-The Metafiction Punisher-
#00 目覚めの巨神
これは物語を終わらせられなかった罪人たちの物語である。
◆◇◆◇◆
西暦2046年。
統合連合軍の月基地、ムーンベース。
「実験体AS(アルク・シンドウ)の様子はどうか?」
部屋に入ってきた軍服の男が研究員に訪ねる。
「司令。薬の効果はとっくに切れているはずですが、食事も取らずもう何日もあのままなんです」
「そうか、いつまで続くかな……」
男たちがモニタールームで観察しているのは学生服姿の少年だ。
独房の中、部屋の隅って壁に寄りかかるようにして座り、天井のライトを虚ろな表情で見上げている。
「食事を与えていないのに体は健康そのもの……人間じゃないですね」
「体内の一部を採取すると数十秒で肉体は元通り。サンプルのイミテイターでもアレほどの再生力はありませんよ」
「しかし、何度やっても実験体ASの血液や細胞は、採取した直後に全て死んでしまう」
「……彼は貴重な資源だ。問題が解決すれば、いずれ人類発展の礎になるだろう。GA因子と学者は名付けたそうだ。あまり手荒な真似はするなよ」
「はっ!」
司令と呼ばれた男は無造作にデスクの上に置かれた少年に関する資料を読む。
ある一点を除けば名のある家系に生まれた訳でもない、極々普通の何処にでもいる面白味のないプロフィールの一般人だ。
「IDEAL、天涯無頼司令か……そんな組織もあったな。模造獣の驚異が無くなった今、必要も無いか」
「しかし、日本政府が統連軍から離脱するって本当なんでしょうか? IDEAL基地があった人工島を要塞都市にするとか」
「勝手にやらせて置けばいい。どんどん日本が世界から孤立するだけだからな…………ん?」
誰かの視線を感じて司令官は後ろを振り返る。研究員達は全員、持ち場のデスクに座っている。背後にあるのは閉じたドアだけだった。
「どうしたんです司令?」
「いや、何でも……っ?!」
司令は顔をモニターに向けると画面に映っている少年と目が合い、驚いて息を飲む。少年は天井に設置された真っ直ぐ監視カメラを睨んで何かをぶつぶつと唱えていた。
「……な、何なんだコイツ?!」
目線を外せばいいだけなのだが司令の体は何故か凍ったように動かず、少年から目が離せなかった。
『……ゴ…………ア……ル…………タ……』
「何か言ってますよ?」
「おい止めろ!」
研究員が独房の集音機の音量を上げると、少年の声は段々とハッキリ聞こえてきた。
『ゴ……アル…………タ……ゴーア……ルター……ゴーアルター……』
「司令! 高熱源体が、こちらに接近してきます! SV……SVが、一機です!」
「何だと!?」
響き渡る警報音。外部では迎撃装置が熱源に向けて攻撃の準備をしていた。
「第十二、第十三区画が攻撃されています! 迎撃装置が……うわっ!」
モニタールームが、基地全体が揺れている。衝撃のせいで重力システムに異常を来たし、職員達の体が宙を浮き始めた。
「SV部隊を直ちに発進させろっ!!」
「それが、格納庫も既に」
『……ゴーアルター……ゴーアルター……ゴーアルター!』
熱源を外部監視カメラが姿を映し出す。
純白のボディに真紅の翼を持つ機械巨神。
片腕を前にかざすと、掌が虹色に目映く輝く。映像が更なる振動が襲った。
「何とかしろ! 何とかならんのかっ!!」
「…………あ、あぁ……」
『ゴーアルター! ゴーアルター!』
映像内の少年が立ち上がり巨神の名を頻りに叫ぶ。
『ゴォォアルタァァァァーッッ!!』
咆哮と共に管内の電気が全て落ちる。 予備電源にも切り替わらなかった。
「exSV……これは、あってはならない存在だ」
モニタールームの天井が吹き飛び、そこにいた全員が見上げた。満天の星空と、それよりも輝く巨神の姿を目撃する。
それが職員一同、最期の光景となり基地は巨大なクレーターを作り、跡形もなく消失した。
◇◆◇◆◇
「あっちゃあ……遅かった。自分で出ていっちゃったよ彼……私が来た意味ってあったの?」
遅れること数分。スペースデブリの影から一体のSVが月に辿り着いた。その機体はボロボロのマントで身体を覆いつくされ、隙間から黄金色に輝く装甲が見え隠れしている。
『やっと居場所を見つけたんですのよ、これはチャンスですわ大河姉様!』
地上からの通信。ウィンドウに映る少女は興奮したように言った。
「妹の頼みとあっちゃ断るわけにもいかないけどね…………アレは危険な臭いがするって《錦・尾張》が震えてる」
機体から伝わる“恐れ”を肌で感じながらショートカットな操縦者の女性、織田大河は落ち着かせるように内壁を優しく撫でる。
『ともかく頼みましたわよ姉様?』
「まあ期待して待ちなよ。竜華のダーリンは連れ戻してやるからさ」
『それはもういいですの姉様! い、今の私は純粋に歩駆様と礼奈様の幸せを願って』
「はいはい、悪いね。それじゃ切るよ」
通信が途切れると共にアラート。高エネルギー体が地球へ向かい高速に接近していた。
「ゴーアルターが戻ってきたのか? でも違う……ような気もする。て言うかよくは知らないんだけどねぇ」
その反応が遠くなっていく。あまりのスピードにこちらからでは追い付けない。
「敵意は……無いのか。でも気になるね」
どちらにせよ帰り道だった。いずれ出会うだろうと楽観視しながら大河は機体の進路を地球へ取った。
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