第29話 選挙かよ

「こっちの世界にいる約10000人の高校生には3つの派閥がある」


 柳は言った。

 10000人の前に「約」をつけたのは、何人かがすでに死んだ可能性があるからだろう。


「ひとつは、フジナカ派だ。あんなバケモノと闘う危険を犯さずに、おとなしく待とうという考え方だ。もうひとつがオオイシ派で、1時間前にこの動画がアップされてから急激に増えている。そして最後が、新宅たちのように『エヘン』の存在を知らずに、スマ子の情報だけを頼りにしている派閥だ。まあ、派閥というより、これからどちらの派閥にも動く可能性のある浮動票だな」


 選挙かよ。


 それより、あの動画では、最後に他のメンバーがヒウラタクロウの名札を読み取って回していた。つまり、ひとつの名札が複数の人間に対して★の源として有効であることを示している。

 オオイシのように複数の人間がグループを組み、名札を回せば、1匹のプロデューサーを倒すだけで、グループの人数分の★が増えるということを示す。

 ということは、人数が多ければ多いほどこのゲームは有利ということではないだろうか。


 例えば、あの23人が他の全員に★を1ずつ与えていけば、全員が22の★を獲得できる。さらに、そこで現れる506匹のプロデューサーを23人全員で協力して倒していけば、506個の名札が手に入り、それの名札を回して読み取っていけば一人あたりさらに計528個の★が手に入るということになり、クリア条件の100個を大きく上回る。


 グループ内の★のやり取りだけでクリアではないか。


 柳にそれを伝えると、彼は下を向いて言った


「その通りだ。しかし、奴等はそれをしないと言っている」

「なぜ?」

「この世界の全員を元の世界に戻すためだそうだ」

「なら、オオイシのやり方に乗っかればいいんじゃないか?」

「そんなに簡単にいかないんだ。さっき更新されたオオイシの小説は読んだか?」

「あ、そういえばまだ読んでない」

「読んでみてくれ」


 オオイシタツルの小説、第3話はこのような内容だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る