第8話

「その班はどうやって決めるんですか?」


 クラスリーダー徹君が質問する。初めてこちら側からお姉さんに語りかけた勇者。

 こういうのは眼鏡委員長がするかと思ったが、彼の心は先ほどの「やったー」(小声)の一件で折れてしまったようだ、ポッキリっと。


「それは、私が「ばすっ」と決めます。見る目有りますからね、私。異世界送還成績NO1狙ってますよ。それでは」


 という感じで、次々に5人組が作られていく。

 適当と言う割には、あの女性は的確にグループを分けていた。さすが自分で見る目あるというだけはあるかもしれない。

 いつもクラスで固まっている者同士が自動的にグループになっている。そこらへんを見抜くのが上手いのかもしれない。

 

 え?俺がどうなったって?

 それはこれですよ。


「あん?なんであんたがいるのよ!ちょ、おかしくない?おかしいっしょ」


 こちらを睨み、言葉と同時に威圧感をぶつけてくる女、そう、東堂さんです。

 なんか空気の爆弾飛ばしてきましたよ、今。

 

 それをさっと気合で跳ね返す。

 危ない、危ない!当たったら死んでましたよ、ふぅ~。

 

 それより、そんな質問私目にされても困ります。

 

「加奈。その言い方はよくないよ」

「そうだよ、加奈ちゃん」


 それを庇うイケメン徹君と、俺的NO1萌え少女、河合さん。

 いつ見ても可愛い彼女に萌え萌えずっキュン!

 東堂さんに削られたHPがみるみる回復していきますよ。 


「ごめん、徹とミクっち。でも、完全意味不じゃん、このグループ」


「・・・」

「・・・」


 徹君と河合さんが気まずい表情をして黙る。

 「いや、そこ頑張ってよ。余計あれじゃん」とも思ったけど、


 そう、そうなんですよ。

 そうなんです。

 そうなんですよ。

 

 何故かクラス最上位カーストグループに振り分けられました、ど~も、俺氏です。

 じゃら~ん(←シンバルが鳴る音)。



 って、なんでやねん!


 おかしいよ、絶対におかしいよ。

 俺、もっと仲いい奴とかいたよ。うん、絶対にいた。

 いつも普通にそいつらと話していたよ。あの記憶はいずこへ。


 ふとそいつらを見ると、こちらを意味ありげな目で見ている。

 あれ?なんか変な目で見られている。俺がすり寄ってこのグループに入り込んだような視線。「なんでお前がそこにいるんだよ!平民が。お前はどう見てもこっちだろ」という圧量をビンビンに感じる。そして同時に「お前はもう仲間じゃない」みたいな差別感を受けるのは気のせいか。


 私、何も図っていませんよ。本当ですよ、神に誓って冤罪ですよ。なんなら踏絵だってしますよ、何を踏むかは知らないけど。それより、そっちのグループの方がいいよ、平凡に行きたいよ、マジで。同じ属性の人じゃないと、何話していいか分からないじゃんよ。そういうの本当に困るから。


 そんな俺の葛藤をよそに、横から声が。


「えっと・・・?、よろしく」


 こちらに手を差し出す徹君。

 こやつ、俺の名前覚えていないな。明らかに「・・・」の中に俺の名前入るはずだっただろ。

 くっ、その爽やかスマイルで隠してもバレバレよ。しかしその手をバチンと悪役令嬢のように振り払い、「おーほほほ」っと縦ロールを揺らしながら高笑いし、「私に自己紹介など100万年早いことですよ。道端の石如きの分際で」っと、高そうなセンスで顔を仰ぐことはしない。

 というかそんなハイレベルなことできません。なのでそっと手を握る。


「よろしく」


 その柔らかく大きな手の感触になんともいえない気分になる。

 やばい、自然と人心を掌握されそうになりさっと手を離す。

 危なかった~、危ないよ。

 こやつ、いきなり俺の心をとりにくるとはやりおる。さすが!


「私もよろしくね。田中君」


 天使の声が耳を震わす。河合さん、俺の名前覚えててくれたのか、すっごく嬉しい。その事に感動して涙がでそうになるが、腹の異変を感じる。

 あっ、やば、腹にBL同人誌隠したままだった。ばれないように、腰をひく。

 あれだよ、別に興奮して立ってるわけじゃないよ。興奮してない訳でもないけどね。


「よろしく」


 という感じで、頑張って爽やかな雰囲気を醸し出して挨拶をした。

 だが、俺に手が差し出されることはなかった。


 っち、手を差し出してこないから握手はなしか。くそ~、握手したかったのに。どこでCD買えばいいんですか?どこで河合さんとの握手券売ってるんですか?ギブミー握手チケッツ!


「くっきー、よろ」


 おっ、ちょろいお調子者の埼玉君がさくっと手を振る。

 この中では一番仲が良い間柄だ。


「よっす」


 慣れた感じで適当に返しとく。

 

 残るは一人、俺を憤怒の視線で射抜く東堂さん。

 「そんなに見つめるなよ。乳首立っちゃうだろ!」っとボケをかましそうになったが、河合さんがいるのでそんな下品な事は控えた。


 しょうがないから俺から挨拶する。皆が俺と東堂さんの変な間を気づかっているのが地味に痛い。特に河合さん、変な目で見ないでね、本当に何もないから。


「東堂さん、よろしく」


 爽やか雰囲気イケメン風に挨拶。顔は笑顔、笑顔。

 対人関係で笑顔は大事だよ。ニコッと笑おう。


「きしょ、笑えばなんとかなるとか思ってない?あーし、そういうの嫌いなんだけどぉ」


 東堂さんからお褒めの言葉を頂きました。

 あれですね、私のマイシスターと同じで「きしょ」(略、よろしく、田中君♡)っと受け取っておきましょう。ツンデレなお年頃なんでしょう。


「ははは」

「笑うなっていったしょ、まじきもい、ふぇ~」


 お化け?のように手を震わせる彼女。

 その子供の様な謎のリアクションに、作り笑顔ではなく心の底から笑いそうになったがそれをこらえる。


「加奈」っと宥めるような徹君の声。


「わーってますよ。仲良くでしょ、仲良く。あーしも「り」だから、よろっ!」

「申し訳ない、田中君」


 何故か俺に謝る徹君。いや、あの、別に徹君が謝らなくてもいいのですが・・・

 一応彼女は右手のほんの少し動かして、「よろっ!」ポーズ。

 ていうか「り」ってなんだ。理解したってことだろうか?まぁ、いいか。

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