第6話

姉の香澄が当直明けで直ぐに勤務なるため、風呂に入るため帰宅、望海と鷹良も便乗して帰宅することに、鷹良は途中彼の家の近くで下ろして、香澄達は帰宅した。

家に着いて、二時間程で病院へとんぼ返りしなければならない香澄は、直ぐに準備するために先に家にはいる、望みが荷物を運んで中に入れる。

香澄が風呂に入っている間に、望海が荷物を取り替え直ぐに出れる様にお膳立てする。

暫くして、香澄は手際よく見繕いした上で、何とか二時間で出掛ける準備完了、望海が手配したタクシーに乗り込んで出掛ける、何とも慌ただしいご帰宅だった。

この様な光景は、彼女の様な若手医師では珍しくないという、帰る暇さえなくそのまま勤務となることもあるそうだ、香澄は入浴したいがため、無理に帰宅している。

正式な医師になって一年経ったほどの彼女ではこれが現実であった。

まだ、普通に帰宅できる場合もまだ結構あるので、この病院は待遇が良い方らしい、若手医師は大変である。


さて、香澄の生活の一端を垣間見たが、話を望海に戻す。

姉を送り出して一息ついてお茶をいれて飲みながら、今日は鷹良ともゆっくり話も出来て良い一日だったと思いふける。

明日は本格的にマネージャーとして頑張らなきゃと張り切る一方、昨日から宿題や学校の準備など全く手を付けられなかったので気が滅入る。

夕飯は今日は一人だ、簡単に準備して学校の事に時間を効率よく使おうと望海は考え動き出した。


翌日、鷹良は登校するなり職員室に行った、ガッツに朝イチで見舞いの報告と、貰っていたお金のお釣りを渡すためだ、先生はいた、足早に歩み寄り挨拶して報告する、

「片桐先生、きのう榛名さんの妹の見舞い行ってきました」

「済まなかった、彼女は大事なかったか?」

「はい、骨折しましたけど上手く繋がって、一週間位で退院出来るとの事でした」

「それは幸いだったな、榛名は何時からマネージャー復帰できそうだ?」

「今日から出来るとはりきってました。本人からも報告あると思います」

「そうか助かる、宇崎ありがとう。また気軽に遊びに来い」

「ありがとうございます、奥様にも宜しくお伝えください」

そう言って、挨拶して職員室出る、始業5分前チャイムが鳴り、鷹良は急いだ。


放課後、鷹良は体育館内にある部室兼ロッカー室へ向かう、入る前に体育館をのぞくが誰も居なかった、ロッカー室へ入って着替える10分程で出て体育館へ行く、望海が準備を始めていた、

「やあ、ご苦労様」

その声に気付いて顔を上げる望海、鷹良を見留て笑顔で応える、まだ館内は二人きりだ、望海は断ったが鷹良も準備を手伝う、

「今日練習終わったら一緒に帰ろうか?」

その誘いに素直に頷く望海、昨日お互いゆっくり話せた事で自然に振る舞えるようになっていた。

実はその間に望海の友達が体育館に来ていたのだが、二人の様子を見て遠慮して帰っていたのである、翌日その事ネタに望海はおもちゃにされるのだが、今はそんなことは夢にも思わない。

予定通り二人は部活終了後、彼女のボディーガードも兼ねて一緒に帰宅した、そんな日が週末何度かあって週末金曜日、その日も二人は一緒に帰宅する。

今日は少し寄り道をした、何となく一緒の時間を伸ばしたかったからかもしれない、二人はお好み焼きを食べようと決めお店に入った、校則で禁止されてはいないし、二人共家に帰っても一人だからだ。

店は、夕時の客がそろそろ引けてきていた、丁度空いた二人席に向かい合って座る、若い初々しいお客さんを見つけておばちゃんが声をかける、

さん、今日は何にするかい?」

只のリップサービスなのだが、若い二人は照れながら豚玉の大とミックスを注文する、まもなくカップを持っておばちゃんが来る、

「部活の帰り? 初顔だから一寸多くしといたからね、またデートの場所に使ってね」

そう言ってニッコリ笑って戻っていく。

二人は苦笑する、それでも望海は変にオシャレなところよりアットホームな感じも嫌いではなかった、一人で淋しい時が多いせいかもしれない、雑然として賑やかな方が逆に落ち着くと思った。

二人は、メモと言葉という一見不便な方法ではあるが、不馴れながらお好み焼きを作りながら、また食べながら話を楽しんだ、恋愛感情と言うより単にお喋りを楽しんで満足だった、今はそれでいいと思った。

気が付くと9時近く、入店して一時間があっという間に過ぎていた、二人は慌てて支払を済ませ家路につく、流石に望海一人では帰せないので、送っていくことになった。

今の鷹良にとってそれは望海と長く話せる事であり苦ではなかった、時々道が暗くなるせいもあって、メモが見せにくい等で望海が鷹良に自然に寄り添う事もあった。

鷹良からすれば違う帰り道だが、この道は知っていた、美都が通学で乗る路線のバス停を見たからだ、それを見て彼女はもう家に居るだろうと思い浮かべた。

バス停を過ぎて次の交差点を曲がる、あと10分程で望海の家だが、その交差点で鷹良は突然立ち止まる、望海は不思議に思って鷹良を見る、

「今、美都が歩いてた……」

鷹良は望海を明るい場所に居るように案内して、人影の歩いていった方角へ走る、直ぐに追い付いた。

こんな時間に居るなら良い事は無いだろう、別人であって欲しいと願っていたが、とぼとぼと歩く女性の前に回り込んで顔を見ると、果たして美都であった。

ぼうーっと鷹良を見、薄ら笑いをうかべて、

「たかくん……」

そう言って倒れこんだ、咄嗟に抱き抱える鷹良、顔が蒼白の美都、何事か?と望海が駆け寄る、彼女はその様子を見て、咄嗟に鷹良へ電話する手まねをして口で一生懸命゛びょういん! びょういん! ゛と、懸命に声を出そうとするが、呻き声にしかならなかった。

鷹良がそれで冷静になって、慌てて携帯で救急車を呼ぶ。

美都はピクリとも動かなかった。


夜10時を回った、病院の救急処置室前の待合席で、鷹良と望海は座って診察の結果を待っていた。

時間外で証明が間引かれ、少し暗い中でじっと耐える様に沈黙していた、美都の両親には先程鷹良が連絡しておいたので間もなくしてやって来た。

「たかくん! 美都が倒れたって?」

鷹良を見た途端に不安が爆発したように母親が駆けつけ、鷹良の手を握る、父親も追ってやって来る、鷹良が二人に説明する、

「偶然美都が歩いているのを見かけて、こんな時間におかしいと思い追っかけて呼び止めたら、僕の顔を見るなり倒れてしまって」

それを聞いて母が尋ねる、

「それで、美都は?」

鷹良はまだ判らないと首を振るが、間もなく看護士が出てきて家族を呼び出した、両親は処置室へ入っていく、鷹良は残った。

望海はメモで鷹良に、美都の事を聞く、

「彼女は僕の隣に住む幼馴染みだよ、あの交差点から五キロ程行ったところにある海浜高校に通ってるから、あそこを歩いて居ても不思議はないけど、普段ならとっくに帰ってる筈なんだ」

望海は心配そうな顔をしている鷹良をみて複雑な気持ちになる、心配する事は当たり前だど思う一方、鷹良の生活の別の一面を知ったのだ、それは望海の中で鷹良への思いには不安になる事だ。

こんな状態で不謹慎であっても、美都への善からぬ感情を消せなかった。

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