 近接適正

 ファストキャスト

 蒼き玉座の担い手


 装備

 鋼鉄のスパタ

 革の鎧】

 

――――



 分かってはいたけど、大して強くなってないね、アビリティも増えてないし。

 相変わらず弱いまんまだ。

 ギルドメンバーは皆さんの基礎ステータスはどれも10~20はあるし、得意なスキルは20~30はある。

 それに比べて僕の弱いことよ。

 レベルが三倍も四倍も違うのだから仕方ないと言えば仕方ないのだろうが。

 こんなんでやっていけるのか、そんな湧き立つ失望感に僕は頭を抱える。

 すると、ぬるっと妙な感覚があった。

「あれ」

 見ると、右手の甲がざっくりと斬れ、そこからどくどくと血が流れ出ていた。

 傷を認識する事で、遅れて痛みがやってくる。

「痛てて、蟹に斬られたか」

 結構深い傷だ。

 僕は左手で腰の道具袋をがさがさと漁り、一つの革の巾着袋を取り出した。

 中には宝石を砕いたかのように、きらきらと光る粒子が大量に入っている。

 【ゼンギアの回復薬(劣悪) 重量:1 中毒性:1】

 ダンジョンに潜る前、オークションハウスの薬剤店で買った物だ。

 ロナというヒーラー役がいない今回、少しでも助けになればと。

 劣悪、という注釈がかなり気がかりだったが、僕の手持ちのお金で余裕をもって買える回復薬は、これしかなかった。

 ……というか、回復薬の類全般がめっちゃ高い。

 カッコイイ名前の付いた武器よりも、回復薬(中)とかの方が断然高いって、変な世界設定だなと。

「この劣悪な回復薬だって、銀貨二枚もしたからなぁ。まぁ背に腹はなんとやら……」

 そんな事をぼやきならがも、店員さんに教わった通り、軽く一つまみ取って、傷口に塗ってみる。

 

 ――痛ッ!

 痛い!

 なにこれ滅茶苦茶痛い!


「いだっだだっだだあああああッ!!」

 沁みるとか、ひりひりするとか、そういう次元の痛みじゃない。

 まるで傷口に塩塗れのマイナスドライバーを突っ込まれてグリグリ引き裂かれる様な。

「っぐ、っぐえええ、っぐうううう」

 痛みのあまり、僕はその場に倒れ、転げまわる。

 傷口から少しでもその刺激物を落とそうと、粉を拭おうとするが、余計傷口に深く入ってしまい……

「痛い、痛い、無理無理無理」

 無理、これ本当に無理な奴、無理無理無理。

 激痛に耐えられない僕は、まるで死にかけたミミズの如くのたうち廻る。

 眼には涙が滲み、意味も無く左腕で右手首を鬱血するほどに握りしめる。

「あっ、あっ、あっ、うっ、うっ、うっ、ぐふぅううううう!」

 獣のような叫び声が飛び出る。

 叫んでないとやってられない!

 眼球からは勝手に涙が零れ、脳みそは激痛にパニックを引き起こして機能停止した。

 

 

 

 三十分後。

 革の水筒の中身を右手にぶちまけた事で。

 傷の痛みはどうにかこうにか、意識を正常に保てるレベルに落ち着いてくれた。

「うっ、ぐっ、あぇ、うぅ」

 僕は左手で必死に涙を拭いながら、ダンジョンの回廊に横たわっている。

 敵に襲われる可能性だとか、そんな事考えてる余裕もない。

 すっかり憔悴しきった膏汗でびちゃびちゃの新人冒険者は、もはや立ち上がる気力さえ残ってなかった。

「ふ、ふ、ふざけんな」

 なんだあの痛みは。

 痛みって次元じゃなかったぞ。

 今だって滅茶苦茶痛い、まるで右手を塩酸の中に突っ込んだかのような……

 そこで僕はようやく気付く。

「うわ、傷治ってる」

 右手の甲にざっくりと刻まれていた傷は、蚯蚓腫れのような痛々しい跡こそ残ってはいたが、ほぼ完全に修復されていた。

 でも、まだ痛い。

「これは、ちょっと無理過ぎだよ」

 こんな回復薬、使えるわけないじゃん。



 

 

 さらに三十分後。

 どうにか痛みは引いてくれて、僕の気力もそこそこ回復した。

 なのでとりあえず立ち上がって、一つの決意を心に刻む。

「もう二度と、ダンジョンにはソロで挑まない」

 こんなの無理だ。

 自己回復手段が厳しすぎる。

 僕はスパタを杖の様にして、よろよろと歩きだす。

 ソロプレイは困難。

 やはりパーティでの行動が原則。

 レベルを上げたくば、パーティを組まないと。

 どうやって組む?

 ギルドメンバーはみんな軒並みレベル二桁だから、それ以外で探さないと。

 たしか、オークションハウスの掲示板にパーティメンバー募集の紙が貼られていたような。

 とにかく、ロナが何時復活するかわからない今、なんとしてでも。

 なんとしてでも?

 僕はそこで少し冷静になる。

 ――何を言ってるんだ僕は。

 なんで僕は、そんなにレベルを上げたいなんて思ってるんだ。

 別にいいじゃないか、大人しくしていれば。

 無理にダンジョンに潜ったって、こんな風に体をボロボロにするだけだ。

 野良パーティを組んでみる?

 そんなの、失敗するのは火を見るよりも明らかだ。

 それなのに、何で。

 どうして僕は。

「どうして未だに、主人公への憧れを捨てられないのかなぁ」

 自嘲的な笑いが、思わず零れ落ちる。

 僕は呆れていた、見限っていた、失望していた。

 まだ主人公なんて夢を追っている自分に、とことんウンザリしていた。

 いい加減現実を受け入れるべきだといくら言い聞かせても、必死に努力を続ける自分の心をせせら笑っていた。

「ロナを助けたい? ギルドを存続させたい? まだこの世界に来て一週間も経ってない子供が何を言ってるんだよ。身の程を弁えろって」

 ゼノビアの口調を真似て自分を説得させようとする。

 でも、ガッガッとスパタを頼りにした歩みは、より力強さを増すばかりだ。

「……仕方ないよなぁ、あの人達はいい人だもの」

 ロナも、ダズも、ゼノビアも、ギルドの人々たちも、彼らは多分善良な人達だ。

 だからこそ、助けになりたい。

 そんな当たり前の意志は、どう説き伏せようとしたところで、静まるわけもなかった。

「力だ、僕に主人公としての力があれば」

 ぶつぶつと言葉を溢しながら、僕は暗いダンジョンの回廊を歩き続けた。

 

 

 

 

 

 力が欲しい。

 知識も、人脈も、経験も無い今の僕。

 そんな人間が何かを成し遂げるには、きっと「武力による解決」というシンプルな道しかないのでは。

 もし今の僕にラノベの主人公みたいな力があれば。

 単純に十四層攻略で活躍して見事攻略、稟議書をひっくり返せる。

 いや、あのアウトキャストのムカつくやつらをを全員ぶっ倒しても良い。

 そこまで考えて、はた気づく。

「あれ、でもロナってなんでそれをやらないんだろう」

 ゼノビアの言葉が本当ならば、彼女は最強の魔術師のはず。

 だったら、先のどちらも行なう事ができるのでは?

 十四層攻略も、アウトキャスト制圧だって……

「……だから、『抑止力』なんて表現を使ったのか」

 ロナはカードゲームでいう所のジョーカー的なポジションなのだろう。

 彼女がこのまま動かなければブラザーフッドは滅び、もし――

 

 

 『君は『十四層攻略組』から外れてるから』

 『ブラザーフッドと心中するつもりか? 自分で殺すギルドと一緒に自分も殺すってか』

 『それ故、誰もが彼女を求めているが、誰もが彼女を憎んでいる』

 

 

 ――繋がった。

 それまで全く意味が理解できなかった数々の言葉の真意が、すっと汲み取れた。

「ロナに、ブラザーフッドを助ける気はないのか」

 口に出す事で僕はより強く確信する。

 助ける気が無いどころか、むしろ彼女はあのギルドが潰れる事を望んでいる。

 それは多分アウトキャストとは一切関係の無い、彼女自身の意志。

 だから彼女はブラザーフッドからも、アウトキャストからも憎まれている。

 何故そんな事を?

 父親?

 それとも……

「不用心だな、そんな下向いて歩いてんじゃねぇよ」

 不躾な大声が僕の思考を遮った。

 反射的に顔を上げると、前方のダンジョンの壁に、一人の探究者が寄りかかっていた。

「よう、たしか『ルカ』だったか? 今日は一人か」

 燃える様な赤い鬼。

 エリノフ・マクシミリアン

「お、お前は。あの時の」

 先日、襲ってきた二人組の片割れ。

「『お前』? 先輩相手に随分生意気な新人だな」

 殺しちゃうよ?

 重装甲で全身を包んだ悪鬼はそう言って、残虐な笑みを浮かべた。

 






..2




 【名前:エリノフ・マクシミリアン

 HP:124/137 MP:21/21

ジョブ:闘士

レベル:12

 筋力:26 技量:23 知覚:14 持久:21 敏捷:13 魔力:7 精神:8 運命:14


武器スキル

 片手剣(27)

 格闘(21)


魔法スキル

 破壊(11)


アビリティ

 近接適正

 バトルクライ

 レジストフレイム

 ウォーモンガー

 メイルマスタリー

 蛮勇

 不屈の意志

 タクティカルウォッチ


装備

 クファンジャル

 暗鉄の帯鎧

 噛み付きの指輪】

 

 やべぇ

 滅茶苦茶強い。

 魔力以外の能力が押しなべて僕より高い。

 どうする?

 交戦は避けないと……

 僕はジリジリと後退して、彼から少しでも距離を取ろうとする。

「逃げてんじゃねぇよ」

 鬼が歩み寄ってくる。

 クソが、来るなよ!

「何の用ですか、エリノフさん」

 僕は右手をスパタの柄に掛ける。

「用って、お前と話がしたいだけさ」

「話?」

「あの『白濁娘』についてさ」

 下卑た嗤いの混ざった声で、彼はそんな聞きなれない単語を発した。

 ロナ……の事か?

「随分と仲良さそうにしてるじゃないか、えぇルカ君、うらやましい限りだよ」

 エリノフは言いながらもどんどんと距離を詰めようとしてくる。

「俺にはとてもできねぇよ、あんなゴミと仲良くするなんざぁ、とてもできねぇ」

 なんだ、彼は何が目的なんだ。

 僕はその場に足をべったりと付け、腰を落とし、居合切りの様にいつでも抜刀できる体制をとる。

 それでもエリノフは歩みを止めない。

「自分の生まれ育ったギルドが滅びようが、自室に籠って見て見ぬ振りをする下種な女と、仲良くダンジョンに潜るなんて耐えられないぜ」

「来るな!」

 エリノフは悠々と僕の間合いに踏み込む。

 その歩みには一切の躊躇がなく、いかに僕を舐めてるかの現れに思えた。

「リンツの爺はあの女をアウトキャストに向え入れるつもりらしいが、俺はそんな事をすべきじゃ無いと思ってる。あんな癌は死ぬべきだ」

 いいや殺すべきだ。

 いいや自殺するべきだ。

 いいや消え失せるべきだ。

 いいや俺が消してやろう。

 ルカもそう思うだろ?

「お、お前」

 エリノフが僕の直ぐ前に立つ。

 視線が交差する。

 彼の目は、加虐の愉悦に揺らめき、僕に強い負の感情を植えつけようとしていた。

「あんな女とどうして仲良くできる、あんな汚い魔姦の堕とし子と――」

 ――不潔だよお前も。

 大いに不潔だ。

 それとも、そういった事実さえも聞かされてないのか新人君。そう言って僕をせせら笑った。

「何、言ってやがる」

 こいつ、エリノフは今なんて言った。

 マカンの堕とし子?

 魔姦?

 どういう。

 どういう意味だ。

「はぁ気づいてないのか、じゃあまだブチ込んでねぇのか、なんだよ知りたかったんだよなぁ」

 魔物の孕み子に付いてる穴は、魔物向けでガバガバなのか、あんたなら知ってるかと思ったんだけどなぁ。

「てめぇッ――!」

 頭よりも先に体が動いていた。

 僕は刃を鞘から引き抜き、全力でその鬼を斬りつけた。

 

 ガシャッと鈍い金属音がなる。


「おっと、あぶないあぶない」

 僕の斬撃は彼の左腕の籠手で完全に受け止められていた。

 いや、ただ受け止められただけじゃない。

 刃が引けない、固定されてる。

「死ねクソガキ!」

 怒号と共に、彼の右フックを僕の鳩尾へと叩き込まれた。

 胴体が内側から爆発したかのような、強烈な衝撃が襲い掛かる。

 僕の体は宙に浮かび、そしてそのまま背後の壁に叩きつけられた。

「がっ、うっ、ぐ」

 息ができない。

 全身を貫くような痛み、呼吸ができない。

 だけど、ここで倒れるわけには……

「その首を落として彼女に送りつけてやるよ、二度と部屋から出てこれない様にしてやる」

 鬼の声、そして刃が引き抜かれる音。

 眼球だけをなんとか動かすと、エリノフが背中から武器を引き抜いていた。

 幅広のショートソード、刀身には黄金色の文字が刻まれている。

「ま、『纏え』、『走れ』――付呪:エレキ」

 無理矢理声を絞り出し、刃に電流を走らせる。

「死に晒せッ!」

 エリノフの斬撃が来る。

 荒い怒声とは裏腹に、黄金色の残像が宙に残るような、素早く美しい剣技。

「くッ!」

 金属が噛み合う音。

 スパタとショートソード、二つの刃がぶつかり激しく火花が散る。

「足掻くなよ!」

 エリノフがそのまま力任せに鍔迫り合いへと持ち込む。

 非力な僕はまともに押し返す事が出来ず、そのまま壁に体を押し付けられてしまう。

「ぐっあ!」

 刃に掛かるエリノフの腕力がどんどん強くなる。

 ショートソードの刃を抑えている筈の諸刃のスパタが、徐々に僕の方へと傾く。

 駄目だ、押し返さないと!

「傑作だな、自刃で死ね!」

 スパタの傾きが強くなり、刃が僕の顔に食い込む。

 鋭い痛みが走ったかと思うと、液体が伝うような、生々しい感覚が顔面に走る。

 押し返せない、ならば!

「『貫け』――エレキ!」

 刀身に溜めていた電撃を解き放つ。

 刹那の雷光が、刃からエリノフの眼球目がけて放たれる。

 微量の電撃、ダメージは殆どない。

「うぉあッ」

 しかし、その強烈な光を至近距離でまともに受けた鬼は、怯んだような悲鳴を上げる。

 スパタに掛かっていた重圧が消える。

 行ける!

 この好機を逃すな。

 全力で鍔迫り合いを押し返し、エリノフを突き放す。

 そして――

「オラッ!」

 赤鬼の鎧の隙間、右腕部と胸部の境目に刃を振り下ろす。

 その瞬間、再び宙に黄金色の残像が踊った。

 キンッ、っと甲高い音。

 側面から弾かれた僕の縦切りは、軌道が大きくそれ、相手にはかすりもせずにダンジョンの地面に突き刺さる。

 ヤバい。

 そう思った時、既に僕は鬼に首を掴まれていて――

 天地がひっくり返ったような感覚に襲われる。

 そして次の瞬間、全身が地面に叩きつけられた。

「くそッ!」

「大人しく死ねや、クソガキ」

 馬乗りになったエリノフが、刃を振り上げる。

 首を狙った、止めの一撃を……

 僕は咄嗟に右腕を伸ばし、その斬撃を手の平で受ける。

「げっ、ががあああああ!」

 刃が手の平を貫き、神経を切り裂く痛みが僕を襲う。

 だが斬撃は止められた。

 刃は僕の手を貫いただけで、首には到達しなかった。

「死ねよクソガキッ!」

 エリノフはそのまま全体重を刃に掛け、僕の首に剣先を届かせようとする。

「『破裂しろ』『焦がせ』『殺せ』――エレキッ!」

 僕は滅茶苦茶な叫び声を上げながら詠唱し、ありったけの魔力を、その刃の刺さった右手に注ぎ込む。

 その時……

 

 

 【詠唱成功

 新魔法を習得

  エレキピアサー

 

 詠唱可能条件

 破壊(9)】

 

 

 ……何かが網膜に映った。

 でもそれはあまりに一瞬で、僕はまともに読み取れなかった。

 そして次の瞬間、僕の想定をはるかに超えるエネルギーを持った、紫色の電撃が放たれる。

 まるで質量を持つかの様に太く色濃い雷光。

 それは雷撃と言うよりも、「槍」という表現が確かに相応しかった。


 

 

 

 荒い息遣いが聞こえる。

 苦痛と怒りと興奮に染まった呼吸。

「クッソ、ガキ……てめぇ」

 雷槍に射抜かれた右目を抑え、僕からよろよろと距離を取る赤鬼。

 その手からは、髄鞘と焦げた血の混じった敗血が伝い、ボタボタと流れ出ている。

「目を、やりやがったな、クソが」

 僕は立ち上がり、今ひとたび鬼と対峙する。

「もう片目も吹っ飛ばしてやろうか」

 カラカラに乾いた舌を必死に動かし、どうにかこうにか挑発を吐き出す。

「図に乗るなよ、ガキ!」

 エリノフが牙を向き、床に突き刺さっていた僕のスパタを引き抜く。

 やべぇ、こっちには武器なんて……

 右手には未だ短剣が突き刺さっているが、筋肉の痙攣でさえ激痛を伴う具合で、とても引き抜けない。


【名前:エリノフ・マクシミリアン

 HP:72/137 MP:21/21】

 

【名前:ルカ・未入力

 HP:13/82 MP:3/65】


 無理、絶対無理。

 勝てない、こっから先はワンサイドゲームになるのは目に見えてる。

 ステでも装備劣ってるっていうのに、コレは無理だ。

 勝てる未来が無い。

 どうすれば良いんだよ。

「もうその辺にしたらどうだ」

 いきなり目の前の虚空から声が響いた。

「え?」

 空間に歪みが生じたかと思うと、そこから人間がぬっと出てくる。

 あの時と同じ、先日の図書館の時と――

 だが、歪みから現れた人物が違った。

 黒鱗のリザードマン。

 ダズ・イギトラ

「遅れてすまない。ルカ、大丈夫か」

 空間をかき分け登場したギルドマスター。

 彼は僕に心配の言葉を掛けながらも、エリノフに鋭い視線を向ける。

「ダズッ、てめぇ」

 エリノフの武器の柄を握る手に、ぐっと力が入るのが見て取れた。

「やり過ぎだエリノフ、これは明らかに一線を越えている」

 殺人に手を染めるとは、アウトキャストも堕ちた物だな――ダズは淡々と言葉を並べていく。

 劇的な登場からの静かに相手を威嚇するその姿は、昂ぶっている僕や赤鬼とわかり易く対照的かつ異質で。

 それ故、十二分に場を支配する力を持っていた。

「てめぇがそれを批判するんじゃねぇよ、十八人ものギルドメンバーを殺した、てめぇが言うんじゃねぇ!」

 エリノフが吠える。

 今までになく大声で、力強く、意志を込めた言葉で。

 それでも、そこまで強く我を誇示した慟哭だというのに。

 今の彼に先ほどまでの威勢の良さはまるで感じなかった。

 ――恐れてる、ダズの事を。

「退けエリノフ、今なら見逃してやる」

 エリノフが右目から手を離す。

 白濁した鬼の瞳が、ぎらぎらとした憎悪の光に染まる。

「俺は、もう逃げない!」

 スパタを両手で振り上げ、鬼が走り出す。

 ダズも背中の大剣を抜き、それを迎え撃つ。

 ――それからは、本当に一瞬だった。

 ダズの大剣は、スパタごとエリノフの体を両断した。

 まるでチーズをスライスするかのように。

 彼の体は真っ二つに裂け、ズレ落ちた。

 大量の血が床を濡らす。

 真っ赤な臓物、くすんだ骨、死にかけた人間の悲鳴。

「だあああああ、あああああああああ!」

 まるで壊れた人形の様に、エリノフの上半身は悲鳴を上げる。

 いや、それは真実壊れた「人間」だった。

 体の器官の大半を失い、生命の維持が困難になり、口から溢れ出る血泡でごぼごぼとした嗚咽。

「動くな、今楽にしてやる」

 ダズはそう言うと、彼の頭に大剣を振り下ろした。

 頭蓋骨の砕ける音、一瞬彼の眼球がゴム玩具の様に飛び出た後、灰色の脳漿がまるで花を咲かせるように飛び散った。

 それは――

 それは殺人だった。

 人が、人の命が、人の体が。

 力によってばらばらに切り裂かれた。

「良く見ておけルカ」

 ダズが砕けた頭蓋骨から大剣を引き抜く。

 大剣には大量の髄と、それから何か黒い――

「力とは正義だ」

 その「黒い物」に注視してはいけない。

 僕の本能はそう告げた。

 はっきりと、明確に、それを忌避せよと命令を下した。

 でも、僕はそれに従わなかった。

 目の前で作られた死体に冷静な判断を失っていた僕は、命令に直ちに反応できるだけの判断力が欠如していた。

「そして正義とは、英雄だ」

 

 ――【血線のクリスタル 重量:1】

 

 この世界はゲームの世界だ。

 だから当然、人の命だってゲームなのだ。

 そんな当たり前の事実にやっと気づいた僕は、その場で盛大に嘔吐した。





 

「すまなかった」

 ダンジョン内で簡単な応急処置を終えると、ダズは直ぐに謝罪した。

「そんな、礼を言うのは僕のほうじゃ……」

「いいや謝らせてくれ、今日君が襲われたのは全て俺たちのせいだ」

 許してくれと言って、黒い大トカゲは頭を垂れた。

 ――「俺たち」のせい、か。

 いいや、本当は「俺たち」では無く「ロナ」のせいなんだろう。

 ロナがまた動き始めたから……ブラザーフッドの崩壊を静観すると決意した彼女が。

 自室に引き籠っていたはずの最強の魔術師が。

 再び「ルカ」という存在と共にダンジョンに潜っていたから。

 崩壊が阻止されるのでは、そうエリノフは焦り。

 僕を痛めつけ、彼女を脅迫しようとしたんだ。

「ブラザーフッドは、本当に消えるんですか?」

 そんな質問が勝手に僕の口からこぼれていた。

 ダズの表情が暗澹とした様相に曇る。

「ゼノビアが、そう言ったのか」

「いいえ――」

 小さな嘘をついた。

「――エリノフとパジェです、貴方がギルドの経営に失敗したと彼らは言っていました」

 ダズは腕を組んだ。

「あの二人か……安心しろルカ、それは全て出鱈目だよ」

「稟議書や、十四層攻略の話も、すべて出鱈目なんですか?」

 いいや。

 出鱈目なわけがない。

 真実の筈だ。

「そんな事を知ってどうするルカ、知らない方が良いことだぞ」

 仮にもしギルドが潰れてもルカの身の保障はする、他の探究者ギルドに推薦してやる事もできる。

 彼はそう言って、バツが悪そうに僕から視線を外した。

「僕が聞きたいのはそんな事じゃない、僕はロナを助けたいんだ」

「助ける、か」

 ギルドの長はそう呟いて、視線を僕に戻した。

「似ているな、俺と」

「何?」

「昔の俺とそっくりだよ。君も物語の主人公になりたいんだろ?」

 彼のその言葉に、今度は僕がそっぽを向く。

 なんだか批判されているような気がした。

 お前のその熱意は、真実ロナを救うためでなく、悲劇的なヒロインを助けるヒーロー願望による物じゃないないのか?

 そう言われた気がして、そしてその批判は、ある面に置いては事実だった。

「恥じる必要はないさ、それもまた立派な動機だ」

「ダズさんも物語の主人公に憧れて、ギルドマスターに?」

「まぁ、そんな所だ」

 英雄に憧れて、体を鍛えて、探究者ギルドに入って、悪い物を退治して、弱い人を救い続けた。

 自分なんて物は二の次にして、目の前の不条理を正す事だけに己を捧げた。

「――なんて、自分で言うのは恥ずかしいが、でも実際に俺はそんな存在を目指し続けた」

「正義感の強い人ですね」

 如何にもラノベなキャラだ、僕はそう心の中で毒づいた。

 そんな高尚な思想、僕には絶対に持てない。

 自分よりも他者を優先して守るだなんて、馬鹿げてる。

 できるわけがないんだよ。

「正義感?」

 でもダズはそこで目を細め、さも可笑しそうにクックと笑った。

「違うんですか?」

 僕がそう問うと、意外な回答を彼はした。

「全然違う、そんな物じゃないよ」

「え?」

「俺はただの俗な人間さ。皆から賞賛されたかったんだ、自分の居場所が欲しかっただけさ。自分を曲げなくても自分を押し通せる、そんな憧れの『英雄』になりたかったんだ」

「自分の『居場所』――」

 ――その言葉は、僕の胸に強く響いた。

 ぼくはこの世界に来るとき、正しく同じような事を神様に言った。

 僕の望む世界、僕の本当の居場所。

 彼は。

 ダズは。

 僕と似ている。

「手に入りましたか? その居場所って」

「まだだよ、まだまだ道は遠い」

「まだなんですか、大変ですね」

 十年以上も戦い続け、ギルドマスターという地位に上り詰めて、それでもまだ……

「あぁ大変だよ――」

 僕の思考を払いのけるように、彼は不敵な笑みを浮かべる

「――でも楽しいぞ」

 

 

 

 

 それから暫く休んだ後、僕等は歩き出した。

 依然として全身の怪我は鈍い痛みを訴えるので、僕はダズに肩を貸してもらい、真っ二つになってしまったスパタを杖の様にして歩るいた。

 僕らはダンジョンの出口を目指した。

「ルカ君の言った通り、確かに俺たちブラザーフッドは、今変革の時を迎えようとしてる」

 その間彼は半ば独り言のように、淡々と語っていた。

「それは思わしくない変革で、例え幾ら俺たちが抗おうとも避けれない物かもしれない」

 ブラザーフッドの消失。

 ロナの癒えない心の傷。

 そして、結局何もできないままの僕。

「でもな、努力する事をやめちゃあいけない、未来を変える事を諦めてはいけないんだ」

 自分の目の前にできる事を、一つづつで良いから、処理していくんだ。

「そうすればきっと、神様が見ていてくださるからね」


 







..3





 異世界転生十八日目。

 乱暴なノックを音が部屋に響く。

「入って良いぞ」

 窓際の椅子に腰かけ、ぼんやりと外の市場を眺めていたゼノビアがそう返事をする。

 というか、勝手に返事をされた、ここは僕の部屋だというのに。

「っしゃーす、失礼します」

 気だるげな声を伴って、一人のダークエルフが入ってきた。

 彼女は脇に武器を二つ、大きな剣と小さな短剣を挟んでいる。

「もって来ましたよ、ゼノビアさん」

「あぁ、ご苦労ウルミア、助かるよ」

 この部屋の主である僕の事なんてそっちのけで、彼女達は会話を始める。

 ベッドの上の僕は、目の前の状況を理解する事を早々と諦め、朝食の乳粥を食べることに集中する。

「しかしゼノビアさん、マジであげちゃうんですか」

「まぁね」

 ゼノビアはそう答えるとウルミアから二つの武器を受け取り、それをまじまじと眺めだした。

 僕も粥を啜りながら、なんとなくその武器を見る。

 大きい剣の方はスパタのようだが、以前僕が使っていた物と少しデザインが異なる。

 短剣の方には見覚えが――

 

【エレマイトスパタ D:15 重量:10

 魔力+1 触媒Lv1】

【クファンジャル D:3 重量:1

 魔力+3 精神+3 破壊+2 変性+3 疾駆Lv8 付呪不可】

 

 ――表示されたステータスと名前を見て、僕は思い出す。

 短剣の方はエリノフが使っていた物か。

 二週間程前、僕の右手に突き刺さった武器だ。

 そう認識した途端、あの時の記憶がフラッシュバックして僕は思わず目を瞑った。

 エリノフとの戦闘、怖かった、死ぬかと思った、そしてエリノフの死体。

 ヒキガエルの様に叩き潰された、人の内臓。

 恐怖の渦が僕の脳に湧き上がる。

 僕はただぐっと歯を食いしばって、その禍が収まるのを待つ。

 大丈夫だ、落ち着け僕。

 もう終わったんだ、僕はもう助かったんだ。

 右手には痛々しい傷跡が残っていて、握力はまだ完全には回復しないけど。

 それでも魔法による治療のおかげか、僕は日常生活に支障が出ない程度には治ってる。

 落ち着け、僕。

 もうほぼ完治したじゃないか、今日だってダズが心配するから安静にしてるだけだ。

 ――と、そんな具合で僕は動揺しているが、彼女達は僕に気遣う事無く会話を続けている。

「スパタの方はまだ良いとして、こっちの短剣は勿体ないって絶対に、こんな雑魚魔剣士には使いこなせないから」

 そう言ってダークエルフは僕を指差す。

 かなり不服な様子だ。

「それは君の気にする事じゃない、余計な口出しは不要だ」

 ゼノビアは何時もの厳とした、突っぱねるような言葉を返す。

「はいはい分かりましたよ三幹部様、一般メンバーの私は黙って従いますよ。折角のオフの日にこんな雑用を任されても、黙って牛馬の如く働きますよっと」

 ウルミアは自棄気味に言い放ち、僕に刺々しい一瞥をくれると、そのまま部屋を出て行った。

 再びゼノビアさんと二人きりの状況になる。

 とりあえず食べ終えた乳粥のお椀をサイドテーブルに放ると、僕はここでやっと言葉を発する。

「で、その武器を僕にくれるんですか?」

 僕の言葉に反応して、彼女はこっちを見た。

 それは彼女らしからぬ、自信のない神妙な視線だった。

「短剣は元から君の戦利品だ、私からの贈り物はこっちのスパタだけだ」

 彼女はそう言って剣の鞘を僅かに引き、露出した刀身を僕に見せた。

 よく見ると、刃の表面に不思議な模様が刻まれている。

 それは弱った蓄光塗料の様に、微かな光を放っている。

「この剣には触媒効果がある、魔法との親和性の高い武器だよ」

「なんでそんな武器を僕に? どういう風の吹き回しですか?」

 ちょっとキツい物言いになってしまったが、僕は気にしない事にする。

 ゼノビアさんからは、いつもキツイ言葉を浴びせられてるんだ、今日ぐらい僕の方からぶつけても……

「詫びだよ、エリノフの件のな」

 あれは、私の認識の甘さが招いた物だ。

 彼女はそう言うと、深々と被っていたフードを捲り、頭を下げた。

 ボロボロに痛んだ栗色の長髪が垂れ下がり、それがどことなく寂れた雰囲気を出している。

「すまなかったルカ、私は事態を軽んじ過ぎていたよ」

 まさかエリノフがあそこまで狂っていたとは……

 ゼノビアはそう言うと重々しくため息を吐いた。

「狂ってるって、だからって彼は人を殺すんですか? そんな無秩序な行為が許されるんですか?」

「いいや、本来ならそれは重罪だ、最低でもギルドからの抹消、最悪所属ギルドへのペナルティと死刑って所か」

 まぁ、それも「本来」ならの話だが。

 ゼノビアはそんな意味深な言葉を付け加える。

「本来ならって、今回は適用されないんですか?」

「何を言ってるんだルカ、君は覚えてないのか?」

「え?」

「先に抜刀したのは君の方じゃないか」

 あ!

 

 ――ああ!!

 

 うっ。

 そういえば……

 僕は彼の挑発に乗って……

「私が『視ていて』良かったなルカ、『映像』が残って無ければ、今頃連盟の審議場に召喚されただろう」

 マジかよ。

 え、あの状況ってそういう。

 僕はまんまと敵の罠にかかって。

 それでゼノビアさんの追跡魔法のお蔭で死刑を免れて。というか追跡魔法のお蔭でダズさんが駆けつける事が出来て。

「あ、あっと、えっと、その、ゼノビアさん僕は――」

 彼女は下げていた顔をそっと上げると、口元に微かな微笑みを浮かべる。

「まぁ気にするなルカ。君の振る舞いに落ち度があったしても、被害者である事には変わりはない」

 とにかく、今回の事件は無かった事にした。

 エリノフはロナを侮辱して、ブラザーフッドの新入りを貶めようとなんてしてないし。

 ダズはその大剣で、エリノフの頭蓋骨をかち割ったりなんてしてない。

 エリノフは不幸な事故で死んだ、それだけの話。

 そういう痛み分けで一応決着がついてる。

「そ、それって、その決着って」

「ギルド連盟の決定だ、絶対に覆らない」

 覆す理由も無い。

 そうキッパリと言い切ると、ゼノビアはずっと手に持っていた剣を、ずいっと僕に差し出した。

「これをあげるから、君も全て忘れなさい」

 新しいスパタと、エリノフの短剣。

 僕は手を伸ばすと、武器を差し出すその手を押し返す。

「いりません」

「は? 受け取れよ」

 彼女がぐっと僕の胸ぐらを掴んだ。

 うわっ、怖っ!

「ルカ、これはお前の為を思って言ってるんだ、逆らうな」

「ぼ、僕の為って……」

「真実は忘れろ。エリノフの醜態が外に漏れればみんな不幸になる」

「わ、忘れます。僕はそれに文句があるわけじゃ、ありません」

 胸を掴む彼女の力が緩む。

「だったら、君は一体何が――」

「武器なんていらないので、いい加減真実を教えてください」

 ブラザーフッドとアウトキャストの事。

 ロナの過去。

 ダズの過去。

 三年前の第十層で何があったのか。

 いつまで僕を蚊帳の外に置いておくつもりなんだ。

「蚊帳の外…か」

 ゼノビアはそう呟くと、僕から目を逸らし、自分の胸元を漁り始めた。

「そうやってはぐらかさないで下さい、今日こそは――」

「安心しろ、流石に今日こそは話してやるから」

 彼女は立派なパイプタバコを取り出す。

 材質は象牙のように滑らかな乳白色の石で、一目で高価な物だと分かる。

「それで、君は何が知りたいんだ」

「まずは……ロナと血線術師について」

 緑衣の召喚術師は僕の言葉を聞きながら、上着のポケットから煙草の葉や半紙そしてマッチを取り出して、テーブルの上に並べる。

「血線術ねぇ。まぁ所謂『苛まれし血脈』って物だよ」

 半紙をくるくると丸め、中に葉を一掴みづつ詰めていく。

「苛まれし血脈、ですか」

 その言葉には見覚えがある。

 たしか……ロナの持っていたアビリティの名前だったような。

「彼女の父、グィンハムは妻と交わり娘を生し、娘と交わりロナを生した」

「へ?」

 ……娘と、交わって、ロナを作った?

「あまり一筋縄な人間じゃなかったのさ、グィンハムって英雄は」

「ロナは、その事を」

「当然知ってる。ロナはね、犠牲になり続けてたんだ、血に取り憑かれた父親……」

 そこで不意に言葉を切った。

 そして息を一つ吐くと、マッチを擦る。

「……いやグィンハムだけじゃない、誰もがそれを望んだ。ロナが最強の血をより濃く受け継ぐ事を、彼女が最強の魔術師になる事を、彼女が人間から乖離した存在になる事を」

 誰もが彼女の力を求めていた。

 それでいて、誰もが彼女を憎んでいた。

「憎む?」

「怖いんだよ、過剰な力を持った一人の少女が」

 皆分かっているんだ、少女の人格を否定して、ただの力の器として扱う事の非道さぐらい。

 だから表面上は彼女に、ごく普通の人権を与えている。

 でもそれは「表面上」の話。

 いくら綺麗ごとを並べても、彼女は歪だ。

 過剰な力を持った、情緒の不安定な若者。

「そして彼女、ロナ・ヴァルフリアノ自身も、その現実をよく理解してる」

 パイプに火種を落とすと、左手で軽くそれを煽ぐ。

「どうだ、ルカ」

「え?」

「君に彼女を救えるか?」

 そう言ってパイプを咥え、煙を飲み始めた。

「救うって……」

「救えると思ってるんだろ? だから真実を聞く」

 どうする?

 なにから救う?

 世界から彼女を救う?

 運命から切り離す?

 それを彼女が望んでいるのか?

 お前に彼女を許容しきれるのか?

「僕は、別にそんな大きな事をするつもりじゃ……」

「ふん、ならばいい。童貞染みた幼稚な恋心を拗らせて、無責任な真似をしないのなら」

 口から煙を漏らしながら、彼女は楽しそうに目を細める。

「いや恋なんて、そういうのじゃなくて僕はただ彼女に――」

「一応警告しておくが、彼女には惚れないでおけ。君の為にも、ロナの為にもね」

 ゼノビアは僕の言葉を遮るように、少し語気を強めてそう念を押す。

 いろいろ言い返したいが、上手く言葉が思いつかず、毒ガスの様な不快感が胸に満ちていく。

 僕は、別にそんな単純な感情で動く人間じゃ……

 っていうか、童貞って、ひどい。

「で、他に質問は?」

 ゼノビアは天井目がけて煙を天井に向けて吐き出し、再び奥歯で吸い口を深く咥える。

 僕は気を取り直して、次の質問に移る。

「アウトキャストとブラザーフッドについて、お願いします」

「やっぱりその質問か、まぁさっきのよりは答えやすい」

 彼女の吐き出した煙が、こっちにまで漂い始めた。

 現実世界でのタバコの香りとはだいぶ違う。

 もっと甘くねたつく様な、不思議な香りだ。。

「お願いします」

「さて、どこから話そうか」


 ――三年前、グィンハムが死んだあの日から話を始めようか。

 





 

..4




 ――ロナがそうであるように、彼女の父もまた、用意周到な人間だった。

 自身の死を冷静に予見していたグィンハムは、かなり手の込んだ遺書を残していた。

 だから彼がワイルドキーパーと刺し違えたその後も、全て滞りなく順調に物事は進行していったのよ。

 

 ある一点、次期ギルドマスターの座を除いてはね。

 

 グィンハムは遺書の中でダズを指名していた。

 当時のダズはまだ若造で、三幹部の中でも最も若く経験には乏しかったけれど、ギルドメンバーの多くはグィンハム同様に彼を支持した。

 理由はその「若さ」

 ワイルドキーパーが突破され、より深い階層への挑戦が可能になったからね。

 メンバーの多くが新たなる冒険に夢と希望を抱いていた。

 だからこそ、若き熱情に満ちたダズは適任だったと考えられていたの。

 ある一人を除いて――


「――三幹部の一人、リンツ・ルシャベルトは、最初からその決定に不満を持っていた」

「リンツって……」

「聞き覚えがあるようね。リンツはアウトキャストの現ギルドマスターよ」

 ――あぁ、そういえばエリノフがそんな名前を出していたような。

 僕はうっすらとした記憶を手繰りながら質問を続ける。

「で、なんでリンツには不満が? やっぱり若いから?」

「不満っていうよりも、懸念かな。ブラザーフッドが大きく変わろうとしてる事に、危険を感じていた――」

 彼女はそう言うと、パイプの中の灰を捨てる。

 

 

 

 

 ――それまでのブラザーフッドは、所謂「攻略型」の探究者ギルドではなかった。

 ファルクリースの人々からのちょっとした依頼をこなしたり、ダンジョンとは全然関係のなしに自警団のお手伝いをしたり。

 まぁ、言うならば何でも屋みたいな立ち位置で、他のギルドからは結構バカにされてた。

 でも、リンツはその状況を「良し」と思っていた。

 収入は安定していたし、なによりもファルクリースの市民からとても信頼されていた。

 普通探究者ギルドっていうのは、どうしても市民とは上手くやっていけない物だからね。

 リンツはそんなブラザーフッドを愛していた。

 争い無き時代、冒険無き時代を予見していた彼は、探究者ギルドの新たな形のテストケースとして、当時のブラザーフッドを愛していた――

 

 


「――でもね、そんな理屈っぽい思想を持っていたのはリンツただ一人だけ。大半のギルドメンバーは冒険を夢見る若物だった」

 ルカ、今の君と同じ様にね。

 彼女はそう言うと、パイプの中に新しい葉を詰めていく。

「でも、ダンジョンに冒険を求めていないなんて……」

「ダンジョンも無限じゃない、いずれは『南の魔殿』の様に攻略される。そうなった時、私達はどうなる?」

 全ての階層が踏査され、全ての領域に道が敷かれ、全てのワイルドキーパーが打ち倒されたら?

「……リンツは、そんな遠い未来を危惧して?」

「そうね。ぶっちゃけ、ただのウザいオッサンだったんだよなぁ――」

 

 

 

 

 

 ――でもね、捨てる神が居れば拾う神もいる。

 ファルクリースの豪商達は、リンツの考えを支持した。

 そして豪商達は従来までのやり方を捨てた……つまりクエストの受注数を半分以下にし、低層での狩りを当面しないという方針を打ち出したダズを非難した。

 いや、豪商だけじゃない。

 ファルクリースの市民はみな不満を持っていた。

 ブラザーフッドが、他の探究者ギルドと同様に、ただの攻略狂いなギルドになる事に。

 だから彼らは寄付を募り、探究者ギルド連合に直談判を行い、新しいギルドを設立させた。

 それが、「アウトキャスト」

 リンツ・ルシャベルトをギルドマスターとした、新たな探究者ギルド。

 ブラザーフッドが捨て去った物を、拾い集める為に作られたギルド。

 

 

 

 

「――アウトキャストとブラザーフッド、二つのギルドはちゃんと役割分担ができていた、だから何も問題なんてなかった。ロナからはそう聞いてましたけど」

 僕がそう問うと、彼女がパイプを口から離し、灰色の煙を吐き出す。

「まぁ、最初の内はそうだったかもね」

「最初の内?」

「希望と熱に浮かされていたほんの一時の間だけよ」

 彼女はそう言って、自嘲気味な笑みを浮かべる。

 僕はただじっと黙って、彼女の言葉の続きを待っていた。

「今でも思うんだよ、アイツがちゃんと黙って親父のいう事に従っていれば……ってね」

「アイツとは」

「アドルフ・ルシャベルト、リンツの息子だよ。当時父親と仲違いしていた彼は、アウトキャストを嫌って、ブラザーフッドに留まった」

 それが、まぁ不味かった。

 不味いというか、最悪だった――

 






 ――最悪な事に、その後全ての事態がリンツの危惧した方に向かっていった。

 ブラザーフッドは「攻略」が上手くできなかったんだ。

 第十層以降に出現する強敵、「ソウルフレア族」がとにかく厄介な相手でね。

 攻略組は予想以上の苦戦を強いられる事になった。

 結局のところ、ここ「中央の呪城」は難易度の高いダンジョンで、私達は弱すぎたんだ。

 それだけの話。

 それだけの話に、私達はなかなか気づけなかったのよ。

 いや、気づいていたのだけど、その現実から逃れようとしてしまった。

 その結果、どうしようもない所にまで追い込まれてしまった。

 グィンハムの死から一年の月日が流れても、結局踏査が完了したのだ僅か一層だけ。

 クエストの受注量を意図的に激減させていた私達は、圧倒的な収入不足に悩まされる事になった。

 最初の内はギルド連盟からご祝儀的な特別支援があったけど、直ぐに愛想を尽かされたよ。

「攻略も出来ない、クエストも出来ない情けないギルド」と、ファルクリースの市民は私達をあざ笑った。

 

 

 

 

「――仕方ないよね、先に切り捨てたのは私達の方だったから。市民がブラザーフッドに悪感情を持っていたのは、全くもって当然で正当な事だ」

 ゼノビアはそう気だるげに言うと、窓の外に灰を落とす。

「そんなに、そんな簡単にギルドの運営は破綻してしまったんですか?」

 僕はそう質問せずにはいられなかった。

 まるで積木のお城じゃないか。

 ギルドという組織は、そんな選択ミス一つで、容易に崩れ去ってしまう物だというのか?

「へぇ、多少は頭が回る様だなルカ、ただのおぼっちゃまかと思っていたよ」

 彼女は嫌味な笑みを浮かべながら、楽しそうに身を乗り出す。

「はいはい、どうせ僕は世間知らずですよ。で、質問の答えは?」

「どう説明すればいいかな……確かにルカの言う通り、選択ミスは致命傷ではなかった。ダズがアウトキャストに頭を下げて仕事を斡旋してもらったり、クロマ鉄鋼の鉱脈が十五層に眠ってる事に気づいたギルド連盟が、結構な資金を注入してくれたりしたからな」

 そんな風に辛うじて生きながらえてたブラザーフッド。

 全てが駄目になったのは、二年前の夏。

 第十三層踏査に挑んだ時の話だ――

 

 

 

 

 

 

 

 ――ブラザーフッドのメンバーは皆焦っていた。

 一人残らず気を急いていた。

 せっかく攻略中心のギルドとして新生したにも関わらず、何一つ成果を上げられない。

 それどころか、毎日アウトキャストの連中に頭を下げ、あざ笑う市民達からゴミみたいな依頼を受ける日々。

 連日ギルド連盟からは催促の使者が訪れ、ダズはノイローゼになっていた。

 可哀そうな探究者だよ彼は、せっかく夢に見たギルドマスターに成れたというのに、そこには「栄光」も「武勇伝」も無かった。

「英雄無き時代の英雄」そんな酷い二つ名まで与えられて、慣れないギルド経営に心を折られていた。

 だから、十三層の偵察部隊から「ソウルフレア族の弱点を見つけた」という報告が上がった時。

 ブラザーフッドに歓喜の嵐が巻き起こった――

 

 

 

 

「――弱点、ですか」

「そう、確か『ソウルフレア族には各階層にハイヴマインドが居て、そのハイヴマインドを倒すと、該当階層のソウルフレア属全てが著しく弱体化する』だったっけな。偵察隊はソウルフレアの首を四つを得意気にテーブルの上に並べて、そんな事を話したんだよ」

 ゼノビアはそう言うと右手で四回、何かをテーブルの上に置く仕草をした。

「へぇ、凄い発見じゃないですか」

「凄い発見だよ、これで踏査が一気に進むと皆喜んだ」

 ソウルフレア族さえなんとかなれば踏査の難易度は激減する。

 まぁ、楽勝とまでは言えないけど、少なくとも「困難」では無くなる。

 十五層踏査が現実的になった気がした。

「じゃあダズさん達は、無事ソウルフレアを倒せて、十三層を突破できたんですか?」

「いや、できなかったよ」

 え?

「え?」

 どういう事?

 彼女は僕の問いただす様な視線から目を逸らすと、小さく濃い煙を吐き出した。

「罠だったのさ。ソウルフレアは私達より一枚上手だった――」

 

 

 

 

 ――ハイヴマインドなんて個体は存在しなかった。

 それは私達をおびき出すエサだった。

 奴等が適当に作り上げたハリボテの個体。

 倒したところで弱体化なんてしない。

 罠。

 私達を深い領域におびき寄せて、油断させるための偽の情報。

 二十四人、四パーティで十三層に乗り込んだ私達。

 生き延びたのは、わずか五人。

 

 ダズ・イギトラ

 ケイティ・フィッツロイ

 テト・リウーヴ

 ジェローム・ガスコイン

 そして私


 リンツの息子「アドルフ・ルシャベルト」もまた、十三層に取り残された屍の一つとなった。

 ダズは、リンツの命よりも大切な一人息子を殺してしまった。

 

 

 

 こうして、ブラザーフッドの終わりが始まったってわけよ――





「――どうだルカ、聞いて良かったか?」

 何も言葉を吐き出せない僕に、彼女は嫌味ったらしい声を投げつける。

「だから私は言ったろ、知らない方が良い、知った所でどうしようもない話だって」

 彼女はパイプタバコを片づけながら、言葉を並べる。

「ルカ、君は所詮ただの客人だ。私達の抱える問題なんて……」

 まぁそれも若さだねぇ。茶化すようにそう言うと、ゼノビアは力なくヘラヘラと笑った。

「……貴女は、どう思ってるんですか?」

「は?」

「このままギルドが消えて、それでいいんですか?」

 彼女は薄いため息を吐き出す。

「懐かしい価値観だな。正直な話、もうどうでもいいよ」

 滅びるべきものが滅びる、それだけの話さ。

 私は少し疲れた。

 そしてダズは、私以上に疲れている。

 もう、引導を渡して上げるべきだよ。

「引導って……」

「それともアレか? 君はまだこんなギルドの経営を続けるべきだと?」

 休ませてあげな。

 ロナも、ダズも、そして憎しみに溺れ続けるリンツの爺さんも。

 

 

 ――それで全て解決さ。

 

 

 と、そこで唐突にドアを叩く音が部屋に響いた。

「ルカ、ねぇちょっといいかなぁ?」

 ケイティの舌ったらずな声が聞こえる。

「あ、はい何ですか?」

「ここにゼノビアさん、居ますかぁ?」

 ん?

 ゼノビアが顔を上げ、それに応える。

「あぁ居るぞ、どうした」

「あ、ゼノビアさん。ダズが呼んでるよぅ、十五層攻略の打ち合わせがもうすぐ始まるから」

「判ったよ、直ぐ行くと伝えておいてくれ」

「はぁい」

 ばたばたっと遠ざかって行く足音。

 そしてゼノビアはゆっくりと席から立つと、帰り支度を始めた。

「十五層攻略の打ち合わせ……ですか」

「あぁ」

 そうか、そういえばもう直ぐ来月になるのか。

 十五層踏査への挑戦はもう間もなくで……

「ロナがいれば、十五層踏査は確実に成功するんですか?」

 ゼノビアは僕の方を視ず、むしろ拒絶するように深々とフードを被る。

「できるさ、今や完全なる血線術師として覚醒した彼女がいればね。まぁ絶対に来ないけど」

「どうして来ないんですか?」

「知らないよ」

 ゼノビアはドアノブに手を掛けながら、僕の方を振り返った。

 顔の上半分は布で包まれ、表情の殆どが読み取れない。

 僅かに覗く彼女の口元は、うっすら微笑んでいるようにも見える。

「――最後にもう一つ良い事を教えてやろう、ルカ」

 彼女の声色はもう何時もの物に戻っていた。

 恐縮や、後ろめたさや、誠実さの抜けた。

 いつもの冷たい皮肉に満ちた声。

「なぁルカ、ロナは見舞いに来たか?」

「え?」

「エリノフに刺されたから今まで、一度でもロナは見舞いに来てくれたか?」

 うっ。

 僕は言葉に詰まった。

 そのことは内心かなり気になっていた。

『ロナの為に戦ったら死にかけたんだ、だったら見舞いの一つに来るのが常識だろ』みたいな、流石にそんな子供っぽい事を言うつもりはないけど。

 それでもやっぱり、多分僕が死にかけた事は知ってるはずで、それなのに一度も来てくれないって。

 すっげー気になってた事だったけど、それを気にしてるってちょっと女々しいというか、恩着せがましくて。

「まぁ君が理由を知ってるわけないか、教えてやってもいいぞルカ――」

 ――君が「知りたい」と望むならね。

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