第25話
二日目準決勝は湾岸地区二校にとっては楽勝だった、地域的なレベルの偏りがそのまま出た結果となる。
そして最終三日目、話の流れ上経過は省く、結果は綾瀬第一、潮浜のワンツーフィニッシュとなる。
ここでも例年の流れが変わった、バスケットについては潮浜高校が俄然注目を浴びる年となった。
こうして今年も様々ドラマを生んだ県大会は終わり、バスケットでは綾瀬第一と潮浜の各校が県代表として、全国大会に出場する事となったのである。
因みに、美都のテニス部も全国大会の切符を手にしたと、鷹良は後で知るが、鷹良達も地元に初錦を飾って帰っていった。
さてその間、郁未はどうなったのか?
彼女はやって来た真壁に、勇気を振り絞って辛うじて袋を渡す事が出来た、でもその後はとても恥ずかしくて、控え室へ行くことが出来なかったのである。
その後は観覧席で一人祈るような面持ちで試合を観戦していた、やがて真壁がコートに出てくる、郁未は彼の腕に釘付けになった。
その腕には、郁未が渡したアームバンドがはめてあったのだ、それを見て郁未は彼が自分を受け入れてくれた事を察した。
その後真壁はいつになく大活躍をした、積極的に敵陣へ踏み込んでパスボールをカットし味方へのチャンスを何度も作った。
そのお陰で高城や、鷹良らの活躍の場を増やすのに貢献した、そして郁未はその活躍の一部始終を見ることが出来た。
その結果チームは勝ち進んだ事を郁未は誇らしかった、まるで自分が戦っているかの様な思いで、試合を楽しんだし、真壁を好きになって良かったと実感した。
でも、試合以外のOFFの時は恥ずかしくて真壁に近寄れない、人見知りした事がない彼女にとって、こんな経験は初めてだった。
県大会は終了後暫く直接二人が接する機会が無かったが、11月も過ぎて12月に入って最初の週末に鷹良の計らいで久しぶりの機会が出来た。
全国大会出場記念パーティーだ、パーティーといっても大袈裟なものでなく、ガッツの自宅を使ってバスケ部内の祝勝会である。
そこに郁未は、料理など準備手伝いで参加できたのだ、例によって昼から開始に向けて、午前中から準備を始める。
ガッツの妻、美佳子と前日電話で買い出し食材を決めた通り、望海、郁未、鷹良そして真壁四人でスーパーで買い出しに行く。
望海達姉妹が材料を選んで、男二人は荷物持ちである、この間郁未と真壁は付かず離れず、適度な距離感でお互いを見れた。
四人店を出た後は、移動の間は望海と郁未、鷹良と真壁、男女別に歩いたので緊張しなくて済んで、やがてガッツ邸に到着し迎え入れられた。
家に入ったのが11時近かったため、台所は準備が忙しく戦場になった、男は綾ちゃんのお守りだが、意外にも真壁は材料を切ったり細々と積極的に手伝いを進んでした、彼の意外な一面を見ることになる。
「真壁やるじゃないか」
そう言ったのはガッツである、真壁は、
「一年生ですから、これ位当然です」
それを聞いて美佳子が感心して言う、
「どうして、その包丁さばき手慣れてるわよ助かるわ」
「うちは男やもめなんで、一人の時は自分で作るんですよ」
「お母さんは?」
「離婚してます、兄と俺は父に引き取られて三人で、妹が居ますが母に引き取られて暮らして居ます」
ここで真壁の衝撃的な家庭事情が判明した、ちょっと場が暗くなりかけた所に、綾が真壁に言う、
「まかべぇ、料理お上手ぅ!」
と真壁を誉める、まさか場を盛り上げるために言ったとも思えないが、ナイスなタイミングだ、すかさず郁未も、
「まかべぇ、料理上手ー!」
と綾の真似をする、どっと雰囲気が和んだ、その一言で吹っ切れて何時もの郁未に戻れたようだ、その後は郁未は真壁とも積極的に話した。
皆が協力してテキパキと作業をしたお陰で、メンバーが揃った頃には準備が整っていた。
そして細やかだが祝勝会は盛大に盛り上がった、狭い場所にひしめき合って居たが、ムードメーカーの真壁を筆頭に、郁未や望海も積極的に盛り上げる。
その中綾ちゃんは皆の笑いを誘い、一番人気だった事を付加しておこう、こうして4時まで会はノンストップでの盛況振りだった。
そして、終了後皆それぞれ帰っていく、望海は郁未が居るので二人は一緒に帰った、鷹良は真壁を誘い途中まで一緒に 帰った。その道中鷹良から、
「真壁が母親と別居してるとは驚いたな」
「うちは親父がワンマンでその勢いに母さんが付いていけなかったみたいで、もう10年も前から別居してる」
「俺は母親、物心ついた頃に死んで居ない」
「それは……俺達似てますね」
「そうだな、でも真壁はたまにはお母さんと会ってるんだろ?」
「もうそんな歳じゃないですよ」
「何言ってる、今のうちに甘えとけよ」
「あ、すみませんでした。じゃあ今度久し振りに会ってきますよ」
「俺の親父は遠洋の漁師してるけどお前の親父さんは?」
「あの潮浜総合病院に引き抜かれて事務理事して、兄もあそこで医者してます」
「お前んち頭いいんだな、と言うことはお前も結構成績良いのか?」
「親父は医者に成れと言いますが、そっちに興味無いんです、親父は裸一貫で成り上がった苦労屋ですから、一徹であくが強い自信家ですから、困ったものです」
「でも、真壁の親父さんも母親が居ない境遇を申し訳ないと思ってるんじゃ」
「何でそう思えるんですか?」
「ウチの親父を見てるとそう思うんだ、帰ると疲れてだろうに色々話を聞いてくれたり、料理まで作ったり、父母両方演じようと躍起になってるからお前ん家も」
「成る程、そう言われてみるとウチも変に優しい時がありますね、でも所詮男だから不自然なんッスよね、母親役は。飯は作ってくれないですけど」
「飯と言えば、俺も家で一人が多いけど、真壁みたく全然料理上手くならんけどな」
「いやー俺も必要に迫られて簡単な物を作る位ですよ、でもやってみると結構楽しいんです、宇崎さんも一度どうです?」
「いやぁ俺はダメだな、お前は繊細だから向いてるんだよ」
「そうですかね? でもお互いお袋の味を知らないんですね」
「いいよ、いつか結婚したら奥さんに一杯作って貰うからさ」
「そうですね」
「処で郁未ちゃんの事だけど、試合前何か渡されなかった?」
「貰いましたけど、何で知ってるんですか?」
「フフン! 俺は郁未ちゃんの恋のキューピッドだからな」
「意味わかんないっス、どういう事ですか」
鷹良は事情を話して、大会時や今日も二人を会わす為に仕組んだ事も打ち明けた。
「意地が悪いなぁ、僕はピエロですか」
「何言ってる、彼女も相等悩んでたんだ、助けたくもなるだろ? それに真壁だって満更でも無さそうだし」
「自分でもまだ良く判らないんです、でも彼女ラッキーガールみたいで」
「それはお似合いって事じゃないのか?」
「そうでしょうか? 否定したくないですが」
「OKじゃあ付き合え! 俺も応援してやる」
「は、はあ」
真壁は鷹良がガッツとダブって仕方が無かったが、有りがたかった、辺りは夕焼けで町中は鮮やかな黄金色に輝いていた。
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