第十七章 sinゴーアルター対ノアGアーク
第97話 ビューティフル・ドリームス
欲しかったんだ。
自分の正義を通せる力が。
神にも悪魔にだってなれる、誰にも負ける事の無い絶対的で唯一無二の力が。
そんな力を手に入れて何がしたいかって?
…………なんだっけ?
紅葉のシーズンも終えて冬が近づいてきた今日この頃。
ここは中京地方の某県、都心から少し離れた町にある県立真芯高等学校。
チャイムが校内中に鳴り響くと、学生たちは明日に迫る学園祭に向けての準備を開始した。
出店や演劇、お化け屋敷や展示会、バンドの練習など、和気あいあいとしながら準備に勤しんでいた。
「全く、ご苦労なことですな」
前日だと言うのにお祭り騒ぎな生徒達を尻目に、少年はリュックサックを背負って一人、屋上へと向かう。
思い扉を開けると冷たい風が頬を撫でる。かつてバカな生徒が問題を起こしたせいで屋上は学園祭中、使用禁止となっているので誰も近寄らない。
それを良いことに少年はクラスの手伝いもしないでサボりにちょくちょく来ていた。
ベンチに座りリュックから今朝買ったばかりの本を読もうとする。
「あー! こんなところにいた!」
大声にビクッとなり少年は座ったまま飛び上がった。クラス委員長が凄い剣幕でこちらを睨んでいる。
「君ねぇ、ただでさえ人手が足りないんだから逃げ出すんじゃないの!」
「ボクの一人や二人居なくたって困らないだろ?」
「困るから呼んでるのよっ!」
怒鳴る委員長が少年から本を取り上げる。
「返して欲しかった取りに来なさい」
「ひ、卑怯だぞ!?」
少年が飛びかかるも委員長はヒラリと回避。さらに本を高く上げられ、身長の低い少年はピョンピョンと飛ぶも掴めない。
「新刊なんだよソレぇ」
「なら、やる事やって家で読むことね」
全く聞く耳を持たない委員長に急かされ、ドアの方へと押される。
「荷物持って、さっさと行くわよ。楯野衛(タテノ・マモル)くん」
日は暮れ、夜になったが作業は終わらなかった。
学園祭の前日に限っては飽くまでも準備という名目で泊まり込む事が許されているのだが、そんなのは無視して騒ぎまくる生徒達で賑わっていた。
衛のクラス、1年B組は劇をやるのだが、その内容は高校生にもなって“ヒーローショー”である。だが、肝心のヒーローと悪役の着ぐるみが未だに完成していないのだ。
「こりゃ徹夜になるぞ」
「もう良いよディティール懲り出すと終わらねーわ」
完成図はメカニカルなヒーロースーツ。その絵を元に段ボールを貼っては剥がし、剥がしては貼っての繰り返しで中々、格好よくならず先に進まない。
「アイツはどこ行ったんだよ!?」
「夜食の買い出しだと……良いよな主役は気楽で」
「コラー、サボるじゃないよ君達ぃー!」
「楯野ぉ……お前がそれを言うなよな」
「おーい聞いてぇ! 女子は九時で帰りだってぇ!」
「はぁマジかよ、舞台のセットも残ってるだろ!」
ふざけるな、と男児らのブーイングが教室に響く。
「女の子を暗い夜道に歩かせるわけぇ? 私らの衣装は持ち帰ってやりますぅ」
「じゃあボクもそろそろ……」
「お前はこっちだろがっ!」
アレはどうなった、コレはどうなった、コイツは台詞を覚えていない、ソイツが急に出たくないと言い出した。などとクラスが揉めだし始めた。
たまたま通りすがった見回りの教師が止めに入るが収拾が着かなり取っ組み合いの喧嘩に発展する。
そんな時、事件が起こった。
校舎が揺れ、ガラスが割れ、誰かの悲鳴が聞こえてくる。衛は教室の窓から身を乗り出して、その発生元を目撃した。
「……SVだ」
そのマシンはサッカー部がパフォーマンスで使用する為に借りてきた総称“SV(サーヴァント)”と呼ばれる人型ロボットだ。それが体育館の壁や運動部の部室を壊して暴れている。足下に二、三、倒れている人影が見えるが、暗くてハッキリとはわからない。
「豊臣重工の尾張三式だ。2017年に製造の旧式で今は作業用として広く使われてるんだったか……おわっ?!」
「何だ何だ」
「不良連中とかが勝手に乗ってんのかよ」
「校舎の裏でお酒飲んでるのみたわ」
「オイオイオイ、逮捕者でるわ」
「ケーサツ! ケーサツ! ヒャクトーバン!」
さっきまで騒いでいた生徒達が一様に外を覗き込む。するとSV、暴走する《尾張三式》はターゲットを教室のある校舎に変えて進み出した。
「不味くね?」
「に、逃げろぉ!」
生徒達は一斉に教室から出ていく。我先にと急ぐせいでドアに詰まって中々廊下へ脱出できない。
後ろの悲鳴を聞きながら衛は外の《尾張三式》をじっと睨む。不思議と恐怖は感じない。何故ならば“彼”がやって来るからだ。
『スパイラルストライクッ!!』
月光を背に受け、螺旋の一撃が《尾張三式》に直撃するとグラウンドに道路ギリギリまで吹き飛んだ。
「来た、彼だ!」
『神・装・真・器ゴーアルター、見参ッ!!』
白銀の巨大SVが吼える。胸のハッチが開き、中から学生服を着たパイロットが木々の間に倒れている《尾張三式》に指を差す。
『人々の平和を脅かす偽造獣よ、その正体を現せ!』
片腕が取れてしまった《尾張三式》がゆっくりと立ち上がる。すると、腕の無くなった肩からゼリーみたいなモノが吹き出し、固まって人の腕に似た形に変化した。
『ナゼバレタ……ニンゲンン!?』
『あれが正体だ! 奴等は人間社会に紛れ、内側から世界征服を企んでいる。しかし、このゴーアルターが偽造獣を成敗してくれる』
『ヤレルモノナラ、ヤッテミルガイイッ!』
獣の様に叫ぶ《三式偽造獣》が《ゴーアルター》に向かって猛進する。
『そいつは愚作のパターンだ! バーニング・マニューバ・フィストォォーッ!』
炎を纏った《ゴーアルター》の右腕が勢いよく発射されると、ドタドタと走る《三式偽造獣》の腹部を激突。多少は耐えようと踏ん張る《三式偽造獣》だったが、直ぐに力負けをして空高く打ち上げられる。
『フィニッシュだ、イレイザーノヴァッ!!』
胸のクリスタルが輝き、極大の光を闇夜に解き放つ。落下する《三式偽造獣》は更に上昇、花火の如くきらびやかに爆発四散した。
『任務完了!』
真芯高校の生徒や、騒ぎに駆けつけ学校の周囲に集まってきた近所の住人達から歓喜の声が湧く。
「スッゲー! 格好いいぞ!」
「学校を守ってくれてありがとうー!」
「おいおい、アイツ1Bのヤツじゃね?」
「……本当だ! 何だよヒーローみたいだな」
正体を知って生徒達がざわめき立つ。
『皆聞いてくれ! これからもさっきの奴みたいな怪物が現れて、また暴れまわるかもわからない。だが、安心してほしい! この学校……いや、この町は俺とゴーアルターが絶対に守ってみせるぜ!』
必死な演説に人々は拍手喝采。鳴り止まない歓声に《ゴーアルター》が手を振った。
「さぁ再開するぞ。学園祭は明日なんだ、気合を入れるぞ!」
「「「おー!」」」
今夜は徹夜になるかも知れないと言うのに、生徒達の心は学園祭を必ず成功させる、と言う気持ちで一つに団結していた。
衛はクラスの皆がやる気に満ち溢れている中で、何故だか酷く疲れてしまい、こっそりと抜け出し家に帰るのだった。
◇◆◇◆◇
紅葉のシーズンも終えて冬が近づいてきた今日この頃。
ここは中京地方の某県、都心から少し離れた町にある県立真芯高等学校。
学生達は明日に迫る学園祭に向けての準備を開始していた。
出店や演劇、お化け屋敷や展示会、バンドの練習など、和気あいあいとしながら準備に勤しんでいる。
「全く、ご苦労なことですよ」
前日だと言うのにお祭り騒ぎな生徒達を尻目に、少年はリュックサックを背負って一人、屋上へと向かう。
思い扉を開けると冷たい風が頬を撫でる。かつてバカな生徒が問題を起こしたせいで屋上は学園祭中、使用禁止となっているので誰も近寄らない。
それを良いことに少年はクラスの手伝いもしないでサボりにちょくちょく来ていた。
ベンチに座りリュックから今朝買ったばかりの本を開いた。
「…………ゴー……アル? これ前に読んだっけ?」
巻数を間違えたのか記憶がハッキリしない。レシートは貰っていないので返品は無理だろう。一度、家に帰って確認をしたかった。
しょうがないので衛は屋上を後にし、教室に戻った。
午後になったが作業は終わらなかった。
衛のクラス、1年B組は劇をやるのだが、その内容は高校生にもなって“ヒーローショー”である。だが、肝心のヒーローと悪役の着ぐるみが未だに完成していないのだ。
「こりゃ夜になっても終らんぞ」
「もう良いよディティール懲り出すと終わらねーわ」
完成図はメカニカルなヒーロースーツ。その絵を元に段ボールを貼っては剥がし、剥がしては貼っての繰り返しで中々、格好よくならず先に進まない。まだ敵怪獣も残っている。
「アイツはどこ行ったんだよ!?」
「おやつの買い出しだと……良いよな主役は気楽で」
「おーい聞いてぇ! 女子だけで前夜祭のカラオケ大会やるって!」
「はぁマジかよ、舞台のセットも残ってるだろ!」
いい加減にしろ、男児らのブーイングが教室に響く。
アレはどうなった、コレはどうなった、コイツは台詞を覚えていない、ソイツが急に出たくないと言い出した。などとクラスが揉めだし始めた。
たまたま通りすがった見回りの教師が止めに入るが収拾が着かなり取っ組み合いの喧嘩に発展する。
そんな時、事件が起こった。
校舎が揺れ、ガラスが割れ、誰かの悲鳴が聞こえてくる。
衛は教室の窓から身を乗り出して、地響きの発生元を目撃した。
「SVだ」
その機体はサッカー部がパフォーマンスで使用する為に借りてきた総称“SV(サーヴァント)”と呼ばれる人型ロボットだ。校舎裏の駐車場に停めてった物がカラフルな木製の看板や軽音部の特設ステージを壊して暴れている。足下に二、三、倒れている人影が見えるが、逆光ではっきりとはわからない。
「豊臣重工の尾張三式だ。2017年に製造の旧式で今は……おわっ?!」
「何だ何だ」
「不良連中とかが勝手に乗ってんのか」
「オイオイ、ケーサツ呼べよ誰か」
さっきまで騒いでいた生徒達が一様に外を覗き込む。するとSV、暴走する《尾張三式》はターゲットを教室のある校舎に変えて進み出した。
「不味くね?」
「に、逃げろぉ!」
生徒達は一斉に教室から出ていく。我先にと急ぐせいでドアに詰まって中々廊下へ脱出できない。
後ろの悲鳴を聞きながら衛は外の《尾張三式》をじっと睨む。不思議と恐怖は感じない。何故ならば“彼”がやって来るからだ。
『フォトンフラッシュッ!!』
日輪を背に受けて巨大な人型の繰り出す光の雨が《尾張三式》を蜂の巣にする。
「来た!」
『希望を使者。神・装・真・器ゴーアルター、見参ッ!!』
白銀の巨大SVが吼える。胸のハッチが開き、中から学生服を着たパイロットが木々の間に倒れている《尾張三式》に指を差す。
『皆の学校を狙う卑劣な偽造獣よ、正体を現せ!』
全身穴だらけになってしまった《尾張三式》がゆっくりと立ち上がる。すると、空洞の部分からゼリーみたいなモノが吹き出し、固まって人の肉に似た色に変化した。
『ドウシテワカッタ……ニンゲンメェー!?』
『本当の姿を現したな? 奴等は人間社会に紛れ、内側から世界征服を企むなどと、このゴーアルターがお前達の侵略を絶対に許さないぞ!』
『ヤレルモノナラ、ヤッテミルガイイッ!』
獣の様に叫ぶ《三式偽造獣》が《ゴーアルター》に向かって猛進する。
『ライトニング・マニューバ・フィストォォーッ!』
電気を纏った《ゴーアルター》の左腕が不規則な軌道を描いて飛んでいく。その早さに《三式偽造獣》は避けられず腹部を直撃。超高圧の電流を浴びて黒焦げになり地面に膝を着いた。
『ファイナルだ、フォトンハリケーンッ!!』
両肩から虹色に輝く粒子が渦を巻いて吹き出した。二つの竜巻は《三式偽造獣》を巻き込んで天に登り、ミキサーに掛けられたかのようにバラバラに粉砕されていった。
「ウオォー! スッゲーゼ!」
「学校を守ってくれてありがとうー!」
「おいおい、アイツ1Bの」
「マジかよ! 本当のヒーローみたいだな!」
正体を知って生徒達がざわめき立った。
『皆聞いてくれ! これからもさっきの奴みたいな怪物が現れて危害を加えるかも知れない。だけど、心配しないでくれ! この学校……いや、この町は俺とゴーアルターが絶対に守る! 約束するぜ!』
必死な演説に人々は拍手喝采。鳴り止まない歓声に《ゴーアルター》が手を振った。
「さぁ作業再開だ。学園祭は明日なんだからな、気合を入れるぞ!」
「「「おー!」」」
生徒達の心は学園祭を必ず成功させる、と言う気持ちで一つに団結していた。
衛はクラスの皆がやる気に満ち溢れている中で、何故だか酷く疲れてしまい、こっそり抜け出して家に帰るのだった。
◇◆◇◆◇
冬が近づいてきた今日この頃。
文化祭前日。
涼しい屋上に居る衛はベンチに寝そべって新しく買った本を読む。
すると、見知らぬ少女に呼び掛けられた。
「なんだい? 手伝いならしないよ。今本を読むのに忙しいんだから」
「──」
少女が口を動かせど言葉の意味がどうしてか伝わって来ない。
「──」
「日本語でオッケー」
「──」
「……あのね、段取りが違うでしょ? それともアドリブ? そんなんじゃ彼を楽しませられないよ」
イライラして衛が言うと、少女は耳に近付いて囁く。
(あなたはそれでいいの?)
背筋がゾクリとする。初めて少女の声が聞き取れたが、それは聞き覚えのある声だった。
(あなたがそれを願ったの?)
「彼が望んだ事だ。ボクらはそれに従うだけだから」
(楽しいの、それ?)
「君に何がわかるんだ、これは最高の第一話だよ。何度だって見ていられるさ」
(でも一生、明日は来ないんだよ)
「ずっと繰り返しで良い! 彼は皆を守るヒーローに成り続けるの。いつまでも初見の反応で、皆は喜んでくれるし」
(それをあなたは見てるだけ?)
「…………」
(……彼に会いたいとは思わないの)
「ボクは……その役割じゃない」
(あなたの役割って?)
「………………」
(私は……どうしようもなく駄目でも、何度やっても失敗ばかりでも、馬鹿でドジで自分勝手でオタクで計画性が無くて夢ばっか見てるアイツが)
「言うなっ!!」
(──)
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