第5話

「ちょ、早く見なさいよ。何?ビビってるの?だっさー」


 くっ、いきなり強気に出られた。

 というか、こいつ完全に開き直りやがった。上から目線のその態度は彼女によく似合っている。というか合いすぎだ、いつもの女王様モード。


「べ、べつにビビってない」

「きもっ!何どもってるのよ。それなら早く見れば。見たいんでしょ」


「あぁ。今すぐ見る」

「そいやあんた、ホモなの?」


「違う!全然まったくもって違う」

「ちょ、吠えないでよ。唾、汚いでしょ。あーしにかかってたらマジボッコだから」


「わ、悪い。ごめん」

「大丈夫、あーし優しいから。皆には言わないであげるし」


 あれ?俺ホモだと思われてるの。

 いや、本当に違うよ。俺、童貞だけどストレートだから。潜在的にはホモなのかもしれないけど、したことないから分からないよ。したいわけじゃないけどね。


「ストレートだから」

「うけるwwww。ってか、どうでもいいし。でも、彼女いないんでしょ」(笑)


 ぐぬぬぬぬ。疑問系ではなく断定。しかもその(笑)な失笑は失礼だろうが!

 せめてそこは疑問系にしろよ!男子高校生のセンチメンタル脆弱ハートを考慮しなさい。それに・・・いないよ、悪いか。いない方が多数派だからこっちが正義だ、悪、即刻滅ぶべし。


 東堂さんのそのセリフから、俺=ホモと確信している雰囲気を感じる。

 その理論でいくと、全国の男子高校生の大半はホモだぞ。「やらないか!」の使用率半端ない事になるぞ。ブルーのつなぎが爆売れだよ、わっしょい。


「今はいない」

「くっwwww。「今は」だって。うけるwww」


 この女、すっごいムカつく。俺の用法に問題はなかったはずだ。

 というかさっきから受けすぎだ。この女の笑いの境界線はとんでもなく緩いらしい。

 

 それに、「今は」というのは正しいはずだ。人生というスパンで見れば彼女がいる期間もきっとあるはずだ。それに、「別に、作ろうと思えばすぐに作れるけどね」(キリッ)的な意味などこめていない。知らず知らずの内にこめていたかもしれないけどね。なにを隠そう、私もピュアな男子高校生ですから。


「盛大に笑ってくださりご機嫌麗しゅう次第」

「あん?何言ってんの」


 しまった!つい動揺して言語が怪しくなった。

 それに、何故彼女が微妙にキレ気味何だ。いきなりメンチ切られましたよ僕。


「なんでもない」

「っそ。それより、中見ないの?」


 そういうわれると、見にくい。

 これじゃまるで見ることを強要されているようだ。マゾヒストなら興奮するシチュエーションなのかもしれないが、そんな属性は無い。単純に心がぞわぞわする。こういうのは、恥ずかしがる女の子前で、自分から率先して見るからいいんだと思う。それが逆だと・・・


 東堂さんが上から目線で俺を包み込むように見る。

 完全に自分が上だと確信している表情、目がつり上がり、小さく唇が緩む。

 ゾクッと嫌な予感がする。これは、オタどもを無双する前にする彼女の笑顔。

 オタ達が彼女の一言で一斉に膝をつくのが目に浮かぶ。


「ねぇ、あーしが読み聞かせてあげよっか?」

「はぁ・・え?・・・いっ」


 はぁ!この女、頭大丈夫か?

 予想だにしなかった方向からの攻め?にたじろぐ。


「あーしが読んであげるって言ってんの。何、不満なの?」

「いや、それは・・・その」


 んん?

 不満なのかどうかと聞かれれば、そんな事は無いと思う。

 いや、寧ろ嬉しい提案のような気がする。それが彼女の怪しげな笑顔がなければだが。


「誠にお願いします」

「そっ。それなら、私が兵長役ね、やりぃ~」


 んん?あの、あれ?あれれれ?

 読み聞かせって普通、一方が全ての役をやると思うのですが?違うのでしょうかな。

 よく小さい子供にお母さんがやる、あれではないのですかな。

 私の常識、間違っていますかな?


「んじゃ、さっそく始めるから。あんた、駆逐系役お願いちょ」


 やっぱりそうなんですか。

 うすうす感じていましたよ。

 でも、まぁいいか。あい、分かりました、やりましょうぞ。


「はい。了解でありんす」


 ちょっとハイテンションな私です。


 彼女が同人誌のページをめくると、宿舎にいる二人のシーンだ。

 二人は掃除中なのだろうか、頭に白い布を巻ながら、埃をはたく奴を持っている。

 細い棒の先端についているひらひらのアレですよ、人妻系AVに出てくる小道具ともいえる。18才未満の高校生なので、勿論想像の道具ですが。


「おい、ここ、埃が残ってるぞ」


 東堂さんが声マネをして低い声を出す。

 おっ、そこそこ似てると感心する。家で練習しているのかもしれない。


 同人誌のシーンを見て俺も声を造る。

 あの駆逐系少年の、青年にしては高めの声を出す。


「え?だって、ここ、さっき掃除した時は・・・」

「そんなの知らん。今ここに埃がある、それが全てだ。お仕置きが必要なようだな」


 そのドSな声で心が震える。

 東堂さん上手すぎてヤバイ!さすが日頃から女王様やってる人は違う。

 俺も負けていられない、中流ボッチを舐めてもらってはこまりますわ、心を引き締める。


「そ、そんなぁ・・・」(←絶望的な声)


「ほら、四つん這いに慣れ」

「・・はい」(←悔しそうな声)


 同人誌の中では兵長が駆逐系少年の背中を摩り、さっとお尻を撫でる。

 そのシーンを見て思わず顔を赤くしてしまう。

 そんな俺の表情を見てニタっと同人誌の兵長の様に笑う東堂さん。

 役に入りきっているようだ。それなら俺も本気で答えなければならない。


「うっ」(←感じている声)

「どうした?ただ撫でただけだぞ」


「何でもありません」(←手触りを我慢をしながらも、声を張り上げる)

「そうか、それなら、こっちはどうかな?」


 同人誌の中で、兵長が駆逐系少年の乳首をつまむ。

 東堂さんの謎の迫力のためか、俺はいつもの癖で自分の乳首をさっと摘まんでしまう。


「あっ」(←もっと感じている声)

「おらおら、これぐらいで感じてるようじゃ、巨人はやれんぞ」


「はい!」(←乳首をつままれながら、声を張りあげる)

「もっと声を出せ」


 同人誌の中で、さらに激しく乳首をつままれる駆逐系少年。

 それに合わせても俺も自分の乳首をさらり摘まむ。 


「はぁい!」(←感じて声が震える)

「もっとだ、ほら、もっと声を出せ!」


「んはぁい!」(←唇を噛みしめ、声をはりあげる)

「いい声だ。褒美をやろう」


 その声に心の底から安堵する。

 俺はいつしか、同人誌の中の駆逐系少年とシンクロしていた。

 

「・・・ふぅ~」(←安心した吐息)

「おい、礼の言葉が聞こえなかったが。俺の感違いか」


 ち、違うんです、兵長。

 感謝しています。あまりの感情の揺れ動きで、つい礼儀を忘れてしまったんです。

 さっと、保健室のベッドの上で土下座する。


「ち、違います。ありがとうございます」(←誠心誠意)

「遅いわ!」


 いきなり兵長(東堂さん)に保健室のベッド上で尻を叩かれ、「パチン」っといった音が室内に響く。

 いきなりの物理ダメージに「うおっ」っとなったが、その痛みが気持ちいい。

 もの凄い音がしたが、ちゃんと手加減して力が流れるようにしている事をその手から感じる。女王様の優しさが染み入る。


「うっふ!」(←痛みながらも感じている声)

「いい声で鳴くな」


「あ、ありがとうございます!」(←誠に感謝)


 ここで思った・・・

 俺は一体何をしているんだろうと。

 

 そもそも、足技系女子が表紙後から同人誌に1mmも登場してこないのだが・・・

 どうなっちょるん?


 それに、いつのまにか何かスースーする気がする。

 

 それは保健室の入り口の方向からで・・

 開け放たれたドアから風が吹いている、す~す~と。

 その柔らかな風がベッドを仕切っているカーテンを揺らす。


 その風上、保健室の入り口には・・・


 あれ?誰かいる・・・


 そこには一人の女子生徒の姿。


 その少女は俺と東堂さんを見比べて震えている。

 見てはいけないものを見てしまったその表情。

 中学生の様な幼い顔立ちとツインテールのわりには、そこそこ胸が膨らんでいる。


 見たことがあるその顔だ。

 何を隠そう同じクラス、そう、俺が一番かわいいと思っている女の子、河合未来(かわいみく)さんだ。

 心の中ではミクミクと時々呼んでいることは内緒。絶対死守、墓場まで持っていく秘密。

 その名を読んでいる時の自分の顔はとんでもなくキモいと確信できる。


 河合さんを認識した瞬間、顔の体温が急上昇していくのを感じる。

 顔から火が出そうな程、顔が腫れていくような気がする。


「ミク、違って、バリ違うの!」

 

 声の主、隣の東堂さんは顔が真っ赤だ。俺も同じようになっているだろう。

 その彼女が俺の方を向き「ちょ、あんたも早く、なんかいってよ!」(焦)の視線。分かりますよ、その意味。俺も言おうとしたのよ。


「そうだ。違うんだよ。色々あれだけど、そう、全然違うんだよ!」

「ちょう真っ白誤解ってやつ」


 俺の声にかぶせる東堂さん。

 さっきの同人誌のやりとりのせいか、妙なシンクロ感がある。


 だが、河合さんは何やら理解したのか、ウンウンと頷いている。

 その小さな揺れが怖い。


「ううん、いいの。私、黙ってるから。二人がそういう関係だって、誰にも言わないから。うん」


 最後に決意するように右こぶしを握り締めるプリティ河合さん。


 そうか、黙っていてくれるのか。

 やっぱり河合さんは良い子だ。ひょこひょこ肩が震えている姿も小動物の様に可愛い。制服の上に来ているカーディガンの袖が親指を半分ほど隠している萌袖も、他の女の子ならあざとくてイラっとするが、彼女なら許せる。


「あの、私、行きますね」

「ちょっ、まっ!」

 

 東堂さんの止める声を聞く事無く、走り去っていく彼女。

 ペンギンのようなひょこひぃこ歩きがかわいい。絶対に付き合うなら河合さんがいいなぁ。本当にそう思う。いや待てよ、彼女は遠くで愛でている方が良いのかもしれない。どっちだ?どっちが答えなんだ?


 っと、その時、光に包まれる。

 なんだ?カメラのフラッシュか?


 というか、いつのまにか俺と東堂さん同じベッドの上にいる。

 俺は四つん這いで、東堂さんが俺の尻の所にいる。


 この姿を画像で撮られるのはさすがにまずい!

 まずい、まずいって、本当に。

 

 ネットに上げられて祭りになってアボーンよ。

 「うほっ!」「うらやま乙」「男の方(笑)」とか掲示板にかかれて、嫉妬に駆られた性悪に索敵かけられて学校に通報の嵐よ。


 犯人を見つけ出して口封じをしなければ!早急に!

 いっきにギッチョンよ。

 

 っと思ったが、そんなレベルの光ではなかった。

 俺は光にに包まれていった。

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