輪廻

 真青な世界の中心に大きな三角形で描かれた大木が突き立ち、とても大きな音と共に、其処から止め処なく、がらくたのような大小様々の図形が噴き出し、跳ね上がり、溢れて、積み重なるのを眺めて居りました。空の端から赤色が、緞帳の如く降りてきて、がらくたは此方に向き直り、四角は車に、菱形は瓦礫に、丸は誰ぞの首となって、拙を圧し潰さんと緩慢な速度で降って来ます。股の間から這い上がるような震えが脳味噌に染み込み、身動きも取れず、今にも頭蓋を砕こうとした刹那、瞬きと共に辺りは唐突に真白に変わりました。

 拙は広い広い敷布の中心にぽつんと置かれて、眠りから覚めた事を告げられた筈なのに、今度は静寂の向こう側から、ごうごうと重苦しいざわめきが近付いて来ます。音は厚い空気の層となって、再び、この身を叩き潰すように襲いかかり、かと思えば、暴力的な無音の中に放り出され、そうやって何度も繰り返し目を開けて、最後に飛び起きた時、其処は己が母体の胎の横。見上ぐる程大きな培養槽の傍らに設置された、粗末な寝台の上におりました。

 空になった硝子筒の中はざあざあと水が降っていて、役目を終えた羊水を洗い流していました。大雨を思わせる其の音は今し方見た夢の続きの様で、拙は思わず二度三度辺りを見回しました。人の姿は在りますが、何れも息を潜め、ぞわぞわと動き、耳元を這う其れ等の気配は、本当に気色の悪いこと!両手足に嵌められた枷の様な機械を外し、寝台から降りると、そうしたら、未だ馴染まない器ではまともに動く事も儘ならず、大きな音を立てて床に転げ落ちました。頭に取り付けられた針がぶちぶちと抜けて、床にはたと血が落ち、己の憫然たる様に愈愈呆れておりますと、白衣の男が一人、ふらふらと近付いて来ました。

「目が覚めましたか。あまりぞんざいな扱いをしないで下さいね。お前の身体は御国の物なのですから」

「……存じて居ります」

「そう。気分はいかが?」

「頗る好調で御座います」

「それは何より」

男は小馬鹿にするような声でくっくと嗤い、錠菓の詰まった樹脂製の瓶を揺すって、拙に差し出しました。

「膨大な量の情報を詰めるのですから、きっと脳には大変な負荷がありましょう。只でさえ賢くない頭が、より鈍っているのです。召し上がれ」

容れ物から二つほどを摘み、一度に噛み砕くと、薬臭い甘さが心地よく口の中に広がりました。

「落ち着いたら、動作の確認でもしましょうか。三七式を扱った後には、特に性能が落ちる様ですので」

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