第105話 ダイゼスターと題名の無いラブソング

「第三防衛ラインが突破されました!」

「巡洋艦アキサメ、駆逐艦シグレ……共に、轟沈」

「他の艦をこちらに呼び戻して残りのSVを全機出せ! 何としても奴等を地球に入れるなよ!」

 大気圏上、地球を背にして戦艦が二隻、巡洋艦一隻、駆逐艦四隻が敵と対峙する。月から大量発生したイミテイトが地球に向け侵攻を開始した。

 それを地球統合連合の対イミテイトの防衛艦隊が立ちはだかるが、イミテイトは数の多さで統連軍を圧倒して突き進む。

 この第三防衛ラインを突破されれば、かつての模造戦争の様な地球に甚大な被害を及ぼすことは言うまでもない。

 そんなピンチの中で出撃命令が下されているにも関わらず、ゆっくりと廊下を歩く二人の男達。


「こうも出撃続きじゃあ、おちおち録り貯めたアニメも見れないなあ? 今期は週に四作品もロボットアニメがあるんだよ。まあ、僕らは毎日SV乗ってるから仕事もオフもロボ三昧だけどね」

 奇抜な仮面の男、冴刃・トールは相方に長々と愚痴を溢す。


「煩い……集中をしろ。これに人類の命運が掛かっている」

 パイロットスーツの胸と腕のチャックを閉めながらシュウ・D・リュークは冴刃を一喝した。


「そんなシリアスぶってるのも疲れない? 君、ナルシストなんだから」

「ふざけて戦いになど出れはしない」

「そりゃそうだ。統連軍に喧嘩を売ったテロリスト様だからな。けど、女の子の前だと格好つける癖は直した方が良いと思うぞ」

 シュウの首元に取り付けられた機械はリモコン式の爆弾である。もしも、裏切るような行動を取ったり、リモコンが届かない範囲の外へ行けばたちまち爆発する。冴刃と元IDEALと言う組織の責任者である天草宗四郎──降格され今は准将──の図らいで特別にパイロットとしてシュウは軍に入る事を許可されている。


「日本防衛軍の長官、月明かりの妖精、今度はクローン兵士と来た……引くな、いや引くね。ガードナー時代は、もっと硬派だと思っていたのに」

 基本的に仏頂面で近寄りがたい雰囲気を出しているシュウだが、女性を前にすると態度は一変し行動が目当ての女性にアクションを起こすのだ。


「全員俺が守る。誰一人、不幸にはさせないさ」

 言い切るシュウの真剣過ぎる表情に、冴刃は仮面の下で顔を引き吊らせた。


 格納庫に到着し、それぞれのSVに乗り込む。


「冴刃……いっその事、ここでやるわけにはいかないか?」

「デンドンデンドンとせり上がって行きたいところだけど、SV用のエレベーターは無いんだ。それに目の前で決める方が格好いいだろ?」

 他の機体とは少し大きいシュウは灰色のSVの《エスクード》に、トリコロールカラーをした冴刃専用SVである《ゼアロット》の二機が艦体の左右にあるカタパルトへと別れて移動する。


「……シュウ・D・リューク、エクスード出るぞ」

「ゼアロットの冴刃・トール、ゴー!!」

 電磁式の加速装置が機体を勢いよく発艦した。目の前に広がるのはSVや戦艦の花火が打ち上がる戦場。爆発の中を半透明な人型をした結晶の塊、イミテイターの《イミテーションデウス》が数十体、統連軍に攻撃を加えながら地球を目指して押し寄せてくる。


「来るぞ!」

 敵は〈ダイナムドライブ〉付きの機体であるシュウ達へ進行方向を変えて攻撃を仕掛けてきた。細かなビームのシャワーが二機の頭上へと降り注ぐ。


「焦らない。戦いは一瞬で蹴りを着ける……なぜならば、ここには私とシュウ、エスクードとゼアロットがいる。二つの力を一つにする……合体だっ!」

 上手くビームの隙間に回避しながら、冴刃がコンソールにパスワードを打ち込み、操縦桿を強く握りしめて前に倒した。それにならってシュウも同じ手順を踏と、二体のSVに変化が起こる。


「これが男と男の合体! 見晒せ宇宙生物どもっ!」

 二体のSVが高速で敵の方へ飛びながらバラバラに分解されていく。分かれたパーツは別の部分のパーツに接着する。次々と繋がり二体分あったパーツは組み換えられて、次第に赤青黄色、そして灰色をした一体の巨大なマシンへと変貌を遂げた。


「一つの器に二つの魂、私とお前の剣と銃で」

「寄らば斬る、撃つ、破壊する」

「天上無敵の友情合体ッ!」

「……それはない……」

「「ダイッゼスタァァァァァァァァァー!!」」

 二人の咆哮がexSVとなった《ダイゼスター》の周囲を囲む《イミテーションデウス》を怯ませる。中心の《ダイゼスター》は全敵機に標準をロックした。


「パラライズミサイル、プラズマブラスター、カーディオフェイラー、オールグリーン」

「フル・インパクトッ!!」

 上下左右前後、全ての方向に向けて全身の内蔵兵器を出し惜しみなく発射した。自機中心で遠目からは爆発に見えるその閃光は隙間なく逃げ場も無いほど正確に敵のコアを撃ち抜き、尚且つ《イミテーションデウス》全体を包み込んで塵一つ残らず消滅させた。


「やったな……」

 シュウはコンソールを確認する。周囲に居る敵機は0、エネルギーのフル・チャージまで約五分といった所だ。


「あっちの方にはまだ敵はいる、このまま行くか?」

「やらいでか。いやあ気分爽快スッキリだね。それにしてもシュウ、君も案外ノリノリじゃないか?」

 それは男だからな、とシュウは心の中で思っておくと同時に、シュウは別の事が気になっていた。


「あのイミテーションデウス、パイロットのイミテイターが居ない。どういうつもりだ?」

「さあな、私達にはもう関係ないことだ」

 冴刃は無関心に言ってみせる。


「地球に生存するイミテイターが起こした事じゃない。過激派と呼ばれる奴等も、もう居ないしな。純粋なイミテイトって事だろう」

「だが、また統連軍が“狩り”をするかもしれない。その時、俺達は……」

「なあシュウ、そんな詰まらないことは無しだ。大切なのは人間か人間じゃないか、そんな事じゃない。自分か自分じゃないか、だ。お前はシュウ・D・リューク。私は冴刃・トール。それ以上でも、それ以下でもない。これが真実さ」

 諭す冴刃。そんなものか、と何だか納得しきれないシュウである。そんな二人を乗せて《ダイゼスター》は次なる戦地へと向かった。



 ◆◇◆◇◆



 同じく大気圏上、別の戦闘区域は戦いが続いている。

 名字を与えられた虹浦ユングフラウとそのSV、砲身の様な頭部で宙戦仕様の装備をした《パンツァーチャリオット》は色の違う量産機を五体携えて《イミテーションデウス》の大群が繰り出す攻撃を何とかやり過ごしていた。


「タンク2、ボサボサしているな! ケツにつけられてるぞタンク5!」

 仲間達に激を飛ばす。そんな量産の《パンツァーチャリオット》に乗っているパイロットはユングフラウと全く同じ顔をしていた。

 彼女らはクローン人間だ。IDEALによって極秘りに作られ、ガードナーの私兵として戦う為に事を義務付けられた存在。

 そして今も変わらない。だが、ただ目的も無く戦っている訳ではないのだ。


「タンク3、こちらは片付けました」

「タンク1、タンク4と共にそちらの援護に向かいます」

「タンクリーダー、イドルスターが発進します」

 同じ声が通信機から流れる。遺伝子の繋がりはあっても姉妹ではない、が今は家族以上に大切な存在である、とユングフラウは思っている。


「タンクチーム、艦には絶対に近付けさせるなよ……セイル。必ず成功しろよ?」

 祈るユングフラウ。

 そんな彼女の一番に大事な人は、やはり虹浦セイルだ。

 厳密に言えばユングフラウは本当の虹浦セイルであり、虹浦セイルはタンクチームと同じ母・虹浦アイルのクローン人間である。


 ──じゃあ、やっぱり家族だ。でもでも、それだとセイルがユングフラウのお母さんになるの? あと、セイルの名前はこれからは芸名になっちゃうのかなぁ。


 ──難しいことはよくわからないや。セイルはセイル。ユングフラウはユングフラウでいいよね。そーだ、名字無いと困るよね? 明日、区役所に行こうよ……市役所だっけ?


 ──ユングフラウのが年上だよね? セイルね、お姉さん欲しかったんだ……最近またお仕事が忙しくなったし、甘えても良いよね……お姉ちゃん。


 とても奇妙な家族が出来上がった。中東に捨てられ、暮らしていた時は、まさかこんな事になるなんてユングフラウは夢にも思わなかった。

 この幸せが一生続いて欲しい、と願いながら真打ちの登場を待つ。

 元IDEALの戦艦である《日照丸》の艦首が開いて、中からSVが迫り上がってきた。光沢のボディはショッキングピンクに輝き、背部に生える六つの大きな羽を開かせた。


「ハレルヤ、いっきまぁーすっ!」

 コクピットが可変し、虹浦セイルはステージに躍り出る。《ハレルヤ》は六枚羽から大音量をメロディーを奏でて、戦場に響き渡った。

 その新曲は──題名はまだない──ラブソングだ。



“星に願い事をしても 叶う保証なんてない”


“あの光のどこかに 君はいるの?”


“会えないわけじゃない 必ずどこかにいる”


“誰からも透明な存在で 皆には見えないけど”


“君を信じている それだけでいい”


“思うだけなら簡単だけど 今はそれでもいい”


“私は待ってる いつまでも……”



「目標のイミテイト沈黙。無力化に成功」

 後部座先に座るクロガネ四号──ヤマダがセイルの為に製作した新型アンドロイド──は淡々と状況を伝える。その歌に特別な波長があるわけでも機体のスピーカーから特殊な電波が流れてる訳でもないが、苛烈な攻撃を行っていた《イミテーションデウス》は、パタリと動きが止まってしまった。


「そういう言い方はしないの! 純粋にセイルの歌に聞き惚れてるんだからね!」

「イドルスター、攻撃の許可を」

「だからダメなんだってば、もう!」

 攻撃しようと《量産型パンツァーチャリオット》達が構えるライフルを《ハレルヤ》は叩いて回る。普段のタンクチームはセイルのボディガードをしているのだが、少し過激なファンに対しても必要以上にやり過ぎるのが偶に傷でセイルは困っていた。


「ささ、イミテイトさん! 元居た場所に帰ってくださいな? お友達になれる日が来たらまた会いましょお!」

 停止していた《イミテーションデウス》の大群は百八十度方向転換して宇宙の彼方へと飛び立った。彼等の後ろ姿をセイルは手を振って見送る。


「高エネルギー反応、スゴく大きいです……どんどん来てます!」

 レーダーを見て何故かクロガネ四号が感情的に慌ててセイルに報告する。《イミテーションデウス》とすれ違いにやって来たのは純白の巨神。大きさも細部のデザインも変わり果ててしまっているがセイル達は機体に搭載された〈ダイナムドライブ〉で感じた。


「歩駆さんのゴーアルター、帰ってきたんだぁ!」

 セイルは喜びながらステージの上を跳び跳ねる。《ハレルヤ》と《パンツァーチャリオット》達は手を繋ぎ、大急ぎで《ゴーアルター》を迎えに行った。



「……いい歌だった」

「だが、せっかく来たのに、行ってしまったな」

 敵が去ってしまい《ダイゼスター》は完全に出遅る。シュウと冴刃は姿の変わった《ゴーアルター》を見つめていた。


「それにしても、あれが帰ってきたのか」

「あぁ、俺達の戦いはあのSVから始まった」

 実験により暴走、基地は吹き飛びシュウはイミテイターと成り変わり、ガードナーを率いて統連軍に宣戦を布告した。


「そうだな。私は、そのあと色々あって仮面を着ける事になった」

「何だよそれ…………薄々なんだがな、ずっと思っていた事がある」

「奇遇だな、当ててやろうか? いや、同時に言おうか……せーのっ」

「「あれは俺達の知ってるゴーアルターじゃない」」




 西暦2037年。

 九月二十二日。

 真道歩駆と《ゴーアルター》は地球に帰還した。

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