第26話
望海と郁未は、買い物を済ませて日が暮れた6時少し前に帰宅した、夕食の用意を二人で分担して作る。
「お姉ちゃん、今日は楽しかったね」
「そうだね、全国大会ですもの思いっきり羽目を外せたからかな」
「でも、真壁さん本当に器用だったねぇ?」
「ホント、彼にあんな特技があったなんてビックリね」
「それに、試合もスッゴイ活躍だったし」
「そう言えばそうね鷹良さんも大活躍だし」
「綾ちゃんカワイイね、まかべぇ、まかべぇって」
「……そうね、鷹良さんの事も、たからっちって言うのよ、カワイイわね」
「真壁さん、お母さんと別居だったなんて、ビックリ」
「……郁未?」
「ん? なにー」
「さっきから、真壁さんの事しか言わないわね、どうかした?」
「えっ? 別にぃ、何でもないよ」
「よーく考えてみると、何か変最近あなた」
「そんなことをないよーホラ何時もの郁未ちゃんだよ」
「そうかなぁ、まさか真壁さんを?」
郁未はそれを聞いて顔が熱くなるのが判る、くるっと向きを変えて、
「おっと、お風呂の準備が出来てなかった、お姉ちゃんこっちお願いね」
そう言って浴室の方へ逃げた、
「ちょっとからかっただけなのに」
そう言ってキョトンとしていたが、望海は二人の関連性の無さから、まさかねぇ、とその時は思っていた。
望海が、真壁と郁未の関連性に気付いたのはお風呂の湯船でくつろいでいた時だった、
「そう言えば、事故で郁未を助けた人の名が真壁って言ってたっけ」
それに気付いたら、今までのモヤモヤがスッキリしてきた気がした、どうやら恩人が真壁だと知ったようである。
「お姉ちゃんも知らないのにどうやって」
確認する必要がありそうだと思った。
翌日曜12時頃、郁未は真壁に頼まれて総合病院の12階のスカイラウンジに居た、先程まで一緒に居た彼は、将来の進路を決めるべく父親のいる理事室に行っていた。
「やっぱここからの眺めはサイコーだなぁ」
郁未はそう思ったが、前ほど感動が無かった、風景より真壁の交渉の行方の方が気になる、その気をまぎらわすために風景を眺めているからだろう。
「上手く行くといいなー」
オレンジジュースの入ったグラスのストローでカチャカチャかき回して時間を潰す、仕舞いには氷が溶けて無くなっていたが、気が付かない程ぼぅーとしていた、そこへようやく真壁が兄と戻ってくる。
「お待たせした」
「どうでしたか?」
「保留されちゃったよ、親父は賢いな」
「忍、でも話を聞いてはくれたという事は相等前進と考えていいだろう」
「これで引き下がる親父じゃないだろうけど」
「医者は僕一人で十分だろう、忍にはもっと向いたことがきっと他にある」
「忙しいのに、今日はありがとう薫兄貴」
「遠慮なく相談してくれ」
兄の薫はそう言ってラウンジを出ていった。
「郁未ちゃんも今日はありがとう、街へ戻ろうよ」
「はい」
レジで真壁が精算して二人も出た、そのあと病院から街へ移動して真壁行き着けのバーガーショップへ入った。
日曜は混んでいて、カウンター席しか空いていないのでそこに座る、真壁が郁未に自分が暇な時は大抵ここに居るとか、説明していると郁未が笑いだす、
「クククッ、真壁さん名前、
「似合ってない? だろ」
「試合の時のカッコイイ姿と、ギャップがスゴいっていうか」
「へん……?」
「カワイイ、です」
「うわー、言われた! だからあんまり名前言いたくないんだ」
「いえ! そんなつもりで……気に障ったらゴメンなさい」
郁未は立って90度腰を曲げて頭を下げる。今度は真壁が笑う、
「そんな全力で謝る程の事じゃないよ、それにコレありがとう」
「あっつ」
真壁が見せたのは、郁未が県大会で渡したアームバンドである、今日は試合でもないのに腕に付けていた。
「今日も親父との交渉の為にはめてきた、俺にとってはラッキーアイテムだ」
「そんな」
「一生大切にするよ」
「ありがとうございます」
郁未は自分の事のように思えた、それを見透かされまいと、
「
「手作り感があって良いよ、でも何て書いてあるのかな」
真壁が、刺繍文字を読もうとするのを見て郁未は慌てた、゛to Love゛と書いたのだが、いまになって急に恥ずかしくなった。
「読まなくていいですっ! 意味の無い只のワンポイントだから」
「何慌ててるんだ?」
「いえ、一生懸命刺繍したんですケド、じっくり見ると粗が出ちゃうので」
「そう? 分かった」
真壁はそれ以上追求しなかった、ホッとする郁未、今考えれば良くも大胆な文字を刺繍したものだと自分に呆れる。
「処でさ、郁未ちゃんは将来の目標は何?」
「あたしはヘルパーさんに成りたいです」
「お手伝い、さん?」
「いえ、介護士のことです」
真壁は介護士なる職業を知らないらしい、一般にはその程度の知名度かもしれない、郁未は彼に介護士について知っていることを熱く語った。
「ゴメン、そんなりっぱ仕事在るなんて知らなかった、恥ずかしい」
「介護士の資格を取ろうと、友達とボランティアしてます」
「もう介護手伝ってるの? 凄いじゃん」
「まだ、始めたばっかりですケド」
「いや尊敬するよ、もっと自信持っていい」
「ありがとう、喜んでくれる笑顔が、堪らなく良いんです」
「何か、郁未ちゃんが女神じゃなくて、マリア樣に見えてきた」
「そんな、言い過ぎです! でもそんな慈悲深い人に成れたらいいなぁ」
「君は中学生なのに、志が高いんだな」
「ははは言い過ぎました、忘れて下さい。それより真壁さん、プロの選手ガンバって下さいね! あたし応援してます」
「そうだな、郁未ちゃんの志に負けていられないな、お互い頑張ろう」
「はいっ!」
二人はそれから学校での事、家族の事など雑談を一時間程楽しんで店を出ていった。
一方同じ頃、鷹良と望海はちょっと険悪な雰囲気の中で公園に居た、朝から二人ででバイパス沿いの大型商業施設でショッピングを楽しんでの帰りの事だった。
きっかけは、昨日から望海が気にしていた、郁未と真壁の事で、鷹良が自分に秘密にしていたことが、望海の追求でバレたのである。
「二人で何かしてるから、ヘンだと思ってたけど、そう言う事だったのね?」
「誰にも言わないって、郁未ちゃんと約束だだったから」
「それでも、鷹良さんが私に隠し事してるなんてショック、信じてたのに」
「別に望海を裏切ったわけじゃないし、真壁と郁未ちゃんとの事だから関係ないだろ?」
「そうね! 私は関係無いモンね」
「何拗ねてるの?」
「拗ねてないモン」
「俺の顔、見ろよ!」
「ヤダ!」
「ほら!」
鷹良は強引に望海の肩を掴んで、振り向かせる、驚いた望海は鷹良を睨む、鷹良は構わず唇で望海の唇を塞ぐ。
小さな公園は誰もいない、通りからも離れていて静かだった、そこには抱き合った二人だけが居た。やがて離れる、
「……ズルいョ」
「コレしか思い浮かばなかった」
「出来れば話して欲しかった」
「そうしたいけど、今度の事は郁未ちゃんを尊重したかった、解ってくれる?」
「私も子供みたいに拗ねちゃってゴメン」
「ううん、判ってくれてありがとう」
「ねぇもう一度、して?」
今度は望海から求めた、迷わず口づける鷹良、夕方日が傾いてできた二人の長い影は、暫く離れそうも無かった。
この後、来るクリスマス・イヴに向けて、二人は何か良い過ごし方は無いか考えていた。
その頃、真壁は郁未と別れて家路に向かう、ふとアームバンドを見る、刺繍文字が気になったのだ。
彼女はワンポイントと言っていたが、さてマジマジと見直して見ると、英文字のスペルだ、バンドを逆さまにはめているのに気付いて、一旦腕から外す。
ひっくり返してスペルを読んでみる、読んでから照れて、顔を真っ赤にする真壁、思い立ったように携帯をかける。
何度かコール音がした後、郁未が出る、
「真壁さん? どうしましたか」
「ゴメン、あのさ今度のクリスマスイヴ予定ある?」
「特に無いですケド」
「良かったら、一緒に過ごさない?」
「突然何ですかぁ?」
「二人の大事な日にしたい」
暫く混乱して返事が無い、
「……イヤ?」
「良いんですか? アタシなんかと」
「何? その元気の無い声、君らしくない!」
「アタシ、自分に自信無い」
「介護士に成るんだろ? 君は素敵な子だよ、自信持ってイイ」
「ありがとう」
「じゃあOKだね?」
「あ、イヤそう言う意味じゃ無くて……はい、お願いシマス」
「ありがとう、じゃあまた連絡する」
「ハイ」
真壁は携帯を切った、女の子が苦手だった自分としてはよく頑張ったと、自分を誉めた。
郁未は既に帰宅していた、その後真壁の電話を受けた、その直後は実感が沸かずにぼぅーとしていたが、次第にシアワセ感が込み上げてくると、顔がニンマリとしてきて仕方無かった、そこへもう一人のシアワセ者、望海が帰ってきた、彼女は帰って早々見つけた郁未にシアワセを語ろうと彼女を捕まえた。
しかし、郁未の顔がたるみ切っているのを見て、その気が失せてしまった、逆に何があったのか心配になる望海だった。
こうして週末の夜は更けた。
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