第22話
二日目、駒を進めた8校が準々決勝を戦う、最終戦で残った二校が県大会で準決勝シードとなる。
特殊だが高校数が極端に片寄った西地域をふるいにかけるための苦肉の策である、よってこの予選を通ればほぼ全国出場に相当有利になる。
なので、今大会で最強の綾瀬第一高校を標的にするのは合理的な戦術だ、過去8年間不戦を誇るこの高校は自校の実力を測るベンチマークとなる。
その綾瀬第一高校を率いる顧問、
天上とは体育大時代から敵視しあってきた仲で、片桐に言わせれば天上は覚めている、勝つためには選手を道具にしか思っていないような冷酷漢だ、と。
片桐とは真逆の方法で勝ち数を稼いできた、彼にとって勝つことのみが全てである、そうやって常勝請負人の様な目でチヤホヤされていた。
片桐の様な熱い思いのある人間にはどうしてもそのやり口は気に入らなかった、その空気を何とか打ち破りたかったのである。
試合開始前、ガッツはメンバーにその話を初めて話した、今のメンバーにはその思いを十分理解できる下地が出来ていた、ガッツは発破を皆にかける、
「今日全てを出しきれ、自分のやって来た自分を信じて悔いなく戦ってこい!」
「はいっ!」
「相手は誰でも関係ない、やるだけのことはやった、後は自分と戦えばいい」
「はいっつ!」
「自分に手を抜いたやつは、その場で下ろすぞ、いいか!」
「はいーっつ!」
彼らのオーラは半端ではなかった、その勢いは凄かった、彼らは自分の信じた事をキッチリやり通した、ガッツの言ったことだけを信じて一つになって戦い抜いた、そうして予選大会は終わった。
結果として潮浜校は、綾瀬第一と伴に本当に決勝に残ってしまったのである。
翌日土曜日、試合を終えた皆はそれぞれの週末を過ごしていた。
片桐は自宅で電話に出ていた、かけてきたのは綾瀬第一顧問の天上である、久しぶりの会話だった。
「片桐、いいものを見せてもらったよ、俺達はプロを育てているんじゃ無いんだな、青春真っ盛りの熱い生徒の心を育てなきゃいけなかったんだな」
「何今更な事言ってやがる、生徒は嘘をつかない、俺達は彼等がやりたいようにやらせてやるだけでいいのさ」
「結果は俺の勝ちだが、教えられたよお前にな」
「潮浜校の生徒にだろ?」
「ああ、ありがとうと言っといてくれ」
「伝えとくよ、じゃあな」
電話を切った横で、妻の美佳子が片目を閉じる、ガッツもガッツポーズで答えた。
その午前中、鷹良と望海は潮浜海岸にいた、ゆっくり浜辺をあるく、
「予選終わるまで会わないって、言い出しっぺの俺が約束破って、土壇場で望海にメールしちゃって、ダメだな」
「ううん、頼ってくれて嬉しかったよ、あんまりいい言葉浮かばなくって」
「望海の存在が俺にとってどれだけ励みになるか、解ったよ」
「鷹良さん……私もあなたと会えない日々がこんなに不安だとは思わなかった」
二人はどちらと無く寄り添う、砂浜に映る二人の影が一つになった、しばらくしてまた離れる、お互いの気持ちを確かめあった。
海岸は波静かで穏やかな天候だった、ある場所で望海が立ち止まる、
「この辺りだったかな、鷹良さんと初めて出合った場所」
「うん、君がここに居たのを偶然何度もみかけてね」
「いつから見てたの?」
「その日より大分前から、いつも居るから段々気になってきてて、でも声をかけられなかった、でもあの日他校の生徒が君に近づいて行くのが見えた」
「変な人達だったわ、どんどん絡んできて……その時いきなりあなたが彼らに飛びかかって、驚いたわ」
そう言ってまた歩き出す、鷹良も一緒に歩き、海岸を出ていく。
「明らかに嫌がらせだったからね、奴等に弁解の余地はない、で君から離そうと神社へ誘い込んだ」
「…………」
「神社で一時ヤバくなったけど、その時大きな叩く音がしてその音のお陰で勝てた」
「その音、私がそばのドラム缶を叩いたの」
「そうか! 君が鳴らしていたのか」
「あ、心配で後をついていって、神社に来たとき鷹良さんピンチだったから無我夢中で叩いたの」
「不思議だったんだが、お陰で形勢逆転できた、ありがとう」
「ううん、守ってくれたんだもの、お礼を言うのは私の方よ」
「その事がきっかけで知り合ったんだよな、俺達」
「結果は、あの連中のお陰で鷹良さんと知り合えたんだから、彼らにも感謝?」
「ないない!」
「フフフフ、そうよね」
その時、望海の携帯が鳴った、出るとガッツの妻の美佳子から連絡だった。
数分で終わって鷹良に内容を伝える、
「昼からねぎらいパーティーするそうよ、行くって言っちゃた」
「勿論、よし行こう」
迷わず参加決定して二人はバスに乗るべく沿線に向かった。
ガッツの家に着いたのは11時頃だろうか、チャイムを鳴らして中に通される、居間には既にバスケ部メンバーが何人か来ていた。
二人は、ガッツや美佳子さんに挨拶をした後望海には、いの一番に綾が抱き付いてくる、抱き上げて彼女の応対にてんてこ舞いだ。
一方鷹良は、挨拶をしてきた真壁を見つけて隣に座る、その時ふと郁未に頼まれたことを思い出し、聞いてみる。
「真壁変な事聞くけどさ、10月20日頃に人を助けてないか?」
一瞬変な顔をした後、真壁が答える、
「人助けですか? したかなぁ……ああ、交通事故に立ち会った位ですかね」
「それって、事故したの中学生位の女の子じゃなかったか?」
「多分、その位だったですかね」
「潮浜総合病院に搬送されたよな?」
「はあ、なんで知ってるんですか? 誰にも言ってないのに」
「やっぱり、そうか。ありがとう」
「って、何ですか! 気味悪いッス。その子がどうかしたんですか?」
「うーん、そうか……」
「宇崎さん! 意地悪しないで教えてくださいよ、何か俺悪いことしましたか?」
高良は焦る真壁をよそに意味ありげに腕を組み換え唸るばかり、真壁は何も悪い事をした覚えも無いのに、針のむしろに座って居る心地だ。
「俺、何かやったのか?」
たまたま着てきたハイネックのせいか息苦しい、暫くすると鷹良が言った、
「真壁、おまえ明日予定は有るのか?」
「午後から兄に会う予定ですが、そんな事より教えてください」
「訳を話すから、明日10時に例のバーガーショップで会わないか?」
「教えてくれるんならいいッスよ、10時ですね、わかりました」
「ヨロシク」
「今じゃあダメなんですか?」
「明日になれば分かるよ」
ニヤニヤしながらそう言って、鷹良はガッツの方へ行ってしまった。
明日何が有るのか? その後皆が集まって細やかなパーティが開かれた、各々楽しんだようだが、真壁だけは不完全燃焼で、素直に楽しめなかった。
さて翌日、鷹良に会うため真壁は常連のバーガーショップへ赴く、ここは開店時間が10時なのだ、几帳面な彼は10分前に来て、開店と同時に入店する。
その後何人かお客が早々に入ってくる、真壁はその客の顔を確かめる、鷹良の姿はないが、見覚えのある顔を認めた。
以前病院ですれ違った少女だ、その少女は誰かを探しているようだ、見つからないようで首をかしげている、
「おかしいなぁ、たからっち居ない」
その声の主は郁未だった、彼女は鷹良に呼ばれてこの店にやって来たが、鷹良が居ないので、客の顔をあっちこっち除き込む。
目が最近悪くなってきたのか、かなり接近して顔を確認するので、皆驚いた顔になる、その都度ごめんなさいと謝って回るのを、真壁が見かねて居たところに郁未が近づき顔を除き込んだので、不意をつかれて驚いた。
「誰かを探してるの?」
「あ、はいスミマセン、たからっちを……」
と言いかけて、見知らぬ人にあだ名を言った事に気付いて、照れる郁未。
「たからっち、いえ宇崎さん……」
「え? 宇崎さん? 俺も宇崎さんと待ち合わせしてるんだけど、同一人物?」
「宇崎鷹良さん」
「たからっち? プッ」
思わず吹いてしまう真壁、それを見て郁未も思わず吹き出す、その後同一人物で有ることを確認できたので、それぞれの事情を話した、
「宇崎さんどういうつもりだろう? 同時に二人と待ち合わせして」
「そうですよね、たからっち時間には正確なんだけどなぁ」
その時突然真壁の携帯が鳴った、鷹良からだ、
「すまん、行けなくなった」
「エッツ! そんな事言われても、それに女の子来てますよどうするんですか?」
「そうか、来てるんだったら、目の前にいる娘が答えだ、じゃ」
「じゃあって、宇崎さんどうしたら……あっつ」
そのまま電話は切れてしまった、途方にくれる真壁、目の前の女の子はキョトンと彼を見つめている、その真っ直ぐな瞳になぜか照れる真壁。
「たからっちからですか? 何て言ってました?」
「うん……来れなくなったって」
「えーっ? 何で、ナンで」
「宇崎さん、訳わからんな」
その時今度は郁未の携帯が鳴る、席を離れて出ると相手は鷹良からだった、
「いい忘れた事がある、今一緒にいるのが真壁だよ、ちゃんと見つけたからね」
そう言って切ってしまった、少し頭の整理にぼうーとしていたが、やがてまた席に戻った郁未は、青年に問いかける、
「あなたが、あたしを助けてくれた真壁さん?」
「あっ!」
当時の事故の様子を思い出して思わず声を出す、驚く彼に郁未も驚く、
「なんなんですか? どうしました?」
「い、いや何でもないよ」
「やっぱり、そうなんですか?」
半信半疑の郁未、動揺が隠せない真壁だが意を決して、
「あ……そ、そうだよ、君があのときの」
「やっとお会いできましたね、良かったぁ」
しみじみと安心した様子でニッコリ笑う郁未、そして続けて、
「はじめまして! あたし榛名郁未と申します」
「榛名郁未さん、榛名……ん?」
「この前は助けて頂いて本当にありがとうございました、お陰で一週間程で退院できたんです、真壁さんが助けてくれなかったら……」
急に涙目になる郁未、本気で感動していた、その潤んだ目にうろたえる真壁、
「榛名さん? 泣かなくても、早く治って本当に良かった、だからね? 泣かないで」
郁未にも止められなかった、真壁も観念して泣き止むまで見守った、やがて収まった処を見計らってハンカチを渡す、
「ありがとうございますぅ」
素直に受け取ったハンカチで涙を拭く郁未、泣き止んで真壁もホッとする、
「ごめんなさい、何故か自分でも押さえられなくって、嬉しくて」
「泣かれるほど、大層な事してないし」
「そんな事ないです、命の恩人ですっつ!」
「声大きいから、落ち着いて。偶然通りかかっただけで、助けるのは当たり前だよ」
「真壁さんを探すのに大変でした、やっと見つかって良かったです」
「あーそう? 俺は見つかりたくなかったけどね」
「どうしてですか?」
「感謝されるために助けた訳じゃないし、こういうの苦手なんだ」
「気を悪くなさったらスミマセン、でもお礼しないと気が済まないんです」
「えー、参ったな、いいよお礼なんて」
「ダメです、困ります」
「本当にいいって」
「恩人にお礼をするのは当然です」
「恩人がいいって言ってるんだから」
首を全力で振る郁未、
「君も頑固だな」
「生まれつきでゴメンなさい」
「本当にいいんだよ」
「そっちこそ、頑固者」
「ポリシーなの!」
「うぅ……わからず屋!」
そう言って立ち上がる郁未、そのまま店を飛び出してしまった、残った真壁も、
「やっちまったぁ! 何でこうなるかなー」
と頭を抱えた。
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