第94話 sinへの覚醒

 予想以上に善戦する歩駆達の活躍により、戦局が不利になってしまい時任は焦りを感じた。

 戦力はこちらの方が上だったにも関わらず、既に50%以上を失ってしまっている。

 時任にとって最悪の誤算だったのが天涯無頼の死だ。

 彼に能力を買われて、これまで右腕として尽くして来たと言うのに計画の最終段階へ移行しようと言う時に《ゴーアルター》に殺されてしまった。

 ここまではいい。何故ならば、もしも天涯が死亡してしまった時にIDEALの基地機能や内部情報、その他諸々の副司令では開示する事が許されないデータや様々な権利を、自動的に時任へ移行される様に仕組んだのだ。

 しかし、そうなる予定が何者かの妨害により、現状の副司令の権限ですら、ありとあらゆるIDEALへのアクセスを禁止されしまった。

 密かにSVの一機でも作らせようと思っていたがそれもパー。

 何とかガードナーのシステムには入れるが、これまで収集したデータが見れないのは自分のやる気すら無くさせる。


「部隊を呼び戻しなさい!」

 当たり散らす様に指示する声も次第に大きくった。イライラする彼女の顔を見向きもしないで、オペレーターは黙々と自分の仕事に没頭する。


「敵戦艦、突っ込んできます」

「何ですって……あぁっ?!」

 基地全体に衝撃が走る。こちらの包囲網は突破され《七曜丸》の船体がドックに深々と突き刺さった。

 時任は急いで基地内の兵士達を現場に向かわせるが《七曜丸》からの突入部隊の準備は完了している。


「白兵部隊、進入開始だ!」

 冴刃の号令でハッチが開き、重武装した軍人が一斉に駆け出した。

 第一班が敵と激しく衝突している内に第二班、第三班と隊員らが内部に潜入して基地制圧を目指す。

 彼らを全て見送った所で冴刃は席を立ち上がった。


「ここは任せるぞ」

「艦長、何処に行かれるので?」

「戦場へ……もう自分は必要ないさ。私はパイロットだからな」

 艦長の帽子を副長に預け、冴刃はお馴染みのマスクを被ってブリッジを後にした。




「キリがないですね真道先輩。どうします」

 後ろから飛びかかる《十式模造獣》を小型の〈ダイナムドライブ〉を搭載した対イミテイト用の武器、〈方舟の剣〉で《Gアーク》は振り返り様に袈裟斬りする。コアには届かない浅い傷に関わらず、切り口が虹色の閃光を放って《十式模造獣》を斜めに両断する。

 歩駆達は未だ戦場で再生模造獣軍団を倒しつくしてる最中であった。


「減ってる、あらかた敵はやったはずだぞ? でも、こいつらじゃない」

 ザコに構っている暇はないのだが、嫌でも構ってくるせいで歩駆は先程から《ゴーアルター》の姿を見失う。宇宙と言う360度の上下のない空間に平衡感覚が麻痺して気分が悪くなっていた。


「いた、アルク!」

 マモルが叫ぶ。《ガーデッド》か指差す方向、レーダーに映る二つの熱源がある。一つは《ゴーアルター》で、もう一つは《ハレルヤ》なのだがパイロットであるセイルの生体反応がない。歩駆とマモルはそこへ急いだ。


「見てください……何ですか、あれ?」

 絶句するアイルが映像を拡大する。そこには信じられない光景があった。


「食ってんのかよ、SV(サーヴァント)を?!」

 まるで甲殻類でも貪るかの様に、上下に真っ二つにされた《ハレルヤ》の内部を《ゴーアルター》は食らっている。そのおぞましい姿に歩駆とマモルは言葉も出ず動けなかった。


「共食いだか何だか知らないがよぉ、隙だらけだっつーのクソがァァァァーッ!」

 そんな中でツルギだけは動じず、《黒剣》は二丁(ハンドガンとスナイパーライフル)の銃を乱射して《ゴーアルター》へ飛び込んでいく。

 降り注ぐ弾丸を《ゴーアルター》は残骸となった《ハレルヤ》を振り回して防ぎ、《黒剣》へ投げ付けると両手の銃を吹き飛ばした。


『ダイナムドライブ……別名イミテイトコア。その生命の塊は心に反応し、意のままに力を創造する。偶像の巫女、虹浦アイルの《荒邪(アレルヤ)》は人々の心を掌握する力を持っている。計画には相応しい機体だったと言う訳だ』

「鬱陶しい! そんなもんオレには関係ないなァ!?」

 怯まず突き進むツルギの《黒剣》の両肩部大型ブースターが変形して尖った先端が腕に填まる。超加速で突貫、これが〈ブーステッドパイルランス〉だ。

 しかし、


『フォトンテイカー』

 素立ちの《ゴーアルター》から光の手が出現して向かってきた《黒剣》を包み込んだ。加速は止められ、機体は淡く光る透明な手に絞められる。


「心が……掴まれるッ?!」

 機体所か中のツルギにまで光に拘束されていた。肉体的にも精神的にも捻られている様な感覚に陥った。


「ツルギ兄さんっ!」

『何も出来ず潰されるがいい』

「くっ、ぐぁぁぁぁぁぁー!!」

 苦しみにもがくツルギ。あと一息で意識を失いかける寸前になった時、援軍が来た。

 不規則な軌道を描く数機の小型兵器によるビームのオールレンジ射撃が《ゴーアルター》を襲う。


「大丈夫、楯野君」

「へっ…………あ、ありがとうよ……月影瑠璃、元……た、隊長殿」

 瑠璃の《戦崇》によりツルギの拘束が解かれた。ビームの全方位攻撃は続き、さらに追い打ちをかけるのが灰色のID、シュウの《エスクード》が放つ球体型兵器(スフィア)が《ゴーアルター》に目にも止まらぬ速さで何度も衝突する。


「パイロットの名前で呼ぶのはややこしいか、どうするゴーアルター」

 二機の遠隔操作兵装に《ゴーアルター》は消耗し、自動回復速度が追い付かなくなっていた。


『四対一か……』

「いいや、五対一さ」

 光弾が《ゴーアルター》の額へ打ち込まれ、角飾りが弾け飛ぶ。撃ったのはアニメ風ヒーローマシンチックな機体、冴刃の《ゼアロット》である。


「冴刃・トール!」

「シュウ・D・リューク、久しいな。こうやって一緒に共闘するのは南米……いや、アフリカ以来だったかな」

「相変わらずよく喋る。やれるのか?」

「君にやられた傷が傷む……なんて言わんさ。やるぞ」

 三機に加わった攻撃が《ゴーアルター》を追い込んでいく。小型の《ゼアロット》は全方位から発射される〈ディス・フェアリー〉のビームと追突する〈スフィア〉の間をすり抜け《ゴーアルター》に切り込んでいく。

 防戦一方で守るだけだったが、当の《ゴーアルター》の表情は笑っていた。


『フフフ……ははははっ!』

 徐々に装甲が溶け、ヒビが入り、砕けていると言うのに《ゴーアルター》は余裕の高笑い。


「何がおかしい」

『お前達は勘違いしている……四対億だ!』

 爆発的な光を放ち〈ディス・フェアリー〉と〈スフィア〉を破壊して《ゴーアルター》が三機を振り切り飛び出した。先程までから一変し、逃げの態勢なのか思われたが、そうではなかった。

 向かう先は地球だ。


『さぁ同胞達よ、今こそ我の元へ来いッ!』

 大きく手を広げ《ゴーアルター》が叫ぶ。すると、地球の各地から色とりどりに輝く無数の光が宇宙へ舞い上がる。


「な、何が起こってる!?」

「光が……ゴーアルターに集まってくる」

 地球の裏側からも光が《ゴーアルター》に吸収していく。纏うオーラは巨大さを増し、ボロボロだった《ゴーアルター》の装甲が次第に治っていく。


「何だかわからないけど、させないわ!」

 瑠璃の《戦崇》は真っ先に向かっていく。小型ミサイルに加え、半数を破壊されてしまった〈ディス・フェアリー〉の残りも飛ばす。


『飛び回る蚊め』

 ビームが射出されるよりも動く《ゴーアルター》が〈ディス・フェアリー〉を拳で潰して回る。その間にもミサイルの雨を掻い潜りつつ、《戦崇》の眼前に立った。まるで時が止まったかの様なスピードに瑠璃は何が起こったのかも分からず、機体は浮遊する小惑星へと叩き落とされた。


「瑠璃さん!?」

 歩駆が叫ぶ。《Gアーク》とレーダーを見張るアイルの目をもってしても、今の《ゴーアルター》は捉えられてはいなかったのだ。

 この光は地球に潜伏するイミテイトやイミテイター達の生命エネルギーである。《ハレルヤ》の〈ダイナムドライブ〉を取り込んだ事によって得た力で自らの元へ呼び寄せたのだ。 


『……なぁマモル、お前は俺だけの味方だよな』

 今度は《戦人》の前に《ゴーアルター》が出現。それまでと口調が変わり優しい声で囁くと、面が左右に開くとアルクの顔が出てきた。


「えっ、あ……」

「アイツに耳を貸すんじゃないマモル!」

『なぁ、いいだろ。俺とお前の深い深ぁい仲じゃあないか?』

 その言葉にマモルは顔を真っ赤にするが、にじり寄る《ゴーアルター》に《戦人》は後退していく。こちらに来い、と伸ばされる手に恐怖を感じていた。


「ゲスですね。真道先輩、アレってセクハラですよ」

「そう言うので女の子の気を引くとは小さい。余所見をしてていいのかい少年!?」

 背後から忍び寄る《ゼアロット》はフォトンのブレードを突き立てる。しかし、纏うオーラが刃を《ゴーアルター》まで通さない。


『……ふん、無駄な』

 今度は横から《エスクード》の掌から生えるソードが攻める。


「往年のコンビネーションって奴さ、やれるだろシュウ」

「誰だと思っている、当たり前だ」

 一度離れ、勢いを付けて《ゴーアルター》へ切りかかる。その内に《戦人》は離脱、二機は厚いオーラに阻まれようと何度も、何度も連続で刃を振り続けた。


『だから…………無駄だァッ!』

 一瞬だけ装甲を掠めたものの、発射した《ゴーアルター》の〈マニューバ・フィスト〉が二機を猫でも掴むように、首の後ろ鷲掴みにした。すると、腕を車輪の様にぐるぐると回しだす。


『たった二人、集まった所で何だと言うのだ! こちらは一億ものイミテイターの力を背負っている。sinのゴーアルターは馬力が違うんだよォォーッ!!』

 豪速球で地球に向けて投げた。そのまま《ゼアロット》と《エスクード》は重力に引っ張られ操作不能に陥り、大気圏で真っ赤に炎上しながら落ちていくのだった。 


『戻れ、マニューバフィスト』

 悠然と腕を戻しているのを歩駆達は見ているしかなかった。残された《Gアーク》と《戦人》は一応、武器を構えるが何とも頼りないのはわかっている。


『どうする歩駆。これが無敵のスーパーロボット、ゴーアルターの力だ』

「うるせえよバカ。はしゃいでんじゃないぞ」

「真道先輩……気をしっかりしてください、勝てるものも勝てないですよ!」

 アイルが叱咤する。


『そう、ダイナムドライブは人の意思の力に反応するものだ。俺は今ノリにノっている。ここは大技で決めさせてもらうぞォォ!!』

 纏ったオーラが一層、増していく。地球から再び光が《ゴーアルター》の体に集まってくる。


『フォトンフラッシュ・メテオ……生命の光に飲み込まれろッ!!』

 左右に広げた両手に七色に発光する光球が、《ゴーアルター》の力が増すごとに大きく膨れ上がる。

 防御で耐えきれるか、それとも避けきれるのか。歩駆の思考が錯綜する。

 そして、《ゴーアルター》は生命エネルギーを目一杯に溜め込んで放つ寸前に、それは現れた。


 ──あ……く…………ある……っ。


『誰なんだ……俺の中へ勝手に入ってくる奴は』

 人間として暮らしていたイミテイトを多少の文句が聞こえない訳ではない。中には死に行く人の魂すら呼び寄せた。だが、それも計画のため、《ゴーアルター》の糧になるのだ。


 ─あー…………くん……あーくん!


 聞き覚えのある声。徐々に人の形となって《ゴーアルター》の中、アルクの視界を遮るように立ちはだかった。


『れ、礼奈だとッ?!』


 ─あーくん! 真道歩駆!


 せっかく集めた生命エネルギーが渚礼奈に吸い取られていき、《ゴーアルター》の膨れ上がった力が弱まっていく。


『邪魔をして、礼奈ァァァァァーッ!!』


「礼奈? 礼奈、何で?」

「良く分からないですけど今ですよ、真道先輩!」

 固まっている《ゴーアルター》へと《Gアーク》は〈方舟の剣〉を携え突撃する。


「だらっしゃあぁぁぁぁぁぁーっ!!」

 咆哮する歩駆。

 大振りに構えると《Gアーク》は《ゴーアルター》を勢いに任せて叩き斬った。

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