第7話 スマイル

「こんにちはー!」


 明るい女性の声がスピーカーから流れてきた。


「スマイルナビゲーターの、スマ子です! 高校生のみんな、よろしくね!」


 ラジオのDJのようだが、なぜ僕達が高校生であることを知っているのだろう。

 女の子も、一旦僕との会話は止めて、ラジオに聞き入るように中空を見つめている。


「きっとみんな、今とっても不安だよね? そりゃそうだよねー、いきなり誰もいなくなるし、スマイルに閉じ込められちゃうし…。私だったら泣いちゃうかも」


 知っている。このスマ子というDJは、僕達の状況を知った上で喋っている。


「でもダイジョブ。このラジオをよーく聞いて、私の言うとおりに動けば、ちゃんと、元の世界に戻れるから、心配しないでね!」


 元の世界…。半分諦めていたが、あるんだ。スマ子の言うことが本当かどうかは分からないが、血液の温度が少しだけ上がった。そして、スピーカーから流れる音声に集中した。

 僕も、今出会ったこの女の子も、多分「仕掛けられた」側で、スマ子は「仕掛けている」側だ。向こうの目的や、これから僕達がどうすればいいのかが、今聞いているスマ子のラジオで恐らく分かる。


「じゃあまずは、みんなが気にしている一番のポイント、この世界について、説明するね。お店の中にも外にも人はいないし、他の人はどこ行っちゃったの? って考えてると思うんだけどー、実は、その考え方…違います!」


 ブー、というクイズ番組で不正解だった時のSEが鳴る。


「みんなは、『コピペ』って言葉、知ってるかな? コピー&ペーストの略ね。この世界は、それでできてるんだ。…あ、意味がわからないって顔してるでしょ。じゃあもっと簡単に言うね。世界の、人間以外のすべてがコピーされて、それが別の世界にペーストされて、もう一つの世界ができたの。誰がやったかは、またおいおい話すから、今は気にしないでね。まあそういうことだから、元の世界はちゃんとあるってこと。良かったね!」


 世界の、人間以外のすべてがコピーされて、それが別の世界にペーストされて、もう一つの世界ができた。


 それが、この世界…


「じゃあなんで君たちはここにいるんだって話なんだけど、そこポイントだよ。この世界を作った人は、なんと『スマイルバードの中にいる高校生は人間じゃない』って決めて、コピペしちゃったんだ。めちゃくちゃだよね! だから君たちも一緒にこの世界に来ちゃったってこと。たまたまスマイルの中にいたみんな、本当に運が悪かったねー」


 うえ。僕が部活をサボってコンビニで立ち読みをしていた事が、そもそもの原因だったということになる。吐きそうになるほどの後悔が、頬の筋肉を痙攣させた。ここ数日の自分の感情と行動がチラチラと浮かび消える。


「でも不幸中の幸いだよ。元の世界に帰れる方法はちゃーんとあるからね! それをこれから説明していきます」


 僕が昨日の試合で負けることがなければ…。いや、それ以前に先輩にあんな事言われなければ…。感情の収まりがつかない僕を置いて説明は続く。だめだ、ラジオに集中しろ。


「この世界と元の世界は、別のファイルみたいなもの。こっちがコピーファイルで、元の世界がオリジナルファイルだと考えてみてね。君たちが元の世界に行く方法は、そう考えると一つしかないよね」


「切り取りと貼り付け…」


 女の子がつぶやいた。


「そう! 切り取りと貼り付けだよ! 分かった人はかしこいねー。分からなかった人はちょっと頑張らないとダメだぞ。要は、君がこの世界から切り取られて、元の世界に貼り付けられればいいというわけ。じゃあその方法は何? どうすればいい? って、気になる所だろうけど…、教えるわけねえだろ、バーカ!!」


 え…?


「なんちゃって、冗談です。焦った?」


 こいつは、超性格悪い。


「詳しいことは、声だけで説明するのがややこしいから、10分後にバックルームに来てください。いい?10分後に、バックルームだよ。じゃあ、聞いてくれてありがとう! またねバイバーイ」


 そこでラジオは終わった。

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