Don't You Remember



「それで朝まで呑まされて、ほんと大変だったんだから」

「そう、それはそれはお疲れさまでした」


 そう言ってぐったりとした表情で、手に持ったカフェラテのカップに息を吹きかける葵を、廉は横目で見ながら同じようにブラックコーヒーを口元に運ぶ。









 元カレにこっぴどく振られたことが、délicatのスタッフに知られた昨日の、その夜。


 朝までコースと言った野宮の言葉はまさしくその言葉通りで、朝日が昇り電車が動き出すその時間まで、彼ら四人は何件も店をはしごしながら、呑みに呑みまくって日頃の鬱憤を爆発させた。


 それこそ始まった当初は、葵の振られた経緯や、今までの二人の関係の話などでしんみり酒を酌み交わしていたけれど、その話に男泣きした梅谷の、怒濤の慰め一気が始まった辺りから、最初のしんみりとしたムードは少しずつ形を変え。

 そこから梅谷の涙に煽られた野宮もまた焼酎ロックの一気飲みを始め、いつもならそんな二人を止めるはずの芦屋まで一緒になって酒を煽ったものだから、三人のテンションは一気に天井知らずに駆け上がり、さらにはそんな三人に絡まれるようにして酒を勧められた葵もまた、一気飲みの嵐の中に飛び込む羽目になってしまい、飲み会の終盤には最早真っ直ぐ立っていられるものが一人もいない、大変な事態となってしまったのだった。




 「うー、だから今日は、身体がだるいー」


 そしてその翌日の昼過ぎ、一体どうやって家に辿り着いたのか、さっぱり記憶にない葵を叩き起こしたのは、ディスプレイに"廉"と表示されたスマートフォンの着信だった。


 「デートしよう」

 起き抜けに聞こえる廉の声に、うーん、と気の乗らない返事を返す葵。

 そんな葵を強引に押し切って待ち合わせの場所を決めた廉は、今から一時間後に集合ね、そう言って葵の返事も聞かずに通話を終える。


 「い、一時間後!」


 唐突に切れた電話を呆然と眺め、そして唐突にハッ!と意識を覚醒させた葵は、ガンガン痛む頭に気がつかない振りをして、バスルームに突進する。

 酒臭い身体を熱いお湯でさっぱりさせ、どたばたと出かける支度を整え、

 そして葵は1時間後ぴったりに、二人が最初に出会った場所である、あの公園に駆け込んできたのだった。







 そして冒頭に戻り、二人は青空の下芝生に座りながら、のんびりと空を見上げている。


 葵の両手には、廉が差し出したカフェラテとサンドイッチが握られており、彼女はそれに嬉しそうにかぶりついている。


「これおいしいね、ありがとう」


 フレッシュトマトとレタス、そして厚く切られたベーコンが挟まれたBLTを掲げて、葵は満足そうに笑う。


 「どういたしまして」


 そう言って返す廉の手にも、同じようにサンドイッチとコーヒーが握られている。



 「10分で囲まれちゃわないために、今日は変装してきたの?」


 周りに誰もいない芝生の上に直接座る葵は、洋服が汚れるかもしれない可能性を、少しも考えていないようだ。


 「そう。サングラスと帽子かぶるだけで、結構雰囲気変わるでしょ」


 最初はベンチに座って食べようと誘った廉に、芝生がいいと言った葵。

 悲しい事を思い出すからかなと、微かに眉を寄せた廉に気づかず、葵は、こんないい日は芝生で座りながら食べた方が絶対美味しいって!そう言い、


 「そうかな?あんまり変わらない気もするけど」

 どんな格好してたって、廉だって、すぐ分かるよ。


 そして芝生の上にそのまま座り込んで、ぐーっと背伸びをしてにかりと笑ったのだった。




 「今日はどこに行こうか?どこか行きたいところはある?」

 「うーん、行きたいところかあ。あるにはあるんだけど、」

 「だけど、何?」


 サンドイッチとコーヒーを飲み終わって、仰向けに芝生の上に寝転がる二人。

 廉は自分の腕を頭の下で組み、葵はカバンを頭の下敷きにして、本格的にくつろいでいる。


 「うーん、私が行きたいところって、あんまりにぎやかな所じゃないんだよね。

  だから一緒に行っても、あんまり面白くないかも」

 「それって、どこ?」

 「美術館」

 「美術館かあ、いいね。じゃあそこにしよう」


 どこか行きたい美術館はある?そう言って葵の方に身体を向ける廉に、じゃあ東京現代美術館がいいな、そう言って葵も同じように芝生の上で向かい合わせになる。


 「よし、じゃあ行こうか」


 そう言って勢い良く起き上がった廉は、寝転ぶ葵に笑って手を差し出す。


 「うん」


 そして葵はその手を取り、勢い良く起き上がったのだった。






   ※   ※   ※






 美術館を隅から隅まで探索し、その後軽く食事をして、これから撮影があるという廉に合わせて少し早い時間に分かれた二人。

 またね、と手を振る廉に、うん、と返して葵はメトロの入り口に吸い込まれてゆく。

 少しも振り返る素振りのない葵の後ろ姿を見送って、廉は路肩に立ってタクシーを止めた。


 タクシーの中、流れてゆく景色をぼんやり眺めながら、廉は頭の中に溢れる葵との記憶を思い返して、微かに唇を綻ばせる。


 信じられないような出会い方をして、すんなりと受け入れられるはずもない自分の願いを叶えてくれると言った葵。

 そのかわりとして頼まれた、ヘアーモデル。

 びっくりするぐらい近い距離まで顔を近づけてきたかと思えば、自分のやりたいように髪を引っ張り回して、スケッチブックに俺の姿を落とし込む、その時の真っ直ぐな瞳。


 マネージャー以外誰も連れてきたことのなかった家に、自分から引っ張り込んで、その結果家の中を消しゴムカスで汚されて。

 欲張ってあれもこれも食べたがる彼女を宥め、種類を絞り込んでやっとのことで頼めたピザ。

 両手にもって子供みたいにピザを頬張るその姿と、笑顔。


 そして今日の芝生に寝転がったり、美術館で隣に立つ廉の事をまるで忘れたみたいに、オブジェに没頭するその姿。

 気に入った何かがあれば、手に持っている小さなデッサン帳に走り書きで書き込む、真剣な表情。

 そして真剣になりすぎて、書きながら歩いていたせいで、階段を踏み外して落っこちそうになった時の、葵のその顔。


 今まで身近に居た人間の誰とも違う、葵という人間。

 彼女はまるでびっくり箱のように次から次へと、いろいろな表情が現れて、俺はそんな姿を見ていて少しも飽きる事が無い。



 ーーーー けれど。



 彼女を今まで知る人間の誰とも違うと、そう思う自分の頭の片隅で、もう一人の自分がささやく声が聞こえる。



 "彼女だって、本当の自分を知ったら、きっと同じ事だ"



 目を閉じて、頭の中に浮かぶその声の持ち主を見る。

 まるで全てを諦めたみたいな顔で、俺に向かってそう言うのは、ーーー 今より少しだけ若い姿をした自分自身だ。



 "もう誰も信じないって決めただろう?"



 その俺が過去の記憶の前に立ち尽くしている。







 「あんな男、金持ちじゃなかったら付き合ってないって」


   「ーー 廉、大好き。貴方だけ」


 「あいつ超金持ちだからさ、貢がせるだけ貢がしちゃおうと思って」


   「ーー ずっと一緒にいようね。」


 「勘違いしてんのはあっちでしょ。誰もあんな男に本気になるはずないじゃん」


   「ーー 信じてよ、廉。私には貴方だけなの」



 大学内のカフェテリアで漏れ聞いた彼女の嗤い声と、

 駅のロータリーで、俺に縋り付きながら泣きつく彼女の顔。



 「大体あんなダサい男なんか、誰も好きになるわけないじゃん」


   「ーー廉、何で?私が何かした?、どうして急に別れるなんて、」


 「煩く言わないし、金払いはいいしで、使い勝手も最高だしね」


   「ーー 別れたくないよ、廉。だって、好きなんだもん、別れたくない!!」



 彼女の事を好きだと思っていた。そして彼女もまた、同じ気持ちで居てくれていると信じていた。

 なのに、俺に甘い言葉を囁いたのと同じ口で、俺の事を嘲笑っていた彼女。



 「このままあいつと付き合ってたら、将来は超安泰だしね。

  それに、パパもママもあいつを切るなって煩いんだよねー」

 「そりゃあそうでしょ、だってあの"五十嵐"様だぜ?超玉の輿じゃん!」

 「やっぱりそうだよねぇー!アイツはどうでもいいけど、五十嵐は切れないよねえー!」

 「そうそう。まあ多少不細工でモサいぐらいは、我慢しなってー」

 「えー?でもさー、あいつホント見た目ダサすぎじゃない?隣歩いてても苦痛でしょうがないんだよねー」

 「まあ確かに、それは言えてるけどさー」

 「でしょー?」

 「でもまあ我慢だって!ムカついたらまた何か買わせりゃいいじゃん」

 「それもそっか!じゃあ早速バッグでも買ってもらっちゃおっかなー!!」

 「いいじゃんいいじゃん!そんで一週間で質屋にゴー!なんでしょ?」

 「決まってるでしょー!」



 彼女とその友達たちの声が、耳を塞いだ指の間からすり抜けて流れ込んでくる。

 その声がどろりどろりと足下を覆い尽くし、そして気がつけばまた一人で暗闇の中に立ち尽くしている。




 (ーーー これはただの過去だ、もう過ぎさった、過去の記憶だ)




 出口の無いその闇に独り立つ俺。その俺に無数に絡み付く重たい鎖。

 ジャラと重い音を立てる鎖の先は過去の自分に、そしてそのもっと先は自分を縛る古い家に繋がっている。


 血の繋がりだけを何よりも重く見て、それを絶やすことだけは絶対に良しとしない、古い因習に囚われた家。

 その同じ血を持つ者だけで動かすグループを唯一と思い込み、その他は取るに足らないものだと切り捨てる、一族の者達。


 "五十嵐グループ"

 銀行を始め、生命保険会社や、不動産企業などを手広く扱う、日本でも有数のグループ企業。

 その創業者一族の本家に名を連ねているがための柵と、その恩恵にあやかろうと集まってくる者達との諍い。


 それらは常に俺の側に付かず離れずあって、いつだって煩わしくて逃げ出したかった。

 けれど、それでも俺にとって五十嵐というのは、"他よりもほんの少し有名なもの"という、ただそれぐらいの認識しか無かった。

 なぜなら、五十嵐という名は生まれてからずっと、当たり前のように自分の側にあるものだったから。

 だからそれが"特別"だとは思っていなかったし、ーー あえて思わないようにしていたのかもしれなかった。


 けれど、自分は特別ではないと思っていても、周りはそうは思わず、その為に何度も裏切られては勝手に傷ついてきた。

 小学も中学も、自分と同じような背景の子供達ばかりが集まる学舎に入れられ、その中で似たもの同士がお互いの顔色を探り合って"友達"を作り過ごした。

 そうすると必然的に俺の周りには、俺と同じぐらいの"家柄"の人間が集まり、そこから溢れた奴らには陰で根も葉もないことを言われたり、または足下に犬のようにまとわりつかれて機嫌伺いをされたりする。

 そしてまた友達だと思っていた奴らにも同様に、陰で悪評を流されたり、裏切られたりする。


 ーーー そんな生活には心底うんざりしていた。

 だから大学はそういった家や権力とは関係ないところを、ただ純粋に学力だけがものを言うところを選んだ。

 そして大学に入ってからは、もう自分からは五十嵐との関係はあまり口にせずに、静かに周りにまぎれるように生きていた。

 過去の俺を知る者にも出来るだけ気づかれぬよう、髪を伸ばし、分厚い眼鏡をかけ、息をひそめて暮らしていた。


 ここではもう、俺を五十嵐の者だと知る者は、誰もいない。

 そう安心して、そしてただの普通の男でしか無い俺を好きだと言ってくれた、彼女のその言葉を信じて受け入れた。


 彼女は知らないはずだ。彼女は何の変哲も無い、俺を好きになってくれたんだ。ーー彼女は今での奴らとは違う。


 そう信じて、彼女を受け入れた。


 受け入れた、のに。ーーーー なのに結局裏切られて、このざまだ。



 何時から気づかれていたのかなんてこと、考えるだけでぞっとした。

 もしかしたら最初からだった?

 そう思うと、彼女と過ごした日々の全てが、おぞましく感じられた。

 そしてその一方でまた、

 いやそうじゃない、最初はきっと本当の俺を好きで居てくれたはず。

 どこからか俺の噂を聞き、彼女はただ変わってしまっただけだ。ただそれだけだ。

 そんな風に彼女を信じたがっている自分にも、反吐が出そうだった。




 人通りの多い駅前のロータリーで、足下に縋り付く彼女に、最早何の感慨もわかなかった。

 俺を好きだと言ったのと同じ口で、他の奴らと俺を嘲笑う彼女をこれ以上信じられるはずもない。


 さようなら、とだけ言って振り返らずに立ち去る俺に、彼女は行かないでと泣き叫ぶ。




 ーーー その声だけがいやに耳について三年経った今でもまるで呪縛のように離れない。






 大学を卒業し、しばらく家とスポーツジムを往復するだけの生活をした。

 家族は俺を一刻も早く五十嵐の歯車の一つとして働かせたがったが、そんな彼らを無視してひたすら体を鍛える毎日を送った。

 それと同時にボクシングジムにも通い、実用的な筋肉もつけた。


 五十嵐で働くことは、生まれたときから決められていたことだった。だからそれに対して、強くあらがう気持ちはなかった。

 けれどその一方で、その五十嵐の歯車から抜けて、どこか違うところで自分の身一つで何かをやってみたいという気持ちがあるのもまた事実だった。

 何か別の、五十嵐 廉という自分ではない、ただの廉という人間として、何かをやってみたかった。

 けれどその何かが分からず、だからといって五十嵐に今すぐ入る気も起こらず、ずるずるとその日を先延ばしするように、ただただ日々惰性のようにジムに通って暇を紛らわせていた。


 五十嵐という世界を捨てたら、自分は一体何になるのだろうか。

 そんな事ばかりが頭の中をぐるぐる回っては消え、回っては消えした。



 そしてジムに通うようになって半年後のある日、道のど真ん中で白いシャツとグレーのパンツを爽やかに着こなす男 遊佐 良治と出会った。





 「僕と一緒に世界を目指しませんか?」


 突然そんな風に言って、俺の目の前に立ち、白い名刺を差し出した遊佐。


 「世界?」


 極々普通のサラリーマンのような姿をしたその男が差し出した名刺には、stella モデルエージェンシー 遊佐 良治とだけ書かれている。


 「モデルエージェンシー?」

 「そうです。貴方をモデルとしてスカウトしたいんです」


 その名刺を受け取らず、訝しげな目で見る俺に、遊佐は人が良さそうな顔で笑って、無理矢理俺の手にその名刺を押し付けてくる。


 「こんな俺をスカウトしようだなんて、どうかしてるね」


 大学を卒業してからも伸ばしっぱなしの髪を、後ろで適当にくくっただけの俺。

 眼鏡だって未だにあの分厚いものを使っているため、顔もほとんど見えていない。


 「貴方のその佇まいを見て、目の前に浮かんだんです」


 貴方がミラノのランウェイで歩くその姿が。

 そう言って、顔を近づけ俺の目をのぞき込む遊佐。



 「だから私を信じて、一緒にきて欲しいんです」

 勿論今すぐにとは言いません。その決心がついたら、この番号に電話してください。


 遊佐はシンプルな名刺の裏に書かれた番号を指差して、そしてもう一度俺を真っ直ぐに見る。

 まるで俺の内側まで見通すような、そんな強い視線で、遊佐は俺を射抜く。


 その視線を真っ正面から見返した後、俺は遊佐を振り切って家路についた。


 「僕が貴方を"本物のモデル"にします」


 去り際の俺の背を、遊佐の声がそう追いかる。




 「貴方は世界を見てみたくはありませんか?」


 僕なら貴方と一緒にそれを見に行く事ができますよ。







 五十嵐というバックボーンを捨てて、自分の身一つで何かを成し遂げたかった。

 もしかしたら遊佐という男もまた、自分を食い物にしようとしてるだけかもしれない。そんな風にも思ったが、けれどその差し出された手をつかんでみたいと思った、その自分の気持ちを信じることにした。


 五十嵐 廉ではない、ただの廉が、もしも本物のモデルになれるのならば。

 ーー そして本物の何かになりたいと思うのならば。


 ならばその手を逃してはならないと、そう思った自分を信じる事にした。



 三日後、遊佐のケータイに電話をかけて、俺はモデルになることを伝えた。

 遊佐には最初に俺が五十嵐の人間であるということを伝え、そしてさらにモデルをやる条件としてその五十嵐の名を一切表に出さないということを確約させた。


 遊佐はその条件に迷う素振りも無く、分かりました、と頷いて、そして契約書にサインを求めた。


 「ではモデルネームはどうしますか?」


 サインをする俺を見ながら、遊佐が楽しそうな声音でそう問いかける。

 本名を使うわけにはいかないんでしょう?そう言った遊佐に、




 「柏原、ーーーー 柏原 廉にします」





 そう挑むように返して、書き終えた契約書を差し出す。




 「何でまた、柏原なんです?」

 「特に深い意味は無いですけど」

 「じゃあその柏原はどこから出てきたんです?」

 「俺の隣の家の名前が、柏原なので、そこから取っただけです」

 「隣の、家」

 「だめでしたか?」

 「いや、いいと思いますよ。では柏原 廉でいきましょう」



 これから宜しくお願いします。そう言って右手を差し出す遊佐。

 その手をしっかり同じ右手で握り返して、


 「こちらこそ、宜しくお願いします」


 そう言って、俺のモデルとしての第一歩はスタートした。









    ※    ※    ※







 「あ、遊佐さん、俺彼女できたんで伝えておきますね」


 撮影と撮影の間の待ち時間に、パイプイスに座って次に声がかかるのを待っていた廉は、隣に立って手帳に何かを書き込んでいるマネージャーの遊佐に突然そう声をかける。


 「はい、わかりまし、たって・・・え?」

 「だから、彼女出来ましたって言ったんですよ」

 「彼女?またいつもの、ベッドで遊ぶだけの彼女ですか?」

 「違いますよ。今度は外でも遊ぶ、ちゃんとした彼女です」


 声をかけられた遊佐は、信じられないといった風な表情で廉を見る。


 「・・・・身元は確かなんですか?」

 「身元は・・まあ、大丈夫だと思いますよ」

 「何ですか、その煮えきらない返事は・・・」

 「まあ、まだ付き合ったばっかりなんで。だけど遊佐さんも会う事があると思うので、先に伝えておこうと思って」

 「それは・・・わかりました。ではマスコミの対策も取っておきますね」


 特定の彼女を作らず、いつも何人かの女の間をふらふらと渡り歩いていた廉。

 その廉がたった一人を選んだといって、それを自分に伝えてくるなんて。

 遊佐は手帳に書き込むフリをしながら、自分の足下でイスに座る廉の表情を伺い見る。


 「うん、宜しくお願いします」


 その廉は遊佐に見られているとも知らず、手元のケータイでメールを打っている。

 その顔が何だか何時もの廉の表情と少し違うように見えて、遊佐は軽い気持ちで廉に問いかける。


 「どんな方ですか?」



 惚気の一つでも聞けたら、また面白い事になるな。

 そんな風に軽く構えていた遊佐。



 けれど彼はその問いかけに対する思いもがけない廉の返事を聞いて、早急にマスコミ対策に力を入れようと決めたのだった。




 「うーん、一言で言うと・・・ぶさかわ、かな?」




 「(ぶさかわ…????なんじゃそりゃ!!!)」


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