第30話 超でかい
誰が作ったかは知らないが、よく出来たゲームだ。
計7ジャンル。各ジャンル1人だけが生き残れる。
7人以上で協力すればクリアはしやすいが、仲間の中で生き残れない者が出てきてしまうので、簡単には協力できない。
「僕は生き残らなくていいいけどあなたには元の世界に戻って欲しい」という聖人君子のような人間が集まれば可能かもしれないが、高校生でそこまで悟りきった利他的な考え方を持てる人間はいない。自分の種の繁栄を至上命題としてプログラムされている僕達に、そんな考え方は生物学的に無理なのだ。
オオイシタツルの小説は、最後にこう書いてある。
「全員が助かる方法はある。俺はそれを実行するために動く。ただし、これは皆の努力も必要だ。具体的に言えば、★を90個以上集めて欲しい。100個にするとクリアしてしまうので、クリア直前の数を、明後日までの間に集めて欲しい。俺は別で動いて、明後日までにその方法を準備する。」
全員が助かる具体的な方法は書いていなかった。
「カクヨム」の自分の小説ページを見たところ、僕は「ホラー」、鍵野さんは「SF」、宮澤は「ファンタジー」だった。ちなみに柳は「SF」鍵野さんと同じ。坂井は「恋愛・ラブコメ」だった。
この5人でもすでにジャンル重複が生じている。
柳は言った。
「7人だけが元の世界に戻れると仮定すれば、すでに俺たちでも協力はできない状況ってことだ」
「そうかもしれないが、オオイシが言うように全員が助かる方法があれば、それを実行すればいいんじゃないか?」
「あのバケモノと闘うのか? 絶対に嫌だ」
聞くと、柳はもともと隣のコンビニ(長野県)に閉じ込められていたそうだ。
掲示板で誰かが書いていた情報によると、★を入れることが攻略につながるらしい。危険も伴うということだったが、一人で途方に暮れていた彼は、適当に検索した小説に★を入れた。すると、プロデューサーというバケモノが出てきた。
あまりの恐ろしさに戦う事ができず、逃げてきた先がここのコンビニ(大阪府)だったらしい。
今までほとんど口を開かなかった坂井が喋った。
「1週間、おとなしく過ごせばいいんやろ? じゃあそうしたらええやん」
小さな声だったが、強い気持ちがこもっていた。
「私、あんなんと戦うん嫌や」
そう言ってこちらを見た。「あんなん」とはさきほどの動画の中に出てきたプロデューサーのことを指しているのだろう。確かにあれは迫力があった。小説の内容によって出てくるプロデューサーの姿かたちが変化するとしたら、あれはファンタジー系の小説に★を入れたのかもしれない。
しかし、実際に僕が見たプロデューサーは、もっと気味が悪かった。彼女が「砲台」と呼ばれた首長のプロデューサーを見たら、卒倒するかもしれない。
「わかったよ。とりあえず、オオイシの言うことは無視して、おとなしくしていようか」
隣から勝手に来たのは僕たちの方だ。こっちの人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。それに、プロデューサーを倒していくという方針を出したところで、僕にはバーコードリーダーがない。
つまり、武器がない。
まともに戦えない人間が、「戦おう」と言えないという変な後ろめたさもあった。それに、リーダーのない僕は、もしかするとオオイシの言う「全員助かる方法」にすら乗れない可能性もあるのだ。
「ここ、もう『下』にしか行けないよ」
口を開いたのは鍵野さんだった。
コピー機をいじりながら喋っている。
僕もそのディスプレイを見に行くと、確かにそこには「下」という文字しかなかった。
「すでに多くの人が移動を始めているってことか」
多分これは、移動可能なコンビニが下にしかないという事を指している。
確か僕たちは「右」を押してここに来た。ここから考えると左側だから、これは消える。柳がどっちから来たか知らないが、上か左なのだろう。柳が上だとしたら、左のコンビニの高校生は、こっちではなく、別な方向に移動をしたということになる。
思っていたより、移動はできない。
考えてみれば、「移動すると、元のコンビニは使用不能になる」というシステムでは、例えば半数の高校生が移動した時点で、移動不可能なコンビニが周りに増え、選択肢は狭まってしまう。
さっきの「砲台」から逃げる移動の際も、選択肢は右しかなかった。最初はフジナカの書き込みにより、おとなしく自分のコンビニで過ごしていた人たちも、オオイシの動画を見て、徐々に動きだしているのかもしれない。
もう少し時間が経てば、この下に当たるコンビニの高校生も移動をして、完全に閉じ込められてしまうかもしれない。そうしたら、先ほどのように勝てない相手が出てきた時に、逃げることもできなくなる……。
まあ、誰も★を入れず、おとなしくしていればいいわけなのだが。
「鍵野さん、移動に関しては……」
鍵野さんの方を見て僕は動けなくなった。
鍵野さんの背後に、プロデューサーがいる。
超でかい。
羽根がある、尻尾がある。
体は白っぽいウロコで覆われている。
巨大なトカゲのような体に、長い首。
その首の先には、ヒウラタクロウの顔。
竜? ドラゴン……?
鍵野さんは、僕の様子に気付き、後ろを振り返った。
「あ……!」
彼女も、驚きすぎて、声が出ていなかった。
僕は鍵野さんの手を取って、走る。
「出た! 出たぞ! 『プロデューサー』だ!」
叫んだ。
なぜだ? 何もしていないのになんでこいつが出るんだ?
こちらを見ている宮澤の手には、スマホが握られていた。
こいつか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます