突撃

 外に出ると空気の色まで灰色のような天気だった。ぼくらは窮屈な装甲車から解放されて、潮風の混じった少し生臭い空気を吸い込んだ。ここから海までどの位だろう。今の時期なら何か穫れるかもしれない。でも、食べて平気なんだろうか。どうでも良いことを考えながら準備をした。

 大きく、空々しい標語が打ち付けられた建物は、昔は学校だったという。その屋上にはまばらに人が立っていて、それなりに警戒しているようだ。敷地を囲む金網の向こう側は随分と視界が拓けていて、あの辺りへ一度姿を見せたら、中々引き返すのは難しいかもしれない。その場にいる仲間に作戦を伝えてから散開した。突入の合図は、多分、どこからでも分かるだろう。その時に生きていれば。遠くへ走っていく背中になむなむと十字を切った。誰に向けての嫌がらせだか。そんな作戦だった。

 それからすぐに、きいいんと高い音を鳴らしながら号令役が空を駆け抜けた。そろそろだ。笛のような音が遠くから聞こえて、慌てたように人が隠れていく。桜色の煙幕がずっと広がって、全身を揺らすような地響きがした。ぼくは悠々と金網によじ登って、誰もいない校舎の中に入り、作戦通りに、蝶の形をした爆弾をぼとぼとと撒いて歩いた。

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