第31話 外すなら
「お前が★入れたのか!?」
「だって、入れないと助からないんだろ?」
「死んだらどうする?」
「別にそれはそれで」
こいつはやっぱりちょっと変だ。
竜はゆっくりとこちらに近づいてくる。
体がでかいので、ゆっくりのように見えて一歩が大きいため、速い。
とりあえず対角線上に走る。
柳と坂井は固まっていた。
二人に言う。
「リーダー出して、武器にしてくれ!」
「お前は?」
「……ないんだ」
「はあ?」
「後で説明する。二人の武器があれば勝てるかもしれない」
「わ、わかった……」
二人はカバンからリーダーを出した。
ぬっと竜Pが顔を出す。
体は大きくても、顔の大きさは普通の人間と同じなので、アンバランスだ。
太い首の先に、小さな顔なので、先がすぼまっているように見える。合成写真だと言われたら、滑稽で笑えるかもしれないが、目の前にいると気味が悪いだけだ。
ヒウラタクロウの小さな目が、無気力にこちらを捉えた。
やばい、今までのやつよりだいぶ強そうだ。
どうしたら勝てる……?
さっき見た動画を思い出す。
「かなり強いからおすすめだ」とオオイシが言っていた。
ハーゲンダッツのアイスだ……!
僕はアイスのコーナーの方へ逃げる。
鍵野さん、柳、坂井と他の3人もそれに続く。
「ハーゲンダッツの……何味だっけ?」
「抹茶! 抹茶!」
鍵野さんがせかしながら、リーダーを構える。
僕はそれに、探しだしたハーゲンダッツの抹茶味のバーコードをあてがった。
一瞬光り、鍵野さんの右手がさっきの動画同様、巨大なハーゲンダッツのアイスになった。
グオオ、吠える声が聞こえる。コンビニ全体が震えているようだ。
ヒウラタクロウの表情が、変わっていた。さっきよりさらに速い速度で走ってくる。棚が崩れ、商品が床に散らばる。
プロデューサーは、武器化を見ると気が荒くなるらしい。
「新宅くん、これ、外して!」
自分でフタを開けようとしてうまくいかないらしい。
女の子の物を外すならブラジャーがいいな、とほんの一瞬思ったが、もちろん言わない。
走りながら、巨大ハーゲンダッツのフタを外す。
中には、緑色の塊が渦巻いている。これが、おそらくさっきの吹雪の源なのだろう。
追いかけてくる竜Pに向けて鍵野さんが右手を突き出した。
「うわっ」
緑色の吹雪のようなものが出て、竜Pにぶつかる。動きが止まった。
映画のような世界だ。
さっきの動画では、これでプロデューサーは凍りついていた。
吹雪は、3秒ほどで止まった。
「あ、あれ……?」
竜Pは、ほとんどダメージもないようで、こちらを見ている。
「なんで…」
鍵野さんの右手は、再び光ってもとに戻った。
僕達はまた、竜の対角線の方向に走った。
竜Pの体がでかすぎて、この狭いコンビニの中だけではうまく立ちまわることができない。竜Pは棚を押し倒しながらまた迫ってくる。
「氷の竜がどうしたっていうタイトルの小説だったからな。吹雪には強いんじゃね」
宮澤が、逃げ惑う僕らの集団に合流した。もうすでに右手は武器化させているようだが、走っていて何の武器なのかよくわからない。
「お前、それ、早く言えよ」
なんだかこいつには、本気で怒る気にもならない。
とりあえず、身を守らなくては。
さっきの戦いでは、ノートを読み取ったら盾になってくれた。なら、これも防御系の武器化をしてくれるはず。
本棚の中にあった雑誌を適当に掴み、坂井に渡す。
「これ、読み取ったらええの?」
「そうそう。だから早く、バーコード読んでくれ!」
「えーと……」
と言っている間に竜Pが目前に迫る。
いままで四本足で走っていたのに、急に後ろ足2本だけで立った。
背中が完全に天井についていて、猫背状態だ。
羽根をゆっくりと動かして、その体勢を保っている。
ぐおお、と再び吠えた。
竜Pは右手を振り上げた。
攻撃は手なんだ。
もうこれ、今から逃げても間に合わないだろ。
「ピッ」と、坂井さんのリーダーが雑誌を読み取った音がする。
しかし、もう竜Pの右手は振り下ろしにかかっている。坂井さんの武器化が防御系のものでも、ガードする時間もなさそうだ。
死ぬかもしれない。
僕は両腕で頭をガードした。
その瞬間、目の端で、竜Pに向けて走りだす宮澤の姿が見えた。
おい、危ないぞ、と言おうとしたが、やめた。言っても間に合わないだろうし、そもそもこいつは、宮澤本人が呼んだのだ。自己責任でなんとかしてくれ、という思いもあったかもしれない。
坂井さんの右手が光った。だが、何の武器か確認する余裕はない。
「あれ」
振り下ろされる右手が、止まった。
宮澤が、自分の右手で、竜Pの右手を刺している。
彼の右手は、肌色で、若干の木目があった。
木?
そんなものこのコンビニにあったのか?
「つまようじだ」
宮澤はこちらを見て言った。
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