第15話
その後、ランキング上位は変わらず、四位以下のカップリングも徐々に埋められていく、イベント開催まで一週間を切った頃にはベストテンのカップリングが決まった。
男子は全て二年生、女子は二年生が八人、一年生が二人食い込んでいた、これはあくまで女子高生徒の一方的な人気投票であり、男子の思惑とは関係ない。
でも女子の恋愛モチベーションに一役買って、結構嘘が真になることがあるのだ、勿論全くランクと関係ない者同士がカップルになることも少なくない。
この時期校外でもその動きは活発になっていた、町中で二校の二人を見掛ける機会が増えてくる、その中美都はブランクを埋めようと部活に汗していた。
最近は日が落ちるのが早くなったため、部活は県大会メンバーを除いて早めに切り上げるようになる、メンバーはこの時期限定で体育館一部を借りて遅くまで練習する。
美都はメンバーから外れたので早期帰宅組になる、同じテニス部の菜々美を含む友達四人と学校を出る。
「終わった終わった!」
と菜々美、他の娘も、
「一年生はこの時期早く帰れるからいいね」
美都だけは浮かない顔をしている、それを見て菜々美が、
「しょげないって! メンバーから外されたのは気の毒だけどさ、ここはポジティブ思考でパーっと例のバーガーショップへ繰り出そうよ、私もうお腹ぺこぺこ」
「そだね、私も限界。よし、ショップに向かってダッシュだぁ!」
「何? その変わり様はー」
美都が走り出すので、吊られて皆も後に続く、やがて店に着いた。
「ハアハア……もうだめ、美都なに本気で走ってるのよ!」
「お陰で10分で着いたでしょ?」
他の女子も膝を抱えながら、
「勘弁してよさぁ、美都体力余り過ぎ!」
一人殆ど息が切れてない美都が、
「鍛え方が足らーん! さぁ入るよ」
美都を先頭にバーガーショップへ入る四人、入って四席を確保し座る、各々好きな物を注文してお喋りを始める。
「男子と交流できるのはいいけど、潮工の生徒ってコワイイメージあるけどどう?」
一人が口火を切る、菜々美が、
「うちの同期で潮工いったやつがいるんだけど、最近は女子も入ってきて雰囲気良くなってるって、三年生にまだ古い体質残ってるらしいけど」
「じゃあ今回のイベント三年生は出ないから安心だね」
「以前ほどじゃないけど、運営委員会は三年生がやってるから」
「脅かさないでよ、只でさえランクした一年生は二人しか居なくて目立つんだから」
と、美都も話に加わる、もう一人も加わり、四人で情報が飛び交う、
「もう一人の一年ってだれなんだろう?」
「今回委員会になった佐川夕夏って三年、聞いた話だと去年のイベントでランクから外された過去があるらしいよ」
「まさか根に持って委員会に入ったとか? コワ!」
「あと潮工の運営委員会で徳井浩介ってヤツがさ、乱暴らしくてウチの生徒を脅してるらしいの!」
「そんなのが運営委員会に居たら、今年も安心じゃないじゃん」
「えー、じゃ美都ともう一人の娘可愛そう」
「ちょっと! その私の前でそんな話しなくたって!」
「美都何言ってるの、事前に知ってれば警戒する事ができるでしょ?」
「そりゃ、そうかもしれないけどちょっと言い方をさあ」
「ちょっとやっかみもあるからねっ」
「ひっどーい! 私だって好き好んでランクされた訳じゃあない」
「解ってる、美都はそんなでテングになるような娘じゃないって、でもランクされた以上、周りはそう言う目で見るよ、だから今のうちにウチらで対策立てとかないと」
「菜々美、みんなありがとう」
「でも、あと一人の一年生ってだれだろう?」
「さあ?」
みんな異口同音に答え首を傾げる、最後の最後七位の彼に割り当てられたお姫様、彼女も美都と同じ境遇である、美都は彼女に会ってみたいと思った。
翌日その生徒は直ぐに判った、教室のランク表に書かれてあったからだ、1年3組の
綾部朋華と書いてある、美都は知らなかった。
そこへ、菜々美が美都の処へやって来る、
「もう一人の娘見た?」
「うん、でも私知らない娘だわ」
「私も名前位しか、ねえ見に行かない?」
そう誘われて美都も乗った、二人は3組の教室に行った。
行くと結構人が集まっていた、教室を探すが顔を知らない二人に見つけられるはずがない、しかし他の生徒が見つけて指を指した。
その先を見るとメガネをかけた大人しそうな少女が何人かに取り囲まれていた、その顔は蒼白で今にも泣き出しそうな表情をしていている。
どうやら、クラスメートに半分脅しのような話をされ驚いているようだ、教室から出てきた生徒に彼女の事を聞いてみた。
「本人も驚いてたみたい、元々文科女子だし大人しい子だから皆も何かの間違いじゃないかって」
「そもそも選定基準も四位以下、よく解んないし」
「あ、あなた1組の浅井美都さんでしょ? 偵察にでもきたの?」
など、様々な事を言って去っていく、そうしているうちに綾部朋華が泣き出して教室から飛び出してきた、美都達の横をすり抜けて走っていった。
中からは、やっちゃった、とか白けた声が聞こえた、その時チャイムがなり、彼女が気になるが、二人は仕方なく自分の教室へ戻った。
昼休み、美都は彼女が気になって再び3組の教室を覗く、ざっとみただけだったがその姿は無かった、教室を出てきた生徒に聞いてみると、保健室に居るとの事だった。
美都はそのまま保健室へ行ってみることにした、部屋の扉をノックする、保健医の返事を確認して中に入る、先生がビックリして美都を見て、
「綾部さんに続いてあなたも? 浅井さん」
美都はこの保健室医の今井奈穂子先生とは仲が良かった、保健委員をしているからだ、
「いいえ! 私は相変わらず元気です、その綾部さんが気になって」
「あれ、浅井さん彼女とはクラス違うでしょう?」
「そうなんですが、ちょっと訳あって」
「ふーん、良く分からないけど、彼女お休みよ、そこ」
カーテンの閉まっているベッドを指差す、美都はそちらを見ながら
「そうですか、今井先生あの……ちょっと聞いて良いですか?」
「どうかした?良いわよ」
「イケメン投票ランキングご存じでしょうか?」
「うん、授業中は剥がされてる、アレね? 現物見たこと無いけどね」
「そうアレです、彼女、綾部さんそれから私二人だけ一年生が入ってるんです」
「それは通常あり得ないと言いたいの?」
「普通二年生が選ばれる筈です」
「成る程、一種のいじめじゃないか?と言いたいのね」
「その可能性があります、私ははじめてなので推測ですが、友達の情報でも三年生の新人潰しって」
「うーん、もしそうなら折角の素敵な伝統が泣くわね」
「本当なら私も残念です、私はそんなのに屈する気はありませんから大丈夫ですけど、彼女は芯が弱そうなのでこのままだと心配で」
「かといって、何の証拠もなしに騒ぐのもどうかと思うし、もう少し様子を見ておいたほうがいいわね」
「やはりそう思いますか?でも綾部さんは免疫無さそうだから、様子を見てる余裕があるかどうか」
「判った、いざとなればこの部屋に逃げ込んで貰うとして、来たらここでフォローするから心配しないで」
「ありがとうございます、じゃ失礼します」
美都はそう言って保健室を出た、教室へ戻ると菜々美が駆け寄ってくる、
「何処行ってたの? 探したよ」
「ごめん、保健室へ行ってたの」
「えっつ、どうかしたの?」
「あいいえ、綾部さんが気になってね、午前中ずーっとあそこに居たって」
「じゃあ朝の件からずーっとなんだ、早速犠牲者第一号ね、次は美都よ」
「考えてみれば、私は既に脅されてたかも」
「あ! そうか、入院するきっかけが不良に絡まれたからなんだよね、でもその時はまだランクの話さえなかった時でしょ、偶然じゃない?」
「でも偶然にしては、ね、今となっては証拠が無いけど」
「これからは気を抜けないね」
「そうだね」
自分の身を守るには、少しでも味方と思える人を増やすしか無いと気を引き締めた。
その日の夜7時過ぎ頃、美都は自分の部屋で勉強をしていてふと、隣の鷹良の様子が気になった、少し淋しくなったのだ。
今日も練習の追い込みでまだ帰宅してないかもしれないが、窓を開けてみる、部屋の明かりが付いていた、心が少し暖かくなった、窓越しに思いきって声をかける。
「たかくん、いる?」
窓の向こうから声がした、人影が映ってやがて窓が開く、
「よう美都、窓から呼ぶの久しぶりだね、どうかしたのか?」
「うん、勉強してたらちょっと息抜きしたくなって」
「少し表情沈んでる様に見えるけど、何かあったんじゃない?」
「やっぱり、レギュラー落ちちゃった」
「そうか、それは残念だけど、自分の決めた道だ、悔いの無いようにやれよ」
「ありがとう、あ……今日は星がきれいだぁ、前はこうやって飽きもせず二人でずーっと眺めてたよね」
「そんな事もあったかな、寒くなって空気が清んでるからね、気がつかなかった」
「ううー、寒っつ! もうこんなに寒いんだね、今日部活無かったの?」
「最近は朝練メインにシフトしたから、帰りは遅くないんだ」
「そう、あ……付き合わしちゃってゴメンね、そろそろ勉虚しなきゃ」
「他に話したい事があったんと違うのか?」
「え?あ……わすれちゃった、ははははは」
「俺たち幼友達なんだ、悩みがあれば何時でも言ってくれ、美都風邪曳くなよ」
「ありがとう、じゃ」
お互いの窓が閉まる、美都は思った鷹良は見抜いてたと、でも、
「幼友達、かぁ」
ため息の変わりにくしゃみがでた。
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