第7話 見慣れてるけど、始めての場所

 <塔>は、その名のとおり、背の高い建造物であって、<マネゲ>の世界における、プレイヤーの本拠地とされていた。

 もっとも、設定的には、世界を創始したとされる女神、カリナターユによって世界各地に建造された魔法装置である。地脈から魔力を集め、田畑の成長を促進させたり、街を魔物から守るための魔物避けの結界を張ったり。人類の生存圏を守る存在であった。

 <塔>の外見は様々であって、大小数多くのものがあるとされている。

 ゲーム画面ではRPGにでてくる典型的な塔の外見でしかなく、今後の実装予定として、塔の外見カスタマイズ機能があったと記憶している

 

 〈マネゲ〉の目標の一つは、プレイヤーは塔のあるじ〈塔主〉となって、塔を育成することである。


  <塔>の機能について、ゲームの中でプレイヤーは次のことができた。


 ・地脈から魔力を汲み出し、土地を活性化させる

 ・さまざまな施設をつくることができ、アイテムの生産などでプレイヤーをサポートする

 ・使い魔を召喚できる 等である。


 プレイヤーは召喚した使い魔<塔姫とうき>とともに、<塔>を発展させながら、世界に巣くう魔物を倒していく。<マネゲ>における、ストーリーの骨格であった。


(ゲームとしてはそうだったんだけど……)

 

 前を歩くサダキラを見失っていないことを確認して、ケートはざっと市中を見回す。

 人の話し声。澄んだ空気。明るい空。


 ケートが知っている世界観とはだいぶ違う。

 先ほど話に聞いた<勇者と魔物の時代>のころのほうが、ゲームの設定的にはしっくりくる。


 <塔>はゲーム的にはプレイヤーたちの根拠地となるべきところだ。

 それが一見平和に見えるこの世界ではいったいどのような立ち位置なのか、ケート的には興味がわくところだった。

 

 <塔>に近づくにつれ、段々とその姿があらわとなる。

 そして、サダキラの歩みも止まる。


「さて、今日の宿を紹介するにゃ」


 サダキラが指し示す先には、その<塔>があった


「えっと、この建物に、泊まることができる……ということですか?」


 元の世界でもある、昔の城や洋館を宿にしたものがある。まさかここもそんな類なのだろうか。


「確かに今日は一泊することになるニャが……。まあ、とりあえず中に入ろうか」


 扉をあけて、中に入る。ほのかな光が差し込む1階部分には、視界の先に祭壇があるが、階段のようなものは見当たらなかった。


「あのー、どうやって上に登ればいいんでしょうか……」

「ふふふ、ケート君には珍しい経験をしてもらおうかニャ」


 二人は祭壇の前にたつ。足元を見れば、地面には規則性のある模様が刻まれていた。


「この術式には見覚えが――」


ケートが言い終わる前に地面がかすかに光を発した。 これは転移系の魔法の一種だろう。そう理解したとき、既に彼らは塔の上層階に飛ばされたあとだった。


光を抜けた先に二人を待っていたのは、一人の女性。


「お久しぶりですサダキラさん」

「こちらこそ。ミリアリア殿もご健勝のようでなによりですニイ」


トゥモマークの<塔>を管理する女性、ミリアリアである。


◇◇◇


一通りの挨拶をすませると、ケート達は彼女の案内で客間にとおされた。


「それで、サダキラさんの要件とは……」


 ミリアリアがお茶を勧めると話を切り出した。


「ちょっとしたお願いがあるんだニイ。この子<越境者トランスレーター>のようだから手続きを代わりにお願いできないかニイ」

「<越境者トランスレーター>……。それは本当です、か」


 ミリアリアは、すこしだけ眉を八の字にゆがめる。


「間違いないとは思うのだが、確証は無いのニャア。まあ、だからここに連れてきたんだけどニャ」

「まあ、確かにそうですわね……」


 なんとなく納得しあった二人の間に流れる空気だが、ケートには当然なにのことだか理解できるはずもない。

 困惑した様子を感じ取ったのか、ミリアリアは人差し指を顎にあて少し考え込むと、言葉を選びながらケートに説明をはじめる。


「それでは、なにから説明するか迷うのだけど……」


 あらためてミリアリア見る。腰までゆるやかにウェーブがかかっているピンクの髪に長い耳。美人としか形容するすべをケートは持たない。外見だけで判断すると、年のほどは一八、九位だろうか。ただ、彼女の特徴は、いわゆるエルフ族のそれであった。


「〈越境者トランスレーター〉という方があらわれることが近年めっきり減ってしまったことはサダキラさんに聞かれたかと思います」

「はあ……」

「この場所、<塔>は簡単にいうと、国の要となる施設です。地脈から魔力を吸い上げ、それを土地に還元して作物の成長を促したり、街を守る結界を張ったりすることができる設備です。太古から存在して、今でも世界中に何百と存在しています。ここもその中の一つであり、トゥモーマクの街を守っているの」

 

 彼女から聞く話は、ケートの認識とほぼ同じものであった。

 そして、ここの現在の管理者は彼女であるという。


「<塔>は昔、その<越境者トランスレーター>の力を得て、魔王を倒すために活躍していたといわれていますが、今は魔王も倒れ、平和な時代になっています。ケート君、色々心細いと思いますが、この〈塔〉は国に連なる場所です。さっきも言ったように<塔>は<越境者トランスレーター>と縁が深いところ。支援プログラムもあります。しばらく大変ですけど気をおとさないでね」


 いろいろと説明を受けたが、ケートは肝心なことを聞けていなかった。


「ところで、僕が〈越境者トランスレーター〉だということを示す方法って何なのですか?」

「ああ、確かにそうだニャア。ミリアリアさん、早速お願いしますニャ」

「そうですね。では少し移動しましょうか」


 ミリアリアの案内で、客間から離れ、着いた場所は、またケートにとって見覚えのある場所であった。


「ここは、召喚の間……?」


 ケート達が立っている所、それは<マネゲ>において、プレイヤーと一緒に戦う使い魔<塔姫とうき>を召喚するための場所であった。


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