第7話

結局、美都の病状は検査結果を待たなければならないという事が解っただけで、家族は一旦引き上げを言い渡された。

父親は何とか付き添いたいと食い下がるが、病院側で集中管理しているからと説得され、渋々納得させられた。

皆でぶつぶつと言い合いながら、なかなか帰ろうとせず、ロビーで固まっていると、次から次へと救急患者はが運び込まれていく、話では聞いていたが、思った以上に緊急患者は多いようである。

そんな事をしていると、望海と鷹良を呼ぶ声があった、振り返ると望海の姉の香澄が白衣姿で立っていた、鷹良から事情を聞いて、

「ああ、さっきのお嬢さんね?」

どうやら、余りの忙しさに急遽ヘルプで呼ばれて、美都の運ばれた診察室で他の患者を診ていたらしい、彼女の助言もあって両親はやっと少し安心したらしい、帰る気持ちへ踏ん切りが付き、ロビーから動き出した。

香澄はヘルプしたことで一旦家に帰れる事になったらしい、望海と二人で帰ることになり、鷹良は美都の両親とタクシーで帰ることになった。

鷹良達は先に出発して、望海は香澄が支度を済ますまで待って遅れて二人で病院を後にした。


家に着いて望海は香澄と一緒に、荷物を持ってタクシーを降りる、玄関をくぐって居間まで入る、荷物整理もそこそこにソファーに体を沈める二人。

「ふーっ」

どちらともなく大きなため息をつく、香澄が望海をねぎらう、

「今日は大変だったね? ありがとう」

姉だって疲れているだろうに、姉を気遣って元気そうにニッコリ笑って返す。

望海は直ぐ立って湯を沸かす、直ぐに紅茶を入れて姉に渡す、

「ありがとう、望海は昔からよく気がつくね、お姉ちゃんや郁未には無い気配りが上手よね、これからどういう仕事に付くか判らないけど、その気遣いはきっと役立つでしょう」

香澄はしみじみとした口調で言ってゆっくり暖かい紅茶で喉を潤す、望みは余ったお湯をポットに詰めて、自分も紅茶とポットをお盆で持ってきて、他の席も有るのに、敢えて香澄の隣に座る。

久しぶりに甘えたくなったのだ、しかし望海が持たれかける前に香澄が望海の肩と頭を抱えてきた、一寸驚く望海、姉にはこういうさりげなく優しい包容力があった。

小さい時から男勝りではないが、何でも解ってくれるような包み込むような安心感を感じさせてくれた、妹二人はこの安心感に何度助けられたろう?

両親を亡くして久しい三人姉妹にあって、一時期親戚にお世話にはなったものの、間もなくインターンになって直ぐ、妹を引き取り母に縁のあるこの町にやって来て5年近くになる。

色々あったが、必ず香澄が最後には支えてくれた、だから望海は家事や細かいことは自分がやろうと自然に意識してきた、妹の郁未は歳に似合わず大人で、回りの空気を器用に読んでムードメーカーとして、姉たちを元気付けた。

三人協力して生きてきたのである、この先三人バラバラになるかも知れないが、心は今後も支え合う関係でいることだろう、香澄は望海の肩を赤子をあやすようにやさしく叩きながら言う、

「望海は、まだ両親を死なせたのは自分のせいだと思ってるでしょう?」

それを聞いて体がぴくんと反応する望海、香澄は肩をさするように変えて続ける、

「望海のせいじゃないよ、誰もそんな風に思ってない。あなたは二人を愛していた、二人の為に記念のために一番一生懸命だったもの」

望海の肩は小刻みに震えている、きゅっと引き寄せてさらに続ける、

「旅行に出る前にね、お母さん私だけに話してくれたことがあるの、望海が渡した手作りのプラン表とチケット見ながら、優しい子に育ってくれて嬉しいって、私お母さんが泣いたの始めて見た」

望海は一生懸命こらえているようだ、香澄は望海の手を握ってきた、

「だから、あなたが独りで責任しょいこまなくていいの、あなたは愛されているんだからね?」

もう望海は堪えきれなかった、うわーん! と大声で泣いた、香澄はがほっぺをくっつけてきた、頬が暖かかった、やっぱりお姉ちゃんは偉大だと思った。

親が亡くなったのは自分のせいだと、重い責任を背負ってきた、でも姉から聞いた母の言葉に、すーっと気が楽になった思いだった。

望海は、思い存分泣くことが出来た、その間香澄は抱きしめていてくれた、まるで母に抱かれている様な安心感に包まれていた。


翌日朝、珍しくいつもの時間に起きられなかった、ハッとして飛び起きる、時計を先ず見た、9時過ぎだった。

回りを見る、居間だった、毛布を着てソファーに寝ていたようだ、望海の頭に昨日の事が蘇り、慌てた。

夜遅くまで二人で色んな話をして、その後記憶が無かった、話し込んでる内に寝てしまったのだ、香澄の姿を探すが居間には居ない、まだ出勤には時間がある筈だ、ソファーからゆっくり起き上がって姉を探した。

姉の部屋は居ない、洗面所・浴室へ行ってみると明かりが付いている、香澄は風呂に入っているようだ、香澄に声をかける。

中から香澄が答える、

「お早う、またお風呂入りたくなっちゃた! 良かったら望海も久しぶりに一緒に入らない?」

そう言われて望海は少し扉を開けて浴室をイタズラっぽく覗く、湯船に気持ち良さそうに浸かる香澄が見えた、望海はそれを見て自然と入る気になった。

いざ裸になったら、一寸恥ずかしくなったが構わず浴室の扉を開ける、充満していた湯煙が開口から抜けて浴室内の見通しが一気に良くなる。

お互いが丸見えになった、妹の裸を見て感嘆の声を上げる姉、

「ワオ! 妹ちゃん、すっかり女らしくなりおって」

「嫌だ、からかわないで!」

初々しく恥ずかしがる妹に構わず続ける姉、

「うんうん、これなら何時嫁に出しても恥ずかしくないわね」

母親の様な口調で、繁々と望海の透き通った肌と丸みのある脚線美に見とれる香澄。

「あん、お姉ちゃんだけ体隠してズルい!」

この時点で香澄は大変な事に気付いた、

「ねえ? あなた喋ってる……?」

望みは当たり前の様に気持ちを伝えていたとしか思ってなかったが、言われて気付いた、声がでている!

「私、しゃべってる? お姉ちゃん、声聴こえてる?」

「うん! 以前の望海の声と変わらない、良かったー声が出るようになって!」

昨日の話で、重荷を下ろせたのが良かったのだろう、望海は嬉しくなって、

「久しぶりに一緒に入ろ?」

そう言って姉の返事を待たず、強引に湯船の中に体をねじ込むように入る、狭いので密着してやっと二人入れる、お湯がザバッと洗い場に溢れる。

その後、子供見たいにじゃれあった、浴槽からでた後お互いに背中を擦ってあげる、姉の背中を擦りながら、ボソッと望海が言う、

「今度治ったら、郁未と三人で入りたいな」

苦笑して香澄が答える、

「三人じゃお風呂イッパイでしょ。望海の気持ちは解るけどね」

「エへへ、ギュンギュンでも入りたいの!」

そう言って、擦る手に力を込めた。

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