第18話
二人が部活に燃えている一方、望海と郁未は姉妹で久しぶりのショッピングに町に出た、街の中心地からバスで少し内陸へ行くとバイパスがある。
このバイパスは日本でも屈指の主要幹線で、半島先にある観光地や、房総沿岸の工業地帯への車が多く、大型店舗も幾つかあってお洒落な店も沢山出ている。
若い子は数時間でいける東京に行く場合も少なくはないが、望海達はそこまではせず、専ら近場の大型モールを利用する事が多かった。
最寄のバス停で降りて少し歩く、店舗に入ってエスカレータで目的の階へ上がる、
「ここ来るのも久しぶりだー」
そう言ったのは郁未だった、望海も調子を合わせて、
「私もよ、今日は快気祝いも兼ねて郁未の好きなもの買っていいよ」
「えっつホント? やったー、入院中に雑誌で見つけて欲しい服があったんだ」
「良かったね、でショッピングしたらついでにここで昼食とりましょう」
「オッケー」
目的のフロアーに着いて、二人はショッピングを楽しんだ、時間が経つのを忘れていたので気がついたら12時を過ぎていた。
望海達は最上階のフードコートへ上がって店を選ぶ、ここでも迷っていたが望海の鶴の一声でパスタを食べる事にする。
パスタだけでも三店舗ある、あとは郁未に店を決めさせて入る。
「パスタロッテに入りたかったな」
席に着きながらぼやく郁未、
「だったらもっと早くいかないと、凄い行列だったじゃない」
「並ぶにはちょっとあたしのお腹が我慢してくれそうにないしな」
そう言って望海に渡されたメニューを一通り眺めて、魚介類のトマトソースパスタを選ぶ、望海は迷わずカルボナーラにする、
「お姉ちゃん、チャレンジャー! 食べるの難しくない?」
「気をつければ大丈夫よ、食べたいものは迷わずたのまなきゃ」
「香澄姉どうしてるかな?」
「久しぶりだもの、休みを楽しんでいるでしょ、郁未はどうなの?」
「病み上がりだから少し疲れたけど、ショッピングは止められないね!」
「そうだね、みてるだけでも楽しいもんね」
「あ、お姉ちゃんさっき白のセーター買ったよね? また貸してよね」
「今度一回着たらね、貸してもいいよ」
「やった! でいつ着るの?」
「へへへ、ナイショ」
「判った、たからっちと過ごすクリスマスイヴだな?」
「ナイショなの!」
「ふふふふ図星と見たぞ、顔赤いもん」
「郁未、変なところで勘がいいんだから」
「いやいや、あたしはお姉ちゃんがシアワセならいいのさ、あたしが先にお嫁に行ったら申し訳ないもんね」
「郁未自信満々ね、そっちはもういるの?」
「あたしは大丈夫、お姉ちゃんみたく奥手じゃないから、直ぐ見つけるし」
「ふん、それは恐れ入りますわね」
などと話をしているうちに、注文の食事が届いた、皿がテーブルに置かれる、良い匂いが漂った、郁未のお腹が鳴る、
「さあ! 食べるぞぉ頂きまーす」
まずは貝を一口食べて、
「旨い!」
パスタをフォークで巻いてパクリ、そこで望海を見ると器用にスプーンを使って平麺を巻いて口にいれるのを見て、
「そう食べればクリーム跳ねないのか」
「見た目ほど簡単じゃないけどね」
そういって次々と器用に巻いて口にいれる望海、そのやり方を真似て自分でもやってみる、やっているうちに食べ終わる迄にはスムースにできるようになった。
食後にオレンジジュースをストローで飲みながら上目使いに郁未が尋ねる、
「最近たからっちとは、どう?」
望みは紅茶の色を確認しながら、
「どう、って?」
「いや、上手くいってるのかな、と思って」
「あなたの知ってる通り、変わらないわよ」
「それならいいんだけどさ、最近お姉ちゃんウキウキ感が感じられないから」
「えっ、そんな事ないよぉ、うん」
「もしかして、上手くいってないないんじゃ?」
「そんな事ない、県大会までの我慢よ」
「そういうことか、寂しいからあたしを休みに連れ出してストレス解消なんだ」
「それは邪推。妹をそんな事で利用しないわよ、たまには付き合ってくれてもいいでしょ?」
「それは嬉しいけど、じゃあしばらくお預けなんだ」
「な、な何がよ?」
「へ? 付き合いがよ、何か他にあるの?」
「い、いや何も」
「キス、した?」
「中学生がそんな事知らなくていいの」
「中学生だってするよ、キス位」
「郁未は、まさか?」
「まだないけど、それくらい普通でしょ?」
「そうなの?」
「セックス済ましてる子もいるよ、友達じゃないけど」
「ケフンケフン、それはまずいんじゃない?」
「あたしもそう思うけど、事実だね。でもカップルがキスをするのは普通かな」
「私がチューボーの頃はそうじゃ無かったけどな」
「それは、さすがにちと遅れてる様な、香澄姉の年代ならまだ解るけど」
「ふん! ネンネですみませんねっ、さあそろそろ行こっか」
「それで、お姉ちゃんキスは?」
「バスの時間が迫ってる」
そういってそそくさとレジへ向かう、
「あやしい、もっとツッコまないと」
そういって後を追う、郁未。
その後、エスカレータでも、バス停へ向かう間も、バスの中は・・・さすがに無いが、降りた後もしつこく追求する郁未、巧みにかわす望海、攻防戦は続く、バスを降りる。
甘味処「さくら屋」を過ぎた時だった。目先の交差点が見えた、そこに微笑ましい光景があった、高校生達が車椅子の老人を押して渡っていたのである。
その少女は腕章を着けて、制服を着ている海之部海浜高校のだ。
「ボランティアだわ、たしかお姉ちゃんもやってた」
「香澄姉が? でも着ていた制服と違くない」
「二年前にデザイン変わったのよ、でも伝統は変わってないんだね」
「制服カワイイ、そっか香澄姉が通ってた高校なんだ」
そう言って、笑顔でボランティアをする少女の様子を見つめる郁未。
「どちらもとっても顔が生き生きしてるね? なんかいいかも」
「お姉ちゃんはあのボランティアを経てお医者さんになった、きっと何か感じるところがあったんでしょうね」
「ふーん」
この時郁未は閃くものがあった、おぼろげながら自分の将来の目標が見えたきがしたのだ、そこで何となく望みに聞いてみる、
「介護ってさ、やっぱり大変なんだよね?」
思わぬ問いに戸惑いながら望海が答える、
「体が不自由な人を助ける仕事だからね、難しい試験もあるし何より人の面倒を見るのが好きでないととても続かないお仕事よ」
「そうだよね……大変だよね」
そう言っておきながら、郁未の中で何かの光がぱーっと明るくなる期待感が広がる、そして心が軽くなってウキウキしてくるのだった。
その時ボランティアをしていたのは、
朋華は、このボランティアをしたいために海之部海浜高校に入った、本を読むのが大好きで夢見勝ちなフワフワした少女だが、彼女には悲しい思い出があった。
朋華にはお爺ちゃんが居た、まだ七歳の頃大好きなお爺ちゃんが小学校入学祝いにランドセルを買ってくれた、朋華はそのランドセルをしょっているとお爺ちゃんと一緒に学校へ行っている様に思えた。
そんなある日、急いでいた彼女は走って学校へ向かっていた時、交差点一歩手前で転んでしまった、その目の前を暴走する車がけたたましく走り抜けて行く。
気がつくとランドセルがボロボロに擦りむけていた、悲しくなる朋華だがランドセルがクッションなって怪我一つ無かった。
朋華はお爺ちゃんのランドセルが傷付いた事に申し訳ない気持ちになって、泣きながら学校へ行った。
その日の午前中、突然先生が朋華を呼び出した、そこで彼女が聞いたのはお爺ちゃんが亡くなったという知らせだった。
大好きなお爺ちゃんを亡くした事がショックで暫く人と接するのを避けるようになる。
その頃彼女は読書を覚え、沢山の本を読み耽ることで気持ちをまぎらわしていた。
小学校卒業するまで、ボロボロのランドセルを大事に背負い続けた、服装も地味なので学校でイジメの対象になっていたが、朋華はお爺ちゃんと居るようで十分幸せだった。
ランドセルが守ってくれたから無事でいられたし、転ばず交差点に入っていたら恐らく車に跳ねられていたろう、お爺ちゃんが守ってくれたと今でも信じていた。
中学生以降はさすがに友達も出来たが、高校生の今でも彼女は着る服も無頓着で、見た目も眼鏡に三つ編みで大人しそうな文学少女の典型のような容姿をしている。
そんな彼女だが、お爺ちゃん子だった事もあってか、お年寄りとはウマが合った。
こんな自分でもお年寄りは便りにしてくれる、だから彼女は将来介護の仕事をしようと中学で奉仕活動の体験をした時から決めていた。
その夢の第一歩として、海之部に入ってボランティアをしている、普段目立たない少女だが介護士になるという、秘めたる熱い思いがあった。
海之部には、原則どこかのクラブに入る決まりがあるが、特例でボランティアをする生徒は免除される、勿論掛け持ちも可能だ。
朋華は部活動はせずに、ボランティアのみにしていた、学校の職員室にはボランティアを希望する施設などの情報が貼り出されており、名簿で申告すれば学校が施設に取り合ってくれる、あとは生徒は制服に専用の腕章を着けて施設へ行けば、ボランティアできる仕組みになっている。
実は、この仕組みを整備したのは香澄だった、当時からボランティアはあったが、ここまでシステム化したのは彼女と現在も地元で教員となり保健医をしている、
さて、朋華達ボランティアは車椅子散歩を終えて、施設゛養生院゛に戻る、
「やあ御苦労様、ありがとう」
そういって、付き添っていた介護士の佐竹まどかが労いの言葉を皆にかける、中に入るとあとは専属介護士が替わって車椅子を引いて中へ入っていった。
佐竹が生徒達に言った。
「今日はこれお仕舞いでーす、いつも本当にありがとう、名簿に記入したら、気を付けて帰ってくださいね」
生徒も一斉に、
「お疲れ様でーす」
そう挨拶しておのおの帰っていく、朋華は佐竹に話しかける、
「佐竹さん、ちょっと良いですか?」
「綾部朋華さんね、どうかした?」
「あ、いえ佐竹さんがしている仕事について伺いたいんです」
「介護士のこと?」
「お時間少し良いですか?」
朋華は介護の本とメモを取りだしていたそれを見て佐竹はピンときて、
「介護士になりたいの? いいわこっち来て」
そう言って朋華を中へ案内して二人事務室に入っていった。
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