第21話

翌朝は雲ひとつない晴天、寒気が日本列島を覆い一気に冬一色となった、TV各局は一斉に本格的にな冬の到来をうたい、皆が冬の衣装をまとっていた。

しかし、弱冠二名変わらず部活に燃える者がいた、鷹良と美都である、いよいよ明日から県大会予選が開始される、この一週間で全工程終了し県大会出場校が決まり、そして間も無く県大会で全国出場校を絞る、ノンストップの勝負だ。

運動部に携わる各校の生徒は、テンションが嫌が上にも頂点に達するのも無理はない、頭の中は試合の事でイッパイになる。

鷹良は朝からテンパっている、登校中仲間と出会う、高城だ、

「寒いな、どうだ?」

「そうだな、完璧だ!」

「上等!」

どちらともなく、会話になっていない会話を済まして我先に体育館へ急ぐ、少しでも早く練習がしたい気持ちは共通していた。


一方美都、彼女も更に

いつもより早く登校し誰よりも早く練習に励む、彼女は集中しだすとその行動力は凄まじい、人の入り込む隙を与えないほど没頭していた。

30分程でレギュラーがやって来たが、暫く気付かない程だ、我に返って挨拶をするが姶良恭子以外は引いていた、恭子が声をかける。

「頑張ってるわね」

「はい! 時間がありませんから」

「浅井さん、メンバーじゃないわよね、一年生なのに時間が無いって?」

二人の約束を知らない他のメンバーは言葉の意味を計りかねた、恭子が言う、

「彼女がそう言うんだから無いんでしょ、さあ! 私達も負けずに最後の追い込みよ」

「はいっつ!」

こちらもメンバーの士気は最高潮だった。


方や望海は淡々とマネージャーに徹していた、今暫く鷹良との付き合いを止めてその不安をかき消すように、遮二無二メンバーサポートに徹した。

目の前に彼が居るのに、気持ちを確認し会うことが出来ない、望海の様な心配性にはこれ程の拷問は無かった。

でも彼女の偉いところは、彼を信じて自分も今やれる最大の努力をしている事だ、頑張っている彼に恥じないように彼女なりに頑張った。

そうして、それぞれの最後の一日はあっという間に終わった、その夜。

「美都! いるんだろ?」

となり同士家の向かい合う窓から鷹良が呼び掛ける、間もなくして美都が出る、

「珍しいわね、たかくんから呼ぶなんて」

「何か明日の事で煮詰まっちゃってね」

「遂に県大会予選ね、今年は行けそう?」

「今年はベストメンバーだ、行けそうな気がするよ」

「そう、やっと歴史に名を残せるのね、実現すれば快挙よ」

「当面の敵は浜工業だな、過去県大会出場実績もあるしな」

「たかくんなら出来るよ、悔いの無いように頑張ったんでしょ?」

「ああ死ぬ程頑張った、でも何か不安だ」

「解るような気がするな、私も全国大会目指すって相当プレッシャーかけられてる」

「全国か? 凄いな」

「こっちは元々テニスの名門校だしね、スタートポイント違うから、でも目指す事へのプレッシャーは同じよ」

「そうだな」

「浜工業は、たかくん達が力を付けてる事は知らないから、面白いことになるかも」

「是非ともそうなりたいもんだ」

「テニスとバスケじゃ会場が違うから応援行けないけど、やってくれるよね?」

「そっちも全国出場メンバーに成るよな?」

「やるっきゃないね!」

「おう、もう寒いから窓閉めろよ」

「何勝手なこと言ってるの、そっちから誘っておいて」

「ありがとな、じゃ」

鷹良の方が先に窓を閉めてしまった、一人残された形の美都は星一杯の空を眺める、偶然星が流れるのを見た、しかし何も出来無いまま流れてしまった。

「たかくんのバカ、忘れようとしたのに」

寒さに鼻をすすって身震いをする、ちょっと切なくなって美都も窓を閉めた。


翌日、予選大会当日。

各校出場メンバーは、平日だが例外で授業を受けずに、ジャンル別に割り当てられた会場校へ移動する、開催校に指定された学校は休校となる。

建前スポーツ部以外の生徒は、授業を受ける事になっているが、スポーツ振興に力を入れている県条例で各校任意となっているため、殆どは学校を挙げて応援に走る。

朝一で鷹良や美都も向かう、望海も同様だ、バスケは今年も県内屈指のバスケ名門校の綾瀬第一高校が場所を提供する、テニスは美都達が通う海の部海浜高校だ。

それぞれ前年優勝校がホームグラウンドのため、地のりでは有利になるが勝負の世界だ、勝てば有利になる仕組みは仕方がない。

こうして鷹良達の住む千葉県は最近学生スポーツで急激に注目されて来ていた、県はこれをきっかけに、新たな柱としてスポーツ産業を起こそうと動いていたのだ。

その勢いの中での予選だ、例年に無く嫌が上でも盛り上がっていた。


さて、話を 鷹良達に戻す。

朝一番で望海の携帯にメールが入る、鷹良からだった、望海の胸がときめいた、今までパタリとメールさえ止まっていたのだ。

恐る恐るメールを開く、

゛俺に力をくれ!゛

たった一言だが、彼女の心臓は激しく高鳴った、まだ彼とは会っていない、彼の頑張る姿を思い浮かべ気持ちを込めて返信した。

一方鷹良の携帯が鳴った、鷹良は丁度開催校に到着して、校門の前で緊張していたところだった、望海から返事が来ていた。

唾を飲み込み、返事を確認する、

゛一緒にベストを尽くしましょう!゛

鷹良は目を閉じ集中した、胸の奥から沸き上がる熱い思いを確認した、カッと目を見開き、迷いを吹っ切り、

「行ける」

そう言い聞かせて校門を潜った。


会場は朝から賑わい凄いことになっていた、午前9時開始のため早めに到着している各校は控え室として指定された教室で準備とミーティングを行う。

8時半には潮浜校全員揃っていた、ガッツや望海も勿論だ、前日までの作り込みも皆が万全の様子で、気合いと意気込みが部屋全体にピリピリ伝わってくる。

ガッツがポイントを説明した後で、望海が用意していた物を出す、手作りの腕輪だった、メンバーが意表をつかれて注目する。

「これを腕に着けて戦ってください、片桐先生の奥様と私が作りました、皆の気持ちが詰まっています、私も一緒に戦わせてください」

お辞儀をして一人一人に渡す、教室にいる全ての者に渡され、各々が自分で着けた、ピリピリした空気がすぅーと消えていく、でもお互いの信頼感はその腕輪を見ることで確認できた。

開会式の時間が迫ってきた、各教室で次々と号令が聞こえる、ガッツも気合いを入れて叫ぶ、皆も気合いを入れた。


会場に次々と選手が入ってくる、観客席も開催校の生徒中心に応援の生徒で一杯だった、独特のざわつきと緊張感に気持ちを持っていかれたら実力は発揮できない。

選手が全員入場を済まし、シンと静まり返る会場、開会式が始まるが選手は緊張感が最高潮に高まっていく。

式は開催校校長の挨拶、試合の流れ説明と、会場内の案内などが粛々と進み式は終了した。

第一試合は9時半から開始となるが、潮浜校は第2試合である、第一試合にはいきなり開催校が出るという事、こことは最後まで当たりたくない相手、もうひとつ注目は潮浜工業である、こちらは潮浜校と同じ第2試合に組み込まれる、直接ではないが、お互い勝てば次でぶつかる事になる。


さて、第一試合が始まる、皆が開催校の綾瀬第一の試合に注目した。

ガッツは試合を見ながら、望海に逐一メモを取らせていた、学校によってはビデオカメラを持ち込んで一部始終を撮影する学校もあった、今や情報戦術も色々だ。

ガッツはメンバーに、自分のポジションと同じ選手と、そのまわり選手との関わりを、自分ならどうするか?関連付けながら、リアルタイムで判断出来るよう、イメトレを指示してあった。

その指示に従い食いつくような眼差しで選手を追うメンバー、既に彼らの中では試合は始まっていた。

横で見ていた望海は、今回が初めてのベンチ観戦である、応援席では何度と無く試合を見たことはあったが、今目の前で自分同じ目線で繰り広げられる試合は全く別物の迫力と臨場感あった。

胸がドキドキする、横を向くと食い入るように真剣な眼差しのメンバーがすぐそばに居て、同じ場所に自分も居る。

このドキドキは、まるで一緒に試合をしている錯覚をさせ、選手と同じようなプレッシャーが望海にも襲いかかる。

「みんなはこんな凄いプレッシャーの中で戦っているんだ」

「すごいよ、何だろうこの胸の奥から沸いてくる力」

試合中は雰囲気に飲まれないように必死で付いていく、そして圧倒的な大差で開催校綾瀬第一が圧勝、他の試合も僅差で勝負がついて第一試合終了。

会場内の皆は、綾瀬第一の鮮やかすぎる圧勝に度肝を抜かれていた、試合前は血気盛んだった場が一時鎮静するほどで、ライバルの潮浜工業も同じだった。

雰囲気がおかしい空気に望海は気付いて、

「皆さん、まだ始まったばかりですよ! 腕輪を見て集中してください」

助けられるようにガッツも畳み掛ける、

「これは綾瀬の心理戦術だ、騙されるな! 楽勝相手を全力で潰しやがった、でもお陰で奴等の戦闘力が見えてきた、今のお前たちなら勝てるぞ」

その言葉に消沈するメンバーが振り返る、空気が変わり出した、ガッツが言うなら本当かもしれない、そんな信頼感がチームにできた。

「お前らは強い! 今回の対戦校だけでなく、同時に戦う潮浜工業も一緒に蹴散らす位で丁度いいぞ、集中して行ってこい!」

「はいっつ!」

いよいよ一回目第2戦が始まる、高城が号令をかける、腕輪で乾杯して自分のポジションへ散った、コート中央で審判がボールを高く投げた。


試合結果は最初の奇跡を生んだ、潮浜校圧勝! さらに潮浜工業がなんと僅差で負けたのだ、番狂わせな両校の結果は会場に動揺を与えた。

一番動揺したのは綾瀬第一である、番狂わせも甚だしかった、対戦相手と黙していた潮浜工業が消え、ノーマークの潮浜校が残ったのだ、しかもその圧勝ぶりは綾瀬第一のそれを越えていた。

異常に盛り上がったのは、潮浜校メンバーと十数人しかいなかった同校の生徒である、お祭りのような騒ぎになり、周りが一瞬引いたほどだ。

この知らせはすぐに校長に知らされた、その結果どうなったか? 準々決勝が始まる午後3時には、会場に百人以上の潮浜校の応援が駆けつけたのだ。

勿論校長も急遽来場となる、わが校の一大事である、まるでもう優勝したような勢いの応援も手伝って、初日終了時点で準々決勝まで終了時になんと、トータルポイント獲得1位で潮浜校がベスト8に残ったのだ。

そのドラマチックな展開は全校生徒の話題となる、一日目終了時にガッツが言う、

「本当に工業まで潰して! 解ったか? お前らの今の実力が、お前ら強ぇーんだよ」

「はいっつ!」

ガッツが言ったことは本当になった、結果が証明したのだ、驚いたのは選手本人だろう、ガッツの言う通りにがむしゃらに動いただけなのだから。

しかし彼等も気付かない所でちゃんと成長していたのだ、息抜きをして気持ちをそらしていたので、相当の練習を積んでいても自覚が無かっただけ。

実は何倍もの過酷な練習に耐えていたのだ、でもガッツに上手く気持ちをコントロールされて、気づかなかったのだ、またしてもガッツマジックである。

ガッツには今季には思うところがあり、人一倍こだわりがあった、何としても全国大会出場する!彼の頭には予選は通って当たり前、県大会で入賞を果たせるチームに仕上げてきた確信があった。

「待ってろよ、天上あまがみ思い知らせてやる!」

どうやら、ガッツには腐れ縁があるようである、それは後で話すとして、かくして第一日目はこうして終了した。

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