第5話
翌日土曜日朝、練習試合当日。
試合は午前10時からだ、場所は隣校の体育館、9時までに現地集合となっているが、近くなので、鷹良は最終調整のため朝7時に潮浜校の体育館に居た。
学校は休みで誰もいない体育館、鷹良は一人気持ちを押さえられず軽い汗を流す。
キュッキュッとシューズが擦れる音とボールをドリブルする音が、早朝の清々しい体育館でリズミカルに響く。
鷹良は絶好調だと感じた、これならイケる! そう核心して少し休む、タオルで汗を拭きながら昨日夕方の事を回想する。
暫く道順が一緒なのも手伝って、帰りは自然と望海と一緒になり並んで歩く。
先ずは望海が、メモで無事レギュラー入りを喜ぶ、鷹良はそれに答える、
「ありがとう、でもまだ気を抜けないから明日ちょっと練習してから行くよ」
望海も答える、
゛レギュラー大変ね。私も行っても良い?゛
「来ても何もしてもらうこと無いよ」
゛私、マネージャーになったけど、それとは別に宇崎さんの私的な熱烈応援団でもあるんだからね? みんなにはヒミツだけど゛
そう言って、可愛らしく口に人差し指を立てて口封じのジェスチャをする、その事で暗黙の二人のヒミツを作ってしまったのを思い出した。
些細な事だけど、何かヒミツがあるとちょっとドキドキして、こそばゆい感じではある、さて彼女はくるのか?
しかしやがて9時になる、鷹良は隣校へ着いていた、あれから望海は来なかったし今集合場所にも居なかった。
体育館に来なかったのは良いとして、この場この時間に居ないのは責任感の強い彼女にしておかしい、胸騒ぎがした。
メンバーが顔を揃えた後ガッツも現れる、開口一番で皆を驚かせた、
「試合前で不安にさせるようで申し訳ない、今朝マネージャーの榛名から連絡があり、ご家族が救急搬送され急きょ来れないとの事だ!」
皆がざわざわし出す、それを制して話を続けるガッツ、
「詳細は判らんが準備は各々で頼む、慌ただしいが、こういう窮状こそ協力して常日頃と変わらないチームワークを発揮して乗り切ろう。今日は何が何でも勝つ!」
ガッツはその一言で見事に状況を一変させてしまった、皆一丸となったことを確認して体育館に向かった。
試合が始まる、少なからず望海の突然の欠席は衝撃となったが、数日前までマネージャー不在だったのだ、と気持ちを切り替えており、試合に悪影響は差して出なかった。
逆に皆が気を引き締められたせいか、結果はあっさり12ポイント差をつけ、先行逃げ切りの勝利となった、望海のトラブルは逆に良い結果に繋がった。
ガッツはこれこそ望海をマネージャーにした狙いだった、望海を勝利の女神にするつもりなのだ、メンバー達に彼女をそう印象付ける事で結束力を更に高める目論みがあった、予想外の初日だったが、彼は見事に乗り切って見せた。
ガッツのあだ名は、伊達では無いことを結果で示して見せたのである。
帰りは上々の気分で皆帰ることができた。
その夜、鷹良の携帯が鳴る、相手はガッツだった、
「片桐先生、どうしたんですか?」
「今日はよく頑張ったな、予め発破をかけてはいたが、お前があそこまでやるとは想像もしていなかったよ」
「ありがとうございます、ブランクを出来ない理由にされたく無かったから」
「うむ、ところで今日親父さん居るのか?」
「いいえ、漁に出て暫く独りです」
「そうか、飯まだだろう? 良かったら、家へ来い家庭の味を楽しませてやるぞ」
今日も簡単なコンビニ弁当二人前で済まそうと思っていた矢先だったので、二つ返事で引き受ける、早く来ないとお前の分無くなるぞと、ここでもガッツ節が炸裂、鷹良は急いで支度をして家を出た。
ガッツの家は走って20分程で行ける、部のメンバーならみんな知っている、彼は、部員をちょくちょくこうして抜き打ちで誘ってくれるのである。
ガッツこと、片桐先生は御歳38才で奥さんと娘一人の三人で暮らす、学校では倫理を教える傍ら、潮浜高バスケ部の顧問を任され5年になる。
ある思いを秘めて全国大会目指して、公私に渡り生徒を熱く指導していた。
息を切らして鷹良がガッツの家に着く、ローン35年、まだ住んで間もない新しい一軒家に感心しながら、呼吸を調えチャイムを鳴らす、間もなく女性の声がした、門扉をくぐり玄関へ、ドアが開いて奥さんの美佳子が迎える、
「宇崎くん、よくきたわね。さあ入って」
言われて中に入る、そのままリビングダイニング続きの部屋へ通される、入るとガッツが娘と遊んでいた、挨拶する鷹良。
「おっ来たか! 腹空かして来ただろうな?」
「走ってきました、もう食べ物なら何でも食べれます」
「おいおい、作った女房を前にしてそれはないだろう?」
鍋を用意しつつ美佳子がフォローする、
「何言ってるんですか、そもそも急がせたのはあなたでしょう? 味には自信があるわ、好きなだけ食べてね」
そう言って屈託なく笑う、鷹良は勧められた席に座る、四人揃って自慢の料理を食べる、勿論美味しいに決まっている、娘もキャッキャ言いながら頬張っている。
「やっぱり大人数で食べたほうが美味しいでしょう?」
と美佳子、鷹良が答える、
「全然違います、それに美佳子さんの料理は本当に美味い!」
「そう? ありがとう、沢山用意してあるからどんどん食べて頂戴」
「言うまでもなく、全部頂きます!」
本当に遠慮はいらなかった、次から次へと持ってくる、食べる方が必死である、しかし何とか鷹良は食べきった。
食後の団欒、リビングで四才になると言う娘の綾と遊ぶ、綾は、
「たからっち! たからっち!」
と鷹良を呼んでいる、始めはたまごっちみたいで嫌だったがもう慣れっこだ、人懐こい性格も手伝って、仲良く遊んでいる、それを見て美佳子が言う。
「宇崎くん、将来子煩悩なお父さんになりそうね?」
そう、娘を上手くあやしている彼を見て言う、ガッツが思い出した様に言う、
「そう言えば、お前の彼女」
意味不明の振りに驚く鷹良、
「誰の事ですか、それは?」
「とぼけるな! 榛名の事だ、おまえも満更でもないだろう?」
美佳子も色恋ネタに食い付く、
「あらま、宇崎くんいい子いるんだー、私にも教えて!」
「そんなんじゃないです!」
「おかしいな、あのときの空気といいやり取りの間といい、ただならん関係を感じたんだが、もうとっくに出来てると……」
さすがに美佳子が止める、娘もいるからだ、ガッツは謝って、
「宇崎とお似合いだと思うんだがなぁ、榛名嫌いか? 結構チャーミングな子だと思うけどな、どうだ?」
「素敵な子だと思いますけど、それと好きとは別物ですよ、まだ知り合ったばかりだし」
「それとも別にこれが居るのか? なら捨てておけんな!」
「いえいえ! そんなの居ないです、相手の気持ちも考えないと」
「煮え切らん奴だ、男ならハッキリしろ! 俺なんかこの嫁さんとは知り合った翌日に猛アタックだったぞ、なあ?」
と美佳子を見る、彼女は満更でも無い様子で美佳子も、
「いま誰も居ないんなら、付き合ってみれば? 宇崎くん若いんだから、これも経験よ。彼女はあなたに気があるんでしょう、私も応援するから付き合ってみたら?」
どうやら、今日の目的はこの事だった様な勢いで二人に推されて、半ば決定事項になってしまった、しかし釘を刺す事を忘れずガッツはかしこまって、
「立場上彼女はマネージャーだ、部活や試合中は立場をわきまえ行動するように!」
そう言うと、美佳子も頷いていた。
「そうそう、そこでもうひとつ宇崎に言っておかなければいけない事があった」
ガッツはそう前置きし、
「榛名が急遽試合に出れなかった事なんだが、妹さんが事故にあってな」
「えっ? あの子が」
「何だ知ってるのか。じゃ話は早い、明日日曜日だよな、用は有るのか?」
「いえ、特に」
「俺の代わりに見舞に行ってくれないだろうか? 俺は丁度親戚の法要があって行けそうにない、あくまでその代理ということで」
「僕が、ですか」
「頼めるか?」
「はい、解りました」
というか、ガッツに頼まれては断れなかった、というのが本音だろうが、暇をもて余す位なので、良いかと思った。
次の日、日曜に鷹良は美佳子が用意してくれた地図を片手にある病院を訪れる。
この病院に望海の妹が入院中との話だった、お見舞いの花は美佳子がお金を渡してくれたので途中で買っている、入り口を入って受付で尋ねる、
「
「榛名郁未様のお見舞いでございますね? ……はい、ではそちらのエレベータで6階へ上がった先のナースステーションで受付を頂けますか?」
そう案内され移動する、病院何て何年ぶりだろう? 彼の家から10キロ程行った繁華街の向こう側にある病院で、改築されたばかりらしくエレベータの中は真新しい匂いがする。
やがて6階に着く、出て正面が小さいホール、その先に開け放しのドア、そこを抜かけるとナースステーションになっている、開放的な印象で鷹良は病院のイメージが変わる。
こんな機会が無ければ来ることもないだろうと思いながら、看護士の一人に尋ねる、
「すみません、榛名郁未さんの病室はどこでしょう?」
すると一人の看護士が気付いて、
「ああ榛名先生の妹さんね、今先生いる?」
別の看護士が探しに行く、しばらくして白衣を着た女医がやってくる、看護士に説明を何か受けて鷹良を見る、つかつかと寄ってきて話かけてきた、
「郁未の見舞いに来てくれた方はあなたですか?」
妹が言っていた、カスミというお姉さんが医者だったとは、ちょっとビックリした。
「僕は、潮浜高校の生徒で宇崎鷹良と言います、望海さんと部活の縁で……」
今日見舞いに来た経緯と、望海を送っていった時に家へ行ったこと、その時に郁未と会っている事を話した。
「私は長女の
「そんなことないです! それより郁未さんどうなんですか?」
「自転車走行中に無理に飛び込んできた車と接触してね、足を骨折したみたい」
「それはたいへんでしたね、容態は悪いんですか?」
「幸い骨がキレイに繋がったので固定して安静にしてれば治りそうだから心配要らないと思うわ」
「この前ご自宅で顔を合わせてます」
「ふふ、宇崎さん郁未に気にいられてるみたいね。603号室よ会ってあげて」
「603号室ですね? 多分判ります」
「ごめんなさい、わざわざお越し頂いたのに手が離せないので何も出来なくて」
「いえお構い無く、では行ってきます」
鷹良は一旦香澄と別れ病室へ向かう、603号室はすぐ見つかった、入り口に名前を確認する、相部屋なのでそれぞれカーテンで仕切ってある、
「失礼します」
そういうと、カーテン越しに人が近づいて来るのが分かる、緊張して待つとカーテンが開いた、目の前にいたのは望海だった、目を円くして固まっている、奥のベッドではギブスで固定した片足を布団から出して寝ている郁未が、
「お姉ちゃん、誰がきたのぉ?」
と尋ねる、望海があたふたするのを見て
「あ! 宇崎さんでしょ?」
勘の鋭い子だ、望海が一向に中に入れてくれないので、鷹良は、
「正解! よく判ったね」
そう言って強引にカーテンの中に入ってしまった、望海は突然の鷹良に驚いて下を向いてしまった、代わりに郁未が言う、
「うわー、来てくれたんだ! 嬉しい、お姉ちゃんはもっと嬉しいんだけどね」
相変わらずおせっかいだと思いつつ、花束を差し出して、
「結構元気そうじゃない、こんなんなら来なくても良かった?」
「ぷうぅ! ひっどーい、これでもたいへんだったんだからねっ。わあ! お花キレイありがとう」
ふくれたり、喜んだり、目まぐるしく変わる郁未の性格は衰えていないようだ、少しほっとした。
郁未は花の匂いを嗅いで癒されている、そして急にイタズラっぽい顔になって言う、
「お姉ちゃん、このお花折角宇崎さんがくれたのにこのままじゃ枯れちゃうよ、花瓶に移してきて?」
望海は素直に頷いて、花を受け取り部屋を出ていった。それを確認して郁未が、
「宇崎さん本当はお姉ちゃんに逢いに来たんでしょう? 顔に書いてあるよ」
「そんな事ないですっ! ガッツに頼まれて代理で……」
「ガッツってだあれ?」
「あ、ああ部活の担任のあだ名」
そう言ってあだ名の由来を話すと、
「あははははは、面白ーい」
「しーっ! 静かに、相部屋だよ気をつけて」
「えへっごめんなさい、あそうそうもうお昼だからさ、宇崎さんお姉ちゃんっ戻って来たらランチ食べてきたら?」
「あ、もうそんな時間か」
「この病院さ、最上階に展望窓があるレストランがあるって、カスミ姉が教えてくれたの、あたしはこんなんで行けないけど、代わりにお姉ちゃんと行ってきてよ」
「何で望海さんと?」
「見張らしスッゴク良くていいムードなんだって! 二人でゆっくり話すチャンスじゃん? 郁未は何て姉思いなんだろう」
自分で言って自分で酔っている郁未、彼女といいガッツといい、お節介が何と多いことか。でも鷹良はそれも悪くないなと思った、試合結果も話したかったし、
「じゃあ、郁未ちゃんのご厚意に甘えることにしようか」
そう言ってこの状況を前向きに考えることにした、郁未は言う、
「お姉ちゃんの幸せそうな顔見るとあたしも元気出るし……宇崎さんには退院したら快気祝いに、さくら屋のイチゴショートケーキで手を打っておくね?」
自分でけしかけておいて恩を売っている、ちゃっかりした娘である、しかし鷹良は悪い気はしなかった。
暫くして、密約? 成立していることも知らずに望海が花を差した花瓶を持ってくる、
「綺麗!」
その花を見て、郁未が思わず叫んだ、その花のせいもあってか、望海の笑顔もいつになく華やいで見える、そんな彼女に見とれる鷹良、それに望海が気付く、一瞬目が合うが慌てて反らして照れる、花瓶を窓際に置いたらかしこまってじっとしている。
それを見かねて郁未が助け船をだす、
「ねえお姉ちゃん、そろそろお昼頃よね?」
それを聞いて、慌てて腕時計で時間を大袈裟に確認する望海、郁未が続ける、
「ねえ宇崎さんまだ居てくれるんでしょ?」
「うん、今日は大丈夫だよ」
「じゃあ最上階のレストランへ二人で行って食べてきたら?」
望海は虚を突かれたように二人を互いに見る、明らかに戸惑っている、それを知ってか、構わず鷹良も答える、
「へえーそれはイイね、望海さん話のタネだ、行ってみようよ?」
一方的にトントン拍子に進む展開に翻弄される望海、かろうじて首を縦に振る、
「お金は心配要らないよ、カスミ姉にカード貰ってる、お姉ちゃんが持ってるから」
そういって郁未は望海にウインクする、望みはそれに頬を膨らまして答える、
「望海さん、じゃあいきましょう」
誘う鷹良、郁未は彼にもウインクし親指を立てた、鷹良は手を上げ二人出ていった。
二人は、一旦エレベータホールから12階まで上がる、エレベータを降りると直ぐ展望レストランが開ける、そこの窓からパノラマが目に飛び込む。
全ての席が窓際にあって、建物の西海岸と南側の風景が遠くまで一望できる、望海はその風景に目を奪われる、鷹良も思わず声を上げた、
「すごい……高校近くの潮浜海岸がマル見えだ!」
望海も気付いていたらしく、見とれる彼の服の裾を引っ張って、指を指す。
海岸方面が良く見える席が空いているのを見つけたのだ、二人その席に座る。
時間はまだ11時半を回った頃で少し早かったが、お陰でまだ席に空きが多かった。
座ってすぐ、そのパノラマを楽しむ、やや北西には湾を横切る長い橋から、南では半島の先で水平線が霞んでいた。
「この風景を見れただけで、ここに来た価値が十分あるなぁ」
望海もこの展望をみて気分が高揚しているようで、さっきまでの奥手さが消えていた、鷹良はふと望海を見る、それを望海は気付かないのか、子供の様なキラキラした目で、ずーっと海の方角を見ている、その目を見てドキドキしていた。
「素敵だ……」
その言葉にやっと鷹良をみてニッコリ頷く、彼女は鷹良が思わず自分を見て漏らした言葉を、風景の事と勘違いしてメモで答える、
゛この町に来て4年になるけど、こんな素敵なところだったんだね?゛
言葉の真意に気づかなかった事に、胸を撫で下ろして答える、
「俺はここの生まれ育ちだけど、結構いいとこなんだな、見直したよ」
望海はその言葉に頷いて、
゛この町にずーっと暮らせたらいいな゛
そう言って鷹良を見る、そこへ店員が注文を取りに来たので、会話は一旦中断、二人ともランチ・紅茶セットを頼んだ、注文をとって店員が下がる。
うつむく望海に、鷹良が問いかける、
「望海さんは、将来の夢どんななの?」
思わぬ問いに顔を上げると、鷹良は風景に目を向けていた。
目が合わなかったせいもあり気が楽になり、正直に答えられた、
゛姉みたいに頭も良くないし、郁未みたいに人当たりも良くないけど、母が教えてくれたお菓子造りは三人の中では一番私が上手だから、きっとそういう方面なら仕事に出来そうかな゛
いつの間にか、望海を見ていた鷹良がメモを見て答える、
「へぇ、お菓子作るの得意なの? 手が器用なんだね、俺なんか不器用だから尊敬しちゃうな。それに望海さんはマネージャーの役割キッチリこなしてるからスゴいよ」
照れ笑いする望海、更に気が緩んで、
゛この町で、普通に恋をして、結婚して、子供を産んで平凡だけどささやかな幸せを、噛みしめて生きていくんだろうな゛
書き終って鷹良を見つめる、彼はまた海を見ていた、そのまま横顔を見続ける。
今の彼女の、その人生の中心に居るのは間違いなく目の前の少年である、彼とそうなったら良いな、と素直に思えた。
そう思った時、鷹良が顔を望海の方にに戻しメモを見ようとした、望海は慌ててメモを引っ込める、鷹良が不思議に思って言う、
「何書いたの、見せてよ」
望海は大袈裟に首を横に振る、鷹良に内容が見えないようにメモをめくって別の事を書いて見せた、
゛鷹良さんは何になりたいの?゛
それを見て、鷹良は頭を掻きながら情けなさそうにいう、
「ははは、実のところ決まってないんだ、今バスケやってるから出来れば大学受けて続けたいけど、頭悪いから特待生で取ってくれる学校がないとね、親父は漁師継げとは言わないし、正直情けないよ」
゛鷹良さんバスケ上手いし頑張れば特待生も夢じゃないと思う、私はこれからも応援するから頑張って゛
「ありがとう、そう言ってくれると何か出来そうな気がする」
゛そういえば、昨日の試合どうでした? 突然行けなくなってごめんなさい゛
「嫌々、皆も全然気にしてないよ、結果は……」
引っ張る鷹良、望海は返事を待つ、
「ガッチリ! 12ポイント逃げ切りで余裕の勝利さ!」
ガッツポーズを自慢げにとる鷹良、それを聞いて思わず真似てガッツポーズをとる望海、勝利を一緒に喜んだ。
迷惑をかけて、影響が出なければと心配していたが、どうやら逆にマネージャー不在の分まで頑張ろうと結束しての勝利だと言うので、望海はホッとした。
「さっきナースステーションでお姉さんの香澄さんに会ってね、郁未ちゃんの骨折は大事無く、安静にしてれば問題ないそうだ」
゛姉に会ったんですか? 偶然この病院の担当医に今年からなっていて、姉のお陰で郁未も良くして貰ってるの゛
「じゃあ心配ないね、望海さん何時からマネージャーに戻れるかな?」
゛この後、姉にもう一度確認するけど、私は多分明日から大丈夫だと思う゛
それを見て鷹良は安心した、そこにランチセットが届く、二人は素晴らしい風景をおかずに、昼食を存分に楽しんだ。
昼食を食べ終って、カードで支払いを済まし、二人はレストランを出て6階へ戻る。
病室に入ると郁未は本を読んでいた、入ってきた二人の雰囲気が良い感じなのにニンマリしながら、
「お姉ちゃん喉が乾いちゃった、何か飲み物買ってきて? お願い」
そういうと、気持ちよく了承して買いに出ていった。
姉が行ったことを確かめて、
「どうだった?」
ウキウキした顔で鷹良に尋ねる郁未、
「うん、スッゴい見晴らしが良くて良いところだったよ! 郁未ちゃんも退院する前に一回は行った方がいいよ」
郁未はそうじゃなくて、と念押して、
「ニブイなぁ、お姉ちゃんとどうだった? って事に決まってるでしょう」
一瞬固まる鷹良、自分の勘違いを理解して、
「そっち、ね。うん、まあまあかな」
その中途半端な答えに食い付く郁未、
「まあまあ、って。さっきの二人の雰囲気はいい雰囲気だったけど? デートの約束位したよね? まさか何も無しってことは無いよね」
「はい、何もありませんでした、期待に添えずすみません!」
郁未はあからさまに落胆して見せる、
「えーつまんない! お姉ちゃんは奥手だけど、宇崎さんもだらしないなぁ」
「そう言うなよ、恋は焦らず、って歌もあるだろ?ゆっくり焦らず育んで行けばいいさ、そう思わないかい?」
意外な言葉に、郁未も気持ちを削ぐわれたが、
「まっ、いっか! 先ずは第一段階クリア……っと」
そう言って、郁未メモなる手帳にチェックを入れる、
「なにそれ? そんなもの付けてるの」
郁未は手帳を鷹良に見せつけて、
「ジャーン、お姉ちゃんの幸せは、あたしの将来にも大いに関係するからね、カスミ姉は医者になちゃったから、何時になるか分からないけど、お姉ちゃんには先に嫁に行ってもらわんとあたしもお嫁に行けないでしょ?」
「郁未ちゃんはもう彼氏とか居るんだ?」
「お姉ちゃん見たいに奥手じゃ無いもん、今は居ないけどその気になれば、すぐ見つけられるからね」
「そ、そうなんだ」
本当にこの子は宇宙人だと鷹良は呆れるのを通り越し感心した。望海に比べて何につけても積極的に行動する、本当に今にでも彼氏を見つけて来そうだ。郁未は続ける、
「ホラ、次は初デートでしょ、その次は初キッス……キャッ! 予定は目白押しよ」
メモのチェック欄を見せて、生き生きと話す郁未、初キッスの下を見ようとした時慌ててメモを引っ込め、照れたように、
「こっから先ナイショ、男子が見ちゃダメ!」
そう可愛い事を言う、苦笑する鷹良。
そのあと望海がジュースを三本買って戻ってきた、それぞれに一本づつ渡す、それからメモを取りだし、書いた内容をテーブルに置いて二人に見せる、
゛カスミ姉に聞いてきた、郁未は順調なら一週間で退院できるって゛
それを見て二人も安心した、望海は続けて、
゛それまでじっと安静にしないとダメよ!゛
と釘を刺すことも忘れなかった、郁未は苦笑して頷いた。
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