#00.1 少女の巨神
美しき青き星、太陽系第三惑星。
地球。
所は日本の某県、真芯市。
雲一つ無い快晴の空をSVの編隊が飛行する。
特徴的な鎧武者風の出で立ちをした、その機体の名は《Gアーク・フラット》と言う、新進気鋭の黒須エレクトロニクス製の新型量産機だ。
「なぁにこれぇ……早い! もう全然写真が撮れないよぉ!?」
大きなリュックを背負いピョンピョンと跳ねながら古い携帯電話を空にかざす幼い少女がいた。
最新のSVの姿を間近で見物できるとあって訪れた多くの人で混雑している会場。
SV発祥の地である真芯市で毎年行われる恒例のイベントは、市民公園に特設され、SVの体験試乗コーナーや屋台などが軒を連ねている。
「あの力強さ、まさに空飛ぶ武士と言う感じですな」
「うーん、今年はトヨトミの新作SVは無いのかぁ。楽しみにしていたのに」
「まぁまぁ新進気鋭の会社に花を持たせてあげたんだろう」
と、観客たちの声。
「あっちにあるぞ。やっぱトヨトミインダストリーは陸戦SVの覇者だからな」
「なになに……ビシュー? 名前、どういう意味?」
「尾張と同じさ。ここの古い地名の名前から来てる尾州」
「へぇ……でもやっぱ、派手さでは新進気鋭の黒須もいいんじゃないか?」
「ピントあわーん! もーブレるなぁ。私のカメラじゃ無理なんかなぁ?」
SV好きの大人たちの中に混じり、背伸びをして少女は懸命に写真を撮るも上手くいかなった。
「お嬢さん、携帯プリンター持ってきてるから後で焼き増ししてあげようか?」
「いいえ、大丈夫です! 自分のケータイに納めたいんで!」
隣の男性から気遣われるが少女は、はつらつと返事をして断る。
色の付いた煙を背部から吹き出しながら《Gアーク・フラット》は息の合った華麗な動きでアクロバット飛行を決めると歓声が上がる。
だが、その中の一機だけが隊列から離れていき、有らぬ場所へと移動していった。
「おかしいぞ……アレだけなんか動きが違う?」
「おい! あれは何だ、手に武器を持っているぞ?! 何する気なんだ」
イベント用の巨大モニターにも映し出されている動きのおかしい《Gアーク・フラット》は、隠し持っていたSV用電磁カッターで別の《Gアーク・フラット》へと襲いかかった。
一瞬の内に近付いてコクピットを一突き。パイロットを失った機体は人だかりへ落下する。
「え、演出か? あのSV……撃墜されたぞ!?」
「そんなわけないだろ!! そんな、わけ…………っ?!」
墜ちた《Gアーク・フラット》はビルに激突。機体の爆発で隣接する建物にも被害が及び、下の歩行者や自動車に瓦礫が降りかかる。
「何だかわからんがヤバい、逃げろっ!」
イベント会場は阿鼻叫喚となり人々は混乱の渦に巻き込まれた。
謎の暴走する《Gアーク・フラット》を他の《Gアーク・フラット》が取り押さえと一斉に飛びかかるが簡単に避けられ、逆に返り討ちにあってしまう。
『どうした? 一体、何をやってるんだ!?』
『ダメです真薙リーダー! 全く応答がありません!』
『誰が乗っている……? ウチのパイロットじゃないのか?!』
中のパイロットは皆、軍人ではなくSV専門のアクロバット飛行を得意とする操縦士であった 。
「君っ、ここは危険だっ! 早く避難するんだ!」
会場の警備員が、こんな状況にも携帯電話をかざして撮影をするリュック少女を誘導させる。
「大丈夫ですよ。逆に下がってないと危険ですので対比してくださいな」
「こんな時に何を言ってるんだ?! 早くこっちへ」
「来て…………来る……来た、ゴォォイデアァァァーッ!!」
少女は叫ぶ。
すると、昼間だと言うのに天に輝く星が一つ。光は段々と大きくなり、やがて人の形を形成する。
そして少女の目の前に降り立ったのは純白に煌めく機械巨神だった。
雄々しい姿をした《ゴーイデア》は跪くと、少女に左手を差し伸べる。
「…………き、君は……一体?」
「私? 私はシンドウ・マモリ。正義のヒーローだよっ!」
巨腕に飛び乗って少女、マモリは《ゴーイデア》に乗り込んで大空へと上昇する。
「こら君! せっかくのお祭りを台無しにして!」
追いかけるマモリは子供に叱るかのように叫ぶと《Gアーク・フラット》の外部スピーカーから声が発せられる。
『我々は“バイパーレッグ”……偽りの正義に鉄槌を下す者だ!』
先制攻撃。ハンドガンの連射が《ゴーイデア》の装甲を叩くが、手にしがみつくマモリに当たらぬよう庇う余裕があった。
「ヘビの足? 蛇足? どゆこと? 正義に恨みでもあるの?」
『今の正義は善ではない。善無き正義は駆逐せねばならないからだ!』
「意味わかんない! 一機だけで何言ってんさ!?」
マモリは叫びに呼応して《ゴーイデア》は右腕を切り離し《Gアーク・フラット》に目掛け飛んでいく。だが、頭部すれすれの所で回避されてしまった。
「違うよゴーイデア! 攻撃じゃないのよ?!」
操縦が思うようにいかない。どうしてか《Gアーク・フラット》を捕捉すると《ゴーイデア》の反応が過敏になってしまう。
「倒すべき、敵? あの形が……嫌い? もう、言うこと聞いてよ!!」
と、今度こそは左腕をとばしてで《Gアーク・フラット》の脚部を掴んだ。
「捕まえたっ!」
『目的は既に果たした、機体のデータは頂いていく!』
コクピットハッチが開き、パイロットは脱出。
マモリが落ちていくパイロットに気を取られていると《Gアーク・フラット》が突如として閃光、自爆する。
爆発と共に周囲が確認できないほどの黒煙が《ゴーイデア》の包み込んだ。
その煙が一分間ぐらい機体にまとわりつき、全てが消え去った後で気が付けば男の行方はわからなくなってしまった。
「何だったの? あれ」
マコトと《ゴーイデア》は一先ず地上へ降りる。
コクピットから降りると戦いの様子を眺めていた人達がマコトの周りを取り囲み歓声が上がった。
「ありがとう!」
「アンタは俺たちのヒーローだ!」
「おい、胴上げするぞ!」
わっしょい、わっしょい、と人々に胴上げをされて宙を舞うマモリ。
「君、ちょっと良いかな?」
そこへ野次馬を掻き分け、ショートカットヘアーの女性が突然、握手を求めてきた。
「はいはいはい、どうもーどーう」
有頂天になり快く手を出すマモリだったが、
「確保!」
カチャリ、と金属音。腕に金属製の腕輪を填められてマモリは首を傾げる。
「……はい? ナニコレ」
「私の名前は地球外事件対策室の織田大河特務大尉です」
手帳の様な物を掲げて大河はニコリと微笑んだ。
「はい、なんでしょうか?」
マジマジと、その腕輪を不思議そうに見つめるマモリ。
「君、もしかしなくても未成年よね? SVの免許証はお持ちで?」
「メン、キョ? そんなの無い」
「無免許運転、逮捕です」
「え……えぇぇぇーっ!?」
逃げようと駆け出すも、鎖で繋がれてしまった腕のせいで大河に引っ張られる。暴れるも相手との力の差は歴然であった。
「ほら行くぞ。ついてこい!」
「あれぇ……?」
地球滞在、一日目。
マモリは連行されてしまった。
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