第12話 バーコードリーダー
気持ち悪い文章だ。
文章下部の矢印をタップすれば2話目が見れそうだったが、鍵野さんはそこで☓のボタンをタップした。さすがに彼女もお気に召さない文章のねちっこさだったんだろうか。その小説のトップページが出た。
「もしかしたら、こっちの世界の高校生同士は、ネットでつながるかもしれないよね」
あ、確かにそうだ。鍵野さんはかしこい。
「そうだね。みんなが今この小説を見ているとしたら、このサイト使って、こっちの世界同士でコミュニケーションを取るチャンスになるはず」
小説の紹介ページの下の方に、レビューがあった。その小説を評価するシステムらしい。
「誰か、高校生見ていたら教えてくれ」という1分前の投稿があった。
やはり考えつくことは同じか。
「返信しよう」
僕が言うと、鍵野さんは動かなくなった。
「どうした?」
「私、このサイトにログインしてる」
たしかに「レビューを書く」という青いボタンの下に「カギノミサトさんでログインしています」と出ている。下の名前はミサトというのか。
「前に登録したんじゃないの?」
「してないよ。新しいサイトだし、もし登録してたら絶対覚えてる」
「変だね……」
「新宅くんも、自分のスマホでこのサイト見てみて」
言われて、面倒だったが、モニターに表示されているアドレスを手打ちで入力する。すると、さっきの不愉快な小説が表示された。☓を押して、レビューの画面を出すと、やはりだ。「シンタクコウジさんでログインしています」と出ている。
勝手に登録されている? こんなめちゃくちゃな世界だから、ありえないことではない。
下の方を見ると、先ほどの「誰か、高校生見ていたら教えてくれ」のレビューの後に、早速次々と反応のレビューが投稿されている。
「俺も閉じ込められてる」
「これって本当なの?」
「名札ってどこにあるのか知ってる?」
「助けてください!」
状況が飲み込めない人たちの質問や意味のない叫びで溢れていた。
そんな中で、一つ目を引く投稿があった。
「バーコードリーダーのもう一つの使用方法」
というレビュータイトル。
「自分の店舗に置かれたバーコードリーダーは、本人が使用した場合のみ、武器になる。バーコードを読み取った商品によって、どんな武器になるかが決まる。」と本文には書かれていた。
レビューしたユーザーは「フジナカマコト」とある。
武器……物騒な言葉だけど、どういうことだろう。鍵野さんも、そのレビューに気がついたようだ。
「レジに行ってみよう」
何の変哲もないレジである。このバーコードリーダーが商品を読み取ることで武器になるということらしいが、どういう意味かよくわからない。
僕は、適当に取ったガムのバーコードにリーダーをかざした。
「ピッ」と商品が読み込まれるだけで、変化はない。
「何も起きないよ」
「本当だねー」
鍵野さんも、リーダーで、あさりの味噌汁のバーコードをピッと通した。すると、バーコードリーダーが光り出した。
「あれ……」
そういえば、フジナカマコトのレビューには、本人が使用した場合のみと書いてあった。
次の瞬間、もはやそれはバーコードリーダーではなくなっていた。
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