第13話

週末の二日目の日曜日である、鷹良が起きたのは8時を過ぎていた。

昨日彼が家に帰ったのが夜の12時近くだった、片桐がタクシーを呼んでくれたので望海ん家経由で帰れたが、それでも高校生のご帰宅としては遅い方だ。

今は一人でとやかく言うものがいないだけ幸いだが今日は違った、望海がモーニングコール宜しく電話をかけてきたのである。

昨日帰りにタクシーの中で話が出て、美都への見舞いに行くことになっていた、恐らく鷹良は起きられないだろうと思ってわざと寝起きを狙ってかけてきたという訳だ。

面会開始時間は午前10時、それに合わせて9時に待ち合せしてあった。

望海はこういう変則的な寝起きには慣れていた、姉香澄の変則的な勤務に合わせ何度も世話をしているからである。

果たして9時に約束のハンバーガーショップ前に鷹良は現れた、勿論先に居たのは望海だ、ニコニコして挨拶する、

「鷹良さんお早う、しっかり眠れました?」

「あー、お早う……寝たと思うけどまだぼうーとしてる、君はタフだね?」

「フフフフ、鍛え方が違うもの」

そう言って腕こぶしを見せる、鷹良は苦笑するばかりだった。

「朝ごはん食べた?」

首を振る鷹良、見透していた様に望海、

「私も。サンドイッチ作ってきたから病院の休憩室で食べましょ」

本当は鷹良食べてきた時のために、少しだけ食べてきたがそれは言わずにいた。

「あ、バスが来た。乗りましょう」

そういって鷹良を引っ張るようにバスに向かう、鷹良はついていった。


やがて「総合病院前」停にバスが着く、沢山の人が降りた、バスが発車する、降りた人たちに揉まれるように二人も病院へ入っていく、

「開いて直ぐでも結構沢山の人くるんだな」

鷹良が感心ている、望海が説明する、

「まだ遅い方よ、少しでも早く終わりたいから、7時頃から待ってる人もいるもの」

「へえー、そうなの?暫く縁が無かったから分かんないや」

「鷹良さんは健康優良児だから、解らなくていいかもね、私も姉が医者じゃ無ければ知らなかったと思う。あ、休憩室こっちよ」

二人は、休憩室に入って隅の窓際席に座る、そこは中庭が見えて朝早いと朝日が差し込む席で、小寒くなってきたこの時期には丁度いい席だった。

「早起きだとこんな特等席に座れていいね」

「なるほど、どんどん席が埋まっていくな」

「さあ、私達は遅めの朝食を済ましちゃいましょう」

そういって、望海は手提げ篭からサンドイッチを出してテーブルに置く、

「これ、朝早くに起きて作ったの?」

「うん、水筒に紅茶入れて持ってきたから飲んでね」

望海の手際良さに舌を巻く鷹良、一口頬張って舌鼓をうつ、望海は彼を見て、

「どう?味は」

「旨い! 望海さんは上手だよね」

「良かった、どんどん食べてね」

望海も安心して一つ頬張る、自分でも自信が持てて尚美味しいと感じた。


ゆっくり朝食を楽しんで鷹良は全部きれいに食べてしまった、紅茶を飲みながら、

「いやぁ、美味しかったご馳走さま」

「沢山作って残ったらどうしようと思ったけど、全部食べてくれてありがとう」

「当たり前だけど、美味しいものは食べられるよ」

「気持ちいいくらい、満足して貰えて良かった、作った甲斐があったわ」

「これなら、お店で売ってても買うな、望海さんサンドイッチはプロ顔負けだよ」

「サンドイッチ、だけ?」

「あ、いやいやこの前ご馳走になった料理も美味しかったよ、また食べたい」

「ありがとう、暫く一人なんでしょう?何時でも言ってね、作るから」

「そんな、わがまま言えないよ」

「ううん、鷹良さんに作ってあげたいの、迷惑?」

「全然! こっちこそ恐縮しちゃうよ、じゃあまた頼むかも」

「うん、何時でも言ってね……あ、そろそろ時間だ」

「よし、行こうか」

10時少し前になっていた、二人は片つけて席を立った


総合案内所で病棟・病室を確認する、事前に美都の母親が来ている事は確認済みで、エレベータで5階に降りる。

部屋は、512号室の相部屋で名前゛浅井美都゛を確認して入る、カーテンは開いており、美都と母が会話をしていた。

「お早うございます」

鷹良が挨拶する、美都が見つけて挨拶する、それに気づいて母も挨拶する、

「オバチャンお早う、ご無沙汰です」

「たかくん、よく来てくれたわね、あらそこにいるのは確か榛名望海さんでしたね? 来てくれたのね、ありがとう」

「宇崎さんと一緒になりましたけど、お元気そうで良かったです」

母が娘に望海を紹介する、望海にも初対面の美都を紹介する、

「あのときはありがとうございました」

美都が望海にお礼を言う、望海は鷹良を指して謙遜する、それを受けて鷹良が、

「あの時は何が何だか解らなくて、でも元気そうで良かった」

「たかくん、ありがとうお陰でもうすぐ退院出来そうだよ」

「うん、でもあんな時間どうして歩いてたの? フラフラしてたし」

「部活帰りに変な連中に絡まれて、言い合いになって……」

それを聞いて母が声をあげる、

「まぁ、そんな事あったの! 何も無かったの?」

「お母さん、それは大丈夫よ場所が繁華街だったし、こっちも怯まなかったから相手も仕舞いには諦めて行っちゃった、あんな柔な連中に負けないわよ」

「美都! 無茶しちゃダメよ、たまたま事なきを得たけど」

「そうだよ、相手は男複数だ何があっても不思議じゃない」

鷹良が心配してくれた事に安心して美都は、

「うんそうだね、本当はとても恐かったの、気が張ってたのが急に力が抜けちゃってその後は、たかくんの思わぬ顔を見て安心しちゃったのかな、それから意識が無くなって」

鷹良とこんなに親しげに話す美都に、望海はちょっと複雑な心境だった、女性として彼女を心配する気持ちと、鷹良の彼女として彼の心の傾きを心配する気持ちが混同する。

鷹良が答える前に望海が答える、

「宇崎さんが本当にいいタイミングで居て良かったわね?」

そう言って望海は笑顔を作って彼を見る、鷹良も彼女をチラッと見て美都に答える、

「うん、結果オーライ、ホント何よりだよ」

笑顔を自分に向ける彼を見ながら、何か違和感を感じる美都、隣の望海に目が合う、彼女の目が泳いだ、でも直ぐに美都を見る、睨むような目ではないが笑った目でもない、穏やかだが毅然とした目。

「二人ともありがとう、一緒に来てくれたのは偶然?」

美都は素直に気になっていたことを、どちらへともなく訪ねる、

「私は家族が入院してるから」

望みが答える、鷹良は答えられなかった、はっきりしない結果に美都もそれ以上突っ込まない、怖かったのだ。

望海が続ける、

「私はそろそろおいとまするわ、宇崎さんどうするの?」

顔を見ずに訊ねる、鷹良は少しかんがえて、

「折角だからもう少し居るよ」

「わかった、美都さん早く退院出来るといいですね。では、お母さま失礼します」

二人に挨拶をして病室を出ていく望海、手を振って挨拶をする鷹良、目で゛後で゛と挨拶する、直ぐ振り替えって美都の方を向く。

一通り世話が終わったようで、持ち帰る物を整理していた母に美都が、

「お母さん、今日はもういいからね、明日の準備で色々大変でしょ?ありがとう」

「そう? じゃあ帰るわね。いくら室内だからって油断して風邪引かないようにね」

「うん、分かった」

母は、鷹良と挨拶を交わして出ていった、出ていくのを確認して暫くして美都が話す、

「本当に久しぶりね、もう見舞いに来てくれないかと思った」

「ごめん、県大会が迫ってて部活一辺倒だったからな」

「ふっ、やっぱりそうだと思ってた、相変わらずバスケばっかりね」

「そういうなよ、美都もテニス異例の一年生で県大会に出るって……」

「今回の入院でビミョーだな、強豪校だから強い子イッパイ居るし多分アウト」

「でも他の一年生より来年有利だろう」

「ありがとう、たかくん位だなそんな事言ってくれるの」

暫く会話が途切れて隣のベッドでの会話が目立つようになる、間も無く美都が、

「さっき一緒に来た彼女、この前一緒に歩いてた娘だよね?」

「あー、榛名望海さんだね?バスケ部のマネージャやってる、よくやってくれてるよ彼女。美都と同じ一年生だ」

「そうマネージャなの、だからか……ふふ、しっかりしてそう」

「彼女のお陰で俺たち大助かりさ」

「それは良かった。たかくん私の分も県大会頑張ってね」

「おうよ!任せとけ」

大袈裟にポーズをとる鷹良を見て、相変わらずだなぁと微笑ましくなる美都、自分の方が変わってしまったのかな?と反省した。


さて、望海は郁未の病室で鷹良の来るのを待っている、その気持ちを知らずか、郁未は望海が来た時から歩けることの喜びを切々と語っている。

郁未の話どころでは無いので、適当に相づちを打っていると、郁未が変に思い、

「ねえ、お姉ちゃん話聞いてる?」

「ああ、ごめん。なんだっけ?」

「あー聞いてない、何ソワソワしてるの?今日はたからっちと一緒じゃないの?」

「もうすぐ来ると思いますっ!」

「恐っ、こういう時は関わらないほうがいいかも」

「何か言った?」

郁未は作り笑顔で首を横に大袈裟に振る

「ここで待ち合わせしてるんでしょ、遅れてるの?」

「そうじゃないけど……」

「ないけど?何なの」

「うーん」

「はっきりしないなぁ、待てないんだったら呼びに行けば?」

「そんな事できません!」

そのときだった、鷹良がやって来る

「何が出来ないって?」

「鷹良さん! もう済んだの早かったね」

望海の豹変ぶりに郁未が突っ込む、

「さっきは待ちかねて貧乏揺すりしてたくせにー」

「してません! 郁未は黙って、鷹良さん彼女何か言ってた?」

「何かって?」

「いえ、あの、その」

モジっている望海の後ろで郁未がメモで鷹良に姉の本音を知らせる、

゛望海の事聞かれたとか、デートに誘われたとか゛

それを見てやっと理解する、

「あー、そんなんじゃないよ、部活忙しくなってるから頑張ろうとか近況の話だよ」

望海が安心している後ろで郁未が、ほらね?顔で鷹良にウインクする、

「たからっち、郁未歩けるようになったんだよ、ほら」

そう言って足を曲げ伸ばしする、それを見て鷹良が、

「すごいじゃない、退院日は決まったの?」

「まだなんだなぁこれが、でも今週末には出たいけどな、そうしたらさくら屋の苺ショートケーキ忘れちゃだめだよ」

「OK! 覚えてるよ」

「郁未、何? そのショートケーキって。聞いてないわ」

「ひ・み・ちゅ!」

「鷹良さん?」

「前約束したんだ、心配しないで、望海さんも一緒に三人でいこうよ、ね?」

「ううー、何か上手く丸め込まれたような」

しかし、悪い気はしなかった。

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