第6話

目覚めると、そこは真っ白な空間。

 

 なんだここ?頭をふると、周りには同じように動揺しているクラスメイト達。

 皆「ここどこよ?」「どこなの?」「まさか?異世界転生!」といった感じだ。

 最後の奴はアレだな、ネット小説読みすぎだ。


 そっと隣を見ると、そこには東堂さん。

 彼女も首をフリフリしている。そうフリフリだ。その長くしとやかな黒髪が揺れ、甘い香りが漂ってくるその動きまさにフリフリという擬音に相応しい姿。

 こうして見ると、やはり見た目だけはやっぱり良い彼女。口を開かなければ、素直ないい子に見えなくもない。見た目だけだけどね。


 っと、床にとあるカラー冊子が落ちている。

 さっきまで音読していた巨人のBL同人誌だ。反射的にさっと拾い服の中に隠す。

 セーフ、誰にもばれていないはずだ。セーフ、ノーカン、ノーカン。ノーカンだもんね。


 あれ?でもなんで俺が拾ったんだ・・・


 すると、空間を切り裂くようにぱっと一点が歪む。

 何故気づいたかって、真っ白な部屋にいきなり黒い線が入ったからね。それに、聞き覚えがあBGMが流れ出した。そう、そう、これ、ボカロの千本桜だよ。カラオケで俺が歌うやつだ。「せんぼ~んさくら~♪」ってな感じで。私は音痴です。


 そんな千本の桜が散る中、一人の女性が現れる。

 目の錯覚か?彼女の周りの本当にサクラが散っているような気がする。なんらかのトリックだろうか。

 そんな演出よりも女性の姿に目が釘づけ。金髪に碧眼だが、顔立ちは日本人でスタイルは抜群、ハーフタレントの様なお姉さん。そんな女性が露出度が高い天使のような恰好をしている。大きくむき出しになっている足と腕を見ると「おっふ!」っとなり思わず腰を引いてしまう。

 

 あれだな、リアルで天使衣装の美女を見ると、風俗業のお方にしか見えないな、いくらだろうか?高校生のおこずかいで大丈夫だろうか?さっと財布を摩る。

 さすって財布の中身が増えてくれればどんなにいいことか・・・


 その女性が小さな旗をパタパタと振っている。

 それはバスガイドの様な陽気な雰囲気、風俗ではなかったようだ。撤回。

 ちっ、集団風俗転生かと期待したが違ったようだ。


 どうやら、「ノクターンノベル」ではなく、「小説家になろうの方」か・・・ガッカリんこ。

 どうせならあっちの世界に転生したかった、ガッテム。

 なんだかんだいってなろうの方はお上品だから、「いいぞ!もっとやれー!」っと思っても、大体期待の10%ぐらいで終わるからね。


「みなさ~ん。こちらですよ。こちら」


「なんだ?」「誰だ?」「あのおばん何様?」っという声が響く。

 最後の声は隣の東堂さんだ。

 あんな綺麗なお姉さんをナチュラルにおばんとは、その剛毅さに心が震えるぜ!

 三国志で武将になれますよ、あなた。


「集まって下さ~い。今からとっても大事な話をしますよ~。聞き逃すと大変ですよ~」


 まるで幼稚園児に話しかけるような女性。

 優しげな雰囲気で、スタイルが良く美人で微妙にエロい恰好なので、男子生徒がささっと集まる。それを軽蔑の視線を向けながら女子生徒が後追いする。エロは偉大ですな。


 もちろん俺も最前列に並ぼうと思ったが、東堂さんに視線で射抜かれて足が止まる。

俺はビビりなのですよ。「あんた、分かってるでしょうね?いったらやるよ」というのを感じた。怖いわ、女子高生、本当に怖い。こういう人が痴漢の冤罪事件とか起こすんだよ。ほんこわ!電車乗れません。


 とりあえず皆の後ろに並ぶと、ちゃっかり東堂さんも俺の横にいる。

 なんでついてくるんだよ!っとちょっとビビったが、そこしか空いてなかった。

 光を浴びた瞬間に教室から離れていたからだろうか、俺達二人のみちょっと離れた場所にいたのが影響している。その証拠に河合さんも皆から僅かに離れた場所にいた。そんな感じで遅れた者達は後ろなのです。お姉さん高校生に囲まれて大人気。


「いいですか。それでは話しますね。実は皆さん、これから大事な話があるんですよ~。やったー!」

「「「「・・・・・」」」」(←ほぼクラス全員)


 語尾で声を張りあげ、拳を突き上げるお姉さん。 

 異様にテンションが高い彼女と、呆然とした高校生組。

 この真逆の反応に温度差。これはどこかで見た事がある。あれだ、修学旅行で異様にテンションが高い搭乗員さんの人と似ている、似ているぞよ。

 

 お姉さんは俺達の反応に不満だったのか、プクッと頬をかわいらしく膨らまして、「怒ってます!」アピール。20歳を越えているだろうお姉さんのそれ、99%の人がやれば大惨事が、かわいいは正義だった。「あははは」っと照れながら愛想笑いする男子高校生軍団。

 勿論俺も、笑顔でニッコリ。あれですよ、場の空気に合わしたんです。決して籠絡されら訳じゃありません。隣の藤堂さんイラっとして足踏みをする。俺の足を踏みそうになっったのでひやっとした。


「元気ないですね。じゃあ、とっておきのやっちゃいますね」


 お姉さんは高校生達をさっと見回して、僅かに前かがみになり、


「皆さん、お姉さんのここ、空いてますよ!」


 胸元の服を裾をチラッと捲り、大きく膨らんだ胸の谷間を指さすお姉さん。

 微妙に露出しているレースの下着が艶めかしい。

 

 「「「「「おっふ」」」」」」」(「」数は多量)


 男子生徒達が突然腰を引き、集団もぞもぞ。女子生徒は露骨にイラっと。

 バスガイドは撤回、テンション高くて触れにくいキャバ像みたいになっとる!

 慣れていないとドン引きだよ。勿論、僕高校生なので想像だけどね。


 多分、キャバクラではこんなんだよ。

 


【場所:キャバクラ:男女の笑い声と洋楽が響く暗い店内】


――(お姉さん)「元気ないですね。皆さん、お姉さんのここ、空いてますよ!」

     豊満な胸の谷間を指さす担当の嬢。

――(上司)「ははは、さすが紀子ちゃん、掴みバッチリだね。お前(←俺の事です)、うかうかしてると、この子に法人営業負けるぞ。来月からこの子に入社して貰おうかなっと!」 

    上司がキャバ嬢を持ち上げ、ぐいっとジョッキを一気飲み。

――(俺)「さすが先輩一押しの子は違いますね。僕も頑張りマッスル!ハッスル」

    ネタを絡めてよいしょするサラリーマンになった俺。

    俺もジョッキを一気に飲み。アルコール嫌いだけどね、付き合いよ。



 嫌だわ~。嫌、そんな擦れた大人になりたくない。


 っという妄想から戻ってくると、お姉さんはこちらの反応に満足したのか、ニッコリ笑顔。うむ、営業スマイルだと分かっていても、美人(←ここ重要)の笑顔はいいですな。


 お姉さんは大げさに息をため、クラスメイト達を端から端まで見渡す。

 見られた男子生徒がもぞる。それが重なり、サッカーの試合会場のウェーブのようになる。全く、どす汚い波だ。俺は勿論微動だにしません。横で東堂さんに射殺す様な瞳で見られているので、そんな反応できません。人は恐怖に感じると欲情しなくなるのですよ。まぁ、そんな視線がなくても、子供じゃないから微動だにしないけどね。


「な、なんと・・・」

「・・・・」


 やたらためるお姉さん。

 そういうのいいから、早く次いってよと思ったけど、中々進まない。

 

 いつもならこのタイミングで誰かが野次を飛ばすはずだが、野次担当の男子生徒はもぞっている。おい、あいつ、「俺経験あるんだ!」っとかやたら自慢してたのに、真症の童貞反応じゃねぇか。やっぱりあの話は嘘だったようだ。青二才が、まぁ、私は悟ってましたけどね、奴から放たれる童貞の波動を。


「なんと皆さん、これから異世界にいくのですよ。やったー!」


 再び語尾で声を張りあげ、拳を突き上げるお姉さん。

 一番前にいた眼鏡委員長にハイタッチを求める彼女。


 いきなり露出過多なエロ美人お姉さんが近寄ってきたためか、彼は動揺してもぞる。

 というか、なんであの真面目そうな委員長が最前列にいるんだよ。やっぱりむっつりだったのか。いや違う、彼はクラスメイトを守るために最前列にいき体を張ったのだと良い方に解釈しよう。

 だが、くそ~羨ましい、俺もあそこにいきたい。そしてハイタッチするふりしてパイタッチしたい。そんな度胸ないけど。


「やったー」(←消え入る声)


 委員長の声が悲しく響く。クラス会での堂々とした声の片りんは全くない。「おい、どうした!」みたいな目でクラスメイトがドン引きしながら見ると、小さく震える委員長。いと憐れなり、こうも男子高校がエロに弱いとは。

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