第25話 こんな時にもアーモンドチョコ

 口から煙を出して、顔が前後にぐらんぐらんと揺れている。その目は次の照準を定めているようにも見える。

 後ろの5匹も、順番にこちらに顔を向けて口を開けている。

 それぞれの口の中にはやはり同じように銃口がある。

 ハサミじゃ太刀打ちできない。


 無理だ。倒せない。


 死ぬ。


 僕は諦めた。目を閉じる……。


「コピー機だ!」


 宮澤が叫んだ。


 コピー機……。


 移動……?


 そうか、別のコンビニへ逃げることならできるかもしれない。

 諦めて思考を停止した脳が、覚醒しだす。


「早くいけ!」

 宮澤は叫ぶと、チョコのコーナーへ走った。こんな時にもアーモンドチョコの確保か。


「新宅くん、行こう!」

 今度は鍵野さんが僕の手を引いている。

「あ、……ああ」

 僕たちは走り出した。


「ドン」


「ドン」


 後ろで音がする。


 耳が変になる。幸い当たってはいないようだ。


 ぐるりと時計回りにコンビニを1週するように走り、コピー機の前に着く。


 ここは奴等から死角になる。


 ずる、ずる、と6匹ぶんの音が近づいてくる。

 

 コピー機のディスプレイの「移動」のボタンを押した。1〜2秒の読み込み時間が1日の長さに感じる。その後、出てきたのは「右」という選択肢ひとつだけだった。なぜそうなのかを考えている余裕はない。そのボタンを押す。


 ディスプレイには「しばらくお待ち下さい」と表示された。

 

 早く、早くしれくれ。


 左手にアーモンドチョコをパンパンに詰めたカバンを持った宮澤がコピー機の前に走ってきた。右手が使えないのに、器用なものだ、と考えるほど余裕があったとも思えないのだが、そう思った。


 ゆっくりと開くガラス面がもどかしい。


 ずる、ずる、ずる、ずる。


 来てる。


 商品棚の向こうから、ヒウラタクロウの顔が出てきた。


 大きく口が開いた。銃口が突き付けられた。


 ガラスが開き切り、先に鍵野さんが頭から中に飛び込む。しかし、もう次の瞬間にも弾は発射されるかもしれない。死ぬか生きるか。僕はコピー機の中に飛び込もうと、頭を突っ込んだ。



「ドン」


 音がした。体に衝撃が走る。


 撃たれた……。最後の最後でこれかよ。


 かっこわる……。


 そのまま、僕はコピー機の中に落ちた。

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