畜生
「もうすぐこの国は終わるかもしれない」
延々と続くように思えたこの戦いも、敵にはいよいよ後がないようだ。確信、とまではいかないまでも、余程のことがなければ、まず負けるということはないだろう。そうであって欲しい、という願望でもある。
「兄さん、油断は禁物って、口癖みたいに言っているじゃないか」
隣に立つ弟が茶化す。
「油断はしていない。ただ、そろそろ、潮時じゃないかと思うんだ。」
一時期は蟻の大群のように、絶えず襲いかかってきていた軍隊も、最近では月に一度か二度、ご用聞きのように2、3人で訪れるばかりであった。
生まれて、その時から、この狂った国家にいた。特に今の大将に代が変わった頃から、より一層酷くなったような気さえする。つい最近のことだ。法治国家が聞いて呆れる。国民を守るための法律は、いつの間にやら、金が主食の政治家どもの餌場となり、排泄され、残されたのは廃墟ばかりの世界だった。
それでも、人間は営みをやめられずにいる。俺たちは丁場県の、海風香る廃校舎に集い、"よだか"の旗の下、大きな家族の様に寄り添っていた。
「それよりも、そろそろ交代の時間だろう。特に変わったこともない。早めに戻っていいぞ、ユウ」
「あ、やったあ」
直後だった。唸るような音が、遅くない速度で近づいて来た。海の方向から、金属の塊が向かってきている。見張りをしていた全員が、一斉に警鐘をならし、辺りは騒然となった。
「一機か、偵察かもしれない」
女子供が列を作り、壕へ潜っていくのを確認してから、見張りにも警鐘を止め避難するよう指示を出した。機体は上空を何度か旋回しているが、攻撃をする様子はない。しかし、どこか、嫌な予感がした。
「念のため、しばらくは出ない方がーー」
直後、急降下。墜落したのかと思う程だった。三七と大きく書かれた機体が朦々と桜色の煙をあげ、嘲笑うかのように目と鼻の先を通り過ぎて、再び上昇した。
「ユウ、俺たちも逃げるぞ 早く!」
まるで聞こえていないかのように動かない弟の腕を掴み、走り出した。宙返りをした機体が、迷い無く、まっすぐに、校舎へと突っ込んでいった。足下が大きく揺れ、耳を劈く様な衝突音が聞こえた。
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