第95話 戦火、止まらず
『き、貴様ァァ……よくも、このゴーアルターにィィィィーッ!』
怒号が宇宙に響く。大きな体躯の《ゴーアルター》を小型の《Gアーク》が振るう剣が上から下へと袈裟斬りにする。斜めに負った傷から血飛沫の様に光を撒き散らした。
「やったぞ、こんちくしょうめっ!!」
『ウオオォォォォォアァァァァァァァーッ!!』
再生するはずの装甲が直らず《ゴーアルター》は怒りの雄叫び。それは〈ダイナムドライブ〉の力をより一層、エネルギーを高めるのだった。だが、
「真道先輩!」
「もいっちょ、うおらぁぁぁぁぁっ!!」
間髪いれず《Gアーク》は剣を切り返して、今度は斜め上に振り上げた。《ゴーアルター》の胸にバツの字の傷が出来上がる。
「これで、ラストぉぉぉぉーっ!!」
最後の一突き。これで止めだったのにも関わらず突如、横からの衝撃に《Gアーク》の剣先は空を斬った。
「二人とも待って!」
何事か、とフラフラする《Gアーク》の前に間に割って入ったのはマモルの《戦人》だった。
「何するんだマモル!?」
意味が分からない、と歩駆は困惑して言う。
「もういいよ……アルク達、自分同士が争う必要なんてないよ!」
「今更、そんな事は関係ないだろ。こいつを野放しにしておくわけにはいかないぞ!」
『あぁ……そうだな。違いないぞマモル』
背後の《ゴーアルター》が《戦人》の真後ろに忍び寄る。一瞬の出来事だった。
「え?」
装甲を貫通する黒い腕。《戦人》の胸部から《ゴーアルター》の拳が生えていた。
「マモルっ!?」
『いるさ』
その掌を開くとマモルが踞っていた。ちゃんとパイロットスーツを着ているお陰で宇宙空間でも何とか生きている。
『コイツは俺の理想とする世界を作るのに必要なんだ、約束したんだよ。一緒に連れて行くぞ』
「貴様ぁ! マモルを返せ!」
飛び出す《Gアーク》が精一杯、手を伸ばすも《ゴーアルター》は取られまいと後退する。
『なぁ……もし、お前が俺と来たいと言うのならば、十四番目の惑星を訪ねるといい。俺達はそこにいる。回収したイミテイトの数は少しばかり足りないが、十分さ。きっと楽しい世界がそこにある。俺だけの世界がね』
踵を返す《ゴーアルター》の背部、深紅の翼の《JF(ジェットフリューゲル)》がスラスターから輝く炎を吹く。
「アルク……アルクゥゥ!」
叫ぶマモル。その声もむなしく《ゴーアルター》は一瞬にして銀河の彼方へと飛んでいき、光は周りの星と同化して、どれだか分からなくなってしまった。
それから、歩駆達は地球に帰還する。
ガードナーの衛生基地は《ゴーアルター》によってイミテイター兵が居なくなった為、あっさりと陥落したが司令官である時任久音が忽然と姿を消し行方不明。
現在、国際的な指名手配犯として統連軍が捜索に当たっている。
ガードナーと言えば、シュウ・D・リューグと一緒に居た冴刃・トールはハワイの沖で発見される。
宇宙から投げ落とされ大平洋に叩き付けられたと言うにも関わらず、幸いにも大した怪我が無かったのは機体の性能のお陰であるが、流石に無茶をやったせいで両方の機体共々、修復不可能となり破棄された。
そして、《ゴーアルター》が居なくなり一週間。
ヤマダ・アラシの処刑執行日が今日である。
「……以上が、お前に課せられた罪状の数々だ」
野太い男の声が狭い部屋に響いた。
床も壁も天井も真っ白な空間で、サングラスに黒いスーツの大男と小柄のライフルを持った軍人が四人、ヤマダの前に並んでいる。
「大罪人の自覚はないんだけどなァ? あと、マゾ趣味は無いからね」
ヤマダは目隠しをされ、手足を椅子に拘束して身動きが取れない状態にあった。
それなのに、上の方──マジックミラーになっている観覧席──から自分を注目する視線が十数人ほど居るな、と何となく感じ取る。
「勘弁して欲しいのよ。まだ、やりたいことは沢山あるんだなァ……例えば、アレとかコレとかソレとかがぐ……っ!」
この状況に置いてもヤマダは、へらへらと笑いながら無駄口を叩くと軍人の一人がライフルでヤマダの頭を殴り、黙らせた。
「ここ一年ほどで人類全体の人口が約20%も減少した」
「…………増加で、悩んでいただろうに」
「ほとんどが若者だ。軍にも大量に紛れ込んでいた。こちらは40%も、建て直すのにどれだけの時間と予算が掛かるか」
「全部、イミテイターのせいだろ……」
「人々の怒りは収まらん、見せしめが必要だ。君が模造戦争でイミテイターと繋がっていた事は調べがついている」
「……そうか」
「もう、言い残す事は無いな……やれ」
スーツの男が合図を出すと、ライフルの軍人達が前に出て構える。
ヤマダは観念したのかガックリと項垂れていた。が、その表情には笑み。
「……」
「…………おい、どうした? 早く撃たんか!」
怒鳴る男の声に軍人達は反応を見せずライフルを構えたまま止まっている。すると一人軍帽の色が違うリーダー格の軍人が構えを止めライフルを床に捨てた。
「お前ら、さっきから何だと言うのだ貴様!?」
男は後ろから棒立ちな軍人の肩を引っ付かむと、小型の銃を胸に押し当てられる。
「何を……ウッ!」
カシュ、と乾いた音がして男は倒れた。傍聴席の者達のざわめきが部屋に響き渡る。
「グウ……オォ…………GUUWOOOOAAAAAA!!」
床に突っ伏す男から獣の様な呻き声を出していた。白目を剥き、泡を吐いたと思ったら、スーツが破け、肉体が二倍にも三倍にも膨張を始めて部屋を破壊する。
「フォーメーション、ダイヤ・ストライク。ファイア!」
リーダー格の軍人がライフルを拾い 号令を出すと、化物に変わった男だったものへ一斉に撃ち始める。正確に、的確に狙い撃つは最初に撃った銃のマーカーである。微かに発光し、弱点である心臓部のコアへ弾丸を叩きつけた。
「状況終了。周囲にイミテイトの反応なし」
静かになった肉の塊を突き反応を見るが動かない。二階部分が崩れたものの、暴れ狂う前に何とか建物への被害を最小限に押さえて、イミテイターだった男を撃破した。
「…………お待たせしました博士……」
「……ありがとさんクロガネ三号。殴る力加減を調節しないとな…………」
拘束を解かれ、まず頭を擦るヤマダが言った。
恐る恐る近付いて、溶ける肉塊の中から一つの弾を拾う。それはかつてユリーシア・ステラがデータを持ち出したイミテイトを模造能力を活性化させる効果を持ったインプラント弾である。
しかし、これは失敗作で破棄したものでもあったが、今更になって役に立つとは思いもしなかった。
「見ただろ上の奴らァ! イミテイターは未だ人の中に紛れ、人類を支配しようと企んでいる。たが、安心してほしいッ! この稀代の天才たるヤマダ・アラシがいれば人類は救われるのだァ!」
ヤマダの宣言を皮切りに、世界各地に潜んでいたイミテイターの反乱が始まった。
人々は──もしかしたら隣人がイミテイターなのではないか、と──恐怖し、互いを怪しみ疑心暗鬼に陥り、ついには暴動が起きてしまった。
いずれ人同士が殺し合いを始めて、最悪、人類は滅亡の危機に貧してしまうのではないか、と政府は重く受け止め事態の修復に図っている。
幸い日本だけはイミテイターの暴動は無く、平和を送っているのだが、
「あの国の人間は既に全員、イミテイター化しているのではないか?」
などと各国から噂されているが、それは虹浦セイルによる歌の影響だ。
彼女の歌のお陰なのか日本に住むイミテイターは自棄にならず穏やかに暮らしている。一部では世界にセイルの歌を発信して戦いを止めさせようと計画するイミテイターも存在する。
だが、それでも争いは無くならなかった。
季節は秋になる。
黄色い葉の散る樹を横目で眺めつつ、真道歩駆は病室で静かに本を読んでいた。ボロボロになった紙のブックカバーから“ロボット”の文字が覗かせている。
「……もう三時だぞ。何時まで寝てんだ、ニートかお前は……」
人工呼吸器を付けベッドに眠る少女、渚礼奈に声をかけるが起きる様子は無い。このやり取りは既に何十回と行っているが、礼奈は黙りを決め込んだままだ。
流石に、無反応だからといって身体をまさぐるなんて事はしていないし、監視カメラも四台設置しているので変な事は出来ない。
このまま一生、目を醒まさず何年も見舞いに病院へ通い詰めるのだろう、と覚悟もした。
「歩駆様ァーッ!! ついに、つっいっにっ! 完成しましたわー……イタッ!」
バン、とドアを叩くように開けて叫んだゴスロリ少女、トヨトミインダストリー副社長の織田竜花の額をグーで小突く。
「やっと終わったのか、遅すぎる」
「ご希望を叶える為に研究、実験を短期間に押さえたんですのよ? それこそ人類の技術が一、二世紀は進歩したぐらいの超、超、超ハイスピードレベルアップ!」
興奮でジタバタしながら竜花が言った。
「静かにな……」
「……あら、私としたことがはしたないですわ」
咳払いして乱れた服装を整える竜花。
「もう出せるのか?」
「そう、ですわね……うーん。出せないわけじゃあ、ないんですけどね」
「何だよ、もったいぶらずに言えよ?」
「うー…………っ!」
竜花は歩駆の胸に顔を埋めて抱きついた。
「お、おいおい」
「本当に……本当に行かれるんですの?」
「……あぁ」
「だって、まだ人類は火星すら、ろくに調査も出来ては、いないのに……」
嗚咽混じりの竜花の声。歩駆は優しく髪を撫でた。
「ずっと声が聞こえるんだ。ゴーアルターが俺を呼んでる……アイツと決着をつけなきゃ…………あぁあ、ほら鼻拭け? 美人が台無しだぞ」
「ギズ!」
「は?」
「ギズじでぐれなぎゃあんないじないでずわっ!!」
強引に迫る竜花。歩駆は仕方がない、と顔を近付けようとする。
「ハイ、ストップ! 歩駆君には礼奈さんが居るんだから変な事しないの」
二人の唇の間に手。止めたのは月影瑠璃だった。
「時間が無いんだから行くよ。ほら、付いてきてちょうだい歩駆君」
「ヤダー! ギズずるのぉー!」
駄々をこねる竜花を瑠璃は首根っこを掴んで連れていった。
「あっ、ちょっと待ってくれ!」
二人を先に行かせて歩駆は眠る礼奈の前に立つ。安らかな顔をしっかりと目に焼き付けて、自分の赤い眼鏡をそっと礼奈に掛ける。
本当は、ちゃんと意識がある時に返したかった。
「うん……やっぱ、ぼんやりするな」
視界は不安であるが、これで安心して戦いに挑める。
外で瑠璃達が自分を急かしている声を聞いて、歩駆は病室を後にした。
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