第10話 瞳に映るもの
「これ思っていたより窮屈でなんか……」
身体にピッタリとフィットした特製のパイロットスーツを着た歩駆だったが、初めは恥ずかしく戸惑いながらも内心はとっても喜んではいたものの、実際に装着してみると素材が肌にベタッとくっつく感触でボディラインが出るのがすごい気になってしまう。
「それに、頭の輪っかと言うかヘアバンドみたいな奴とか、付けるならヘルメットじゃないんですか普通?」
『
輸送機から通信するヤマダ博士は、やれやれといった表情で言い切った。微妙に納得はいかない歩駆だったが今はなるべく被害を出さず戦う方法を模索するが、
「ダメだ。これはさすがに気にしてたら戦うのは無理だ」
先ずは基本的な移動方法だ。走る事を頭で思い描けえば、《ゴーアルター》はアスファルトを踏みしめ豪快に駆け抜ける。舗装された道路は衝撃でヒビ割れてしまうが、もうこれは考えないことにした。
問題なのは、この状況だ。
「あの“紐付き”すばしっこい!」
《竜巻模造獣》に繋がった《尾張九式》は軽々と攻撃を避ける。《ゴーアルター》の掌から放つ光線は最初の一撃は当たったもののダメージは無く、その次の二発目、三発目は掠りもしなかった。
実際は歩駆の技術が悪いせいなのだが、それにしても良く動く模造獣だった。
《ゴーアルター》の主武装≪フォトンフラッシュ≫はパイロットの精神力によって威力や性質が変動する。今の歩駆にはこの武器に苦手意識がついてしまい、射撃の攻撃力は自衛隊SVのライフル以下である。
「あのロケットパンチ……はっ、えぇ!? 出せないの?」
多少上がったもののコンソールの画面に写し出されるダイナムドライブのレベルは1.56と示される。武装セレクトの項目にはロケットパンチこと≪マニューバ・フィスト≫はレベル3から使用可能と表示されてあった。
現在、《ゴーアルター》が使える武装は。
≪格闘≫
≪フォトンフラッシュ≫
≪グラヴィティミサイル≫
この三つである。
三つと言うか、一つ目は武装では無くタダの素手であるし、最後の物はレベルに関係無く使用可能なのだが、前回で思い知らされた破壊力は町中で使うには絶対に駄目な武器である。実質、今は徒手空拳に等しい。
「なら近づいて拳に溜めたフォトンを……」
要は飛ばさなければ良いのである。遠距離からの射撃は回りの建物に当ててしまう可能性があって、自分の実力では確実に敵を射止める事は不可能だろう。だから、このフォトンを格闘戦用に応用するのである。前回の戦いで≪マニューバ・フィスト≫で使った時の“飛ばさない”バージョンだ。
「よし、これなら行ける。行くぞ!」
右手の拳に力を溜めながら《ゴーアルター》は駆け出した。自転車やガードレールを踏み潰したが気にしない。そのまま《九式模造獣》に向かい、機体ごとぶつける気持ちでアタックする。
「うおりゃぁぁぁぁぁー!」
拳を振り上げた瞬間、フォトンのエネルギーが倍に膨れ上がった。それにより目映い閃光と大きな爆発を引き起こす。だが、《九式模造獣》は難なく回避した。
「しまった……!」
《ゴーアルター》の周囲、数十メートルが吹き飛んで瓦礫と化す。歩駆自身は加減をしたつもりだったが、力んで叫んだのがいけなかったのか、予想よりも威力が大きかった。
「……っ!? は、博士!」
『あいよ』
「何か丁度いい加減には出来ないんですか?!」
『有るっちゃあ有るんだがね……どうしようかなァ?』
勿体振るヤマダ博士。さすがに今の状況でふざけられたら殴ってやりたい、と歩駆は内心思った。
『一応、新型SV用の大型ビームブレイドが一つ有るんだけど、ぶっちゃけゴーアルターが使うには小さいんだよなぁ』
「今すぐ下さい! 早く!」
『もう、人使い荒いなァ! 言っとくけど、ダイナムドライブからの出力だとビームが強く出すぎて自壊するから気を付けろよなァ!』
輸送機が頭上に通過すると、空から鉄で出来た“櫛”の様な長くて平ぺったい物体が落ちて地面に刺さった。《ゴーアルター》は引き抜くと、野球のバットみたいに素振りをする。
「うん、悪くないね」
櫛型のブレイドを肩に担いで辺りを見渡す。《九式模造獣》はビルの上に登ってこちらの見て様子を伺っていた。
「舐めてるのか? 見てろよ」
再び《ゴーアルター》を走り出させる。今度は冷静になろうと心の中で言い聞かせる。しかし、
「くそっまたか」
まるで動きを読んでいるかの如く、降り下ろす剣は空降りに終わる。もちろん、歩駆に剣術の才能は全く無ないし、掃除の時間にホウキでちゃんばらゴッコをする程度だ。
「何でだよ。ちっとも当たらねえ。でも何でだ?」
敵は無傷、《ゴーアルター》は無駄に転んだりした傷のみだった。
ここで、頭の中に一つ疑問が浮かぶ。こちらの攻撃をただ避けるばかりで《九式模造獣》は全く攻撃を仕掛けてこない。
「なろう……頭に来る」
遊んでいるのか、バカにされているのか何なのか。真似するだけの模造獣にそんな知識を教えたのは誰なのか気になる所だ。
「こうなったら、いやでも」
思いきり力を入れて勢いに任せたら勝てる、とは思わないが下手に《ゴーアルター》の能力を引き出せば前回の二の前である。だがしかし、とああでもないこうでもないと思考がループしてきた。
『白いSVのパイロット君!』
後方からズングリムックリのSV、ついさっき助けた演習機だ。
『ちょっといいかしら』
パイロットの女性が声をかける。
「また西高の訓練機? 何か抱えてて逃げたんじゃないのか?」
『それはさっき済んだわ。あと一応、言っておくけど私は西高の生徒でも先生でもないわ。元軍人よ』
「は? マジに?」
『あの《九式》の事なんだけど、あの動きって私なの』
「動きが私? 一体どういう事?」
突然の謎の告白に歩駆の思考は停止しかけた。
『推測なんだけどね、模造獣が真似するのって“一番優れているモノ”なんじゃないかしら』
「……それって自慢?」
『そうじゃなくて、ほら貴方も居たでしょう? この間の戦闘に出てきた長槍のSV。あれはトヨトミの最新式でパイロットもウチのエースだったの。それに模造獣も変化していたでしょう? そういうことよ』
「でもそれだったらアイツ。彼処に居る模造獣は、その訓練機になっていなきゃおかしいだろう」
『推測だけれど、先日から発生した模造獣はこれまででは観測されたことの無い“人型”の形態をしているのよね。だから、私のSV、《尾張五式》の丸いフォルムは人型とは遠い形をしているから変化をしなかった』
『鋭いかもだねェ?!』
博士が通信に割り込む。
『あながち間違っていないかもしれない』
『わっ、誰?』
「あぁ気にしないで下さい……それでどうするんです?」
『私の指示通りに動いて。さあ行ってちょうだい』
何だわからないが歩駆は素直に従うことにし《ゴーアルター》を再び《九式模造獣》へ突撃させた。
『正面をにそのまま突っ込んで……横に避ける、機体を右に!』
「こう!?」
《九式模造獣》と《ゴーアルター》の二体は同時に横へとステップする。まさかの事に歩駆は驚いたが、咄嗟に右の拳で殴り付ける。《九式模造獣》の顔面へ当たり、頭部が吹き飛びながら模造獣は大きく後退した。
「本当に当たった……」
『言ったでしょう。アレは私の動きを真似ているんだって。次、アイツの側面に回って! そのまま、上に飛んで!』
背部のブーストを吹かし《ゴーアルター》は高く上昇、それを見た《九式模造獣》は後ろへ大きく後退する。歩駆はその動く方向を目で追いながら、冷静にブレイドの耐久力を考えて力を絞って引き出す。
その慎重さが歩駆の瞳に映る映像が模造獣を睨む《ゴーアルター》の瞳とリンクさせた。模造獣がまるでレントゲン写真の様に中身が透けて見える。そこに心臓部に紅く煌めいた結晶の様なものが鼓動する。それが弱点のコアだった。
『今よ!』
「でええーいっ!!」
急落下。ブレイドがフォトンの光で輝き、通常の2倍以上のエネルギーが放出される。《ゴーアルター》は《九式模造獣》に向かってブレイドを降り下ろし、袈裟斬りで模造獣を一刀両断。爆散した。
『やったのね?!』
瑠璃が歓喜の声を上げる。しかし、ビームブレイドは《ゴーアルター》のパワーに耐えきれず壊れてしまった。《九式模造獣》に繋がっていた鉄の紐は本体へ戻っていく。
「後は……あの鉄の渦を何とか」
それは天高くそびえ立ち蠢めいていた。触手による捕食行為は無くなったものの目立った動きは今のところ無い。
「ちょっと待って。あれを見て!」
突如、地鳴りが起こる。すると、それまで静かに鎮座していた鉄の捻れ、巨大模造獣が大きく揺れる。
『竜巻の形が……変わっていくる?!』
上部と下部から突起が4つ、それが伸びて枝の様なもの生えだす。それが腕と脚になり、その細長い姿は昆虫の“ナナフシ”によく似ていただった。
「おいおいおい、マジか? クライマックス突入って雰囲気なんですけどこれわ? ボスの風格、半端無いな」
オタク的な事を口走って『しまった!』と思い、口を手に当てて塞いだ。幸い、誰も聞いていなかったようだ。
『来るわ!避け』
《ナナフシ模造獣》の長い腕が勢いよく降り下ろされた。二機は咄嗟に左右に回避した。鉄柱が地面にぶつかり大きな揺れを起こすと、建物のガラスが振動で次々と割れていく。
「大丈夫ですか!?」
『まあ何とかね……それにしても大きい』
先程の竜巻型形態より脚が生えた分、さらに巨大さが増して威圧感がかなり出ている。
『ねえ、アレを貴方のSVで倒せるの? この間の様なことは無しで』
「要はコアを破壊できれば」
《ゴーアルター》の瞳で《ナナフシ模造獣》の身体を隈無く見る。身体の中心に融合したからなのか大きくなってコアの塊があった。だが、見えているのはそれだけではなかったのだ。
「何だ、これって?」
歩駆は驚愕する。先程の戦闘でダイナムドライブがレベル2を越えて能力の一部が開放、性能が上がり、その目に映る情報は更に詳細になっていた。
『どうしたの、君?!』
「な、中に……まだ生きている人が、居る?」
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