第64話 初恋発、嫉妬行き暴走特急
──友達が欲しかった。
『おおーいいね』
『いい、赤だからな。リーダーは赤、だから強い』
『そうなんだね。知らなかったよ』
『常識だよね。だから俺は赤しか着ない』
『でもトマトは嫌い。ケチャップは好きだけど』
『ふーん。よし、そいじゃ次はボクのも見てよ』
『あーくーん! もうすぐ五時だから帰らないとダメよー! おばさんに言っちゃうんだからっ!』
『わーったよ、今行くよ』
『誰?』
『所の家のれなちゃん。アイツ俺のかーちゃんかよ……』
『そうなんだ、またね?』
『おう……あっ、れなちゃん待てよ!』
──たった一人だけでいい、最高の友達が。
『何書いてんの?』
『考えてるのさ、俺だけのスーパーロボットを』
『……ふーん、ステータスがもろゲームの影響ね。そんでデザインが』
『うるさいなぁお前、まずは真似なんだよ。模倣する事から始めるんだよ』
『もっとこうオリジナリティをだね、他には無い売りと言う物が足りないよ。このロボットには』
『俺が見たいを重視しているのだ。それに俺ならアレをこう書くね! ってのを』
『あーくん、テスト前に随分と余裕ねぇ?』
『あっ、委員長……』
『勉強もそれぐらい熱心なら良いんだけど』
『うるせい礼奈! 俺はなぁ、いつか自分だけのロボットに乗ってやるんだ。テスト勉強なんて通過点に過ぎない』
『歩駆ならその夢叶うよ!』
『それなら尚更、通過する為に勉強は必要よ。はい没取!』
『おまっ、返せバカ!』
『バカとは何よ! もういい、せっかくお弁当作ってきたのに、お昼は無しね』
『テンメェ取り消せよコノヤロー!』
『……っ』
──何が足りない? 何がボクに欠けている?
「マモルよ、お前と何を比べる必要があるんだ?」
──だって、ボクはアルクと一緒に居たいから。
「居るだろう」
──二人だけが良い。だからアイツが邪魔だ。
「礼奈が?」
──前みたいにアルクから記憶を消そうと思った。けど……。
「ちょい待て、消した記憶があるのか?」
──消したのはボクの死に関する記憶だけ。他は消してない。
「本当に?」
──アイツの記憶を消したらアルクが困る事になる。それだけアルクにとってアイツの記憶が占める割合が大きい……。
「て言うか、イミテイターはそんなことも出来るんだな」
──魂のダビングを応用した技さ。他人の記憶にも干渉できる。ゴーアルターにも出来るはずだよ。
「あぁ、ダイザンゴウ……トヨトミの子の中に入ったな」
──アルクはボクの事どう思ってるの?
「……」
──……。
「……敵が来た」
──……バカ。
頭上に、現在は通行止めとなっている高速道路が横切る交差点。その中心からコンクリートを突き破って現れたのは地下鉄の電車だった。
七両からなる銀色の車体に紫のラインが入った“地下鉄東ヶ山線”の電車がレールが敷いていない一般道路を激走する。もちろん、客も運転手も乗ってはいない無人電車だ。
膝立の《ゴーアルター》の胸部装甲の上、歩駆がマモルの胸の中で目を覚ますと、飛び込んだ来たのは異様なその光景である。
「なぁ、模造獣とイミテイターの明確な違いって何だ?」
血で滲むパイロットスーツだが腹の痛みは無く、指で触れると傷は綺麗に消え去っていた。
すっくと立ち上がった歩駆は、車を吹き飛ばしながら町中を暴走する電車を眺めて質問する。
「……厳密に違いは無いさ。強いて言うならば奴等は“ヒト型”に対して本能的に恐れを抱いている」
「お前は人型だろう?」
「そう、イミテイターは魂を手に入れる事で“ヒト”と言う器を作る事が出来る。そうする為には遺伝子や記憶と言う膨大なデータを読み込まなければいけない」
「ほう」
「模造獣になるイミテイトはその理解を拒み、上っ面だけを真似る“模造”さ。得られる知識は限りがある。“ヒト型”ってのは神が作った完成された形だからね」
長々と説明するマモルだったが、
「成る程……わからん」
現実でそんな事を大真面目に言われても歩駆の理解を越えていた。
「要するに模造獣は情報が欲しいのさ。だから、だから暴れまわったり他のモノと融合したりする。けど、“ヒト”には成りたくても成れないから壊そうとする」
「イミテイターも暴れただろ。アレはどう言う事だ?」
「その辺はベースとなる“ヒト”に依存するんだよ。本人の我が強いとイミテイターとしての本能は薄れてしまう」
「本能……さっきの人も言ってたがイミテイターは仲間を増やして何をするつもりだ?」
「“シン”の目的かい? それは……」
神妙な面持ちをするマモル。その背後、遠方に見える建物が次々と倒壊していた。
「アルク、“電車模造獣”は町へ向かった。このままだとヒトが沢山死ぬ。そうなればイミテイターが増える……“シン”の目的がわかるよィッタ!?」
歩駆の拳がマモルの脳天にガツンと一撃。喋り途中で舌を噛みそうだった。
「バカ言ってんじゃねーよ」
「殴ることないだろ?! 傷を治してあげた恩人のボクを」
「お前がやった傷だろ」
もう一発、ゲンコツをマモルに食らわせる。
「そんなもん知る必要は無いね。何故ならばアレは俺が止めるからだ。その為のゴーアルターがある」
胸を張って歩駆は言い切った。
「まるで正義のヒーローみたい」
「“みたい”じゃねーよ。“だ”だろ。お前も来いよマモル」
「えっ、でもボクは……」
「嫌なのか?」
「いや……嫌じゃない!」
「後ろは任せる。変な事したら、またコレだからな」
拳を突き出して見せ、歩駆は《ゴーアルター》のハッチへ駆け上がりコクピットに滑り込んだ。
「そういう所が好きだよ、アルク」
その背中を見つめるマモルの表情は、どこか悲しげだった。
歩駆の《ゴーアルター》とマモルの《戦人・量産機》が《電車模造獣》の後を追うと既に戦闘は始まっていた。数十分前の《尾張イレブン》による戦いにキャンプの自衛隊員の誰かが応援を呼び、それに駆けつけた三機のSV、《尾張九式》の小隊が《電車模造獣》の暴走を食い止めていた。
「市街地に入れるな、ここで阻止しろ!」
「了解!」「了解!」
高さで言えば《尾張九式》の方が大きいが、全長で言えば《電車模造獣》の方が遥かに長い。
クネクネと蛇行して攻撃を回避しながら、猛スピードで迫る突進攻撃が《尾張九式》の撥ね飛ばし、機体はバラバラにされてしまった。
「音だ! 奴の走る音に注意して聞け!」
隊長格の男が残る味方に向けで叫ぶ。機体を背中合わせにして何処から来るか警戒して見渡すと、ファーンと言う音が聞こえた。
「来るか……あっちの建物からか、それとも」
その警笛は徐々に大きくなる。だが、《電車模造獣》の姿は全く見えない。なのに近付いて来る気配だけはする。そして、
「地下鉄、下に線路は無いはずなのに」
気付いた時には遅かった。コンクリートの地面が割れると、銀色の電車が錐揉み状態で飛び出した。ワニの様に口を大きく開け二機の《尾張九式》を鋼鉄の牙でまとめて噛み砕いて咀嚼(そしゃく)、飲み込んだ。
「遅かったか!?」
急降下し〈フォトンフラッシュ〉を拡散させて撃つ《ゴーアルター》だったが《電車模造獣》は再び地下へ潜っていく。レーダーで確認すると《ゴーアルター》の真下をぐるぐると回って様子を伺っている様に感じた。
「アルク、グラビティミサイルを使おうよ。ここには今人は居ない」
上空の《戦人・量産機》のマモルは言う。
「居なくてもいずれ戻ってくるだろうが。しかし」
移動する敵の反応はどんどんスピードは増していた。これでは攻撃のタイミングが難しい。マモルの言う通り、広範囲に当てられる〈グラビティミサイル〉か必殺光線である〈イレイザーノヴァ〉を放った方が手っ取り早いが、それだと街の被害が広がって復興が出来なくなってしまう。
「なら……出来ない所で戦おう。ついてこいマモル」
何かを思い付き《ゴーアルター》を発進させる。そこへ誘い込んで戦おう、と言う作戦だ。向かう場所、そこは歩駆にとっては思い出すのも気分が憂鬱になる所だ。
「……降りるぞ」
「あ、待ってよアルク!」
街の中心に出来た半径数十メートルの巨大なクレーターは歩駆が《ゴーアルター》で初めて戦った場所である。その範囲内には通っていた学校もあった。自宅はギリギリ免れていたが喜べるほど状態は良くない。
歩駆は今でも説明をしなかったヤマダのせいだと思っている。その前に調子に乗って建物を壊してしまったが、それはそれ。これはこれである。
「出てきたら一斉射だぞ。合図はこっちで出す!」
「任せてよ。シューティングは得意なんだ」
窪みの中心で二機のSVが敵の出現に身構える。レーダーの反応では《電車模造獣》は真っ直ぐこちらに走り出していた。露出した地下鉄の線路を見る限り、今の位置からこれよりも下には下がれないのだ。
「……今ッ!」
歩駆の掛け声と共に壁の土が盛り上がり《電車模造獣》が弾丸の様に飛び出した。上空を飛ぶ長い車体に二機はこれでもかと銃弾と光線を長い車体に浴びせ続ける。しかし、《電車模造獣》の勢いが止まる事は無い。
「ダメだ、コアに当たらないよ!?」
それどころか空中で突如、方向転換。暴走特急は怒り狂った様に警笛を鳴らしてこちらに突っ込んで来る。
「だったら」
迫り来る《電車模造獣》を見上げる《ゴーアルター》は忍者の真似をするかの様に、両方の人差し指を立てて握った。
「一点集中……」
指先に力を溜める。フォトンの粒子が手に集まり、頭頂部まで伸び上がり光の刀身が出来上がった。
「フォトンフラッシュ・フィンガーブレード!」
眼前まで近付く暴走状態の《電車模造獣》は口を大きく開けて捕食の体勢を取った。歩駆の《ゴーアルター》は果敢にも前へ出て、光の剣を思いきり降り下ろした。
「開きになりやがれェェェェェーッ!!」
叫ぶ歩駆に呼応して刃の輝きが増す。猛突進する《電車模造獣》の長い体を左右に切り開きながら《ゴーアルター》は突き進んだ。
やがて中心の車両にあった弱点のコアを突く。真っ二つに砕いて、そのまま最後尾まで一刀両断した。
夕暮れの日射しを浴びて、分断された《電車模造獣》は脆くも崩れ去った。
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