第八章 IDEALの日常

第43話 午前0時“男達の熱い夜”

(Bパート・アイキャッチ《愛園ヒメカ》)


『雑魚戦闘員のシタッパーは全て倒した! 連れ去った人達を返して貰おうか、ジャドー団!』


『助けてバンくーん!』

(ヒメカちゃん……今僕が行くからね)

『おのれぇ! またしてもワタクシのスポーツイケメンパラダイス計画がオジャンだワ!』

『ミラージェ様ぁ、そもそもジャンルが違うスポーツ選手集めてスポーツチームを作るなんてのが間違いザンスよぉ?』

『オダマリッ! ズーノがあんな所でヘマなんかしなきゃバンカインに作戦がバレなかったんだワ! それより準備は出来てるんだワねぇ?!』

『そりゃあもう完璧ザンスよ。それではポチっとね!』


《超総合スポーツ鬼・ウンドゥー改》

『やぁってやんなさい!』

『このウンドゥーは昔のウンドゥーとは一味も二味も違うザンスからね!』


『奴等も巨大ロボを出してきたか。なら、こちらもだ……《バンカイン! ショォォォーダウンッ!!》』


(挿入歌・バンカインのテーマ)


 ズンズン進むよ 悪無き道を

 鉄のおみ足 大地を踏みしめ

 拳一筋百万回 ビーム一発乱れ打ち

 唸る! ハートは鋼鉄製さ

 倒せ! 悪の軍団を殲滅せよ(バンカイブレード!)

 バンバン カイカイ バンサンカイ

 いくぞ勝利の方程式

 バンバン カイカイ デバンカイ

 必殺 命・王・万・解・剣

 嗚呼 (そうだ) 嗚呼 (とどろけ) 逆転の雄叫び

 その名は その名は その名はバンカイン


『さぁ、逆転挽回と行こうかァッ!!』




 二つの針が天辺を指した深夜十二時。

 照明が落ちて静まりかえる通路に一際、大きな音が響く一つの部屋がある。

 歩駆とマモルは冴刃・トールの部屋に夕方から集まってアニメの上映会を行っていた。

 彼の部屋は古今東西、新旧あらゆる日本のロボットアニメグッズで埋め尽くされていた。中にはコレクターの間で数百万もの値段で取引される貴重な物まである。

 一応、軍の基地なので本来ならば許されないのだが、実績のある冴刃だから特別に許可されている。

 歩駆も自宅からコレクションを持っていこうとしたが、勝手にパイロットになって戦闘経験が一年にも満たないズブの素人にそんな権利は無い、等と副司令の時任久音にこっぴどく叱られトレーニングを倍に増やされた。


「いつ観ても良いよな“逆転勇将バンカイン”って」

 テレビが一番見やすい真ん中の場所に陣取り、胡座(あぐら)をかいて座る歩駆。手にはペットボトルのオレンジジュースとお徳用の海苔塩味ポテトチップを抱えている。


「ねえアルクぅ~そろそろダンガムに変えようよ? 2クールぶっ通しは飽きちゃうよぉ」

 歩駆の膝の上にゴロンと頭を置いて、猫の様に甘えるマモルが訴えた。目を盗んでさりげなくポテトチップも一枚拝借する。


「何を言ってるんだワ! 3クール目からが良いんじゃないワ! この回のラストで物語は急展開し、そして次回の“死闘! 不滅のライバル編”で仮面の男ゼクシードが登場するんだワ!」

 と熱く語っているも付けているのはゼクシードの仮面ではなく“悪徳女社長ミラージェ”のコウモリ型フェイスマスクを付けている冴刃である。




『あぁもうオキマリなんザンス。欲張り過ぎはやっぱ駄目なんザンス!』

『一つに何て絞りきれないんだワァァ!』

『コレで決まりだ……必殺! 命(メイ)王(オウ)・万(バン)・解(カイ)・剣(ケン)!』


『その勝負、ミラージェ殿に加勢いたすッ!!』

『黒いロボット?!』

『奥義……雄命篇条(おめいへんじょう)剣!』

『あっ、何ィ? 俺の命王万解剣を……! あんな簡単に破るなんて、お前は一体誰なんだ?!』

『もしかして、あの方が言ってた援軍ザンスね?』

『私は常に弱い者の味方……バンカイン、お前と同じ助太刀人(セイバーブレード)さ』

『俺と同じ? 悪人を助けるお前と一緒にするなよ!』

『弱者、敗者に善悪の区別など無い。私は常に平等である』

『て言うか仮面のアナタ、何者なのだワ?!』


『私はありとあらゆる勝者の敵……名をゼクシード。そしてバンカインを倒す者だ』


(つづく)




 エンディングテーマのイントロが本編に重なるように流れると歩駆は食い入る画面を見た。

「うわぁぁぁーこれだよ、ダイバリ作画! 間違いない、このメカなのに筋肉質でマッシブさ! ラストのガイセンガーの絵が素晴らしい! 絶対にダイバリ」

 突然、奇声にも似た声を上げて興奮する歩駆にマモルは驚いて飛び上がった。


「びっくりしたぁ……ねえアルク。ゼクシードの声って生徒会長の大胆寺フテキと同じ声だよね? 二十話の竜巻旋風鬼ロボに吹き飛ばされて死んだんじゃなかった?」

「マモル君、それはね言わないのがお約束なのだワ。キャスト欄で声優バレしても!」

「ほらほら、やっばりダイバリさんだよぉ!」

「キャラの方もだワ。だから微妙に濃いんだワよ」

 スタッフロールを見ながら「作画監督がー」とか「演出がー」などと、一般人ではわからないディープな部分で歩駆と冴刃は盛り上がる。

 マモルはある程度ならオタクの知識はある方なのだが二人の会話には全く付いていけなかった。


「一旦休憩! 目が悪くなるからさ、ほら電気つけるよ!」

 マモルは映像を一時停止させて、壁にあるスイッチを押した。

 全員、眩しさから目がクラクラしている。


「ここまでテンプレ的に倒し倒されを繰り返してきた物語がガラッと変わる……てか路線変更なんだけど、これが有ったからバンカインは名作と呼ばれる事になったんだよなぁ」

 八百ページの分厚いガイドブックに書かれた解説を読みながら歩駆は言った。


「でも、バンカインって毎回戦闘のパターンが同じじゃない? 古いアニメってコレだから」

「同じじゃないし。あのな、テンプレ……お約束ってのは大事なんだぞ? これをわからずして何でもかんでも突拍子も無い展開やればいいって問題じゃない」

「しかし、ここからバンカインもお約束的テンプレを捨てるんだワよねぇ……あぁこの喋り方もう止めよう、疲れる」

 冴刃は部屋の奥へ行き、素顔を隠しながらゼクシードのマスクと取り替えた。

 セッティングをしているその間、歩駆とマモルの口喧嘩はエスカレートしていく。


「絵もガタガタだし、OPが良いアニメは何とか言うよね!」

「崩れてんじゃねーよ! 味があるって言え! 作監ごとの個性なんだよぉ! あと本編も良いわっ! アナログ手描き作画サイコー!」

「はいはいはいはい、懐古厨乙!」

「かっ、くぅ……うるさいんだよ! 見たくないなら出てけばいいだろ?!」

「わかった、出てく!」

 顔を真っ赤にしたマモルはペットボトルやお菓子、積まれたディスクのタワーを手や足で乱暴に振り払って散らかし、逃げるように出ていった。

 静寂。部屋の中が気まずいムードに包み込まれる。


「……良いのかい、歩駆君」

「いいんすよ。昔からああだし」

 グチャグチャに散乱する部屋を歩駆と冴刃は一緒になって片付け始めた。


「主人公が駄目な少年で普段は凄い未熟、でもバンカインに乗れば無敗、無敵。そんな絶対的な強さで勝利する、古くさいスーパーロボットアニメしてたのが好きだったんです。なのに次の3クール目からはバンカイオーの負けが続いて」

「大人の事情だったんだろうな、世間的にはウケたけど……ぁぁ少しオレンジ臭い」

 冴刃は濡れたガイドブックのページを捲る。監督インタビューでは詳しく語られていないが、それを仄めかす様な事は発言していた。


「スーパーロボットにリアルロボ要素は要らないんだよなぁ。確かに名作なんだけど明るい前半のが楽しかった」

「でも一番好きなんだろ?」

「うん、着地がよかった。序盤の設定を拾ってて最後に持ってくる。そこは良い。それを持ってくるかぁって感心した」

 そんな風に考えると実は後半も好きなんだ、と思う歩駆だった。


「そうか……マモル君ってリアルロボットが好きなのかい? これはダンガムの、これは“0821小隊行軍歌”か。ダンガムシリーズでも屈指のリアル志向の重厚なストーリーだ」

「兄貴が自衛隊なんですよ、それで昔っからマモルって奴は…………えーと、ん」

 言葉に詰まって何故か歩駆は一瞬だけ頭がくらっとする感覚に陥った。


「どうしたんだい歩駆君」

「あ、いや昔は……何だったっけな? マモルとの昔って」

 頭の中がボンヤリする。記憶が所々欠如している様な感じがして思い出せない。

 それは昔の事だから忘れているだけなのだろうか、もしくは何か別の理由でもあるのか、今の歩駆にはわからなった。

 そんな事よりも今はアニメが大事である、と気持ちを切り替える。


「さっ! 続き見ましょ、まだまだ先は長いですよ!」

「あぁそうだな。私の好きなゼクシードの本領発揮さ!」

 冴刃は第六巻のケースを取り出して、中身のディスクをデッキに挿入。ブゥン、と中で回転するローディング音が聞こえてくる。

 男達の熱い夜は始まったばかりだ。

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