第8話 塔姫、つまりはガチャとかするヤツ
<塔姫>、つまりはガチャで入手できるキャラクターである。
<マネゲ>においては、様々な神話をモチーフとした女の子キャラクターが登場する。
イラストもかなり気合を入れて方々に発注したため、ビジュアルは結構良いと、このゲームの数少ない美点としてあげられるだろう。
(でも、モチーフを日本神話からインド神話、はてはクトゥルフから持ってきちゃったことで、なんかゲームとしては焦点がボケてしまったんだよなあ)
ちなみに、イラストおよび声優にコストをかけすぎた結果、ある日、ケートの勤め先の役員会議において、費用対効果について喧々諤々の議論が行われ、百戦錬磨の財務部長が、美少女イラストの資料片手に投資効果について熱く語り倒したその姿は、あまりのシュールさに一時期の社内の噂を独占した。
「さて、ケート君、何かつきたい職業とかはあるのかニャア」
「ええと……どうしましょう?」
いきなりなサダキラの質問にケートは答えに詰まる。
異世界転生就職事情。
ケートが想像する限りだと、冒険者になったり冒険者になったり、一国一城の主になったりとロクな未来しか思い浮かばないのであるが……。
「〈
「でも、サダキラさん、ケートくんはこんなに小さな子ですから、そんなことをいきなり言わなくても……」
「いや、それでもおいおい考えないといけないことニャ」
ミリアリアが助け舟をだしてくれるが、確かにそうなのだ。若くなってしまったら実は結構就職にも不自由するのではないか。ケートは思い切って尋ねてみた。
「ミリアリアさん、例えばここって何か仕事募集してます?」
「掃除洗濯食事の準備をしてくれる方、切実に募集中」
非常に真顔である。
「実際のところ<
「あ、荒事にかかわる職業は抜きでお願いします」
「うーん、そうねえ……」
ミリアリアは押し黙ることしばしーー。
「ーーうーん、今の段階だとなんともいえないかなあ。特にケートくんの歳だとちょっといろいろ厳しいわねえ」
ため息とともにでてきた言葉は、ある意味当然といえば当然のことであった。
そんなサダキラが声を発する。
「ふむ、ケート君、もしよければだが……」
「はあ……」
「ウチの店で暫く働かないかにゃ?」
そういえば、ケートが街にはいるときの設定ではそのようになっていた。
サダキラが話したところによるとトゥモマークにある店は、彼が各地に持つ店の一つだが、売上もいまいち。さらに前に店を任せていた人が年齢の関係もあって先日引退。次の人間が見つかるまでサダキラが暫定的に店を切り盛りしているという。
「いいんですか?僕みたいな見ず知らずの人間を雇って?」
「もちろんだニャ。ウチにもメリットってやつはあると思って誘うのだから心配はいらないのニイ。もっとも、ウチで働くからには、しっかりと仕事はしてもらうニャ。まあでもいきなりの話でもあるから暫くはゆっくり考えてくださいニャ」
サダキラのところで働くことの是非はあとで検討することとしても。もしかしたら日本では夢であったカフェをこっちの世界でやってもいいかもしれない。そんなことを漠然と考える。
「……ありがとうございます」
「さあ、じゃあケートくん、サダキラさんいいですか、ケートくんが<
ミリアリアの手にはいつの間にか、透明なアクリルのような材質でできた立方体の箱がおさめられている。
その透明な箱のなかには、野球のボールを一回りほど大きくした水晶玉が入っていた。
「では、ケートくんは私が持っているこの箱に触れてみてください。<
「らしい……ですか」
「仕方がないニャ。最近はあまり例もないのだから。ミリアリアさん、他に注意すべきことはあるのかニャ」
「確か……あと、水晶に魔力をこめたりしないということかしら。この水晶は昔、使い魔をよぶ儀式のときに使われたものらしいのよ。使い魔は莫大な魔力と媒体を元に呼び出され、魔王との戦いで活躍したとされているの。まあ、もっとも魔力をこめたとしても召還するための術式も、媒体である紅玉符が無いし、術式も現在は動いてないから何も起こらないはずなんだけど」
媒体。紅玉符と呼ばれるものは、ガチャをするためにゲーム内で使用するアイテムである。
どうしてだろう。
なぜだか不思議な気持ちがする。
はじめてなような。そうでないような。
いや、確かにゲームのなかでは見慣れた光景ではあるのだけど。
ケートの脳裏にふと、術式が浮かぶ。そうそう、ゲームでガチャしたときのエフェクトで出てくる魔法陣はこんな感じだったよな、と。
ケートは、ミリアリアがもつ箱に手を触れるーー。
サダキラが少しだけ不審そうな ケートに向けた。
そのとき、水晶がまばゆい光を放つーー。そしてーー。
「召喚の魔法陣が…………っ、なんで?」
「これはこれは、今日は驚くことばかりだニイ」
倦怠感。これはたぶん魔力を吸われているいるのか。ケートが覚えているのは、そんな漠然とした感情と、おどろきあせるミリアリアと対照的に、感嘆の表情を浮かべる サダキラの姿だった。
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