第7話
「それでね、いつ転生すると思う?」
耳を大げさにこちらに傾ける彼女。
この展開、お姉さんが何を求めているのか分かってしまった。
というかここにいる全員が分かっている思うが、勿論お姉さんの問に答える者は一人としていない。そんな勇者は我がクラスにいない。
でも、待てよ、いくらかこの後の展開があるはず。もしかしたら、「大きくなっちゃった!」っと言って耳が大きくなるかもしれないし、いきなり政治の大切さを説いて泣きだすかもしれない。
お姉さんは答えを待ちきれなかったの、耳を傾けるのをやめて正面を見、俺達を指さす。
僅かに眉を顰め、唇をすぼめて、
「今でしょ!」
きたぁああああああああああああああああああああああ!
苦し紛れの自己突っ込み。
思わず全身鳥肌が立った。俺なら恥ずかしくて死ねるが、お姉さんにそんな羞恥心は一切は見えない鋼鉄のスマイル。きっと鋼の心臓の持ち主なのだろう、若手芸人みたいな感じの彼女を秘かに尊敬した。
そして東堂さん、隣で「うっざ!おばん。まじありえないんですけど~馬鹿なの」っとそこそこ大きな声で呟かないで下さい。
俺はあなたと違ってお姉さんに嫌われたくないんです。もうちょっと遠くで呟くか、聞こえないようにして欲しい。誠に!誠にお願い申し上げる、っと心の中で彼女にお願いしてチラッと見るが、「あん?」っと威嚇されたので目をそらす。
何でもありませんでした!私が間違っていました。お許しを!っと心の中で土下座。
「お姉さん、昔はぶいぶいいわせていたんだよ」
気づくと、お姉さんの謎の自分語りか始まったよ。
なんで?本当になんで?
一部の男子が、エロ話が始まるとでも勘違いしたのか、そわそわしだす。だめだな、内のクラスの男子は。童貞力が高すぎてその波動が場を震わしておるわ。見てるこっちまで恥ずかしくなってくる、まったく。
っと、いきなりその話を打ち切る彼女。
まさに変幻自在のトリックスター。場の雰囲気を自在に操る魔女でウィッチ。
「なんとか・ザ・ウィッチ」って名前でとあるエロゲーにでているのかもしれないなぁ。
よく分からんけど。
「からの~」
どこからか分からないけど、強引に流れをつくりだす彼女。
そのお姉さんの放流に高校生組は押し流される。
「はい、あなた!」
いきなり一人の男子生徒を指さすお姉さん。
「お、俺っちすか?」
「そう、あなた」
運動部系お調子者の埼玉君が指名された。
彼は高校初めの授業、俺の黒歴史自己紹介で「あいたたたたwwwww」っと、某北斗神拳使いのような怪鳥の如き笑い声を出した男だ。「俺よりコメディセンスに優れた者など、このクラスにおらんわ!」っと某兄のように俺を怒らせた。お前は俺を怒らせた。お前は俺を怒らせた。許さんぞよ!
だが、意外に良い奴だったので普通に友達だったりする。
クラス的には奴がNO1の面白ポジションをとっているが、俺は認めていないがな。まだまだ、俺を納得させる腕前ではない青二才よ、ほほほほほ。
「やっべ、まじで。俺っち、どうしよっかな、うぇ~い」
「うぇ~い!そうですよ、あなた。運がいいですね。私に選ばれるとは」
「ほ、本当っすか、超運いいわ~。徹君もそう思うっしょ?」
頭をかき、控えめながらにやつく埼玉君は、クラスの中心人物のイケメン徹君に同意を求めた。
「あぁ、良かったな」
「そうっしょ、そうっしょ、テンションあがってきたぁー。バリあげ」
徹君は、他のもぞもぞ男子と違ってあまりいつもと変わらない態度だ。
それにさりげに埼玉君もだ。女慣れしているとやはりと違うのかもしれない。因みに彼らは、隣でさっきからお姉さんをdisりまくっている東堂さんと仲が良かったりする。そう、何を隠そう彼らがクラスの最上位グループですからね。
「さてさて問題です、あなたたちはこれから異世界転生します。そこで、今からここでは何を、するで、しょう・・・かっ?。当てるとお姉さんがご褒美あげちゃうよ」
「ま、まじっすか?」
昔やっていた、東海地方の子供向けクイズ番組の博士の様に、若干うざい言葉の切り方をするお姉さん。そのモノマネは、「かっ?」っというという部分に力をこめ、まるで疑問系を断定系の様に言うのがポイントなのだが、彼女はそれを普通に疑問系の「?」で言ってしまった。それが彼女の失敗。はい、0点。
だが、そのうざさに微塵を反応することなく明るい声を出す埼玉君。
その声はいやらしさのない爽やか系で、じゃれ合っている様な感覚。その慣れた態度から、彼にはお姉さんでもいるのかもしれない。
「はい、そうですよ」
「それじゃ・・・答えは・・・今すぐ転生する!」
「ぶぶー、違います。でも、お姉さんは優しいからまだチャンスをあげましょう。次の人は~」
っといって、近くの男子生徒を指さした。
その隅で、空気を読んで「あちゃ~」っと言いながらさっと座る埼玉君。
まるでコメディ番組のお笑い芸人の様な自然な動作。その空気を読んだ動作に「ふむふむ」と納得してしまう。
立った男子生徒がもぞって答えを間違える。
正解を当てれば「ご褒美」があるからだろうか、色めき立つ男子生徒たち。指名されたいような、されたくないような葛藤を覚えながら皆そわそわとして指名を待つ。それはまるで、ホストクラブにお金持ちだけど、ちょっとヤバイ女性が来たときの男達の反応。
が、結局正解は出なかった、残念!
勿論俺は指名されなかった。一番遠い場所にいるからね、しょうがない。
それと、隣で東堂さんがすっごい顔でお姉さんを睨んでいるのも影響していると思う。
床をタンタンと足踏みしないでほしい。幸い音が響かない材質の床で助かった。というかこの空間、何でできてるんだ?とにかく白いね、ピッカピッカ。自分の部屋に一枚ぐらいこの部屋の床欲しいわ。
「正解が出ませんので、答えを言っちゃいます。実はですね・・・」
「・・・」
またしてもため。
早く次いって欲しいなと思いつつそれを我慢する。
「今から班決めをします。異世界ではそのグループで行動してもらいますよ。すっごく大事ですからね。やったー!」
最早恒例になった、拳を突き上げるお姉さん。
いつのまにか、一部の男子が繰り替えされるその動作に洗脳されたのか、アイドルコンサートの様に「やったー」っと追従して拳を突き上げている。その姿に俺は引いた。君たち、影響されやすいのね。
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